【普及参考事項】
水田の基盤整備ならびに大型機械の導入に関する2・3の知見
北海道立上川農業試験場

Ⅰ 試験の目的
 水田作を機械化して生産性、特に労働生産性を高めようとする働きは道内各地において極めて活発であるが、実際にそうした地区を見ると、機会運行や水稲栽培上に多くの問題が発生し、いわゆる農業構造改善上の障害になっている事例がみうけられるのでそれらの点について検討し、対策を樹立する。

 調査試験事項
 (1)土壌基盤整備に起因する諸事象の発見解析
 (2)基盤整備工法と、地力増強法に関する試験
 (3)大型機械の導入を可能にするための排水並びに土壌改良試験
 (4)それらと土壌型の関連試験
  (注)但し、本年は主として第1項について調査、試験を実施する。

Ⅱ 試験設計
 土壌条件の異なる試験地に基盤整備実施水田と未実施水田、並びに2,3の劣悪化条件改善のための処理区を設けて試験を行ったが、その内容は凡そ次の通りである。

A 沼田試験地(雨竜郡沼田長共成一 西田信一)
 (1)地質、土性
 腐植に富む洪積埴土(灰褐色土壌、強粘土構造型)
 排水の不良な半湿田

            土壌断面


 (2)施行法
 昭和37粘11月装軌式ブルドーザーによって表土処理を伴った区画拡大工事を実施する。
 (3)施行前の区画と土壌の移動状況(切土(-)、盛土(+)㎝)

(+)153 (+)18 (+)10 (+)7
(+)45 (+)9
(-2) (-)10
(-)18 (-)21
  (注)区画面積:73m×30m=22a

 (4)試験区名とその内容
試験区名 作業内容
直播 対照区 プラウ耕、灌水、代掻(ローターベーター)、均平(レベラー)
無代掻区 プラウ耕、砕土(ローターベーター)、均平、灌水、均平(レベラー)
不耕起区 耕起、代掻をしない
移植 対照区 直播対照区と同様
盤層破硫区 盤層破砕(パンブレーカ)深さ25㎝、間隔1.5m、以下対照区と同様
中干区 対照区と同様、但し18/7~5/8の間中干を行う
無代掻区 直播、無代掻区と同様
  (注)トラクター:フォードソン44PS、車輪式 施肥量(㎏/a):N 0.63 P2O5 0.69 K2O 0.59

B 永山試験地(旭川市永山長字東永山 岩井重吉)
 (1)地質、土性
 腐植に頗る富む沖積埴壌土(黄褐色土壌、強粘土型-H)

          土壌断面


 (2)施行法
  昭和38年11月 沼田試験地同様工法で実施する

 (3)切土(-)、盛土(+)の程度(㎝)

 (4)試験区名とその内容
試 験 区 名 作     業     内     容
直播 プラウ耕区 44PSフォードソン、ボトムプラウ耕(耕深18㎝)、灌水、代掻(ローターベーター)均平
ロータリー耕区 44PSトラクター、ローターベーター耕、灌水、代掻(ローターベーター)均平
移植 プラウ耕区 直播、プラウ耕区と同様 生わら
ロータリー耕区 直播、ロータリー耕区と同様 生わら
  (注)トラクターはいずれの場合も車輪式 施肥量(㎏/a):N 0.9 P2O5 0.8 K2O 0.7

Ⅲ 試験成績
 A 減水深調査成績
 管内の基盤整備実施水田について、調査した減水深は、土性土層の如何をとわず(下層が砂土や轢層であるため甚だしい漏水田であったもの)明らかに低下する。
 普通、減水深=水もち程度は、垂直滲透、畦畔漏水、葉面蒸発、水面蒸発などの総合されたものであるが、ここに示した土壌性質の異なる2試験地の減水深をみても、乾田(永山)班湿田(沼田)にかわらず、基盤整備の実施によって減水深は5~10mm/24h以下まで低下していると同時に、その程度は永山の低下度約1/2に対し、沼田低下度1/5で重粘な土壌ほど甚だしいようである。減水深の内訳を現地水田の測定成績によってみると、畦畔漏水が意外に多く総体の50~60%を占めているが、その畦畔漏水も垂直滲透と同様、基盤整備水出においてハッキリと減少し、さらに畦畔率も小さくなっている。

 第1表 透水量の変化
試験地別 透水量(mm/24h)
沼田 基盤整備前土壌 21.6
基盤整備後土壌 3.7
永山 基盤整備前土壌 23.5
基盤整備後土壌 12.1
  備考:変推移透水試験器による

 このようにブルドーザーを使用して区画拡大を実施した水田は、垂直滲透、畦畔率(水田面積に対する畦畔の割合)の低減により極度の減水深低下をまねいているが、このことは水管理、水利、冷水対策上有利であるという反面、透水性の不良化は、水稲生理や作業上(特に機械作業など)好ましくない場合も出てくる。

 第2表 現地水田の減水深
試験地/調査事項 減水深-畦畔漏水(mm/24h) 減水深 畦畔漏水(総体-垂直)
6上 6中 6下 7中 7下 平均 6下 7中 7下 6下 7中 7下
沼田 基盤整備未実施水田 7.3 14.3 7.0 3.8 - 5.6 15.3 8.2 8.3 4.4 -
実施 対照区 3.3 2.7 4.5 2.5 - 3.2 9.0 6.3 - 4.5 3.8 -
不耕起区 5.8 3.3 7.0 3.3 - 4.8 - - - - - -
盤層破砕区 3.5 2.7 5.0 2.0 - 3.3 - - - - - -
永山 基盤整備未実施水田 - 11.5 11.5 16.0 19.4 14.6 - 31.8 40.4 - 15.8 21.0
基盤整備実施水田 - 3.5 3.2 4.8 2.6 3.5 - 3.0 4.4 - (+)1.8 (+)1.8

 第3表
試験地/事項 畦畔漏水(mm/m) 畦畔率
(m/m2)
6下 7中
沼田 実施前水田 125.8 145.7 0.308
実施後水田 54.6 79.2 0.094
永山 実施前水田 424.2 400.0 0.161
実施後水田 27.7 37.5 0.082
  (注)畦畔率は区画の大きさによって変動するからこの成績はあくまでも一例にすぎない。

 永山試験地に於いて実施された減水深と水稲の生育収量に関する試験結果によると6~8mm/24hまでは減水深の少ないほど、生育収量は共に増加するが、それ以下(殊に5mm/24h以下)になると、活着悪く、赤枯れなどの窒息し、症状が発生して、生育収量に障害を与えるところから、むしろ、基盤整備水田については適正減水深をもちうるような配慮が必要になってくる。また減水深の低下は、先にふれた如く、排水不良現象にもつらなることであって、収穫作業、特に機械導入上のアイロとなる場面が多い。なお、水消費が少なくなって灌漑も3-5日に一度というようなことになるため、水量、貯水池水路など、水利面の縮小が考えられないでもないが、一時的要水量は以前よりも多くなることに留意しておく必要がある。
 減水深低下の原因については従来、ブルドザーによって堅密な盤層が形式されるためと考えられていたが、コーンペネトロメーターで測定した深さ別硬度分布は増大しても、その度合いは、いままでの心土硬度に比較すると可成り小さく、特定盤層は存在しないようである。このことは、第2表の中における盤層破砕が減水深になんの影響も与えていないことによっても裏付けされる。一方同表中、不耕起の場合は、若干透水量がましたり、たまたま断面調査の家庭で表層土壌は水分飽和の状態にありながら、下層土壌はかわいているような現象が明らかになったことから、透水不良におちいっている原因の大半は表層土壌そのものにあるものと推定される。即ち、かかる状態にあれば普通表層の水分は下層へ移動するものと思われるが、基盤整備水田の表層土壌はブルトーザーによる整備作業中、ねりつぶされて、土壌粒子間の間隙が著しく狭小となり、また、そのため下層土壌との連絡がうまくつかなくなるなどとして水がぬけないという事になるものと思われる。
 基盤整備によってねりまわされたままの土壌条件で(間隙が狭小)排水をよくするには、極めて厚い土層が必要となろう。
 (管の太さ0.03mmではその長さが、11mになって、漸く管の下に幾分水滴があらわれるが、半球形の水滴になるためには、管長10mを要することになる。また下層土壌と密接していればそこに生じた水滴は直ちに貸そう土壌へ移りうるが、基盤整備によって可成り表層と下層では氏絵質が、かけはなれたものになってしまい、その協会に空間的な物ができてそこに水滴がいつまでもさがっているという状態になるため、ますます排水困難になるものと推考される。)

C 土壌支持力の測定成績
 基盤整備の行われた水田土壌では、ある加重に対するめりこみ度合いが大きく、また一定支持力に達するまでの日数も明らかに延引されるが、この現象は代掻前の土壌について行った透水抵抗、土塊硬度から推定できる如く、基盤整備時、土壌構造がねりつぶしや、機械重圧により破戒され、それが代掻によって水中に分散し固定しがたいということによるものと思われる。
 なお、この傾向は、沼田土壌に於いて、一層甚だしいようであるがこの様な土壌状態は前項の土壌透水性に多大の影響を及ぼしているものであり、更に、直播種子及び移植苗の沈下、機械運行上の支障となる。

 第4表 土壌支持力の経日的変化(めりこみ深さmm)
区分/経過日数 荷重量
g/cm2
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 11日目 13日目
沼田 基盤整備前
基盤整備後
6 11 11 8 8 5 6 5 3 3
18 28 24 22 18 16 15 15 16 15
6 18 18 9 8 7 7 8 6 6
18 38 38 37 30 26 28 25 20 18
永山 基盤整備前
基盤整備後
6 3 3 0 0 0 0 0 0 0
18 5 6 3 2 3 2 1 2 2
6 3 4 2 1 0 0 0 0 0
18 7 8 5 2 3 2 1 2 2

 第5表 基盤整備による透水抵抗及び土塊硬度の変化
基盤整備前後の別 透水抵抗性
(㎏/cm2)
土塊硬度
永山 基盤整備前 - 19.3
基盤整備後 - 30.1
沼田 基盤整備前 渡辺(強) 0.06 27.6
吉田 0.06 26.0
基盤整備後 稲垣 0.21 33.5
渡辺(耕) 0.21 33.5
  (注)一旦、風乾した土塊硬度は永山<沼田の県警にありながら、湿潤、又は湛水下の硬度、支持力は沼田の方が小さい。
    これは水分条件と土性の関係によって生じてくる事柄であろう。

 別表によれば、沼田、永山量試験地共、切土に比較して盛土個所の方が深いところまで軟らかく、長崎氏の区分に従うとその殆どの地点が、ホイール型トラクター作業は困難ということになる。
 殊に、沼田は永山よりも、全般に硬度が小さく、表土はクローラ型トラクターの進入さえ不可能なほどである。
 第6表は、コンバイン(シバウラ式、クローラ型、自重2.5トン、25PS接地圧、0.2㎏/cm2-積載時接地圧、0.22㎏/cm2-いずれも荷重抵抗)の作業運行と土壌条件について検討した成績であるが、それによると土壌支持力が低下してコンバイン導入が不可能か、極めて困難になる場合は、その殆どが基盤整備によって排水不良(一般には表土層の厚いところ)におちいったり、湧水(比較的浅いところに轢層)が生じて土壌は水分飽和し、表面水のはしった状態の個所である。土壌水分、勿論それは土壌型により異なってくるものであろうが、機械の運行≒土壌支持力を左右する重要なカギになっていることがうかがわれる。
 しかし、こうした中でも轢層は耐性土壌となりうるようであってそれが浅い位置にあるほど、コンバインのめりこみ程度は少ないことが認められる。
 また支持力の小さい土壌であっても、その部分のひろがりが少ないと、めりこみ度合いは可成り軽減される。
 なお、コーンペネトロメーターによる侵入抵抗では0.05~0.1㎏/cm2(硬度0.3~0.6㎏/cm2)以上において上記コンバイン、(荷重抵抗0.2~0.22㎏/cm2)のめりこみはみられないところから、凡そ、そのあたり(侵入抵抗0.05~0.1㎏/cm2荷重抵抗0.2~0.22㎏/cm2)の数値が同程度の土壌支持力を示すものとも考えられるが、この結果から見ると、接地圧が中度以下のような機械との関連域は比較的小さい地耐力などの測定には、コーペネトロメーターは余り適してはいないように思われる。

 別表 土層別硬度分布

 イ)沼田試験地

  (注) 1.コーンペネトロメーター使用数値はいずれも㎏/cm2
      2.測定地点(盛土、切土、程度の図参照)

○沼田試験地

    斜線・・・・・盛土     その他・・・・・切土

○永山試験地

 ロ)永山試験地(A)
深さ㎝/測定地点 切                    土 盛                土
6 9 11 18 19 20 22 28 30 32 33 1 2 5 12 13 14 23 24 25
10 6.5 9.6 6.1 (5.8) (3.4) 9.1 (3.4) 9.9 11.1 9.9 6.5 (5.0) 85.8) (5.5) (4.3) 8.4 6.5 (5.8) (5.0) 6.1
15 6.1 (5.5) 13.3 (5.8) (3.4) 9.6 (5.8) 8.1 8.7 6.1 (5.0) 8.7 12.7 (4.6) (1.9) 6.1 (5.0) (5.3) (3.4) (5.0)
20 12.7 6.1 14.5 7.4 (4.6) 14.2 (5.3) 7.7 8.4 6.8 (5.0) (3.4) 9.6 (3.4) (1.9) (3.4) 6.5 (5.3) (1.5) (4.0)
25   7.7     6.5   6.8 7.7 9.3 10.2 (5.8) (5.8) 9.3 (4.6) (2.5) (1.9) (4.0) (5.5) (3.1) (5.0)
30   12.1 8.1 7.7 15.8   6.1 (3.7) 9.3 (5.8) (2.8) (1.2) 7.1 6.5 (5.0) (3.4)
35 13.3 9.6 15.8   6.1 (2.5) 8.1 (5.8) (3.1) (1.9) 7.1 8.1 (5.3) (4.3)
40 17.0 9.3   8.1 (3.1) 8.4   (3.4) (2.5) (5.0) 6.1 (4.0) (5.3)
45   8.1 (5.0) (3.7) 8.7 (4.0) (3.4) 7.7 7.1 (4.0) 7.7
50     6.5 7.7 (4.6) (4.3) 7.1 7.7 (4.3) 8.1
55 8.1   8.4 (5.0) 6.8 7.1 (5.3) 8.7
60 10.2 6.1 (5.8) 7.7 6.1 6.1 8.1
65 8.1 (5.8) 6.1   7.7 11.1 13.0
70 10.2 7.7 7.7 8.7 9.3 14.2
75 10.2 8.4 8.1 8.4 10.8 15.2
80 9.6   7.1 8.4 9.0 14.2
85 8.7 7.1 12.1 9.0 13.0
90 8.1 6.1 11.5   11.5
95 8.1    6.5 14.5 9.6

 (B)
深さ㎝/測定地点 切                    土 盛                土
8 9 11 13 22 23 35 34 36 38 40 1 2 16 17 28 29 30
10 10.5 8.7 8.4 9.9 (5.3) 8.4 9.6 6.1 9.0 11.8 8.4 8.1 (4.0) 8.13 (5.3) 6.1 7.1 (2.5)
15 11.5 10.2 9.3 9.6 7.4 11.5 8.4   7.1 9.6 9.3 7.1 (3.7) 6.8 (3.7) 6.1 6.8 (2.5)
20 10.2 10.2 12.7 9.3     11.5 6.5 10.2 12.1 (3.7) (3.1) 7.7 (3.4) (5.0) 12.7 (2.5)
25    14.5   12.7       14.9 (3.7) (3.7) (1.2) (3.4) (5.0) (5.0) (2.5)
30 12.7   16.4 (5.8) (5.3) (3.4) (5.0) (5.6) (4.6) (3.4)
35      7.7 (5.8) (4.0) (5.5) 7.1 (5.5) (3.4)
40 7.1 7.7 (3.1) 8.1 6.1 7.1 (5.5)
45 11.1 8.1 (4.6) 8.4 (4.6) 5.4 (5.5)
50 15.2 10.8 (5.5) 8.4 (5.3) 7.1 7.1
55   14.2 7.7 14.2 (5.3) 8.1 9.6
60   8.4   (5.8)   13.0
65 9.3 8.7 14.9
70 9.9 6.1 14.2
75 9.9 (5.8) 9.6
80 7.7 11.1 10.8
85 8.1 11.5 9.0
90 9.9    9.0
95 9.9   
  表中( )はホイール型、トラクターの進入不可と作業困難とみられる数値を示す。

 ハ)大型トラクターの走行能と盤層のかたさ  (㎏/cm2) (長崎)
トラクター型 進入不可 進入可
作業不可
作業困難 作業容易
ホイール型 <3.0 <4.5 4.6~6.0 6.0<
クローラ型 <1.5 1.5~2.5 2.5~3.0 3.0<
  硬盤の深さ30㎝>硬盤の厚さ15㎝<

  第6表 機械のめりこみと土壌条件

 C 地温測定成績
 一般に基盤整備を実施した水田の地温は、未実施水田よりも低く経緯しているが、特に、高温時における両者間の差が大きいようである。

 第7表 地温
試験区別/測定日時 12/7 13 14 15 16 17 20
10.00 14.00 9.00 13.40 9.00 16.00 12.00 13.30 16.30
沼田  基盤整備前 21.0 19.3 18.6 20.7 18.2 25.7 21.8 23.5 25.0
基盤整備後 19.7 19.2 18.2 19.6 18.4 23.6 19.3 20.2 21.9
基盤整備前後の差 (-)0.3 (-)0.1 (-)0.4 (-)1.1 (+)0.2 (-)2.1 (-)2.5 (-)3.3 (-)3.1
永山 基盤整備前 24.5 20.6 18.4 19.2 19.0 21.0 23.8 24.1 -
基盤整備後 23.8 19.6 18.8 19.7 19.2 20.7 22.6 23.3 -
基盤整備前後の差 (-)0.7 (-)1.0 (+)0.4 (+)0.5 (+)0.2 (-)0.3 (-)1.2 (-)0.8 -
試験区別
測定日時
15.40 10.00 9.00 12.00 9.00 12.00 15.00 18.00 -
9/7 10 14 21 -

これは恐らく、水の垂直滲透が減少したり、総体減水深の低下で浅水になるチャンスが少ないなどのことにより、外気温の影響をうけ難いためのものと考えられる。減水深の減った大区画水田における灌漑時の水深とか排水口は従来よりも浅水になるよう調整するのが望ましい。

D 生育、収量調査成績
 (1)沼田試験地
 基盤整備水田の直播は、種子沈下などにわざわいされて出芽、苗立歩合(30%以下)、初期生育は不良であるが、この傾向は普通代掻をしたところや、盛土個所において一層甚だしい。一方後半の生育状況は盛土の方が切土よりも旺盛となり、穂数ではむしろ優位にあることが認められるが、収量的にはおそ出来に過ぎて幾分低下している。
 また、移植の場合についてみると、初期茎数は基盤整備前の水田に比して明らかに劣っているが、成熟期のそれは殆どかわらない。しかし盛土個所の茎数は終始少ないことがうかがわれる。なお収量では直播のバイトは逆に盛土のところが一般に高い反面、処理間の差は極めて少なく、ただ中干を行った物が出来おくれして、わら重の増加は認められるが、玄米重に於いては減収傾向にある。
 いずれにしても、こうした洪積土壌水田の基盤整備を実施することによって全般に水稲の初期生育は抑制され、後出来傾向を示すが、特にこのことは直播、盛土個所及び茎数のうえに強くあらわれる。
 直播の盛土個所は後半切土個所をリュウがするが収量は低く、移植の場合は直播同様盛土個所が次第に生育は旺盛となるが、切土個所をしのぐまでにはいかない。ただし、凋落的な方向にある切土個所に比し、盛土個所の方が登熟よく収量は高いということになる。
 直播、移植の各対照区間における収量差はある程度大きいが、直播の不耕起無代掻栽培になるとその差は僅少である。切土、盛土による収量的ムラ出来は概して直播の場合に甚だしく移植では殆ど認められない。

 第8表 生育状況(㎝・本)
試験区名と切盛土別 7月10日 成熟期
草丈 茎数 稈長 穂長 穂数
直播 対照区 切土 30.0 15.2 59.7 13.7 17.5
盛土 21.4 14.7 59.8 14.0 21.4
不耕起区 切土 30.3 25.5 59.8 12.7 23.0
盛土 18.8 24.6 61.2 13.1 27.8
無代掻区 切土 29.0 23.0 58.7 13.5 20.6
盛土 20.1 17.7 59.1 13.2 21.3
移植 対照区 切土 41.4 16.9 68.2 16.7 18.6
盛土 40.6 15.7 69.0 17.1 20.3
中干区 切土 41.8 20.2 71.0 16.4 19.3
盛土 41.4 17.4 67.4 15.9 18.3
盤層破砕区 切土 44.1 19.1 67.6 17.3 18.8
盛土 46.7 14.8 74.0 16.4 17.7
無代掻区 切土 40.9 20.0 74.0 17.3 20.3
盛土 41.4 15.0 69.1 16.1 15.8
基盤整備前 41.0 24.2 65.4 15.2 20.5

 第9表 収量調査成績
試験区名と切、盛土別 わら重 精籾重 玄米重 屑米重 玄米重
百分比
籾摺歩合 1L重 籾重/総重
直播 対照区 切土 35.3 42.4 32.7 1.5 100 79 715 55
盛土 38.3 43.6 33.2 3.9 102 78 741 53
不耕起区 切土 42.6 48.2 37.7 1.1 115 79 730 53
盛土 36.2 43.3 34.3 1.6 105 81 742 55
無代掻区 切土 36.4 47.7 37.2 1.5 114 81 742 57
盛土 34.6 44.0 34.5 0.8 106 81 726 56
移植 対照区 切土 40.6 47.3 38.5 1.7 100 81 740 54
盛土 38.3 48.9 39.0 1.4 101 82 746 56
中干区 切土 41.9 44.9 35.4 2.9 92 80 725 52
盛土 41.8 43.4 36.0 0.8 94 83 759 51
盤層破砕区 切土 38.9 55.6 35.6 1.2 93 80 725 59
盛土 38.0 49.6 39.8 0.3 103 83 772 57
無代掻区 切土 36.2 46.9 38.0 0.7 99 83 743 56
盛土 36.7 48.6 39.8 0.9 103 82 755 57
基盤整備前(移植) - - - - - - - -

 (2)永山試験地
 第10表 生育状況(㎝・本)
試験区名と切、盛土別 7月12日 収穫期
草丈 茎数 稈長 穂長 穂数
直播 ロータリー 切土 38.4 29.4 70.5 14.4 26.7
67.5 29.4 67.9 14.2 26.8
盛土 36.4 25.8 74.7 15.3 26.1
プラウ 切土 39.7 27.3 68.1 14.2 25.6
37.5 30.9 70.1 14.1 29.4
盛土 36.4 26.1 70.8 15.1 23.6
移植 ロータリー 切土 59.4 20.6 73.0 16.8 21.2
53.7 24.7 68.4 15.8 24.5
盛土 57.4 22.3 73.9 17.4 21.6
プラウ 切土 54.2 22.5 72.1 16.5 23.7
53.2 23.9 68.3 15.9 21.6
盛土 57.3 22.3 70.4 16.9 19.9
基盤整備前(移植) 54.0 31.4 65.5 14.4 26.2

 永山試験地の直播に於いても、沼田試験地と同じように盛土個所における幼穂形成期前の草丈:茎数は切土個所に比較して劣っているが、それ以降の生育状況は全くかわらない。
 また移植では各生育期共、切土、盛土の差異は全くないようであるが、基盤整備未実施水田に比べると茎数が若干減少している。なお、耕耘法による生育のちがいはうかがわれない。
 次ぎに収量についてみると、直播、移植のわら重、玄米重はいずれも僅かとはいえ、生育状況の劣っている盛土個所の法が高い傾向にある。これは切土のところが明らかな秋落ち型をしめしたことによるものと思考される。

 第11表 収量調査成績
試験区名と切、盛土 わら重 精籾重 粃重 玄米重 屑米重 玄米
百分比
1L重 千粒重 籾掻
歩合
籾重/総重
直播 ロータリー 切土 43.5 41.6 7.6 32.4 1.5 100 804 19.0 78 45
盛土 47.5 42.2 7.1 32.0 2.2 99 808 19.1 76 44
プラウ 切土 45.3 41.9 7.6 33.1 1.1 103 816 19.2 79 44
盛土 53.2 48.1 7.3 37.9 1.4 118 810 19.3 79 44
移植 ロータリー 切土 46.2 57.1 3.9 46.4 1.1 100 838 20.3 81 53
盛土 51.6 61.0 4.3 50.8 1.7 109 834 20.5 83 52
プラウ 切土 44.8 60.0 5.3 47.8 1.9 103 841 19.8 80 55
盛土 56.6 57.0 3.5 46.9 0.9 101 835 20.8 82 49
基盤整備前(移植) 47.2 46.1 1.4 37.9 1.2 82 846 20.4 82 49
  unit:kg/a

Ⅳ 総括
 水田の土壌基盤整備に起因する諸事象の発見とその解析をおこない、凡そ、次の様な結果を得た。即ち

 ⅰ)垂直滲透、畦畔漏水、畦畔率などの減少によって減水深は著しく少なくなるが、特に透水能の低下は排水不良をきたし、作業なかんずく、機械導入上の一一大障害となる。この原因としては、透水不良の特定盤層が形成されるというよりも、表土の物理性悪化によるところが大きい物と考えられるが、かかる事象はまた、一方において土壌支持能を低下せしめる結果ともなって、機械導入、水稲栽培上に影響を与えていることが認められる。なお、これらの傾向は沖積土壌よりも洪積土壌において甚だしい。

 ⅱ)基盤整備実施水田における水稲の初期生育は、幾分不良(なかでも盛土個所や直播の場合の茎数において)であるが、収量的には殆ど差がないが、盛土の法がまさる傾向にあるところから、それ程重視すべき事項とは考えられない。
 しかし、洪積土壌における直播栽培については、可成り問題がある様に思われる。

 ⅲ)土壌支持力が弱まるため、直播移植をとわず、代掻後の放置日数を沖積土壌(乾田)では1~2日、洪積土壌(重粘)では5~6日従来より長くする必要がある。

 ⅳ)重粘土壌における基盤整備直後の直播栽培は現段階では避けるべきであろう。

 ⅴ)落水後の排水不良対策としては、さしづめ、ボーリング、田面水路などが考えられるが、今後さらに検討を加える必要がある。