【普及参考事項】
とうもろこし糯品種「マンモスホワイトワキシー」およびそのでん粉の特性について
北海道立中央農業試験場畑作部

Ⅰ緒言
 ワキシーコーンは、胚乳の澱粉組成が普通のとうもろこしと異なる特殊な組成をもつとうもろこしである。1956年頃より、北海道立農試種芸部において育成してきたのであるが、1959年頃より、食品工業分野より強い要望があり、その後急速な育種が要請された。1961年より、3ヶ年にわたり育成品種の特性の調査を実施したので、その概要を報告する。尚、この試験遂行にあたり、特に、日本食品加工株式会社、合同酒清株式会社より、多大の経済的および技術的援助をうけた。

 (1)ワキシーコーンの発見経過と国内への導入
 ワキシーコーンの最初の発見者は、1908年に、支那に滞在した米国の宣教師であると言われている。同氏が支那在来のとうもろこしより発見した特殊な粒をG.N.CollinesがWaxy Cornと名付けた。その後、Collinesは、ビルマの高冷地、フィリピンにおいて同種のものを発見している。1972年には、NN.Kuleshovはソ連極東地方から、M.I.Khadjionvは西部中国から採種した種子の中で発見された。伊東健次氏は、1936年に北満の在来種より発見し、額ぼく粘と名付け、長野県桔梗ヶ原玉蜀黍試験地に送ったのが、吾扱くに導入された最初のものである。その後同氏は、1949年より、四国農試において白色種の育成を開始し、1956年に糯品種「シラタマ糯」を育成した。
 当場種芸部においては、1952年に、米国ヴィスコンシン農試より黄色ワキシーの分譲をうけ、一応複交雑種を育成したが、自殖系統の一部を消失し、育成を中止し、白色種の育成に切り換え1955年より、戻し荒雑育種を開始した。

 (2)ワキシー粒の外部形態的特徴
 ワキシー粒は、胚乳部は、角質澱粉組織が普通とうもころしにおいては硝子質を呈するが、ワキシー粒は、獵状で、陶器の断面のような特殊な光沢をもっている。その光沢は、イネにおけるモチ米のそれとよく似ている。開花期の花粉粒や成熟粒の胚乳部の澱粉の沃度反応は鮮やかな赤褐色を呈する。この性質は、遺伝的には、単純劣性の遺伝子により支配されている。澱粉の分子構造は、分板状を呈するアミロペクチン100%であり、普通のとうもろこし粒における78%のアミロペクチン含量とは明らかに異なっている。

 (3)一般的用途
 ワキシーコーンの利用面の開拓は、1941年に日本が東南アジアを占領し、米国へのタピオカ澱粒の輸入が絶えた年より開始された。タピオカ澱粉の代用として線虫利用されたのであるが、この間において工業原料としての広汎な利用面が開拓され、戦後に及んでは、戦時中の需要をはるかに上廻るように増大した。タピオカ澱粉は、アミローズを17%含有するに比べて、ワキシーコーンはアミローズを含まない純粋なアミロペクチン澱粉であることは、更に工業資源としての評価を高め、現在では新しい工業原料として登場しつつある。
 米国における主なる用途は
 粘着性材料として→繊維、切手、封筒、ゴムテープ、ラベルなどの糊、製紙用のサイズンプ材料、波型ダンボール、室内ベニア板の展着剤など
 食料→むし菓子、パン、缶詰用澱粉、乳児食料などであり、吾国においても一部の地方においてもち米代用、水飴、甘酒の材料などとして農家によって利用されていた。

Ⅱマンモスホワイトワキシー種の育成の経過
 昭和31年 起源不明の白色糯自殖系統S-339を母親とし、マンモスホワイトデント(品種)を父親として交配。
 昭和32年 上記F1種子を種播、マンモスホワイトデントを反復親として戻し交配を実施しB1F1種子を得る。
 昭和33年 上記B1F1種子を播種し開花期に花粉のヨード反応により遺伝子型WXwx個体を選択し、マンモスホワイトデントを反復戻し交配する。
 昭和34~35年 上記の操作を繰り返し、B4F1種子を得る。
 昭和36年 B4F1種子を播種し、花粉検定によりWXwx個体多数を選択し、これらの個体内にて、姉妹交配を実施し、交配種子中より遺伝子型WXwx種子を選択した。
 昭和37年 上記のワキシー因子ホモのF2種子(通算F7代)を隔離増殖し、収穫後、約500個体中より27穀種を選抜した。
 昭和38年 上記27穀穂を、一穂一列の4反復の隔離ほ場にて、特性検定を兼ねた増殖を行った。花粉飛散前の穂毎の選抜、花粉飛散後は、抽雌期、草丈、着穂高、倒伏、雌穂重、の5形質の選抜を行い、約3,600個体中、158個体を選抜した。
 昭和39年 上記158個体のF4(通算9代目)種子を、一穂一列1反復の隔離増殖し、抽雌期、草丈、着穂高、雌穂重、雌穂型の諸形質について選抜し、約500個体のF5種子を得た。

Ⅲ試験成績

 (1)マンモスホワイトワキシー種の特性
品種番号 品種名 発芽期(月日) 抽雄期(月日) 抽雌期(月日)
37 38 39 37 38 39 37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 6-3 6-1 5-30 8-3 8-4 8-5 8-16 8-14 8-19
2 マンモスホワイトデント - - 6-3 - - 8-4 - - 8-17
3 複  交  8  号 5-30 5-29 6-1 8-4 8-4 8-7 8-10 8-10 8-14
4 オ   ノ   ア     5-30     8-4     8-13


品種番号 品種名 発芽期(月日) 草丈(㎝) 稈長(㎝)
37 38 39 37 38 39 37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 9-26 9-28 10-2 227.7 259.9 229.3 185.5 209.7 192.2
2 マンモスホワイトデント - - 10-2 - - 196.6 - - 162.4
3 複  交  8  号 9-21 9-23 10-2 225.7 240.0 209.8 186.5 205.2 179.2
4 オ   ノ   ア     10-2     217.0     182.3


品種番号 品種名 着穂高(㎝) 有効雌穂数(本) 雌穂長(㎝)
37 38 39 37 38 39 37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 104.8 104.2 97.1 0.7 0.8 0.8 13.9 14.5 14.0
2 マンモスホワイトデント - - 65.1 - - 06 - - 10.7
3 複  交  8  号 88.1 86.6 77.3 1.0 1.0 1.0 13.6 15.8 15.0
4 オ   ノ   ア     69.0     1.0     17.3


品種番号 品種名 雌穂茎(㎝) 一列粒数(粒) 粒列数(列)
37 38 39 37 38 39 37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 4.0 4.1 3.6 29.4 30.9 38.5 12.7 13.4 13.3
2 マンモスホワイトデント - - 3.3 - - 22.2 - - 13.3
3 複  交  8  号 4.3 4.5 4.2 29.6 35.3 32.4 16.0 16.9 16.1
4 オ   ノ   ア     3.9     40.1     8.2


品種番号 品種名 千粒重(g) 1L重(g)
37 38 39 37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 277 267 237 655 722 596
2 マンモスホワイトデント - - 203 - - 611
3 複  交  8  号 264 239 239 721 715 656
4 オ   ノ   ア     355     673


品種番号 品種名 a当子実重(㎏) 耐病性
(媒紋病)*
37 38 39
1 マンモスホワイトワキシー 18.2 30.8 24.7 1.90
2 マンモスホワイトデント - - 22.5 1.85
3 複  交  8  号 31.0 47.2 40.7 3.50
4 オ   ノ   ア     41.6 3.80
  * 0:罹病なし   5.0:罹病 甚


Ⅳ考察
 マンモスホワイトワキシー種は、アミローズおよびアミロペクチンの定量分析は行っていないが、花粉、粒および澱粉のヨード反応の結果は鮮やかな赤褐色反応を呈し、一方、遺伝的分離状況、澱粉の各種の特性調査結果からみても、ワキシー種として固定していると判断することができる。
 この品種は、反復親であるマンモスワイトデントに比べると、やや晩塾化し、収量はむしろ多収であり、その他の形質については大差がない。一方、本道の中晩性種である複交8号(一代雑種)に比べると、やや晩生であり、収量はかなり低い。本道においては、中部以南においては確実に完熟し、晩塾種に属するワキシー種である。
 一方、この品種は前述のように戻し交配育種により育成されたものであるが、個体調査による主要形質の頻度分布、バリアンスおよび2形質に関する5%水準の棄却楕円によって、判断すると、市販の一代雑種および品種との間に有意な差異を認めず、一応実用的固定度に達していると判断される。
 澱粉の特性は、アミノグラフ粘度計の確定値が示すように、デント澱粉よりも、16~18℃低い温度で”ミネバリ”を生じ、しかも3倍も強いと考えられる。又、95℃より次第に冷却した場合、80℃附近より次第にgel化して粘着が急に上昇し、糊が老化し難いことを示している。その他、膨潤性、溶解性、透明性などの諸性質もデント澱粉に比べて、かなり相異し、すぐれた性質を示している。
 これらの諸性質は、ワキシー澱粉の新しい利用分野を約束するものであり、食品工業始め一般工業分野において、各種の用途が開拓されるものと期待される。たまたま、この品種について、業界の一部より工業原料としての利用性の開拓を希望するむきがあり、実際に向上における各種製造試験を行う必要から、40年度より一部の地方において試作を希望している。
 上記の情勢にかんがみ、工芸作物としての、新利用分野開拓を進めることは、本道の農業に寄与するところありと判断し、その特性の概要を報告し、参考に供する。