【普及参考事項】
不良下層土肥培試験
道立十勝農業試験場

1.試験の目的
 火山灰地に於いて、風蝕、水蝕を強く受けて表土が極め薄くなった結果、多量の不良下層土が作土に混入し生産を阻害している場合が多いので、このような耕地の生産力向上対策を見出すため試験を行った。

2.試験年次(昭和37年~39年)

3.試験地の土壌(下図)


4.試験方法
 (1)供試作物 大豆「コガネジロ」 てん菜「導入2号」
 (2)試験設計 1区面積1m2の無底コンクリート枠、2連制、大豆てん菜の2輪作
 (3)栽植密度 1区8株立、畦巾50㎝、株間25㎝ 大豆は1株2本立
 (4)土壌処理 上図のような農試圃場に深さ60㎝の無底枠を設置し、第3層土壌を30㎝充填し、その上に第2層土壌30㎝充填した、これが次表区別の下層土区である。又第3層の上に第1層土壌を30㎝充填した区を作り、これが次表の表土区である。従って下層土区は下層土のみに作物を栽培したわけである。
 (5)施肥設計 1枠(1m2)当瓦で氏絵mせば次の通り。
   てん菜 N8、P2O512、K2O8、MgO5gr/m2
   大 豆 N2、P2O512、K2O5、MgO5gr/m2

 Nは大豆に対しては硫安、てん菜に対しては硫安4チリ硝石6の割合とし、P2O5は過石、K2Oは硫加、MgOは硫酸苦土を用いた。
 全層施肥は深さ30㎝の土壌に均一に混合、NFKとは、N、K2Oは作条施肥と同量を硫安、硫加にて、Fは過石1:熔りん4の割合の混合を20gを施したことを意味する、N5FKはFのみ5倍量としたもの、25F、50Fは夫々25倍、50倍としたもの、(NFKは大豆の場合では10a当N2、P2O520、K2O5キロとなる)
 微量要素施用区はFTE20g/m2施用
 石灰施用区は初年度のみタンカル100g/m2施用
 堆肥施用区は少量区は毎年2.5キロ/m2、多量区は初年度のみ7.5キロ/m2施用
 珪酸は水ガラスより調製した、珪酸コロイドを、初年度100g/m2、2年目約110g/m2を水で稀釈して施用。

 (6)試験区とその内容
区番号 処          理          法 区  の  略  称
1 下層土区NK作条施用 下層土無燐酸
2   〃   NPK作条施用   〃 作条肥
3   〃     〃     +NFK全層施用   〃 作条、全層
4   〃     〃     +   〃    +微量要素   〃 (3)+微量要素
5   〃     〃     +   〃    +  〃  +堆肥多初年   〃 (4)+堆肥多
6   〃     〃     +   〃    +  〃  +堆肥少毎年   〃 (4)+堆肥少
7   〃     〃     +   〃    +  〃  +堆肥多+石灰   〃 (4)+堆肥多石灰
8   〃     〃     +N5FK全層施用   〃 作条肥、5F
9   〃     〃     +N25FK  〃   〃   〃 、25F
10   〃     〃     +N50FK  〃   〃   〃 、50F
11   〃     〃     +NFK、珪酸全層施用   〃   〃 、F珪酸
12 表土      〃 表土作条肥
13  〃      〃     +NFK全層施用   〃  〃  、F

5.試験経過の概要
 ア 大豆
 昭和37年 播種当時高温多照であったので、表土系列の発芽は良好であったが、下層土系列の土壌水分は不足気味で発芽は遅れ整一を欠いた。表土系列の生育は旺盛であったが、下層土系列においても堆肥の各処理区の生育は良好であった。無燐酸区の生育は極めて不良で典型的な欠乏症を呈したが、P多用ではむしろ生育を抑制する傾向を示した。その他微量要素、硅酸施用の影響はみられなかった。

 昭和38年 発芽期は旱魃であったため、発芽に長日を要したが、5月30日全区整一に発芽期に達した。「5F」「25F」「50F」の各区に初葉、第1複葉の葉脉間に6月中旬頃から黄化が見られ、その後も生長部の2~3葉を除いた下位葉にも出現し、その程度は次第に強まり枯死落葉するものもみられた。この症状はとくに50(F)などP多用区に顕著であったが、その他の下層土各区にも軽微ながらみられた。しかし7月下旬に至ってこの症状の進行も止まったが、発現部位は回復しなかった。
 生育は下層土無燐酸で最も劣り、P欠乏が顕著であったほか、下層土各区はいずれも表土系列に劣った。下層土系列内では堆肥施用の各区が良好な生育を示したのに反し、P多用区は黄化現象もあり草丈は劣り、ことに「50F」ではかなり劣った。

 昭和39年 発芽は多湿な天候であったので良整であったが、6月以降低温、多雨かつ日照不足によって大豆の生育は遅延し、開花始も平年に比し約10日ほど遅れ、その後も不順な天候のため生育は進まず、9月末には強霜があり、本試験ではビニール被覆によって霜害を回避し登塾を図ったが、最も生育遅延の著しかった表土系列の2処理では未成熟となった。下層土系列では前年にみられた黄化現象はなく、またその生育状況は表土系列に比し劣るけれども前2年ほど大差はみられなかったが、無燐酸区は前2年同様P欠乏が顕著で生育は著しく劣り、これについで作条区の生育が劣った。その他の各区間での生育の優劣は差が少なかった。

 イ てん菜
 昭和37年 播種当時高温多照であったため下層土系列の発芽は不揃いであった。7月上旬下層土系列に硼素欠乏症の発生をみたので、全処理に硼素の葉面散布を行った。B欠乏症状は生育の劣る区には認められず、旺盛な生育を示し、かつ堆肥あるいはFTEの施用されない国おいて激しい症状を呈した。しかしFTE施用区においても欠乏症状を認めた。その後の気象経過は概して順調であった。表土系列の生育最も旺盛であったが、下層土系列においても全層施用により表土に劣らぬ生育を示し、堆肥施用区は表土系列と同じく収穫時生葉多く緑色が濃かった。無リン三区は全く生育なし得ず、7月下旬枯死するほどであったが、燐酸多用の効果はみられず、むしろ生育を抑制する傾向すらみられた。珪三施用の効果は全くみられなかった。

 昭和38年 初期の乾燥それに次ぎ低温多湿のため初期生育は良好でなかったが、6月中旬以降平年に近い生育をみせ、8月は不順な気象に終始したが、登熟期の天候は順調で登塾は良好に進んだ。下層土各区の生育は、無燐酸区は極めて不良で、作条区の生育もかなり劣ったが、全層施肥により生育は極めて良好となり、生育初期にはむしろ表土の生育を上廻る傾向を氏絵mした。堆肥多量石灰区および毎年堆肥少量区の生育は生育最盛期以降も表土系列と変わらぬ旺盛な生育であった。燐多用の効果はあまりなかった。なお全区に硼砂1.5g/m2を施してあったが下層土系列で堆肥施用区外の各区に8月中旬硼素欠乏症が現れたので硼砂液を葉面散布した(4g/m2)珪酸の施用効果は全く見られなかった。

 昭和39年 多湿であったので各区の発芽には差はなかったが、低温多湿に経過したので全般に生育やや不良であったが9月中旬以降の好天で登塾はよく進んだ。下層土系列の生育は7月中旬までは表土系列に劣らなかったがその後表土系列が勝った。しかし下層土全層施肥区は表土と同等であった。毎年堆肥区は本年は効果少なく、又初年堆肥、石灰施用区は生育が劣った。下層土の燐酸施用効果は大であるが多量施用の生育抑制傾向は前2ヶ年以上に強く、これはPHを下げるため施した硫酸の影響と思われる。珪酸の効果はなかった。

6.収量調査表
 (1)大豆(g/m2)
  37年 38年 39年 平均 年次別子実収量比
茎莢 子実 茎莢 子実 茎莢 子実 茎莢 子実 37 38 39 平均
1 下層土、無燐酸 31 27 19 23 21 29 24 26 11 8 16 11
2  〃  、作条肥   188 187 185 165 174 101 182 151 75 58 57 64
3  〃  、作条、全層 307 250 287 287 250 177 281 238 100 100 100 100
4  〃  、(3)+微量要素 343 283 242 257 261 169 282 236 113 90 96 99
5  〃  、(4)+堆肥多 490 573 434 429 249 215 391 406 229 150 121 171
6  〃  、(4)+堆肥少 419 479 401 441 383 282 401 401 196 154 159 169
7  〃  、(4)+堆肥石灰 524 606 441 450 294 182 420 413 242 157 103 174
8  〃  、作条肥、5F 309 311 293 306 199 171 267 263 124 107 97 111
9  〃  、  〃 、25F 405 331 333 339 281 248 340 306 132 118 140 129
10 〃  、  〃 、50F 326 366 214 203 282 272 274 280 146 71 153 118
11 〃  、  〃 、F珪酸 348 326 334 321 260 150 314 266 130 112 85 112
12 表土作条肥 547 577 536 531 282 227 455 445 231 185 128 187
13 〃  、  〃 、F 621 657 612 578 370 280 534 505 263 202 168 212

 (2)てん菜(g/m2)
   37年 38年 39年 平均 年次別子実収量比
ToP Root ToP Root ToP Root ToP Root 37 38 39 平均
1 下層土、無燐酸 - - - - - - - - - - - -
2  〃  、作条肥   2,406 3,679 1,050 2,643 1,990 3,315 1,815 3,212 83 83 60 73
3  〃  、作条、全層 2,999 4,431 1,475 3,195 4,507 5,559 2,994 4,395 100 100 100 100
4  〃  、(3)+微量要素 3,172 4,459 2,411 5,113 4,116 5,347 3,233 4,973 101 160 96 113
5  〃  、(4)+堆肥多 2,868 4,955 2,232 5,248 3,692 5,334 2,931 5,179 112 164 96 118
6  〃  、(4)+堆肥少 2,306 3,725 2,230 5,493 3,939 5,173 2,825 4,797 84 172 93 109
7  〃  、(4)+堆肥石灰 2,861 5,087 3,285 5,673 2,055 3,784 2,734 4,848 115 178 68 110
8  〃  、作条肥、5F 2,424 4,126 2,114 4,283 3,168 4,898 2,568 4,436 93 134 88 101
9  〃  、  〃 、25F 2,103 4,681 2,518 4,460 2,321 3,100 2,314 4,080 106 140 56 93
10 〃  、  〃 、50F 2,633 4,733 2,448 4,410 2,615 2,838 2,565 3,993 107 138 51 91
11 〃  、  〃 、F珪酸 2,673 3,681 3,445 4,420 4,361 5,168 3,493 4,423 83 138 93 101
12 表土作条肥 2,841 4,433 2,590 4,040 3,430 3,517 2,953 3,997 100 127 63 91
13 〃  、  〃 、F 4,118 6,167 4,738 5,065 5,327 5,248 4,728 5,493 139 159 94 125

7.収穫物の養分含有率および吸収量
 ア 大豆  ○昭和38年
  1下
無燐酸
2下
作条
3下
全層
4下
微量要素
5下
堆肥多
6下
堆肥少
7下
堆肥多石灰
8下
5F
9下
25F
10下
50F
11下
硅酸
12表
作条
13表
全層
含有率 茎稈 N 0.78 0.76 0.64 0.67 0.61 0.58 0.68 0.67 0.63 0.78 0.71 0.59 0.70
P2O5 0.14 0.11 0.13 0.13 0.14 0.17 0.14 0.15 0.41 0.66 0.13 0.15 0.18
K2O 1.13 1.45 1.53 1.64 1.59 1.69 1.56 1.50 1.49 1.81 1.25 1.15 0.96
CaO 2.05 1.54 1.50 1.56 1.43 1.53 1.44 1.53 1.58 1.79 1.47 1.44 1.45
MgO 0.77 0.70 0.67 0.70 0.61 0.60 0.64 0.78 0.96 0.99 0.67 0.54 0.58
子実 N 5.31 5.14 5.07 5.13 5.17 5.13 5.24 5.15 4.84 4.90 4.97 5.29 5.50
P2O5 1.01 0.85 0.97 1.03 1.09 1.28 1.16 1.14 1.45 1.67 1.01 1.14 1.26
K2O 2.31 2.06 2.03 2.03 2.14 2.31 2.14 2.09 2.14 2.31 2.08 2.08 2.08
CaO 0.43 0.37 0.38 0.38 0.33 0.35 0.37 0.38 0.34 0.48 0.33 0.37 0.32
MgO 0.48 0.46 0.45 0.43 0.50 0.50 0.44 0.44 0.45 0.49 0.50 0.44 0.43
総吸収量
(g/m2)
N 1.39 9.90 15.93 14.81 24.81 24.92 26.55 17.71 18.52 11.59 18.34 31.25 36.08
P2O5 0.28 1.61 3.15 2.96 5.28 6.32 5.83 3.93 6.29 4.80 3.68 6.86 8.39
K2O 0.76 6.08 10.20 9.19 16.07 16.95 16.50 10.79 12.23 8.55 10.86 17.21 17.90
CaO 0.50 3.46 5.39 4.75 7.62 7.68 8.02 5.65 6.42 4.80 5.97 9.68 10.72
MgO 0.26 2.05 3.21 2.80 4.79 4.61 4.80 3.63 4.73 2.43 3.85 5.23 6.03
同上割合
(%)
N 9 62 100 92 154 154 164 110 115 72 114 193 223
P2O5 9 51 100 94 168 201 185 125 200 152 117 218 266
K2O 7 60 100 90 158 166 162 106 120 84 107 169 176
CaO 9 64 100 88 141 143 149 105 119 89 111 180 199
MgO 8 64 100 89 149 144 150 113 147 76 120 163 188

 イ てん菜  ○昭和38年
  2下
作条
3下
全層
4下
微量要素
5下
堆肥多
6下
堆肥少
7下
堆肥多石灰
8下
5F
9下
25F
10下
50F
11下
硅酸
12表
作条
13表
全層
頸葉含有率 N 1.61 1.60 1.35 1.39 1.50 1.33 1.49 1.54 1.59 1.26 1.51 1.51
P2O5 0.67 0.56 0.56 0.56 0.51 0.49 0.58 0.97 1.33 0.51 0.49 0.53
K2O 1.75 1.93 2.00 2.55 2.33 2.30 2.01 1.88 2.20 1.78 1.85 1.90
CaO 2.08 1.64 1.80 1.30 1.32 1.34 1.38 1.31 0.85 1.90 1.76 1.46
MgO 0.57 0.62 0.64 0.56 0.51 0.61 0.73 0.88 0.90 0.71 0.49 0.64
菜根含有率 N 0.73 0.66 0.51 0.60 0.57 0.54 0.56 0.55 0.57 0.58 0.53 0.60
P2O5 0.32 0.32 0.29 0.36 0.36 0.32 0.32 0.41 0.51 0.30 0.25 0.27
K2O 0.69 0.63 0.67 0.73 0.75 0.69 0.61 0.60 0.65 0.69 0.53 0.54
CaO 0.27 0.22 0.24 0.23 0.23 0.23 0.22 0.22 0.22 0.30 0.29 0.28
MgO 0.41 0.33 0.33 0.38 0.40 0.38 0.49 0.50 0.50 0.49 0.38 0.43
総吸収量
(g/m2)
N 9.4 10.14 13.63 13.64 14.82 13.57 12.56 12.49 12.68 9.66 10.83 13.14
P2O5 4.03 4.04 6.45 6.82 7.01 6.49 5.88 8.47 10.93 4.43 4.21 5.27
K2O 9.64 11.06 18.62 21.18 21.43 20.47 15.54 14.54 16.18 12.63 12.20 14.18
CaO 8.15 7.16 12.35 9.25 9.84 9.81 8.75 7.71 5.95 10.04 9.70 9.41
MgO 4.25 4.46 7.36 7.03 7.48 7.86 6.88 8.98 8.92 6.73 5.37 7.50
同上割合
(%)
N 93 100 131 134 146 134 124 123 125 95 107 130
P2O5 100 100 160 169 173 161 146 210 271 110 104 130
K2O 87 100 168 192 194 185 141 134 146 114 110 128
CaO 114 100 173 129 137 137 122 108 83 140 136 132
MgO 95 100 165 158 168 176 154 201 200 151 121 168

8.跡地土壌分析結果
  PH 腐植
%
NH4-N
mg/100g
NO3-N
mg/100g
AcNa-AcOH可溶(mg/100g) P2O5
吸収係数
H2O KCl P2O5 K2O CaO MgO Al2O2
38









1 下 -P 6.16 5.60 2.03     0.047 9.8 129.8 30.2 118.0 1,932
2 下作条 6.46 5.68 2.11     0.10 10.0 146.8 21.6 116.0 1,942
3 下全層 6.48 5.72 2.06     0.24 12.8 176.0 36.2 109.6 1,933
4 下微量要素                        
5 下堆肥多 6.60 5.80 2.31     0.36 24.8 199.8 38.6 116.0 1,882
6 下堆肥少 6.54 5.78 2.22     0.47 20.4 222.0 35.2 99.6 1,919
7 下堆肥多石灰 6.82 6.16 2.36     0.36 19.5 305.8 40.4 109.6 1,920
8 下 5F 6.72 5.88 2.12     9.60 8.3 203.8 47.8 97.4 1,869
9 下25F 7.64 7.00 1.90     17.92 9.1 684.4 188.8 66.8 1,948
10 下 50F 8.08 7.40 1.52     29.36 8.3 916.2 288.8 34.0 1,964
11 下硅酸 6.38 5.60 2.07     0.68 13.2 199.0 47.8 144.4 1,879
12 表作条 6.22 5.32 5.03     0.55 9.8 212.4 19.4 36.8 1,123
13 表全層 6.24 5.34 5.02     1.22 8.0 225.8 25.2 36.4 1,128
39









1 下 -P 6.62 5.76   1.13 0.14   15.0 154.1      
2 下作条 6.58 5.78   1.20 0.04   11.0 187.3      
3 下全層 6.60 5.88   1.17 0.05   15.8 225.9      
4 下微量要素 6.60 5.88   2.08 0.06   13.0 219.7      
5 下堆肥多 6.64 5.95   1.32 0.10   23.3 240.9      
6 下堆肥少 6.70 5.95   0.84 0.21   27.0 229.3      
7 下堆肥多石灰 6.90 6.15   1.33 0.18   20.0 302.6      
8 下 5F 6.55 5.75   0.89 0.08   12.6 196.9      
9 下25F 6.88 6.18   1.70 0.10   11.3 480.0      
10 下 50F 7.20 6.55   1.32 0.13   9.3 770.6      
11 下硅酸 6.60 5.78   1.32 0.05   15.8 213.5      
12 表作条 6.48 5.38   1.12 0.47   7.3 237.8      
13 表全層 6.20 5.44   1.27 1.40   9.3 274.3      

9.試験結果と考察
 (1)大豆
 第1年目(昭和37年)、下層土に於ける燐酸(普通量)の効果は著しく、又肥料の条施の上更に全層施用の効果は大きいが尚表土の収量に比し著しく劣った。堆肥の効果は大で多量区は表土作条施肥区と同等の収量をあげた。燐酸多量全層施用は生育状況はむしろ抑制的であったが、収量では僅か乍効果があった。土壌分析の結果、燐酸多施はPHは中性~アルカリ性となっていた。このことが、可溶性燐酸の増加、活生アルミナの減少という有利な条件に係わらず増収効果が低かった原因と思われる。(熔燐を用いている)

 昭和38年 前年同様下層土における全層施肥の効果は大で、このような多肥条件における堆肥施用効果も著しかった。堆肥の効果については当年施用堆肥のみならず前年多量施用した堆肥の残効も大であり、とくに石灰加用区の生育収量は最もよく下層土系列において前年同様多収であった。しかし、堆肥施用区以外の下層土区は生育初期に下葉にクロロシスを生じ、しかも燐酸多用によりその程度は強まり、生育は劣り生育子実収量も低下した。これら燐酸多用の25F、50F区の大豆茎莢および子実中のP2O5含有率は著しく高く、茎莢のMgO、CaO含有率も高くなったが、土壌PHがアルカリ性を示したことにより考えて、施肥処理以外の微量要素の影響或いは体内無機養分の不均衡がクロロシスを惹起し、これが燐酸多用の効果が発現し得ない原因のひとつと考えられた。

 昭和39年 冷害をうけ充分な生育をなし得たとは考えられず、とくに表土系列は未成熟に終わり、前2年に比し収量は低かったが、前年同様当年施用の効果は本試験のごとき多肥段階においても大であった。しかし初年度における多量施用堆肥の残効3年目においては当年施用の少量堆肥の効果に比しかなり低く、ことに前2ヶ年最多収を挙げた石灰加用区においては、子実収量への効果は全く見られず、また燐酸多用区は、PH調整のため施した硫酸により適当なPHとなった結果か生育抑制もなかったことは前2ヶ年と異なった点である。微量要素、珪酸の効果は前年同様みられなかった。

 (2)てん菜
 昭和37年 下層土は無燐酸では生育し得ないほどであるが、普通施肥条件における下層土の生産力は表土に比して著しく低くはなく大豆と異なった傾向を示した。燐酸多用の効果はむしろ生育抑制の傾向すらみせ、増収効果は明らかでなかった。しかし全層施肥による増肥は表土普通肥条件と同等の収量を挙げた。またこの様な多肥条件における堆肥の施用効果は意外に低く、多量の堆肥施用によっても10%程度の増収にすぎなかった。微量要素の効果については硼素以外の要素についてはみられなかった。硅酸の効果も全くみられなかった。

 昭和38年 前年と同様、下層土の生育は表土に比して劣るが、前奏施肥により表土と同等の生育を示し、微量要素の充分な施用により表土を上廻る生産を挙げた。このような処理条件での堆肥の効果は低かったが、前年施用堆肥の残効もかなりみられ、さらに石灰加用による前年施用堆肥の効果は最も高かった。燐酸多用の効果はむしろ生育抑制の効果をみせ、PHはアルカリ性に傾いていたので全般的に発生したB欠乏の程度も強く、硼素の葉面散布にも拘わらず収量は低かった。これら燐酸多用区ではP2O5、MgO、Nの吸収量は多かったが、収量増加に働かなかったことは養分吸収の不均衡あるいはPH上昇による微量要素の吸収に以上をきたしたものとみたれる。また微量要素の効果については硼素の施用にも拘わらず、硼素欠乏症をみせBの葉面散布を一部の区について行ったので硼素以外の要素の効果は判定し得ないが硼素の効果は著しく下層土に於ける必要量はかなり多いものと認められた。

 昭和39年 低温多湿であったためか下層土に於ける生育は初期は表土に於けるよりかなりよかった。全層施肥の効果は前2ヶ年同様大で、下層土に於いても終始表土と同等の生育を示し菜根収量はむしろ勝った。このような多肥条件に於ける堆肥施用の効果は少なく、前年まで最高収量を氏絵mした初年堆肥多量石灰区は収量が低下した。これは残効が既に少なくなったこと、および前2ヶ年の養分収奪量が多かったことによるものと考えられる。燐酸多用区はPH調整のため硫酸処理を行った影響が前年よりも生育抑制がみられ低収に終わった。この区では初期から根部のP2O5、MgOの含有率は高いがNa2O(ソーダ)含有率が著しく低かった。堆肥施用区は前年までは、K2O、P2O5の吸収量が極めて大であったが、増収効果がみられない本年では斯様な事実は見られず異なった減少がみられた。また表土区の生育は本年は極めて不良であったこと、下層土区の根長が目立って長かったことは本年の特異な気象経過と関連があると考えられるがその機作については全く不明である。微量要素並に珪酸の効果は認められなかった。

 (3)跡地土壌の化学性
 38、39年の跡地土壌を分析した結果について両年を通じて考察すれば、まづPHは下層土および表土ともほぼ同等出会ったが、下層土に対し石灰或いはP多用処理によってPHは上昇し、「25F」「50F」ではアルカリ性を示した。この結果に基づき39年は播種前に硫酸によって、PHを低下させた結果「50F」ではPH7.20(H2O)とやや高かったが、各処理間には大差が生じなかった。腐植含量では下層土は表土の約半分であり、堆肥の施用により高まったが、逆にP多用の各区では低下した。
 無機ーNの含量は低い水準であったが、NH4-N含量では表土、下層土間に差異は少ない。しかしNO3-Nでは下層土が全般に少なく、又下層土処理間の比較では、堆肥施用区が多肥区より多い傾向を示した。
 可溶性P2O5含量は表土、下層土とも多肥区が多くなり、とくにP多用区では顕著に多く「50F」では約30mg/100gに達した。また堆肥施用区も不施用に比し約50%以上増加することがみられた。K2Oについては表土に比し、下層土が高い結果であり、堆肥の施用は顕著に含量が高まったが、石灰施用或いはP多用区は逆に低下した。下層土のCaO、MgO含量は表土のそれと大差ない含量であり、下層土系列内における処理間の差異はP2O5と同様の傾向を示し、P多用及び堆肥、石灰施用によってそれぞれ高まった。一方Al2O3では表土に比し下層土は極めて高く約3倍の可溶量であるが、Pの多用に伴って著しく低下し、「50F」においては表土区と同程度まで低下した。
 堆肥施用区では各要素とも作物の吸収量は多いが、とくにP2O5、K2Oの吸収が多く、CaO、MgOはP2O5・K2Oに比し吸収増加割合の少ない点は、堆肥施用による土壌のK2Oの増加がCaO、MgOの吸収を抑制したものと思われる。下層土の燐酸吸収係数は表土に比し大であるが、燐酸多用、堆肥、珪酸の施用或いは全層施肥などの処理は活性Al2O3(アルミナ)の含量は低下したが燐酸吸収係数は殆ど変わらなかった。

10総括
 当地方の不良下層土の作物生産阻害要因除去のため各種の処理を行ったが大豆とてん菜では反応が異なる点がある。てん菜では普通施肥によっても、大豆よりは表土に近い収量をあげ、多比条件での堆肥施用も大豆に比し低い、全層施肥、堆肥、硼砂のの綜合施用により表土の普通施肥と同等の収量をあげ得た。大豆ではこれらの処理によっても表土の生産性に及ばなかった。また燐酸多用の効果は、資材としてアルカリ性の熔燐を主体のものを用いたことも関係があると思われるが両者にはかなりの差があった。
 下層土に於ける大豆の生産阻害要因は燐酸供給問題が大きいが、全層施肥による増肥と更に堆肥施用により表土に近い収量をあげた。しかし堆肥の減耗は意外に早く、3ヶ年連用によっても表土の生産に及ばなかった。珪酸および微量要素の効果は明らかでないが、2年目の黄化現象などからも施用資材の質の検討が今後必要である。有機物効果の高い点から考えて、根瘤菌その他の微生物の問題、水分保持供給の問題なども今後検討すべき点である。
 またてん菜については39年の生育状況はやや特異な現象をしめし考察困難な点が多いが、下層土における生産阻害要因は可溶性燐酸の供給が大きな影響を及ぼすものと考えられる。しかしP多用の効果については他の養分との均衡に問題点が多く、むしろ微量要素、とくに硼素を含めた施肥の改善により下層土の養分含量を向上することによって著しく下層土の生産力向上の可能性が認められる。また本試験のごとき多肥条件においては堆肥の効果は認められるが意外に低く、かつその効果の減退は(39年の特異な結果は他の要因としても)速やかで、堆肥施用によりK2O、P2O5の含有率と吸収量の増大をもたらし、微量要素の供給保持とともに土壌中の可溶性P2O5、K2O,NO3-Nの増加およびAl2O3減少がみられるので極めて重要なことである。