【普及参考事項】
道南における水田二毛作に関する試験
北海道立道南農業試験場

1.レンゲ跡地に於ける水稲晩植試験
目的 道南に於いて水田裏作にレンゲを栽培した場合レンゲの最高収量を収める時期は6月の中旬である。又、レンゲの跡地、或いはレンゲを鋤込んだ場合従来の水田と異なった状態を呈する。
    従ってレンゲを栽培した場合、後作の水稲の移植期は約1ヶ月の遅れとなり、又土壌の肥効も考えられるので、レンゲの鋤込漁、施肥量を究明し合理的な晩植法を確立する。

試験方法
 イ)試験年次 昭和32~38年

 ロ)試験区別
年次 32 33 34 35 3637 38
Nの施用量 ㎏/a
/
レンゲ鋤込量 ㎏/a
0.3 0.5 0.3 0.5 0.3 0.5 0 0.5 0.7 0.9 0.7 0.9 1.1
普通地                  
レンゲ跡地 0          
   〃   75
   〃   115                  
   〃   150              
   〃   225                      
  備考 33~35年は搬入試験  参考区 各年次共 標準植区

 ハ)供試品種 南栄
 ニ)供試苗 普通播熟苗
 ホ)移植期 6月20日(標準5月 5半旬)
 ヘ)栽植密度 30㎝×12㎝ 3本植(標準30㎝×15㎝ 3本植)但し32は30㎝×15㎝
 ト)1区面積区制
  32~35年 6.6m2 2区制
  36~37   9m2    2区制
  38      30m2  1区制

 チ)耕種法
年  次  別 32 33 34 35 36 37 38







播種期 月日 5.1
移植期 月日 6.20 6.21 6.20 6.22 6.20 6.20 6.20
苗代日数 日 50 51 50 52 50 50 50
苗代播種法 条播
苗代肥料 硫安 g/m2 114 120 185
過石  〃 170 180 250
硫加 g/m2 57 60 63
追肥硫安 g/m2 57 60
レンゲ鋤込時期 月日 6中旬 6.15 6.15 6.15
本田肥料 P 250 kg/a 0.5 0.55
K 20   〃 0.4


播種期 月日 4.22 4.21 4.22 4.20 4.21 4.23
移植期 月日 5.22 5.23 5.20 5.21 5.20 5.23 5.22
栽植方式 ㎝×㎝ 30×15 33.3×144
N    kg/a 0.5 0.7
本田肥料 P 250 〃 0.5 0.55
K 20  〃 0.4
  レンゲ鋤込区は石灰3.75kg/a施用

結果の要約
 水田前作にレンゲを栽培し、これを鋤込む場合、水稲晩植に対して緑肥として利用出来る事が認められた。以下レンゲを鋤込む場合の水稲の栽培は次の通りである。
①レンゲの最大収量を望む時期は6月中旬で、従って水稲の移植は6月20日以降となる。6月20日の移植は晩植となるので供試苗は普通播熟苗である事。
②栽植密度な穂数確保のため90株/3.3m2 3本植以上にすべきである。
③レンゲの鋤込量は、レンゲの分解途上に於けるN飢餓或いは生育後期のN過剰、又倒伏、イモチ罹病性等より見てその量は115㎏/a以内が安全であり150㎏以上は危険である。
 尚レンゲ鋤込時のN含量(根部も含む)Nの利用率より見てレンゲ鋤込量75㎏/aはNの施用量0.15㎏/aに相当すると思われる。
④レンゲを鋤込んだ場合のNの施用量はレンゲのN換算量も合わせてNの量は0.8~1.0kg/aが最も多収を望めそうである。Nの量が1.0kg以上ににするとN過多となり登熟を阻害し倒伏、イモチの誘因となり減収する。特に低温では危険である。

 (イ)試験区別及実施年次
年   次 33 34 35 38 備   考
Nの施用量 ㎏/a 0.3 0.5 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1
ライムギ鋤込量 ㎏/a
ライムギ跡地 0         0 0 0 33~35年は搬入試験
    〃    75 0 0 0 0 0 0 0  
    〃    115 0 0 0 0 0 0 0  
    〃    150 0 0 0 0        


 (ロ)供試品種 南栄
 (ハ)供試苗 普通播熟苗
 (ニ)移植期 6月20日(但し33年は6月21日、35年6月22日)
 (ホ)栽植密度 30㎝×12㎝ 3本植
 (ヘ)1区面積及区制 34~35年 6.6m2 2区制
              38年    30m2 1区制
 (ト)その他の耕種に就いては、2レンゲ跡地に於ける播植試験と同じ。

結果の要約
 ライ麦は水稲晩植に対して緑肥として利用できる事が認められ、又有機質(ニグニン)の補給としての効果が大きいようである。従って水田前作にライ麦を栽培しこれを鋤込んだ場合の水稲栽培は次の方法が適当と思われる。
①ライ麦の鋤込量はレンゲの鋤込量より若干多くてもさしつかえないようであるが、その限度は150㎏/aと思われる。
②ライ麦の鋤込時のN含量はレンゲの場合より少なく鋤込量75㎏/aはNに換算0.1~0.15㎏/aに相当するものと思われる。
③ライ麦を鋤込んだ場合のNの施用量はレンゲの場合より稍多目でも良いが0.9㎏/aが限度でレンゲ同様ライ麦のN換算量をも合わせてNの量は0.8~1.0㎏/aが完全多収となろう。
④以上の外、鋤込時期・水稲の移植期・栽植密度等についてはレンゲの鋤込水田と同じ。

3.レンゲの栽培法に関する試験
試験経過
 道南に於けるレンゲの栽培は昭和の初期より試作され又旧渡島支場に於いても昭和16~19年に亘って試験せられ、年により良い成果を上げた事もあったが、安定した栽培法を確立し得なかった。その理由としては第1に越冬に問題があり、越冬出来ずに失敗した事が多かった。
 昭和28年より再びこのレンゲに対する試験を実施してほぼ安定した栽培法を究明し得た。又レンゲを鋤込んだ場合の水稲の晩植栽培法もある程度確立し得たので、ここにレンゲの栽培に就いて明らかにされた要点を報告する。

試験方法
①品種選抜試験 35年 6品種
            36年 5品種
②播種期試験   31年 3時期
           35年 2時期
③積雪期の長短による障害調査 35年 3処理
                     36年 3処理
④刈取時期 31年 4時期
⑤年次別 レンゲの生育・及収量 29~37年
⑥水稲の刈取時期試験 36年 3時期
⑦摘播栽培試験 36年 3処理
            37年 3処理
⑧採種栽培試験 35年 播種期
               播種量

レンゲの一般耕種法
播種期 8月下旬
播種量 0.4L/a
品種  横沢種
収穫期 6月中旬

試験結果の要約
 水田裏作としてのレンゲは8月下旬の稲の立毛中に播種すると翌年の6月上~中旬の開花期に350~400㎏/aの生草を収穫する事が出来る。尚レンゲの生育と土壌湿度等の問題は残されてはいるが、試験結果より得られたレンゲ栽培の摘要は次の通りである。
①品種は耐寒性・耐雪性・収量性ですぐれた横沢種が良い。
②レンゲの播種期は8月下旬の落水直後で9月以降になると収量は急減する。
③播種量は0.4L/aが適当と思われる。
④レンゲに対する施肥はNは不必要であるが過石は2.1㎏、硫加は0.4㎏/a程度基肥として施用する。
⑤レンゲの刈取時期は遅刈程増収し、6月中旬の開花期が最高となり稲の移植期より見て6月中旬が良い。
⑥レンゲを栽培した場合稲の刈取時期は早い方が望ましい。レンゲ播種後1ヶ月以内に稲は刈取るべきで、その刈取時期が遅れるとレンゲの生育を抑制して越冬力が劣る。
⑦播種法は散播でも良いが圃場条件の不良の場合は摘播(畦巾30㎝×株間15㎝)が良い。
⑧道南に於けるレンゲの収量は350~400㎏/aは可能である。
⑨レンゲの採種は8月中旬に450㎏/a播種し翌年の7月中・下旬に(種莢の70~80%が黒変した時に)収穫可能で約10㎏/aの子実重が得られる。
⑩尚レンゲの栽培は土壌の排水を的確に行い、さらに病害虫に対しては秋期に菌核病の防除(セレサン石灰)又秋春に青虫の防除が必要である。

4.水田前作ライ麦に関する試験
A播種法に関する試験(昭和36年)
目的 ライ麦を水田裏作に導入した場合、適当な播種法を検討し、ライ麦栽培の生育、収量の安定化を計ろうとする。
試験方法

 試験区別
播種法 耕種法 耕種法の説明
散播 カルチ耕 播種前2回、播種後2回
全 耕 播種前馬耕、播種後耕耘機2回
条播 〃         〃
  備考 条播は畦巾50㎝、播巾12㎝

供試品種 ドイツライ麦
播種期 9月30日(稲の収穫後) 播種量1.8L/a
施肥量 硫安0.57kg、過石2.27kg、硫加0.76kg/a

試験結果

 ライ麦の播種法と生育・収量
区別
/
項目
発芽期
(月日)
起生期
(月日)
出穂期
(月日)
越冬前 起生期 出穂始 収穫期 収穫期
(月日)
10a当
生草量
(㎏)
同割合
(%)
草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数
散播カルチ耕 10.6 4.5 5.28 13.2 7.3 11.3 53.0 58.4 62.1 132.1 48.8 6.14 1,156 79
 〃 全耕 27 13.5 92.8 9.6 84.0 61.8 80.0 134.6 61.6 1,463 100
条播 〃 26 13.9 93.7 10.1 108.0 68.0 66.0 143.0 55.0 1,350 92


B施肥法に関する調査(36年)
目的 ライ麦栽培の施肥の効果を知る。
試験方法

 試験区別
区別/施肥量 硫安㎏/a 過石基肥 硫加基肥
基肥 追肥 分施
標準区 0.57 - - 2.27 0.76
N追肥区 0.57 0.20 -
N分施区 0.37 - 0.20
-P2O5 0.57 - - -
-N - - - 2.27


供試品種 ドイツライ麦
播種期 9月30日
耕耘法 全耕(馬耕 耕耘機2回)
播種法 条播 畦巾50㎝、播巾12㎝
播種量 1.8L/a
追肥・分肥期日 4月5日

試験結果

 ライ麦の施肥法と生育収量
区別
/
項目
発芽期
(月日)
出穂期
(月日)
越冬前 起生期(4.5) 出穂始(5.23) 収穫期(6.14) 10a当
生草量
(㎏)
同割合
(%)
草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数 草丈
(㎝)
茎数
標準区 10.6 5.26 15.1 109 9.8 135 65 77 137 74 1,350 100
N追肥区 5.25 14.5 105 10.3 138 69 66 141 65 1,425 106
N分施区 5.27 12.1 79 7.8 83 62 68 137 61 1,000 74
-P2O5 5.25 13.5 86 9.7 119 64 65 132 60 1,163 86
-N 8.28 10.2 73 8.2 73 47 66 117 64 775 57
  備考 茎数は30㎝間の数値

C 年次制 ライ麦の生育・収量

 年次制ライ麦の生育・収量
項目
/
年次
播種期
(月日)
出穂(月日) 収穫期
(月日)
収穫期 10a当
生草
重量
(㎏)
乾草
/
生重
(%)
畦巾 34年 55㎝
35

50㎝
36
37
播種量 1.8L/a
施肥量 硫安 0.57kg/a
      過石 2.27
      硫加 0.76
草丈
(㎝)
茎数
34 9.30 5.17 5.19 6.8 161 100 1,610 29.4
35 10.1 5.23 5.26 6.13 134 89 1,568 26.3
36 9.30 5.23 5.26 6.14 137 74 1,350 -
37 9.30 - - 6.13 - - 2,481 -
平均 9.30 5.21 5.24 6.12 144 87 1,752 -
  備考 茎数は30㎝間の数値
      年次間差は見られるが、150㎏/a以上の収穫が可能である。

試験結果の要約
 水田裏作の緑肥としてライ麦の栽培は9月末日に播種すれば翌年6月中旬に150㎏/a程度の生収量が期待出来る。雪腐病の問題・収量性に就いて尚検討すべきであるが現在まで判明した結果の要約は次の通りである。
①品種はドイルタイ麦
②播種期 9月末以前 播種量 1.8L/a 播種法 散播~条播(畦巾50㎝×播巾12㎝)
③施肥量は硫安0.57㎏以上 過石2.27㎏ 硫加0.76㎏/aでNの効果が顕著に認められNの追肥(0.20㎏/a)によって増収する。
④播種前・播種後の耕耘により増収する。
⑤排水を良くする。