【普及参考事項】
冷害対策としての水稲に対する窒素分施に関する試験(追試)
北海道立中央農業試験場稲作部

1. 目的
 先に冷害対策として窒素質肥料分施に冠しての指針を明らかにしたが、今回は耐肥性品種を取り入れ、分施生地も幼穂形成期前後の外止葉葉鞘抽出始の時期を加えた試験を行い、冷害に対する施肥技術を確立する方法の一環として本試験を実施した。

2. 試験実施場所
 a) 稲作部     沖積土水田
 b) 空知郡北村  泥炭土 〃
 c)  〃栗沢町   沖積土 〃
 d) 夕張郡長沼町  〃   〃
 e) 勇払郡厚真町 火山性土水田

3. 昭和38・39両年の気照
旬別/
年度/
項目
5月 6月 7月 8月 9月 10月
気平均 38 14.3 11.9 17.2 17.9 20.0 18.6 22.7 23.4 21.6 20.7 18.7 14.5 13.4 11.3
39 12.1 15.1 16.0 17.7 18.3 16.6 20.6 20.3 23.1 19.4 17.6 14.8 11.8 10.7
対平年 -1.2 +0.9 +0.4 +0.5 -0.8 -3.0 -0.9 -1.7 +1.7 -1.0 -1.2 -2.9 -3.0 -1.3
温最低 38 8.5 7.7 11.5 14.4 15.5 14.5 18.6 19.6 17.5 16.4 13.3 9.1 6.5 5.4
39 7.7 10.8 11.0 12.7 14.3 13.2 16.3 16.1 19.5 16.3 13.1 8.6 5.2 5.2
対平年 0.5 +1.5 +0.2 +0.2 -0.1 -2.1 -0.8 -1.8 +20.5 +0.3 -0.8 -3.9 -3.9 -0.9
日照
時数
38 100.5 54.2 93.1 39.2 43.8 41.2 48.3 58.5 42.4 48.6 74.2 58.5 63.9 52.6
39 68.1 35.1 78.4 72.2 39.2 38.5 59.9 50.2 34.9 15.5 49.9 66.7 56.5 47.8
対平年 -10.0 -26.2 +7.5 +10.3 -21.5 -25.4 +0.8 -1.7 +20.7 -41.4 -8.8 +8.9 -1.5 -12.2
水 温 38 16.5 22.0 21.6 25.2 23.1 24.9 25.1 23.2
39 18.4 20.9 23.2 22.3 20.4 23.2 22.1 23.2
対平年   0 +1.4 +2.4 -0.4 -3.1 -0.5 -3.6 +1.0          
地 温 38 13.9 17.3 18.1 21.0 20.8 21.2 23.0 22.0 20.5 18.7 16.2
39 15.3 16.2 18.9 20.4 18.9 21.8 21.0 21.5 20.0 18.4 15.8
対平年   +0.2 -0.1 +1.5 +0.9 -1.6 -0.5 -0.7 +0.3 0 +0.1 -1.5    


4. 試験地土壌の性質……記載以外の諸性質は農業技術普及資料第6巻4号103頁参照のこと。
試験地 地 質 吸収係数
N P2O5
a) 稲作部 1 沖積土 381 987
2 431 986
e) 厚 真 1 火山性土 210 522
2 174 507
d) 長 沼  1 沖積土 362 907
2 345 810
c) 栗 沢 1 沖積土 360 880
2 389 943
b) 北 村 1 沖積土 495 1.224
2 720 1.899


5. 試験設計(g/a)
 (1) a-稲作部(38~39年)
試験区別 N P2O5 K2O 備  考
基肥 幼形1週前 幼形期 幼形1週後 止葉抽出始
1. N  0 0 0 700 600 供試品種

ササホナミ…
    耐肥性 弱
栄    光…
     〃    中
ユーカラ  … 
     〃    強
2. N  4 400~
500
400~
500
700 600
3. N4+A 400~
500
200 600~
700
700 600
4. N4+B 400~
500
200 600~
700
700 600
5. N4+C 400~
500
200 600~
700
700 600
6. N4+D 400~
500
200 600~
700
700 600
7. N  6 600~
700
600~
700
700 600
8. N6+A 600~
700
200 800~
900
700 600
9. N6+B 600~
700
200 800~
900
700 600
10. N4+C 600~
700
200 800~
900
700 600
11. N4+D 600~
700
200 800~
900
700 600
12. N  8 800~
900
800~
900
700 600
  注) N施用量  上段…38年度  下段…39年度

 (2) 現地(38年度)
試験区別 N施用量 備  考
a) 北村 b) 栗沢 c) 長沼 e) 厚真
1. N  0 0 - 0 0 - 0 0 - 0 0 - 0 分施時期と量
  A…幼形期2割

  B…同上1週後2割

P2O5;K2O施用量
  北村  700;600
  栗沢  700;600
  長沼  700;600
  厚真  900;700
2. N-2割 240- 0 600- 0 640- 0 680- 0
3. (N-2)+A 240+60 600+150 640-160 680+170
4. (N-2)+B 240+60 600+150 640-160 680+170
5. 慣  行 300- 0 750- 0 800- 0 850- 0
6. 慣行+A 300+60 750+150 800+160 850+170
7. 〃  +B 300+60 750+150 800+160 850+170
8. N+2割 360- 0 900- 0 960- 0 1.020-0
  (備考) 供試品種
   シンセツ…耐肥性-中、ササホナミ… 〃-弱、栄光… 〃-中、ユーカラ… 〃-強

6. 試験成績
 a) 稲作部
 1. 収量曲線



 2. 玄米千粒重



 3. 青米歩合



 4. 株総粒数



 5. 稔実歩合




 栄光:-
  稔実歩合(%)
試験地 1区 2区 3区 4区 5区 6区 7区 8区
北 村 96.1 93.7 93.2 93.3 94.0 94.9 96.0 91.5
栗 沢 92.7 88.5 91.4 85.6 86.7 87.7 89.6 85.5
長 沼 94.8 88.8 89.9 89.3 87.9 86.0 89.9 85.1
厚 真 92.0 92.3 88.4 93.4 92.3 92.0 94.4 90.5


  玄米重(kg/a)(%)
試験地 1区 2区 3区 4区 5区 6区 7区 8区
北 村 39.7(99) 45.2(112) 44.9(112) 46.1(115) 40.1 45.0(112) 46.5(116) 45.4(113)
栗 沢 31.7(79) 41.0(102) 42.3(105) 41.6(103) 40.2 43.7(109) 44.2(110) 43.8(109)
長 沼 37.2(88) 39.9(95) 41.7(99) 40.2(95) 42.2 43.3(103) 43.7(104) 42.1(100)
厚 真 19.6(65) 27.2(90) 33.6(112) 30.4(101) 30.2 33.4)111) 34.5(114) 33.1(110)


  籾わら比
試験地 1区 2区 3区 4区 5区 6区 7区 8区
北 村 1.14 1.18 1.33 1.25 0.95 1.19 1.16 1.37
栗 沢 1.38 1.27 1.27 1.36 1.12 1.23 1.13 1.09
長 沼 2.75 1.49 1.35 1.64 1.48 1.53 1.28 1.34
厚 真 1.59 1.59 1.41 1.31 1.32 1.55 1.38 1.34


  青米歩合(%)
試験地 1区 2区 3区 4区 5区 6区 7区 8区
北 村 9.2 12.4 14.9 14.3 13.9 14.6 15.7 13.6
栗 沢 4.7 5.5 6.3 6.7 7.7 6.9 5.8 7.1
長 沼 6.3 8.5 10.5 11.6 14.1 11.5 12.9 14.3
厚 真 8.0 14.3 14.8 10.5 7.3 10.8 11.6 9.0


 7. 過去に於ける分施時期試験成績(中央農試稲作部 昭和32~35年)
  1. 試験設計
項目/区名 基  肥(g/a) N分施
(g/a)
備  考
N P2O5 K2O
1. 標   準   区 600 450 375 品種 栄光
埴壌土(強グライ型)
2. 分けつ最盛期分施 450 450 375 150
3. 幼穂形成期直前分施 450 450 375 150
4. 幼穂形成期1週間後分施 450 450 375 150
5.    〃   2  〃 450 450 375 150


  2. 収量調査'4ヵ年平均)(kg/a)
品  名 稈重 籾重 玄米重 玄米重比率
1. 標   準   区 41.5 54.5 45.8 100
2. 分けつ最盛期分施 43.8 54.2 45.5    102※
3. 幼穂形成期直前分施 43.0 56.5 47.6 104
4. 幼穂形成期1週間後分施 42.6 59.3 49.8 109
5.    〃   2   〃 40.9 57.5 48.4 106
  ※ 39年平均

 考察
 先に冷害の予想される年の施肥技術としては平年の窒素適量の判明している場合、幼穂形成期以降の分施を考えた施肥法が有利であることを明らかにした。即ち、予め基肥窒素量を2割程度減じて施用して置き、原則として幼穂形成期まで分施を行わず、幼穂形成期当時の生育相、生育量、その後の気象予報等から判断して分施が安全と考えられた場合、差控えた窒素量の範囲で分施を行い生育の調節を計ろうとするもので、この方法は出発点において冷害に対する抵抗性を増すことができ、また条件の良い場合は分施により窒素を基肥に全量施用した場合と同様或いは優る収穫をも納めうるもので冷害対策上有効なものである。
 今回の結果の概要は次の如くである。
 1. 品種の耐肥性の強弱と窒素分施時期との間には一定の傾向は認め難いが少檗性で分けつが早く停止するササホナミでは早期分施の方が稍有利な傾向が認められたが、一般的には略同一の反応を示すものと考えられた。
 2. 分施の時期は特殊な場合は(幼穂形成期前に明らかに窒素欠乏となった場合)幼穂形成期以前に使用する必要のある場合もあるが、一般には幼穂形成期1週間後から止葉葉鞘抽出始めでとすることが倒伏、分けつの再発の心配も少なく、その後の天候の不良化した場合の収量決定要素への悪影響の少なく適当と考えられた。
 3. 分施時期と収量との関係は一般に分施時期の遅れる程増収割合は減少する。しかし止葉抽出始の分施であっても元肥に全量の窒素を施用した場合を略同等の収量が確保され、この場合は特に収量決定要素に良い影響を与え、収量構成要素の不足を十分に補い青米も少なく、品質の良いものが得られ、また、分施後予想に反し冷害気象に見舞われた場合でも安全性が高く、品質面では明らかに優る結果を示している。
 4. 泥炭地であっても土地改良が進み、沖積地に近い生育相を示す場合、また高位泥炭地等で客土量が少なく漏水による肥切れを示す様な場合は分施の効果が認められるが、泥炭地特有の後出来となり易い所では分施は危険であり避けなければならない。
 分施を実施するためには、各種の初期生育の促進策を積極的にとり入れて分施を安全に行える態勢におくことが大切であり、分施の時期は幼穂形成期1週間後から止葉葉鞘抽出始迄許可され、止葉葉鞘抽出始でも基肥施用に比べ収量減とならず、品質面では却って有利でもあるので、一般では6月末、7月始めの早期分施は避け、幼穂形成期頃の生育量と肥切れの程度、その後の天候の推移を十分に検討しその時期と漁を決定しなければならない。