【普及参考事項】
鉱質土壌における草地造成時の土壌改良資材(熔燐、石灰)の施用法に関する試験
道立天北農業試験場

A 石灰質資材の施用法に関する試験

Ⅰ 目的 混播牧草地造成に際し酸性矯正するために用いる石灰質資材の施用法およびその効果を検討する。

Ⅱ 試験年次 昭和37年~39年(3ヶ年)

Ⅲ 試験方法
 1 供試混播牧草および播種量(g/10a)
   チモシー(900) 赤クロバー(450)

 2 試験圃場および履歴
   枝幸群浜頓別町ポンニタチナイ
  昭和33年開墾、その後牧草を播種したが生育不良で荒はい化し、試験開始時にはイワノガリヤス・ヨモギ・アザミなどが疎生していた。

 3 試験区別
  1.無石灰区
  2.石灰減量区(炭カル区の半量300㎏/10a施用)
  3.石灰中和区(中和曲線法で求めた炭カル600㎏/10a施用)
  4.石灰増量区(炭カル3区の1.5倍量900㎏/10a施用)
  5.深耕中和区(30㎝深耕炭カル、作土600㎏、心土800㎏/10a施用)
  6.深耕中和多肥区(炭カル5区と同様、3要素1.5培量施用)

 上記の区を普通肥料系列、改善肥料系列に夫々設定した。
 普通肥料系列(硫安、過石、硫加施用)
 改善肥料系列(尿素、熔りん、塩加施用、但し初年目基肥りん酸の1/5は過石施用)

 4 試験区面積および配置
 1区面積10m2 分割試験区法 3反復

 5 供試土壌の特性
 地形 平坦、地質母材 洪積層頁岩質
 土壌 表土は(20~28㎝)は腐植に頗る富むシルト質埴土であるが心土は堅密な軽埴土層からなっている。排水はやや不良であった。
 原土の化学性は次のごとくである。

  粘土
(国際法)
(%)
容積
比重
腐植
(%)
全ちっ素
(%)
りん酸
吸収係数
反応
PH Y2
H2O KCL
作土 31.2 0.54 15.7 0.45 1640 5.4 4.4 4.3
心土 28.1 0.63 13.8 0.44 1480 5.2 4.2 17.5

 6 栽培概要
 (イ)播種法、撒播
 (ロ)標準施肥量(㎏/10a)および施肥法
   造成時基肥 N 2.0、P2O5 100、K2O 2.0
   2年目以降追肥 上記と同量をP2O5は春先全量をNおよびK2Oは春先2/3、1番刈後1/3を追肥。
 (ハ)栽培管理期日
昭和37年 38年 39年
播種 6月29日  月 日  月 日
早春追肥 4.18 4.16
第1回収穫 9.21 6.27 7.5
第2回収穫 9.14 9.11
(除草) (5.27)

 初年目および2年目1番草までは雑草の侵入が多かったので、適宜抜取り除草を行った。

Ⅳ 試験結果および考察
 1 試験期間中の気象経過
 播種当年の春季は低温、多照、夏季は低温、多雨であったため、牧草生育はやや不良であった。2年目は6月まで高温で降水も少なく一般には旱害をうけたが本試験地は腐植多く保水性が高かったためその影響は少なかった。3年目は夏季低温、多湿であったが牧草生育には影響が少なかった。

 2 生育経過の概要
 播種後の発芽日数が長く、かつ雑草との競合もあって、初年目の牧草生育は不良であった。処理区間では無石灰区がやや劣り、石灰中和区がやや生育が良好であったが、そのほかは大きな差を認めなかった。2年目1番草も低温のため全般に生育は鈍ったが、1、2番刈を通じて、石灰中和、深耕中和および深耕中和多肥区の生育が良好であった。3年目も無石灰区の生育が劣った外は、ほぼ順調な生育を示し、処理区間に大差を認めなかった。なお普通肥料と改善肥料の系列には3ヶ年を通じ大きな生育の差は認められなかった。

 3 収量に及ぼす処理の効果
 (イ)刈取毎生草収量:1)普通肥料と改善肥料の系列間には2年目1番草のみ有意差があったが、外は有意差が認められなかった。2)処理区間では1年目および3年目の2番草を除きいずれも高い有意性が認められた。

 (ロ)石灰施用効果:3ヶ年を通じて、両系列とも石灰施用による増収効果が認められたが、その効果は1~2年目で高く、3年目では増収率がやや劣った。また改善肥料系列は普通肥料系列より一般に石灰の効果は劣った。

 (ハ)石灰施用量について:石灰減量区はつねに中和区より定収を示していたが、石灰増量区では中和量区との差に一定の傾向がみとめられず、増量効果は明らかでなかった。

 (ニ)深耕効果:深耕中和区は中和区にくらべつねに多収をしめし、とくに普通肥料系列でその傾向が大きかった。

 (ホ)深耕多肥効果:深耕区における多肥の効果は改善肥料系列で大きくとくに1~2年目まで、その傾向が強かった。しかし普通肥料系列においても3年目2番草で大きな増収を示した。

 (ヘ)普通肥料系列と改善肥料系列の比較:一般に大きな差異は認められなかったが、無石灰、石灰減量区および深耕した場合は改善肥料系列で多収を示すことが多かった。

 4 まめ科割合と粗蛋白収量
 まめ科の混生割合は1年目で低かったが、2、3年目は赤クロバーの生育旺盛となった。一般に石灰施用量の増加に伴ってまめ科割合も増加し、収量増加とともに粗蛋白生産量を増大せしめた。また深耕はまめ科割合に大きな影響を及ぼさなかったが多肥した場合まめ科割合が低下する傾向が見られた。また改善肥料系列は普通肥料系列よりわずかにまめ科割合が高かった。
 粗蛋白収量は生草あるいは乾草収量と同様の傾向を示したが石灰施用効果は生草あるいは乾草収量への影響よりもまめ科割合の増大に及ぼす影響が大きかった。

 5 三要素含有率および吸収量
 石灰施用と各要素含有率の関係はとくに明らかでなかったが、各要素の勧誘率は石灰施用の増加とともに高まる傾向があった。従って要素吸収量顔負い傾向がみられた。

 6 跡地土壌の分析結果
 跡地土壌は石灰施用によりいずれもほぼ酸性矯正され、置換性石灰も多かった。しかし深耕中和した区の心土は、なお十分酸性矯正されていなかった。また石灰施用区では、りん酸吸収係数がやや小さかった。

Ⅴ 結論
 牧草地の造成に際して酸性矯正のために石灰を施用することにより牧草収量を高めると同時に混播におけるまめ科の生育を促進し、その影響生産性を高めた。このときに施用する石灰量は中和曲線法による中和石灰量がもっとも適当で、これより増減するとその効率が低下した。深耕して下層まで中和することも有効であったが、深耕して多肥するとまめ科生育の旺盛な1~2年目まではやや多収をうるが、まめ科の衰退を招く傾向が見られた。
 また石灰中和量を施用すれば普通肥料、改善肥料の差は認められず、硫安、過石、硫加を用いてもよいと考えられた。

◇成績表◇
 第1表 収穫時の草丈(㎝)
系列/区別/草種/項目 昭37 昭38 昭39
Ⅰ~①(21/Ⅸ) Ⅱ~①(27/Ⅵ) Ⅱ~①(13/Ⅸ) Ⅲ~①(5/Ⅶ) Ⅲ~②(11/Ⅸ)
T RC T RC T RC T RC T RC
A普通肥料 1 無石灰 39.8 15.1 57.0 43.1 54.5 58.5 81.3 59.6 70.6 57.8
2 石灰減 40.3 17.0 68.7 49.4 59.7 68.4 83.9 60.7 70.7 58.9
3 石灰中和 42.6 17.3 40.0 54.9 70.7 67.2 84.7 62.5 71.4 63.1
4 石灰増 39.7 17.1 73.7 53.9 68.1 70.5 86.1 62.1 72.3 60.0
5 深耕中和 42.6 17.8 81.7 56.8 77.1 72.3 86.0 65.7 73.2 60.3
6 深耕中和多肥 40.4 17.4 78.0 58.9 76.8 72.3 87.5 65.9 76.6 64.9
B改善肥料 1 無石灰 41.5 15.8 65.3 45.6 63.4 59.5 84.8 60.2 66.1 57.5
2 石灰減 39.8 18.6 68.6 52.5 61.6 62.1 87.3 62.0 68.5 59.6
3 石灰中和 40.5 19.0 70.7 54.7 72.6 70.1 85.0 64.5 68.9 60.0
4 石灰増 35.9 15.4 70.1 57.1 69.7 65.2 85.3 62.1 67.6 58.0
5 深耕中和 43.1 17.9 78.7 55.1 71.9 70.6 88.5 66.7 71.9 61.9
6 深耕中和多肥 41.0 17.7 78.0 59.5 86.8 74.7 88.7 71.1 72.5 63.6
  (注)T:チモシ、RC:赤クロバー、以下同様、Ⅰ~①:第1年次1番草、Ⅱ~②:第2年次2番草、以下これにならう。

 第2表 収量(㎏/10a)
系列/区別/草種/項目 A普通肥料 B改善肥料
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② 合計 Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② 合計
生草収量 1 無石灰 117 1,103 712 1,800 1,071 4,803 144 1,196 783 1,967 933 4,978
2 石灰減 205 1,734 1,125 2,080 1,202 6,346 215 1,784 1,209 1,987 1,168 6,363
3 石灰中和 269 2,035 1,225 2,138 1,324 6,991 233 2,115 1,367 2,107 1,333 7,156
4 石灰増 270 1,982 1,320 2,218 1,241 7,031 221 2,329 1,287 2,209 1,291 7,337
5 深耕中和 293 2,487 1,490 2,476 1,495 8,241 278 2,368 1,534 2,387 1,537 8,104
6 深耕中和多肥 275 2,531 1,443 2,409 1,572 8,230 353 2,672 1,623 2,644 1,368 8,660
乾草収量 1 無石灰 27 295 178 506 238 1,244 30 311 185 552 192 1,270
2 石灰減 49 457 291 597 304 1,698 44 447 307 579 290 1,667
3 石灰中和 54 512 309 568 328 1,771 51 512 331 512 300 1,766
4 石灰増 59 488 326 627 313 1,813 44 576 317 623 326 1,886
5 深耕中和 59 629 350 700 386 2,124 56 550 368 673 398 2,045
6 深耕中和多肥 55 625 355 699 437 2,171 78 635 384 721 356 2,174

 第3表 分散分析表(生草収量 ㎏/10a)
年次刈取 Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
要因 D.F M.S F M.S F M.S F M.S F M.S F
ブロック間 2 74,395 ※※
44.54
511,786 ※※
39.75
52,251
4.79
134,122 4.05 255,989 ※※
32.14
系列間 1 720   87,320
6.78
49,062 4.50 8,100   18,769 2.36
誤差 8 1,670   12,875   10,903   33,116   7,966  
処理区間 5 29,632 2.22 1621,787 ※※
28.37
522.548 ※※
54.59
353,456
4.31
215,291 2.32
交互作用 5 5,767   33,991    9,185   28,601   16,109  
誤差 14 13,374   57,140   15,105   82,057   92,898  
最小有意差 系列間       ㎏
30
       ㎏
88
       ㎏
81
      ㎏
141
       ㎏
69
処理間 192 295 152 353 377
系列(処理)間 201 417 214 501 533
処理(系列)間 187 391 670 478 491

 第4表 マメか割合の変遷
  A 普通肥料 B 改善肥料
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
1 無石灰 26 13 24 27 39 28 15 35 24 42
2 石灰減 30 24 34 26 40 31 27 35 25 43
3 石灰中和 34 43 37 36 59 35 53 49 40 55
4 石灰増 35 44 45 35 62 34 52 48 35 65
5 深耕中和 34 44 47 25 63 33 53 58 25 68
6 深耕中和多肥 31 40 40 9 31 32 51 55 15 33




  生草収量

 第5表 粗蛋白収量
  A 普通肥料 B 改善肥料
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
1 無石灰 3 25 26 47 40 141 4 28 28 46 32 138
2 石灰減 7 45 28 56 42 178 6 44 41 49 42 182
3 石灰中和 7 65 44 63 57 239 7 63 48 56 54 288
4 石灰増 8 59 46 57 48 218 7 73 44 59 57 240
5 深耕中和 9 79 48 65 65 266 8 70 53 66 77 274
6 深耕中和多肥 8 72 50 55 66 251 11 87 56 82 51 287

 第6表 粗蛋白収量指数
   刈 取 毎 収 量 年間合計収量 全収量
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② Ⅰ~Ⅲ
A 普通肥料 1 100 100 100 100 100 100 100 100 100
2 233 180 108 119 105 233 143 113 126
3 233 260 169 134 143 233 214 138 167
4 267 236 177 121 120 267 206 121 155
5 300 316 185 138 163 300 249 149 189
6 267 288 192 117 165 267 239 139 178
B 改善肥料 1 100 100 100 100 100 100 100 100 100
2 150 157 146 106 131 150 152 117 132
3 175 225 171 122 169 175 198 141 165
4 175 261 157 128 178 175 209 149 174
5 200 250 189 143 241 200 220 183 199
6 275 311 200 178 159 275 254 171 208
B/A 1 133 112 108 98 80 133 110 90 98
2 86 98 146 88 100 86 116 93 102
3 100 97 110 89 95 100 102 92 97
4 88 124 96 104 119 88 101 110 110
5 89 89 110 102 118 89 97 110 103
6 138 121 112 149 77 138 116 110 114
M 102 106 112 104 98 102 108 102 105

 第7表 跡地土壌分析
  A 普通肥料 B 改善肥料
PH
(H2O)
PH
(KCⅠ)
Y1 EX
CAO
りん酸
吸収係数
PH
(H2O)
PH
(KCⅠ)
Y1 EX
CAO
りん酸
吸収係数
1 無石灰区 作土 5.3 4.5 7.5 131 1,721 5.7 4.6 8.1 113 1,744
心土 5.2 4.2 28.4 46 1,809 5.4 4.1 33.6 42 1,535
2 石灰減量区 作土 6.3 5.4 3.4 269 1,569 6.1 4.8 4.7 299 1,669
心土 5.2 4.0 37.2 63 1,513 5.3 4.0 40.5 53 1,558
3 石灰中和区 作土 6.5 5.9 1.4 376 1,513 6.3 5.6 1.6 356 1,614
心土 5.3 4.0 28.9 57 1,323 5.5 4.0 34.6 43 1,547
4 石灰増量区 作土 6.4 5.8 1.7 349 1,558 6.5 5.8 1.7 318 1,625
心土 5.4 4.0 38.4 57 1,295 5.5 4.0 42.2 69 1,309
5 深耕中和区 作土 6.4 6.2 2.1 412 1,535 6.6 6.1 1.9 354 1,633
心土 5.8 4.8 18.4 93 1,211 5.7 4.4 21.9 119 1,240
6 深耕中和多肥区 作土 6.5 5.9 2.1 339 1,605 6.6 6.1 1.2 283 1,667
心土 5.7 4.6 20.6 128 1,311 5.5 4.3 28.7 105 1,364

B りん酸質資材の施用量および施肥法に関する試験

Ⅰ 目的 混播草地造成の際、土壌改良資材としての熔りんの施用量、および施用法について検討する。

Ⅱ 試験年次 昭和37年~昭和39年(3カ年)

Ⅲ 試験方法
 1 供試験混播牧草および播種量(kg/10a)
 チモシー 900、赤クロバー 450

 2 試験圃場混播牧草および履歴
 道立天北農業試験場
 昭和28年開墾、その後荒廃はいのまま放置、試験開始時には矮生なササ(30~50㎝)が散生していた。

 3 試験区別
1.無りん酸区 (略号-P)
2.3要素区 ( 〃 -S)
3.熔りん 25㎏ 加用区 ( 〃 -P25)
4. 〃   50    〃   ( 〃 -P50)
5. 〃   75    〃   ( 〃 -P75)
6. 〃   100   〃  ( 〃 -P100)
7. 〃   125   〃 (〃  -P125)
8. 〃   200A  〃 (〃  -P200A)
9. 〃   200B  〃 (〃  -P200B)

 試験処理の方法
 熔りんは昭和37年、造成時に耕起後10a当たり上記の各量を施用し、整地はロータベーターで行い、全層に撹拌混合した。しかし0区のようりん200㎏加用B区では、耕起前半量、耕起後整地前半量にわけて施用した。

 4 試験区面積および配置
 1区面積 20m2 乱塊法 3反復

 5 供試土壌の特性
 地形:平坦、地質母材、洪積層、砂岩質
 土壌:表土は腐植に富む埴土であるが、15~20㎝で薄く、心土は堅密な埴土~埴壌土層からなっている。表層排水はやや良好であるが、下層排水はやや不良である。原土の科学性はつぎの如くである。

層別/項目 粘土
(%)
腐植
(%)
炭素率 PH Y1 置換容量
ml/100g
置換性塩基 ml/100g 吸収係数 N/5Hcl可溶 mg/100g
H2O Kcl Ca mg Na N P2O5 P2O5 K2O
表土 60.5 8.1 13 5.6 4.4 8.5 25.4 3.81 0.24 0.11 235 1040 4.5 10.9
心土 59.5 4.6 9 5.5 4.4 14.7 23.6 0.93 0.19 0.17 269 1360 2.1 4.3

 6 栽培概要
 (イ)播種法 撒播
 (ロ)標準施肥量(kg/10a)および施肥法
 造成時基肥 N 2.0、P2O5 10.0、K2O 2.0
 2年目以降追肥 上記と同量をりん酸は春先全量をちっ素およびカリは春先2/3、1番刈後1/3を追肥、しかし2年目2番草からは各区ともカリ欠乏症が目立ったので、Ⅲブロックのみカリ施用量を2倍にした。
 (ハ)栽培管理期日
昭和37年 38年 39年
播  種 5月9日
早春追肥 4.18 4.16
第1回収穫 8.21 6.20 6.25
第2回収穫 8.22 9.10
( 除 草 ) (7.10) (6.4)
(8.4) (7.1)
 初年目および2年目は雑草の侵入が多かったので適宜抜き取り除草を行った。

Ⅳ 試験結果および考察
 1 試験期間中の気象経過
 播種当年の春季は低温、多照、夏季は低温、多雨であったため、牧草の生育は一般に不良であった。2年目は6月まで高温で降水量も少なかったため、牧草は干害をうけ、生育が不良で、とくに本試験の牧草はその影響を強くうけた。3年目は夏季、低温、多雨であったが、牧草の生育には影響が少なかった。

 2 生育経過
 播種後の発芽日数が長く、かつ雑草の混生が多かったため、全般に生育は不良であった。一般に熔りん施用量の多い区は生育良好でまめ科の混生も多かった。2年目の1番草では4~6月までの干ばつの影響と雑草の混生のため生育はきわめて不良であった。しかし2番草では雑草の混生がやや多かったが、牧草は全般に生育良好であった。処理区間の差は1、2番草ともに無りん酸区で終始生育はもっとも劣り、熔りん200㎏加用の8、9区では全般に生育良好で草丈もまさっていた。3年目は気候による影響が少なく1、2番草とも生育良好であったが、2番草では以前に播種されたことのあるオーチャードグラス・白クロバーの混生が多かった。処理区間の差は無りん酸区の生育がやや劣ったが、ほかの区間では大きな差が認められなかった。あの、2年目後半よりカリ欠乏症が目立ったのでⅢブロックのみカリを倍量追肥し、やや高収を得た。

 3 収量に及ぼす熔りん施用効果
 (イ)生草収量:各刈取毎の生草収量についての分散分析の結果、処理の効果は2年目までは1%水準で、また3年目では5%水準で、それぞれ有意差があった。しかし検定の結果は、いずれの刈取においても、無りん酸区(1区)と北海道のようりん施用区(2~7区)とようりん200㎏加用区(8、9区)との間で大きい有意差が見られたが、熔りん施用量増加に伴う効果は熔りん125㎏加用区まで明らかでなかった。

 (ロ)乾草収量:生草収量とほぼ同様の傾向がみとめられたが、いま刈取ごとの平均収量についてみるとおよそつぎのとおりであった。すなわち、熔りんを施用した区では3カ年間ほとんど標準区より多収であった。また、熔りん施用量を増してゆくと、初年目ではほぼ直線的に収量が高まった。しかし2年目ではその増収効果が低下し1番草では(低収であったが)熔りん125㎏加用区および200㎏加用区でわずかに多収を示し、また2番草では熔りん25㎏~125㎏加用区、200㎏加用A区までは大差なく、200㎏加用B区のみでわずかに増収をしめしたにすぎなかった。さらに3年目では熔りん施用量増加に伴う効果はほとんどみられず、1、2番草ともに熔りん25㎏~200㎏加用区では標準区に対し10%以内の増収にとどまったが200㎏加用の8、9区のみが20~40%の増収をしめした。つぎに熔りんの施用法として、全層に加用した熔りん200㎏加用B区についてみると、熔りん200㎏A区にくらべ、一定の傾向が認められなかった。なお、無りん酸区の収量比率は初年目にもっとも低く年次および収穫回数の経過とともに標準区に近くなった。(原因は明らかでないが、草地の還元に伴うりん酸の有効花および根系の発達などによる牧草のりん酸吸収力の増加などが考えられる。)

 4 まめ科割合と粗蛋白収量
 まめ科割合は全般に初年目でもっとも多く、以後年次および収穫回数の経過とともに低下した。ようりん施用量によるまめ科割合の変化は比較的小さく初年目の熔りん125㎏加用AおよびB区2年目1番草の熔りん125㎏加用区、200㎏加用A区でわずかに高かったのみで一定の傾向がなかった。しかし無りん酸区では終始まめ科は少なかった。粗蛋白収量も熔りん施用量との間に一定の傾向がみとめられず熔りん効用25㎏~125㎏区までは標準区の10~20%の増収を示し、熔りん加用200㎏AおよびB区のみが50%近くの増収となった。

 5 要素含有率および吸収量
 一般に熔りん施用量の増加にともなって、牧草中のちっ素、りん酸の含有率は高まる傾向がみられ、とくにりんさん含有率でこの傾向が明らかであった。しかしカリ含有率では明らかな傾向が認められなかった。また熔りんを全層施用した場合は3要素とも含有率が高くなっていた。要素吸収量は収量とほぼ同様の傾向を示し、ようりん施用量の増加とともに3要素の吸収量が増加していた。

Ⅴ 結論
 草地造成時に土壌改良資材として熔りんを施用し造成初期の牧草収量を増加しかつまめ科割合および栄養生産性を高めた。しかしその効果は年次の経過とともに低下しかなり多量施用の場合を除けば3年目では標準施肥量との差はなくなった。施用量については、この土壌では、熔りん25~50kg/10a施用の場合が効果的であった。しかし、きわめて多量の熔りんを施用は尚或程度の増収が得られ効果の持続性も期待される。

 第1表 収穫時の草丈(㎝)
項目/区別 Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
T RC T RC T RC T RC T RC
1 -P 26.5 15.2 29.9 22.0 58.8 44.7 61.2 43.5 51.3 20.2
2 S 52.9 42.4 42.6 33.9 41.9 48.7 72.1 48.9 58.4 39.6
3 P25 58.0 63.7 41.3 32.4 66.5 52.7 69.0 49.1 60.5 42.5
4 P50 54.7 39.3 43.5 33.4 62.3 50.4 73.9 52.9 61.3 43.6
5 P75 54.3 38.2 41.4 32.5 59.1 44.5 73.8 51.6 61.0 44.1
6 P100 62.7 41.4 41.2 33.3 68.7 50.3 75.7 55.3 63.8 43.9
7 P125 55.7 43.3 41.5 33.4 57.5 48.5 73.3 53.7 64.2 46.3
8 P200A 52.9 44.2 45.7 38.4 68.1 52.0 82.2 54.5 68.3 45.9
9 P200B 61.3 47.7 47.0 39.3 62.9 47.3 79.3 57.6 67.2 47.0
 (注) T:チモシー、RC:赤クロバー、Ⅰ~①:初年目1番草、Ⅱ~①:2年目1番草、以下同じ。

 第2表 刈取毎生草および乾草収量
項目/区別 生草収量  (kg/10a) 乾草収量  (kg/10a)
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② 合計 Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
1 -P 110 234 536 1,830 1,066 3,776 20 73 133 463 267
2 S 511 761 902 1,457 1,033 5,664 93 231 150 592 276
3 P25 552 770 934 2,537 1,264 6,057 94 236 180 635 307
4 P50 635 783 1,104 2,410 1,256 6,188 106 226 209 567 314
5 P75 656 774 902 2,490 1,257 6,079 113 223 183 580 297
6 P100 730 822 1,049 2,507 1,347 6,455 128 242 172 582 327
7 P125 674 896 1,430 2,507 1,227 6,734 115 365 206 585 331
8 P200A 958 1,158 1,266 3,013 1,472 7,867 147 334 176 719 362
9 P200B 1,091 948 1,454 2,700 1,414 7,607 162 278 218 652 382

 第3表 刈取毎収量指数
項目/区別 生草収量 乾草収量
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
1 -P 22 31 59 74 103 22 32 89 97 84
2 S 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
3 P25 108 101 104 103 122 101 104 120 11 109
4 P50 124 103 122 98 122 114 98 139 114 101
5 P75 128 102 100 101 122 121 97 122 108 101
6 P100 143 108 116 102 130 137 105 115 118 105
7 P125 132 118 159 102 119 124 115 137 120 106
8 P200A 187 152 140 123 142 157 145 117 131 125
9 P200B 214 125 161 110 137 174 120 145 138 119

 第4表 合計収量および収量指数
項目/区別 乾草収量(kg/10a) 指数
合計 合計
1 -P 20 206 730 956 22 54 84 71
2 S 93 381 868 1,342 100 100 100 100
3 P25 94 416 942 1,452 101 109 109 108
4 P50 106 435 881 1,422 114 114 101 106
5 P75 113 406 877 1,396 121 106 101 104
6 P100 128 414 909 1,457 137 109 105 108
7 P125 115 471 916 1,502 124 124 106 112
8 P200A 147 510 1,081 1,738 157 134 125 130
9 P200B 162 496 1,034 1,692 174 130 119 126

 第5表 分散分析表(生草収量 kg/10a)
   Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~②
要因 D.F N.S F M.S F M.S F M.S F M.S F
全体 26 2,260,530   1,861,225   3,110,363   51,413   954,792  
ブロック 2 6,814   15,124   242,937 ※※
6.29
6,581 ※※
6.86
38,014 1.81
処理 8 229,347 ※※
8.90
181,267 ※※
7.62
250,782 ※※
6.49
2,864
2.98
67.796
3.22
誤差 16 25,758   23,802   38,640   959   21,024  
L.S.D (5%) 273kg 267kg 339kg 55kg 250kg
(1%) 382 370 467 73 345

 第6表 まめ科割合の変遷(%)
項目/区別 刈   取   毎 年度毎 合計
Ⅰ~① Ⅱ~① Ⅱ~② Ⅲ~① Ⅲ~② Ⅰ~Ⅲ
1 -P 87 24 24 14 8 87 24 10 17
2 S 78 43 41 17 12 78 42 15 29
3 P25 84 47 42 17 15 84 44 16 30
4 P50 70 49 46 17 14 70 47 46 31
5 P75 65 47 49 20 17 65 48 18 32
6 P100 69 50 49 16 17 69 50 17 32
7 P125 70 54 52 15 17 70 53 16 34
8 P200A 84 53 61 28 20 84 57 24 35
9 P200B 90 48 61 21 24 90 56 23 39

 第7表 粗蛋白収量および指数
項目/区別 粗蛋白収量(kg/10a) 同 左 比
1 -P 5 28 80 113 26 48 98 72
2 S 18 58 82 158 100 100 100 100
3 P25 17 63 103 183 96 109 126 116
4 P50 20 70 107 197 112 121 130 125
5 P75 20 64 93 177 112 110 113 112
6 P100 22 69 99 190 127 119 121 120
7 P125 19 80 95 194 100 138 116 123
8 P200A 27 82 126 235 153 141 154 149
9 P200B 32 79 119 230 182 136 145 146