【普及参考事項】
根菜類の牛乳生産性に関する研究
<青刈とうもろこしサイレージに比較した根菜類の乳量、乳組成に及ぼす影響>
                                 北海道立新得畜産試験場

緒言
 北海道における乳牛の冬期飼料として、飼料用ビート、ルタバガなどの根菜類が粗飼料F.Uの約25%ほど給与されている。1)しかるに、根菜類の栽培には多くの労力を必要とするので、就農人口の流出が目立つ現状からいつでも、更に、今後の飼料給与体系の面でも、飼料用根菜類の利用態度を明らかにすることが必要である。
 従来わが国では根菜類についての試験報告が少なく、2)坪松等が、乾草5kg、牧草サイレージ22kgに配合飼料を乳量の1/3給与しているものに、根菜類を添加しても乳量が少ないために産乳効果がなかったといっている。
 一方、外国では、3)Castleは、飼料用ビートは乾物摂取量を高め、乳量を増大し、SNFの上昇に役立つと述べている。また、4)KURELEC,Vは、乳量は青刈とうもろこしサイレージ21kg給与群に比較し、ビートを30kg給与した群で12%、ビート15kg、サイレージ15kgを給与した群で4%増加したが、乳脂量は変化がなかったと述べている。更に5)Morrissnは、青刈とうもろこしサイレージに根菜類を加えることにより、飼料摂取量が多くなり、乳量、乳脂量は僅かに多くなるが、増乳による乳代は根菜類の生産費用を償わないと述べている。
 このように、根菜類は乳牛に対してすぐれた飼料であることはほぼ間違いないが、その経済性については、収量、栽培労力、乳牛の牛乳生産能力などと関係が強いのでこれを実証することは非常に難しい。そこで筆者等の研究は、飼料用ビート、ルタバガの産乳効果を評価する程度にとどめ、今回は青刈とうもろこしサイレージと比較検討し、それについて成果を得たので報告する。
 本報の試験Ⅰは乳牛6頭を用いて、乾草を自由採食せしめてルタバガと青刈とうもろこしサイレージを転換して比較し、試験Ⅱは乳牛9頭を用いて、乾草、青刈とうもろこしサイレージを対照群に、サイレージと飼料用ビートの給与比率を乾物割合で1:3:、1:1に変えた2処理を試験群として、飼料用ビートの飼料価値を検討した。

 試験方法
  試験Ⅰ
 第1表 試験処理および期間
期別 期 間 第Ⅰ群 第Ⅱ群
1.14~2. 4 青刈とうもろこしサイレージ ル   タ   バ   ガ
2. 4~2.24 ル   タ   バ   ガ 青刈とうもろこしサイレージ
2.25~3.17 青刈とうもろこしサイレージ ル   タ   バ   ガ

 すなわち、第Ⅰ群のⅠ・Ⅲ期及び第Ⅱ群のⅡ期を対照区として青刈とうもろこしサイレージを、他は試験区としてルタバガを給与した。
 飼料の給与は、試験開始1週間前から試験飼料を給与し、乾草は1日2回自由給与を行い、第2表の試験飼料を体重100kgに対しルタバガを4~5kg、サイレージは3~4kg給与し、その詳細は第3表のとおりである。試験飼料は乾物量でルタバガ1に対し、青刈とうもろこしサイレージ1.7の割合で転換した。濃厚飼料は乳量10kgに対し3kgを与えて各期各牛ごとの乳量によって給与量を補正し、その詳細は第4表のとおりである。

 第2表 試験飼料の組成 (%)
飼  料  名 水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗せんい 粗灰分 摘 要
ル  タ  バ  ガ 89.95 0.96 0.19 6.93 1.06 0.91  
青刈とうもろこしサイレージ 78.77 1.74 0.77 10.11 7.14 1.47  

 第3表 体重100kgに対する試験飼料の給与日量(kg)
ルタバガ 青刈とうもろこしサイレージ
4.2 3.4

 第4表 牛乳10kgに対する農耕飼料給与量(kg)
ルタバガ給与区 青刈とうもろこしサイレージ給与区
2.97 3.09

 飼料分析試料は試験期間を通じて1週間毎に同一量を採取し、試験終了後全部を混合して分析に供した。
 搾乳は10時間間隔で機械搾乳を行ってから後搾りをし、乳量は100g単位で計量記録した。牛乳サンプルは3日間隔で朝夕の搾乳時に採取し重量比により混合して脂肪、SNFの分析に供した。脂肪率はバブコック法により、SNFは濾紙(ろし)No.2に牛乳2ccを吸着させて常圧加熱乾燥し恒量を求めて測定した。体重は各期開始時及び終了時に連続3日間測定して平均値を求めた。

 試験Ⅱ
 試験乳牛は、年令が2才から8才で、産歴が1産から4産までのホルスタイン種9頭で、試験開始時の乳期が平均75日(15~131日)乳量が16.7kgである。この中に分娩1カ月以内のもの2頭が含まれているので、飼料的要因によらない泌乳促進が関与するのでないかと思われたが、適格牛が得られなかったので止むを得ず供用した。
 試験乳牛は、乳量、体重の相似したものをそれぞれ各群に配置して3頭づつの3群に区分した。試験期間は昭和398年1月20日から4月13日までの85日間で、予備期の1週間を除いた78日間を3×3ラテン方格法により、1期26日間(5日間の転換期を含む)として、次のように飼料を給与した。予備期間中の粗飼料は全牛に対し、乾草を体重100kgに対し、1kg、飼料用ビート、青刈とうもろこしサイレージは、乾物割合で1:3に相当する9~11kg、27~33kgをそれぞれ給与した。
 本試験期における乾草は、予備期に残飼が多かったので、体重100kgに対し0.2kgを減じた。

 第5表 試験処理
試験処理 飼料用ビート 青刈とうもろこしサイレージ
A 34~42kg
B 8.5~11kg 25~31
C 17~21 17~21

 各試験処理ごとの飼料用ビート、青刈とうもろこしサイレージの給与比率は、第6表のように乾物量で処理Bが1:3、処理Cが1:1になるように給与した。
 濃厚飼料は全期間を通じFCMの1/3にした。

 第6表 供試飼料の組成及び養分量
飼料名 組成 (原物%) 養分量a 摘 要
水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗せんい 粗灰分 D.M DCP TDN
乾     草 10.8 6.2 1.6 43.5 32.5 5.1 89.2 3.1 51.9 PH 3.95  酢酸0.48
総酸1.98  酪酸0.08
市販品
飼料用ビート 87.5 1.1 9.7 0.7 1.0 12.5 0.8 10.6
青刈とうもろこし
サイレージ
79.4 1.8 0.5 10.0 6.9 1.4 20.6 0.8 13.0
濃厚飼料 12.1 18.2 2.4 47.0 10.2 10.1 87.9 14.2 60.6
  a 消化率は、農林省畜産試験場特別報告地域的飼料成分調査成績による。

 飼料の残飼量は、毎日種類別に秤量したが乾草は湿ったので毎週乾燥して求めた風乾率から算出した。
 また、青刈とうもろこしサイレージ風乾残飼量を分析試料の風乾残飼量を分析試料の風乾率から換算した。
 搾乳は2回搾乳を行い、供試乳については各週4回連続採取して、脂肪率はバブコップ法、無脂固形分は重量法、蛋白質はキエルダール法によって測定した。体重は各期の開始時、終了時に2日連続測定し平均値を求めた。

 試験結果
  試験Ⅰ
 本試験における1日1頭当りの乳量を各試験処理別に比較すると第7表のとおりである。

 第7表 試験処理別の乳量(kg/日)
  青刈とうもろこしサイレージ給与区 ルタバガ給与区 比較増減
第Ⅰ群 9.98 10.33 0.35(3%)
第Ⅱ群 9.72 11.17 1.45(13%)
平 均 9.85 10.75 0.9 (8%)
 この表に示すように青刈とうもろこしサイレージ給与区の乳量に比し、ルタバガ給与区は8%ほど多く、これは統計的に明らかに有意である。
 本試験期における脂肪率を各試験処理別に比較すると第8表のとおりである。

 第8表 試験処理別の脂肪率(%)
  青刈とうもろこしサイレージ給与区 ルタバガ給与区 比較増減
第Ⅰ群 3.13 3.26 0.13
第Ⅱ群 3.13 3.09 0.04
平 均 3.13 3.18 0.05
 この表に示すように青刈とうもろこしサイレージ給与区の脂肪率に比し、ルタバガ給与区は0.05%高いが有意でない。
 本試験期におけるSNFの全期平均を各試験処理別に比較すると第9表のとおりである。

 第9表 試験処理部雨tのS.N.F(%)
  青刈とうもろこしサイレージ給与区 ルタバガ給与区 比較増減
第Ⅰ群 8.49 8.58 0.09
第Ⅱ群 8.41 8.44 0.03
平 均 8.45 8.51 0.06
 この表に示すように青刈とうもろこしサイレージ給与区のSNFに比して、ルタバガ給与区は0.06%高いが有意でない。

  試験Ⅱ
 飼料摂取量および養分摂取量:試験期間中における乾物摂取日量を試験処理別に示したのが第10表であるが、総乾物摂取量は、予備期(処理B)と同じ給与比率の14.04kgよりも本試験別における各処理平均は何れも少なかった。

 第10表 試験処理別の飼料摂取量
試験処理 1日頭1当り乾物量(kg) 体重aに対する
1日当り乾物量
(%)
乾草 飼料用ビート 青刈とうもろこしサイレージ 濃厚飼料
予備期 4.04 1.22 5.97 2.81 14.04 2.5
A 2.98 7.43 2.22 12.63 2.3
B 3.32 1.18 4.72 2.21 12.43 2.3
C 3.50 2.32 3.85 2.23 11.92 2.2
  a 体重は各期ごとの開始時、終了時に4回測定した平均値。

 体重に対する1日当り乾物量%は予備期の2.5%よりも処理A・Bが0.2%、Cが0.3%ほど低かった。処理B・Cの飼料用ビート、青刈とうもろこしサイレージの給与比率が乾物割合で1:3、1:1で行ったのであるが、実際に摂取したのは1:4.8、1:1.6でともに飼料用ビート給与量が少なかった。これは試験開始時に行った乾物量の予測値が、試験期間中の分析値よりも飼料用ビートが3.5%高く、青刈とうもろこしサイレージが4.6%低かったことによるものと思われる。
 本試験期の飼料用ビート、濃厚飼料は給与量をすべて食下したが、乾草、青刈とうもろこしサイレージは給与量に対しそれぞれ処理Aで24.6%、3.8%、処理Bで14.5%、0.6%、処理Cで11.1%、0.1%の残飼量が認められ全般に乾草の残飼が多く、なかでも著しかったのが処理Aであった。各処理の総乾物摂取量は処理Aが12.63kg、Bが12.43kg、Cが11.92kgでAがCより0.71kg多かったが、濃厚飼料の処理間の相違もわずかで、しかも体重に対する乾物量%も殆ど同じである。
 本試験期の摂取養分及びNRC標準量に対する割合は第11表のとおりで、TDNは飼料用ビートを給与した処理B・Cが処理Aよりそれぞれ0.14kg、0.09kg、多く、また、DCPもTDNと同じ傾向で処理Bが0.02kg、Cが0.04kg多かった。乾物摂取量は処理CからAに向かって増加しているが、摂取養分量は飼料用ビートを給与した処理B・Cが無給与のAより僅かに多いようであった。NRC標準量に対する%はTDN、DCPともに試験処理間わずかの差があったが殆ど同じであった。このように試験処理間におけるTDN、DCPの摂取量が近似しているにもかかわらず、粗せんい摂取量が処理CよりAに向かって増加し、AがCより27%ほど多かった。

 第11表 試験処理別の摂取養分量
試験
処理
T.D.N D.C.P 1日頭当り
粗せんいの
摂取量kg
1日1頭
当り
標準量に
対する%
1日1頭
当り
標準量に
対する%
A 7.89 106 0.78 87 3.82
B 8.03 107 0.76 89 3.43
C 7.98 105 0.78 89 3.00

 乳量および乳組成:各試験処理開始後5日間の乳量をのぞいた21日間の1日の平均乳量は第12表のとおりで、処理Aの12.45kgに対し、Bが2%、Cが6%増加し、この処理間の差は統計的に明らかに有意(P<0.01)であった。更にCとA、CとB、BとAの差も有意(P<0.05)である。

 第12表 試験処理別の乳量及び乳組成
試験
処理
乳量 F.C.M 乳組成(%)
脂肪 S.N.F 蛋白質
A 12.45 11.31 3.38 8.34 2.96
B 12.76 11.81 3.47 8.47 3.01
C 13.15 12.20 3.49 8.52 3.03

 FCMも乳量とほぼ同一の傾向でこれも明らかに有意(P<0.01)である。
 脂肪率、SNF、蛋白質は処理AよりCに向かって高くなっているが、脂肪率は統計的に有意でなかった。しかし、SNF、蛋白質は明らかに有意(P<0.01)である。SNFの処理Cに対するAおよびBに対するAは、明らかに有意(P<0.01)であるが、CとBの差は有意でない。蛋白質はSNPと同じくCとA、BとAの差は明らかに有意(P<0.01)であるが、CとBの差は有意でない。
 このように飼料用ビートの給与比率を高めることにより乳量、SNF、蛋白質はこれにともなって多くなるが、脂肪率は変化が認められないことが判明した。
 体重:各試験処理別の体重の推移は第13表のとおりで、試験期の平均体重は処理Aが546kg、Bが543kg、Cが538kgで、予備期に比し、それぞれ7kg、10kg、15kg減少し、更に試験期間中に処理Bが1.6kg増加したのに反し、A・Cはそれぞれ5.4kg、10.1kg減少した。

 第13表 試験処理間の体重の推移
試験処理 試験開始時 終了時 増減差
A 548.2 542.8 5.4
B 542.1 543.7 1.6
C 543.2 533.1 -10.1
 

考察
  試験Ⅱでは飼料用ビートの給与量の増加にともなって乾草の摂取量が多くなっているが、飼料用ビート給与処理(処理BとC)の粗飼料よりの乾物摂取量から飼料用ビート無給与(処理A)の青刈とうもろこしサイレージからの乾物摂取量7.43kg引くと、乾草の乾物摂取量は処理Bで27.9kg、処理Cで2.26kgになって、乾草の摂取量は処理Aがもっとも多くなりCがもっとも少ないことになる。
 CASTLEは、ビートの給与量は乾草の摂取量に関係なく、むしろサイレージ(5月下旬に詰め込んだ乾草サイレージ)の摂取量が減少するといっていることからも、このような乾物摂取量の傾向はビートの給与からも、このような乾物摂取量の傾向はビートの給与とは関係がないものと思う。試験処理間の体重に対する乾物量%、養分摂取量はほぼ同じであるが、粗せんい摂取量には大きな差異がある。すなわち、給与飼料の乾物中の粗せんい%は乾草36%、ビート6%、サイレージ33%、濃厚飼料12%でビートがもっとも少なく、各処理ごとの乾物摂取量に対する粗せんい摂取量は、ビート無給与(処理A)が30%、ビート給与(処理BとC)がそれぞれ28%、25%で、ビート給与に対応して粗せんいの摂取量が減少している。
 Rusellは、高能力牛には16%以上の粗せんいを給与してはならないといいている。Castleは、ビートを給与することにより、乾物摂取量を高めると同時に、粗せんいの摂取量が少なくなり、これが容易に利用され得るエネルギーに変わり、乳量、SNFの上昇に役立つといっている。
 更にMorrisonは、根菜類の乾物はせんいが少なく、消化性がよいので正味エネルギーが高く良質であると述べている。このように飼料用ビートは、嗜好性が非常によく、粗せんいがきわめて少ないことが飼料価値を高める要因となっている。
 乳量、SNF、蛋白質は、ビートの給与量を多くすることにより、明らかに増加したが、脂肪率にはあまり変化がなかった。このことは試験Ⅰのルタバガが青刈とうもろこしサイレージより乳量を高める(P<0.01)という結果と一致するので、給与飼料に根菜類を加えることにより、乳量を間違いなく高めるのに役立つものと考える。
 また、この試験に現れたように、SNFが上昇するから、、乳価が乳の品質によって決められるようにならば一層有益である。
 更に摂取TDN当りのFCMが処理Aで14.3kg、処理Bで1.47kg、処理Cで1.53kgで、AとBの間は僅かの差であるから、処理Cがもっとも飼料効率が高いということになる。
 以上のことから青刈とうもろこしサイレージ8kg、17kgよりも飼料用ビート10kg(処理B)、19kg(処理C)の方が乳量を増大し、乳成分を改善するが、飼料用ビート10kg程度では(処理B)あまり才が認められないので、実際的に有利な産乳効果を期待するためには20kg以上を給与しなければならないであろう。
 しかし、根菜類を多給するとこにより胃腸障害を起こすこともあるので、青刈とうもろこしサイレージと同時に給与する場合には20kg位が適当である。
 根菜類は乾物が少ないが、主成分が炭水化物で乳牛の繁殖条件を保持するのに有益な影響があるといわれているが、牛乳生産コストの低減をのぞめないとすれば、給与上の簡便さからビートパルプが代替となり得る可能性がある。更に粗飼料多給、濃厚飼料節減による収益性の向上を期するためには、濃厚飼料の代替として適正な利用法といえる。

 要約
 1) 根菜類の飼料価値を青刈とうもろこしサイレージと比較する飼料試験を2カ年にわたって2回実施した。
 2) 試験Ⅰは乳牛6頭を用いて、ルタバガ1に対し、サイレージ1.7の乾物割合で転換して3期の反転法によった。試験Ⅱでは乳牛9頭を用いてサイレージの一部を飼料用ビートで置換して3×3転換方格法により実施した。
 3) 試験Ⅰでは乳量が増加したが、脂肪率、SNFには有意差が認められなかった。試験Ⅱでは飼料用ビートの給与比率を高めることにより、乳量、SNF、蛋白質はこれにともなって多くなったが、脂肪率には変化がなかった。
 4) 青刈とうもろこしサイレージと併給して実際的に有利な産乳効果を期待するためには、20kg位が適当である。

 指導参考
 草サイレージの成分変せんに関する化学的検討
         北海道農試畜産部畜産化学研究室
 緒言
  最近家畜の多頭数飼育と相まって草サイレージの調製方法の機械化、並びに貯蔵様式の変化、長期にわたるサイレージ給与などの飼養型体がとられてきている。このような変化に対応した草サイレージ調製、貯蔵の望ましいあり方を明らかにするため、主にサイレージにおいて製成される醗酵成分の変せん過程を検討して一応の成果を得たので、指導上の知識として幾分とも参考になることを期待sいて本試験を提出する。

 試験1. 草サイレージの醗酵成分の分布とその成分の相関
 目的
  実際農家で生産されている草サイレージの有機酸組成、窒素形態、PH等を調査し、またそれぞれの成分間の相関関係を求め、実際農家で如何なる醗酵過程を経て生産されているかを推定し、その調製法、貯蔵法の改善に役立つように試しみた。

 試験材料及び方法
  1962年に恵庭町で生産されたグラスサイレージ20点を試料とした。
 分析は上記サイレージを圧縮機にかけ、その搾汁液について行った。PHの測定は水素イオン濃度測定器(ガラス電極)で測定し、総酸酸度1/10規定可性ソーダで中和滴定し100cc中の可性ソーダのmg数をもってあらわした。揮発性酸度で蒸留法で分析し、100cc中の可性ソーダのmg数を揮発性酸度で表示した。平均分子量はナトリウム塩の重量により算出した。有機酸組成は不揮発酵は乳酸として揮発酸は平均分子量より算出した。
 窒素形態の分析は後記の方法によった。全窒素はケルダール法で分析し、アミノ酸窒素はホルモール滴定法を用いて分析し、アンモニア態窒素はコーンウエの微量拡散分析で定量した。
 揮発性酸のガスクロマトグラフィー(以後ガスクロと略す)による分析は水蒸気蒸留によって揮発性酸を採取し、これをメチル化して分析した。試料の調製及びガスクロの分析条件は第1図のとおりである。

 第1図 ガスクロマトグラフィーによる揮発酸の分析


 ガスクロマイグラフィー
  機器       島津1B-型
  Colum temp  110℃
  Colum      Polythylen glycol 600.3m
  gas flowrate  25cc/min

 第1表-1 調査結果 (省略)

 試験成績
 分析結果は第1表-1・第1表-2のとおりである。PHは平均5.1で4.4から6.2まであり、その分布巾は1.8である。
 揮発性酸度は平均197mg/100ccで、最小が82mg/100cc、最大が372mg/100ccで、その分布巾は290mg/100ccであった。不揮発性酸度は平均679.6mg/100ccで、最小は128mg/100cc、最大は1103mg/100ccであり、その分布巾は975mg/100ccであった。

 第1表-2 分布結果総括表
   PH 酸度 (mg/100cc) 揮発酸
平均
分子量
酸組成 (%) 窒素形態 (mg/100cc)
総酸 不揮発酸 揮発度 総酸 不揮発酸 揮発度 全窒素 アミノ酸 アンモニア態
最高値 6.2 1.252 1.103 372 87.5 2.7 2.5 0.8 650 239 165
最低値 4.4 29 128 82 63.5 0.8 0.3 0.2 295 96 37
平 均 5.1 817.6 679.6 197.0 77.4 1.91 1.52 0.39 404.5 150.3 77.9
標準偏差 0.54 283.99 256.43 75.22 6.67 0.43 0.27 0.18 98.34 42.94 35.16
標準誤差 0.12 63.50 60.45 17.73 1.81 0.11 0.06 0.04 21.99 9.60 7.86
変動係数 10.72 34.74 37.73 38.21 9.92 25.21 17.91 46.21 24.31 28.57 45.13
t0.05 5.1 817.6 679.6 197.0 77.4 1.91 1.52 0.39 404.5 150.3 77.9
推定値 ±0.25 ±132.47 ±127.00 ±37.26 ±3.80 ±0.24 ±0.13 ±0.09 ±45.87 ±20.03 ±16.40

 搾汁液の全窒素は平均404mg/100ccで、最高は650mg/100cc、最小は295mg/100cc、その分布巾は132mg/100ccで、ある。アンモニア態窒素は平均77.9mg/100ccで、最小は37mg/100cc、最大は165mg/10ccでその分布巾は96mg/100ccである。アミノ態窒素は平均150mg/100ccで、最小は96mg/100cc、最大は239mg/100ccであり、その分布巾は143mg/100ccである。
 揮発酸の平均分子量は平均77.4であり、その最大は87であり、最小は64である。それがどの有機酸の分子量に該当するかを第2図に示した。図よりも明らかなように、調査した草サイレージの60%は酪酸を含んでおり、含まないと推定されるものは35%、不明なものが5%であった。

 第2図 平均分子量と有機酸の関係



 また、各成分間の相関を求めると、第2表にみられるように、PHとアンモニア態窒素、及びアミノ態窒素との間には有意な正の相関がある。PHと揮発性酸度との間には有意な正の相関(+0.847)がある。不揮発性酸度とPHとの間には強い負の相関(-0.847)が認められた。アンモニア態窒素とアミノ態窒素とは、+0.944の相関があり、また揮発性酸度とは負の相関(-0.560)が認められた。アミノ態窒素と不揮発性酸度及び揮発性酸度と不揮発性酸度との間には有意な負の相関が認められた。

 第2表 各成分間の相関  ※5%水準で有意、他は1%水準で有意
   PH アンモニア
態窒素
アミノ
態窒素
揮発性
酸度
不揮発
性酸度
PH           
アンモニア
態窒素
0.548         
アミノ
態窒素
0.531 0.944       
揮発性
酸度
0.841 0.696 0.599    
不揮発
性酸度
-0.874 -0.560
-0.423
-0.698   

 これらの草サイレージの中から8点をえらんで、ガスクロによって分析し、草サイレージ中に存在する揮発酸を確認した成績は第3表のようであった。即ちサイレージ中には、酢酸、プロピオン酸、酪酸は常時存在しているが、ときとしては、バレリアン酸存在することが認められた。

 第3表 草サイレージ中に存在する揮発酸
NO. 酢酸 プロピオン酸 酪酸 吉草酸

 分析結果を高野等の品質判定法で評価すると。PHの点で、よいサイレージに入るものが3点、悪いサイレージに入るものが11点で55%であった。また、どちらにも属してないものが6点であった。不揮発性酸度を乳酸に等しいものとすれば、乳酸割合が70%以上のものが12点で60%であって、悪いサイレージは8点で40%であった。

 考察
 恵庭町で生産されたサイレージの55%はPH5.0以上で、品質の悪いものであった。
 これらの原因を推定すると、第1表の総酸度の分析結果からみられるように、PH5.0以上のものはサイレージの搾汁液100cc中に920mg以下であり、PH4.0~4.9にあるものと比較すると大部低い。また、揮発発酸度をみると、PH5.0以上のものは搾汁液100cc中に700mg以下であり、PH4.0~4.9のものと比較すると差がある。このことから、これらのサイレージは、その生成された不揮発酸(ほとんど乳酸に等しいと考えられる。)の量が少なく、蛋白質の分解を抑制することができないし、また、他の細菌の増殖を防止することが出来なかったものと推定される。
 不揮発性酸の量の少ない原因として、次の2つのことが推定される。その1つは始めから蛋白質分解及び他の細菌を抑制する程の酸の生成がなかった場合。その2は充分な酸の生成は行われたのであるが、何らかの原因で減少した場合になる。換言すれば、前者は乳酸醗酵が充分行われなかった場合であり、後者はサイロの構造、あるいは貯蔵方法の不備に起因するものであると考えられ、今後検討を要する問題点であろう。
 PHと不揮発性酸との間に-0.874の相関関係にあったが、これらは須藤の茎葉サイレージに於ける乳酸と、PHと相関-0.777で、高野らの-0.71より高い値であった。またPHと揮発性酸は平均分子量及びガスクロ分析からほとんど酪酸と酢酸とによって構成されていると考えても良いと考えられる。従って、須藤の酪酸含量とPHとの間に+0.675と同様の傾向であり、高野らの初期の研究と必ずしも一致しないが、後期の結果は著者らの成績と同様の傾向を示している。
 揮発酸がPHと正の相関にあることは一見矛盾のように感ずるが、酢酸酪酸ともに僅かながら、解難して酸性を示す。即ち1mol溶液で0.4%解難する弱酸である。サイレージのような酸、塩基の複合系において酪酸醗酵が起こるときには、アンモニア等の塩基性物質が生成されるためにPHが高くなるものと考えられる。揮発性酸度とアンモニア態窒素、アミノ態窒素がそれぞれ+0.696、+0.599の相関があることは、これらのことを裏付けるように思われる。須藤らも、レンゲサイレージについて研究し、酪酸含量の増加に伴って全窒素に対するアンモニア態窒素が増加することを報告している。これらのことが、一見矛盾している事実を説明するものと思われる。平均分子量による有機酸組成の推定によると恵庭町で生産されたサイレージ60%は酪酸を含んでいると推定された。同一材料のガスクロによる分析は平均分子量と一致し、その有機酸組成を推定するにたりたことを証明していると思われる。従ってこれらの草サイレージの相当数において、酪酸醗酵が起こったことは確実であろうと考察される。

 要約
 1. 恵庭町で生産された草サイレージを分析し、草サイレージ中の醗酵成分の分布状態を明らかにし、更に成分間の相関関係数を求めてこれらの草サイレージの醗酵過程に考察を加えた。
 2. これらの成分分布は下表のとおりであり、PH5.0以上の明らかに不良のものは、全体の60%を占め、なた平均分子量80以上の酪酸含量の高いと思われるものも全体の60%存在した。
 3. PHとアンモニア態窒素との間には、+0.548、アミノ態窒素との間には+0.531、揮発性酸度との間には+0.847、不揮発性酸度との間に-0.874の相関があった。
 4. アンモニア態窒素とアミノ態窒素との間には+0.944、揮発性酸度とは+0.696、不揮発性酸度とは-0.560の相関があった。
 5. アミノ態窒素は揮発性酸度との間に+0.599、不揮発性酸度との間には-0.423の相関があった。
 6. 揮発性酸度と不揮発性酸度との間には-0.698の相関があった。
 7. 成分相関についての考察の結果、これらの草サイレージの相当数に酪酸醗酵が行われ、これに伴い、アンモニア態窒素の増加、PHの増加、揮発性酸の増加を随伴したものと考察された。しかし、この酪酸醗酵が、草サイレージ調製の初期に行われたものか後期に行われたものかは明らかにされなかった。

 試験2
 草サイレージ醗酵成分の経時変化
 目的
  酪酸がサイレージ原料の埋草後、いかなる時期に生成されるものか、もし乳酸が生成された後に酪酸が生成されるとしたならば、須藤が報告しているPH4.0以下のサイレージで酪酸を含んでいるのは、VirtanenのPH4.2以下では酪酸醗酵が阻止されるということに相反する。従って著者らはこれらの問題点を究明するために、草サイレージを調製し、その有機酸組成及び窒素形態について経時変化を追求した。

 試験材料及び方法
 草サイレージ原料は1963年6月24日、北農試畜産部27号畑で生産された一番刈り混播牧草である。草種混播割合はマメ科牧草が34%、禾本科牧草が64%である。マメ科牧草ではレッドクローバーが主であり、禾本科牧草ではオーチャードグラスがほとんどであった。牧草の生育期はレッドクローバーでは10分の1開花期、また、オーチャードグラス、チモシーでは出穂期であった。
 前期の牧草2~3cmに細切し、2%の糖蜜を添加し、ドラム缶を改造した実験用小型サイロに踏圧を加えながら、130kgずつ詰めた。表面の変敗を防止するために、ビニールで被覆した。加圧は70kgであった。埋草後2日目、7日目、14日目、28日目、6ヶ月後の順序でサイレージをとり出して分析に供した。
 分析方法は前報と同様であった。

 試験成績
 サイレージの埋草後、一定の経過日数を経てから取り出したサイレージの搾汁液について、PH、総酸、揮発酸、不揮発酸、全窒素、アンモニア態窒素、アミノ態窒素、揮発酸の平均分子量等を調査した結果は、第4表に示すとおりである。

 第4表 分析結果
経過
日数

PH 酸   度 揮発酸
の平均
分子量
酸 構 成 窒素形態
総酸度 不揮発性 揮発性 総酸度 不揮発性 揮発性 全窒素 アミノ態 アンモニア態
2

4.3 522.64 452.10 70.54 61.03 1.124 1.017 0.107 198.11 56.13 18.48
4.3 498.12 427.95 70.17 60.41 0.069 0.963 0.106 171.70 53.49 16.17
4.3 481.13 408.70 72.43 63.72 1.039 0.920 0.115 171.70 56.79 15.40
7

4.0 733.97 642.32 91.65 62.80 1.588 1.445 0.143 211.32 58.11 16.94
4.0 767.93 675.58 92.35 71.77 1.687 1.520 0.166 211.32 60.09 17.71
4.0 715.10 625.33 89.77 62.64 1.533 1.407 0.146 191.51 59.43 19.25
14

4.0 840.57 730.00 110.57 67.08 1.828 1.643 0.185 211.32 65.05 23.10
4.0 907.55 800.84 106.71 72.28 1.995 1.802 0.193 211.32 65.05 26.18
4.0 810.38 703.97 106.41 64.94 1.757 1.584 0.173 204.72 65.05 21.18
28

4.0 886.80 763.02 123.78 67.08 1.925 1.717 0.208 211.32 77.59 25.41
4.0 891.51 769.25 122.26 75.94 1.965 1.731 0.234 211.32 76.93 26.18
4.0 842.46 729.25 113.21 67.66 1.832 1.641 0.191 211.32 70.66 24.26
6

4.3 885.97 664.25 221.72 82.22 1.950 1.494 0.456 253.09 89.13 48.55
4.6 681.99 329.51 352.48 82.56 1.444 0.741 0.703 242.24 94.93 50.00

 すなわち埋草後2日目にPHはすでに4.3になり、1週間後には4.0となってそれ以後4週間まで変化しなかったが、6ヶ月後にはかえってサイロ上部で4.3、サイロ下部では4.6となり、かえって高くなっていた。
 このことは総酸含量についても同様のことが言える。即ち2日目に約1%であったものが7日目には2日目の1.6倍になり、14日目には1.8倍、28日目には1.9倍であったが、6ヶ月後には1.7倍となり、28日目より減少している。
 しかし、揮発酸含量についてみると、2日目には0.1%、7日目には0.15%、14日目には0.18%、28日目には0.21%、6ヶ月目に0.58%となって、6ヶ月経過すると28日目の揮発酸含量の2.5倍も増加している。図に示すと第3図のようになる。

 第3図 PH及び酸構成の詰込後の変化


 窒素の存在形態については、原料牧草の搾汁液中の全窒素が138mg/100ccであった。その138mg/100ccから2日目に180mg/100ccとなり、42mg/100cc増加し、7日目には204mg/100ccとなり、2日目より24mg/100ccの増加となり、14日目、28日目までは14日とほぼ等しいが、しかし6ヶ月後には28日目よりも41mg/100cc増加している。アンモニア態窒素アミノ態窒素は、2日目から28日目までは徐々に増加している。6ヶ月目にはアンモニア態窒素は50mg/100ccとなり、28日目の約2倍に増加している。
 それを図に示すと第4図になる。

 第4図 窒素形態の詰込後の変化


 平均分子量も28日目までは60~70の中間にあるが、6ヶ月後には80以上になる。平均分子量による揮発酸成分の推定をガスクロで検討した結果は第5表のとおりである。
 平均分子量で推定した揮発酸内容はガスクロで分析した結果と一致していることは第5表で示されろおちである。即ち揮発酸のうち、本調製条件では初期に現れる酸は主として酢酸であり、数ヶ月後になってから酪酸が出現したことを示し、また揮発酸の平均分子量から、そのサイレージの揮発酸の組成を或る程度推定することが出来ることを第5表は示している。

 第5表 サイレージの貯蔵経過
経過
日数
採取
部位
平均分子量 平均分子量より
推定した揮発酸
ガスクロマトグラフで検出した有機酸
酢酸 プロピオン酸 酪酸 吉草酸
2日目 61.03 CH3   COOH
60.41 CH3   COOH
63.73 CH3   COOH
7日目 62.80 CH3   COOH
71.77 CH3   COOH
C2H5  COOH
62.64 CH3   COOH
14日目 67.08 CH3   COOH
C2H5  COOH
72.28 CH3   COOH
C2H5  COOH
64.94 CH3   COOH
28日目 67.08 CH3   COOH
C2H5  COOH
75.94 CH3   COOH
C2H5  COOH
67.66 CH3   COOH
C2H5  COOH
6ヶ月後 82.22 C3H7   COOH
C2H5  COOH
CH3   COOH
82.56 C3H7   COOH
C2H5  COOH
CH3   COOH

 考察
 サイレージ品質評価の場合、酪酸含量の高いものは、一般に低いものに比較して低品質とされている。
 しかし、叉草サイレージの場合多少酪酸含量が高くとも、乳牛の飼料として決して悪いものでなく、飼料給与方法が適正でさえあれば全く影響がないという報告がある。
 このような酪酸の生成について、virtanenはPH4.2よりも低いときは酪酸菌の生育が困難であって、酪酸は生成しないと云っている。しかし著者らの実際成績の示すところでは、草サイレージの2%糖蜜添加の初期変せんの過程(約30日目)まで、ほとんど発生しないか、または非常に微量である。
 数ヶ月の経過の中に認め得る程の酪酸の出現が確認し、酪酸を生成するものと考えられる。
 Beynumとpetteは加酸法によって作られたサイレージについて研究し、サイレージ詰込み量の全量が直ちにPH4.0以下になった場合は酪酸醗酵は起こり得ない。
 しかし加圧のかからないサイロ壁及びサイレージ表面の状態によっては、PH4.0以下でも酪酸醗酵が起こり得ると報告している。また佐々木は、サイレージ中の細菌の消長を研究し、初期に発現する乳酸球菌は、後期には乳酸稈菌によって占められることを確め、またいすれのサイレージからも酪酸菌の検出を認めており、酪酸醗酵の条件の附与によりいつでも酪酸醗酵がおこり得ることを想定している。Langstonらは、ルーサン及びオーチャードグラスの1番刈り、2番刈り、3番刈りのサイレージ30点についてPH、アンモニア態窒素、酪酸、乳酸及び酪酸菌を調査して報告している。そのうち4点はPH4.0から4.6までであって、酪酸含量が高く、酪酸菌も多く生存していた。この結果から彼等は酪酸菌はPH4.2あるいはそれ以下でも生存し、生育する場合があるのではないかと結論している。このことは、著者らの見解と一致する。しかし、著者らの今回の実験のどのような条件が後期の酪酸菌の生育を進めたのかは、今後明らかにされなければならない事項と考えられる。
 第1図から明らかなように、28日目のPH4.0から6ヶ月後PH4.3~4.6となっていることについて、これはサイレージの貯蔵過程の後半において酪酸醗酵が行われることによって、乳酸が消費されその結果PHが高くなったという説明が最も妥当なように思われるが、酪酸醗酵に伴う蛋白質分解によって生じて来るアンモニア等の塩基性物質、あるいは乳酸とNa、Kとの塩形成などにより、乳酸が見かけ上少なくなり、PHが高くなることも考えられ、後者のPHの上昇と不揮発酸の減少、揮発酸の増加という関係はすでに試験1で報告したような成分相関を裏付けし説明するに十分であろう。
 搾汁中の全窒素が7日目まで急激に増加することは、主にサイレージ原料の呼吸の結果に基づくものであると考えられる。アンモニア態窒素が2日目から28日目まで徐々に増加しているのは、微生物の作用であり、急激な増加がおこらないのは、乳酸の生成によりその分解が抑制されているためと思われる。また28日目より6ヶ月後までにアンモニア態窒素が約2倍に増加しているのは、蛋白質分解が徐々に進んだものと考えられる。
 Mc phersonはサイレージ搾汁中の非蛋白質態窒素を定量して。PH4.5~5.0までの間に急激に増加をするが、PH4.3になるとほとんど増加しなくなると報告されている。この報告と大略は一致していると考えられる。

 要約
 1) 2%糖蜜添加の草サイレージを調製し、その経時変化を追求して総酸、不揮発酸、揮発酸の相互関係、並びに酪酸の発生と窒素形態の変せんとの関係を究明した。
 2) 揮発酸は2日目0.1%、28日目でほぼ0.2%程度増加するのに対して、6ヶ月後には2倍以上の0.58%に増加した。これとは反対に不揮発酸は2日目に0.1%、28日目に1.7%を経過し、6ヶ月目には0.7~1.5%の範囲に減少した。これらの現象に対応してPHは2日目の4.3から28日目の4.0を経過して、PHは2日目の4.3から28日目の4.0を経過し6ヶ月目4.3~4.6上昇した。
 3) 全窒素は2日目は180mg/dl、28日目は200mg/dl、6ヶ月目には240~250mg/dlとやや増加し、これに対してアンモニア態窒素は2日目16mg/dl、28日目25mg/dl、6ヶ月後は約2倍の50mg/dlに増加した。アミノ態窒素は2日目55mg/dl、28日目75mg/dlを経過して6ヶ月後には90mg/dlとなった。
 4) 揮発酸の平均分子量及びガスクロの分析の結果、酪酸の発現は2日~28日までは認め得る程の発生はなく、6ヶ月後においては明らかに酪酸の存在が認められた。
 5) これらの経時的変化から、酪酸は初期よりも、後期に発現しやすく乳酸の消費と蛋白質分解を伴うものと考察された。しかし、酪酸発生を導く条件については明らかにされなかった。

 試験3 酪酸発生阻止要因の1考察
 ・目的
 草サイレージにおける酪酸の発現は調製の初期(1カ月以内)よりも後期の貯蔵中に発生するものと考えられたので、その発生機序を明らかにするため、密封の阻止要因としての可否を検討した。
 ・試験材料及び方法
 原料草は試験2において用いたものを同一圃場の2番刈牧草を用い試験2と同様に調製した。
 密封処理については上面のみ密封する慣行区と、特に側壁の密封を充分になるようにビニール処理した密封区を設けた、調製後4カ月目に取り出し観察、分析に供した。
 ・試験成績
 各区のTop spoilageの発生状況は第6表のようであった。

 第6表 各区のTop spoilage
処理別 全体に対する
Top spoilageの割合
spoilageの性状
慣行区 15.7 Geolrichum Condidum(ちちかびによるもの)
密封1 1.8
密封2 2.3         〃(北大農応菌佐々木博先生による同定)

 即ち密封処理によって、Top spoilageの量は明らかに減少を示し、約1/10に減少した。一般組成の分析結果は第7表に示すとおりであった。

 第7表 一般成分分析表
処理別     水分 粗蛋白 粗脂肪 粗繊維 粗灰分 NFE TDN DCP
慣 行 spoilage 81.27 3.89 0.45 4.64 3.14 6.61 12.42 2.42
中心部 74.67 4.18 1.78 6.23 2.85 10.34
密封1 spoilage 76.37 4.31 0.74 6.59 2.95 9.04 14.56 2.19
中心部 74.33 3.78 1.46 8.27 2.80 9.27
密封2 spoilage 76.34 4.78 0.64 6.22 3.19 8.83 13.99 2.48
中心部 74.67 4.27 1.15 8.13 3.03 8.75
  TDN、DCP算出にはMorissonの消化率を利用した。
 即ち、一般にspoilage部分は水分含量の増加と粗脂肪、粗繊維の減少が示されている。
 次に醗酵成分についてspoilageを除いて上、中、及び下について分析した結果は第8表に示すとおりであった。

 第8表 処理別の醗酵成分の変化
処理別
PH 酸  度 揮発酸
の平均
分子量
酸 構 成 窒素形態
総酸 不揮発 揮発 総酸 不揮発 揮発酸 全窒素 アミノ態 アンモ
ニア態
慣 行 4.4 964.27 764.89 199.38 94.00 2.190 1.721 0.469 278.39 112.31 59.41
4.3 105.08 877.81 172.99 94.27 2.374 1.975 0.399 328. 6 121.74 56.83
4.3 999.29 829.55 164.74 91.76 2.255 1.866 0.389 401. 3 122.46 57.60
密封1 4.4 1.044.62 839.14 205.48 60.00 2.196 1.888 0.308 325.40 117.39 52.89
4.3 1.108.50 953.78 154.72 59.52 2.376 2.146 0.230 329.01 115.94 50.72
4.3 1.013.72 868.34 145.38 61.90 2.179 1.954 0.225 321.78 110.87 51.08
密封2 4.3 1.100.25 939.04 161.21 61.20 2.355 2.133 0.242 329.01 107.25 48.54
4.3 1.112.62 957.90 154.72 60.52 2.387 2.155 0.232 321.78 113.04 50.36
4.3 1.067.29 914.60 152.69 61.34 2.287 2.058 0.229 329.01 107.25 59.77
  即ち、醗酵成分の中で特に著しい差異は揮発性脂肪酸含量が、慣行区は0.1~0.2%高く、不揮発酸含量がやや低い。かつ揮発酸の平均分子量も密封区の60前後に対して慣行区90に近く高いことが特徴的である。然しサイレージのPHは4.3~4.4で各区の間には殆ど差がないことが示された。これらのことは酸の構成内容に才が表れてきたと思われるので、更にガスクロを用いて酸構成を定量した結果は第9表に示すとおりであった。

 第9表 処理別の揮発酸組成
処理別 酢酸 プロピオン酸 酪酸 吉草酸 備 考
慣行区 上部 72.5 0.8 26.7 spoilage
中部 78.5 0.8 20.7  
密封区1   100 0 0 0  
密封区2   98.4 0 1.6 0  
  即ち、密封区はプロピオン酸、酪酸、吉草酸などを確認し得ないが、酪酸の1~2%の少量に対して、慣行区では芳香、PHなど密封区と変わりない中心部においても酪酸含量が高く、プロピオン酸の少量と吉草酸を含むことが示された。

 考察
 試験2において草サイレージ中における酪酸の発生は揮発性塩基性窒素の増加を伴って貯蔵中に起こるもので、主に乳酸から酪酸への転換を考察したが、如何なる条件の附与からこのような貯蔵中に酪酸への転換を起こし得るかについて明らかでなかったが、今回の試験から考察する限り、密封という条件はその転換を阻止し得たといい現象だけは明らかとなった。
 BeyumとPetteは加酸法のサイレージの研究においてサイレージ詰込時の全量がPH4.0以下になった場合でも、加圧のかからないサイロ壁及びサイレージ表面状態によっては酪酸醗酵が起こり得ると報告している。我々の試験の示すところも単に調製初期にPHが4.2以下4.0近く下るだけが、その後の貯蔵ならびに成分の変せんを止める要因ではなく、密封という条件が必須なものと思われる。このことは1次醗酵に生ずる一酸化炭素、水素、炭酸ガスのような成分の存在が酪酸醗酵を止めるためか、或いは1次醗酵によって生じた遊離の乳酸が貯蔵中に無機成分との塩の形成と更に密封不完全が醋酸の蒸散を伴い、この結果PHが上昇し酪酸醗酵の条件が与えられるためのいずれであろう。
 草サイレージの調製において添加物、予乾などの処理は初期醗酵の制御のため必要であり、貯蔵中の変質防止についてはサイロ構造からくる物理化学的な二次要因の防止がより大切であることをこれらの結果は示すものと考察される。従ってバンガー型のサイロにおいては埋草量に対する表面積が大きく、且つ長期にわたる給与が行われるので、密封処理についての配慮がより重要となるものと思考する。

 要約
 1. 草サイレージの酪酸の発現に及ぼす密封の効果について検討した。
 2. 揮発性脂肪酸含量は密封区において減少し、その平均分子量は慣行区において増加した。
 3. spoilage以外のPHは両区ともに4.3~4.4で差はないが、酸構成では慣行区の酪酸含量の著しい増加とプロピオン酸、吉草酸の存在が認められた。
 4. これらの結果について考察の結果、密封の効果は単に、Top spoilageの発生を防止するのみではなく、酪酸醗酵を除くものと思考され、草サイレージ貯蔵中の変質防止からはサイロ構造からくる物理的化学的な二次要因の防止の必要がより重要であるものと考察された。

 指導参考事項
 実際農家で生産されている草サイレージを醗酵成分からみると良好醗酵成分でないと思われるものが多い。特に酪酸の増加、揮発性塩基性窒素の増加が示され、これらは醋酸の相対的低下、乳酸の低下及び蛋白分解の進んだことを示すものであった。
 これらの変化の多くは調製初期(1カ月以内)よりも数カ月の貯蔵経過の中で起こることが知られた。そしてこの阻止要因の1つとして密封が最も効果的であり、その効果は単にTop spoilageの防止としての有効さばかりではなく、不良酸の発生と蛋白分解阻止の有効な手段であった。このことは特にバンガー型のサイロによる草サイレージの調製、貯蔵において重点的に考慮を要するものと思考される。