【普及参考事項】
ばれいしょの生育中における障害対策について
道立天北農業試験場

○目的
 近年馬鈴薯連作地帯で生育障害が見られるのでその解決と積極的増収をはかろうとする。

○障害の発生の試験実施の経過
 当管内の気象条件は低温冷涼で主作物の数も少ない。主作物の一つである馬鈴薯も主産地的経営の方向をたどり、長年にわたり連作する農家が多い。かかる地帯で数年前から生育の前期花蕾着生期頃葉の周辺部が黄変しはじめ漸次褐変して中心部に向かって拡大し、ついに黒変して枯死する一種の生育障害の発生がみられた。しかもこの症状は地上部の生長点附近に多くみたれ発生も一圃場内で帯状に分布することが特記される点であって、被害株の枯死によって塊茎の大が著しく阻害され減収も甚だしかった。これら障害の発生地は、近年随所で散見され、馬鈴薯耕作面積の約15%に及ぶ場合もあった。
 昭和38年、歌登町からこの対策についての以来があって試験を開始したが前述のごとく障害地が帯状に分散していたため試験区の設定が不備で期待した結果は得られなかった。
 昭和39年、前年の経験にもとづき、土壌調査を行うとともに、試験区も障害地に完全に一致するよう設置した。

○試験場所
  歌登町

○土壌
  沖積地(第四紀新層、砂岩、石英粗面岩)

A土壌断面

 1発生地 表1
層名 層厚 土性 土色 構造 硬度 粘性 疎密度 通気水性 根の分布
A 0~16 ○ 
 hCL
暗褐 粉決
B  ~40 v 
hCL
大粉塊状 ヤヤ良
C 40~ L 黄褐 細い胡桃状(一部角柱状) ヤヤ良 不良


 2無発地 表2
層名 層厚 土性 土色 構造 硬度 粘性 疎密度 通気水性 根の分布
A 0~16 ○ 
 hCL
暗褐 粉決
B  ~40 v 
hCL
大粉塊状 ヤヤ良
C 40~ v 
hCL
黄褐 細い胡桃状(一部角柱状) ヤヤ良 不良


B分析成績 表3
  試料
層序
腐植% PH Y1 N/5HCL
P2O5
(mg/10g)
置換性(ml/100g)
K2O KCL K Ca Mg
発生地 1. 6.6 7.8 7.6 0.9 7.0 0.14 29.2 -僅少
2. 3.1 5.1 4.1 34.6 0.2 0.08 3.0 0.02
3. 1.4 4.9 4.2 43.1 0.6 0.07 1.2 0.3
無発生地 1. 7.5 5.6 4.5 8.8 3.5 0.43 12.2 0.9
2. 3.8 5.1 4.0 45.4 0.5 0.27 4.9 1.2
3. 2.0 5.1 4.1 52.2 0.8 0.30 4.3 1.5


○供試品種 エニワ
○試験規模および試験区 1区90m2 2反復

○試験区 表4
番号 施肥区分 施肥肥料 (㎏/11a) 成分量   (㎏/10a)
硫安 過石 硫加 硫苦 堆肥 ちっ素 りん酸 カリ 苦土 備   考
1 慣行区 26 50 18 - - 5.5 9.0 8.3 - 標準区は農家
慣行の施肥量
2 苦土加用区 20 - 7.0
3 苦土倍量区 40 - 14.0
4 カリ倍量区 36 - - 16.6 -
5 苦土カリ倍量区 40 - 14.0
6 堆  肥  区 18 - 2,000 8.3 -
7 苦土カリ堆肥区 20 7.0
8 総合改善区 36 40 16.0 14.0


○播種 5月16日
○生育経過
 5月16日播種したが5月中旬から下旬にわたり低温および降水不足が続き、その後6月上旬に降雨があった。6月中旬萌芽にやや日数を要し萌芽は各区ともやや良整であった。播種期から稚苗期にいたる初期生育は圃場の乾燥と低温のため各区とも一律に不振であった。この時期から慣行区においてはすでに下葉や生長点に黒変障害が発生しはじめ、つづいて苦土カリ区にも発生が認められた。7月中旬は継続的に極度の低温と日照不足があったが適当な雨量があったため慣行区を除いては草丈の伸長も平常に近い生育を示した。7月中旬以降開花期に至り気温の上昇とともに総合改善区を除いた各区にも黒変障害がわづかに散発的に発生したがその後の障害は余り拡大することはなかった。8月下旬黄熟期に障害状況の調査を行ったが慣行区は7月中旬の開花期においてすでに試験区全域にわたり生育が障害され7月下旬には完全に枯死した。なお試験区中カリ倍量区も障害がやや多かったが8月下旬の調査時には茎葉の下葉に黄変現象が認められた。前述のように慣行区においては開花期前後からすでに地上部は枯死し基葉最盛期から塊茎肥大始期に極度の障害をうけたため塊茎は小塊屑薯が主体で澱粉価も低かった。9月中旬自然枯凋となった。
 以上各区の生育経過を一括して示すとつぎのとおりである。

 表5
区名/調項 萌芽良否 開花 最盛期 枯凋期 障害発生状況

(月日)

(月日)
草丈
(㎝)
茎数
(本)
発生期
(月日)
最盛期
(月日)
終期
(月日)
1.慣行区 ヤヤ良 7.17 7.25 44.9 2.6 7.25 7.6 7.16 7.20
2.苦土加用区 53.8 3.1 9.15 7.18 7.25 8.25
3.苦土倍量区 56.9 2.6 7.20 8.5 8.30
4.カリ倍量区 47.8 3.4 9.16 7.20 8.5 8.20
5.苦土カリ倍量区 53.0 2.6 7.25 8.6 8.30
6.堆肥区 61.0 2.8 9.18 7.20 8.5 8.30
7.苦土カリ堆肥区 58.5 2.3 9.21 7.27 8.15 8.20
8.総合改善区 62.5 2.5 - - -
  ※摘要 障害の最も多い区は慣行区とカリ倍量区でほかの区の障害は各区とも極めて軽微で総合改善区は最も症状が少なかった。

○結果

 収量 表6
  個数   (10a当) 重量   (㎏/10a) 同左
割合
%
10a当り デン
プン
価%
上薯
1ケ
平均
重g
デン
プン
重㎏
同左
割合
%
1 - - - 10,374 10,374 - - - 316 316 100 37 100 11.8 30.4
2 889 3,567 13,931 9,633 28,010 182 471 1,126 367 2,146 678 357 961 17.7 76.6
3 741 5,632 11,708 8,892 26,921 140 814 1,019 349 2,322 735 401 1,077 18.3 86.1
4 889 2,964 12,449 6,224 22,526 187 341 984 237 1,749 339 166 433 16.1 64.5
5 889 3,705 11,856 8,300 24,749 200 494 1,834 341 2,068 655 345 898 17.2 83.6
6 889 4,742 14,271 9,040 28,891 216 715 1,207 367 2,506 613 398 1,068 16.9 86.7
7 1,334 6,541 18,377 8,744 34,975 371 840 1,434 311 2,956 723 480 1,292 17.3 84.5
8 1,778 12,725 9,633 6,373 30,529 523 1,597 790 282 3,192 1,011 538 1,446 17.9 104.6


○結果の検討
 表1~2の土壌分析の結果からもわかるように障害発生地の作土は粘性が少なく、肉眼的にもいくぶん砂質を帯び、透水性がやや良好のように思われた。また表3で明らかなように障害発生地のPHが極端に高く、置換性の石灰も表層で高くY1は低い値をしめしていた。
 一方腐植含量および置換性のカリは発生地で低く、置換性苦土は、極めて僅かしか作土層に含有されていなかった。
 このことから、前記のように置換性の塩基の間における拮杭と、馬鈴薯の養分吸収との栄養生理的な不釣合の欠陥が一種の障害となって発現されたものと推定し、苦土、カリを中心に肥効を期待した。その結果を表6でみると、生育の経過でものべたごとく、慣行区に比し、カリ、苦土、堆肥など何れも効果は明らかで、とくに苦土、加要区はMgOとして7㎏/10aですでに9倍以上の増収を得、障害回避を示していた。堆肥加用のみでも結果は10倍以上の増収を示していたが、区内のバラツキは苦土加用区に比べて多く、総合改善区、苦土倍量区など何れも増収効果が高かったことは当然の結果ともいえよう。ただカリ倍量のみでは増収効果が低かったことは、地上部の症状がカリ欠症状に類似していることから当初かなり期待していた点であったが、単にカリのみを増量して回避できるものでないことを推論せしめた。また今回は苦土の施用量についても7㎏/10aと14㎏/10aの2段階のみについて行い、苦土倍量区との指数の差が少ないことからMgoとして施用するほぼ限界量は推定したが、今後、跡地土壌の置換性苦土量、馬鈴薯の苦土吸収量などとの関連で適量を決定しなければならない。しかし、この種の障害回避対策としては7㎏/10aを限度として、緊急安全なものと思われる。
 一方、障害地発現の原因についてもいろいろ推定されるところであるが、もっとも直接的に考えられる点は、
①石灰の乱用もしくは散布法の不適正
②土壌条件が苦土など溶脱しやすかったこと
などが上げられるが何れにしてもカリ、苦土の拮抗が原因となっていることが推定され慣行施用量のカリに対して苦土の量が下まわっていたものと思われる。