【普及参考事項】
牧草の秋播に関する試験
道立滝川畜産試験場

緒言
 近年草地開発事業が著しく進展しつつあり、その造成上における播種時期と、耕地の集約的利用を図るため、特に夏作物収穫後の牧草の播種時期について、その適期と許容限界を明らかにするため、昭和35年より年次反覆により試験を実施したので参考に供する。

1 試験方法

 1)耕種概要
播種量 g/10a 方法
チモシー 赤クロバー 畦 巾 方 法
1,800 600 50㎝ 条播

  施肥量
  硫安 過石 硫石 石灰 堆肥
35年播種 20 50 10 500 2,000
36年 〃 20 50 10 500 2,000
37年 〃 20 50 10 500 2,000

 追肥は、石灰、堆肥を除き基肥量と同量を融雪直後と1番草刈取後に分施実施した。

 2)試験区の配置及び面積
 1区面積を10m2としたが、年次の反覆を3年実施した。

 3)試験年次及び処理
播種年次/試験年次 35 36 37 38 39
35   年    
36   年    
37   年    

処理 35年播種 36年播種 37年播種
5月中旬 5.19 5.16 5.24
8月5日 8.5 8.5 8.8
8.15 8.16 8.15 8.16
8.25 8.25 8.26 8.26
9.5 9.5 9.5 9.10
9.15 9.18 9.15 9.17
9.25 9.25 9.26 9.28
  注)播種月日を8月5日から9月25日まで10日間隔で播種し対照として翌年5月中旬播種区を設けた。播種期は原則として試験区別に準拠したが、天候の関係で若干変更し実施した。

2 気象概況
 昭和35年から37年の播種時(8月、9月)の気象状況は次の通りである。
 1)気温
 昭和35年の気温は全般的に平年に比して低かった。昭和36年は平年並みか若干上廻る気温であり、天候は比較的安定していた。昭和37年は昭和35年を更に下廻る気温を示した。

 2)地温では昭和35年は9月以降急激に低下し、次いで昭和37年が全般的に低めに経過した。
 昭和36年は平年を上廻る地温であり、比較的安定した地温であった。

 3)日照時数では、昭和35年、36年は比較的安定していたが、昭和37年は8月上旬から9月下旬にかけて変動が大きかった。

 4)降水量では、昭和35年は全般的に少なめに経過したが、昭和36年は8月上旬、8月下旬、9月下旬を除いては多めであった。
 昭和37年は台風9、10号に伴って8月上、中旬は213㎜、81㎜の雨量を記録した。
 9月に至っても1時に20㎜を越える雨量を3度記録している。

  播種年次における気象
  月別 旬別 気温 ℃ 降水量
日照
湿度
%
地温 ℃
最高 最低 平均 0 ㎝ 10 ㎝ 20 ㎝
昭和35年 8月 30.4 21.4 25.9 11.1 49.6 83.9 - 22.1 21.4
27.3 14.9 21.1 39.2 68.1 81.6 - 20.2 20.7
26.9 17.0 22.0 24.5 57.3 86.0 - 20.0 22.1
9月 25.3 13.2 19.3 43.4 68.5 82.1 - 18.0 18.5
23.5 13.3 18.5 73.6 42.1 91.0 - 17.6 18.0
20.5 9.9 15.2 39.8 51.6 96.2 - 15.9 16.0
昭和36年 8月 27.8 18.0 22.9 15.4 55.5 90.0 - 21.7 21.6
28.5 18.8 23.7 77.3 52.2 92.1 - 21.7 21.6
27.2 15.3 21.3 28.1 57.1 91.0 - 20.8 20.6
9月 26.0 16.7 21.4 64.8 52.3 91.4 - 20.0 20.1
23.2 13.7 18.5 69.7 48.9 89.3 - 17.7 18.6
24.7 12.6 18.7 14.9 55.1 92.6 - 17.2 17.6
昭和37年 8月 23.7 17.3 20.5 213.1 26.9 95.8 19.1 19.6 20.0
27.5 18.1 22.9 81.8 50.3 92.1 20.5 19.9 19.0
23.0 14.6 18.8 57.5 39.8 94.0 19.9 20.9 21.2
9月 24.0 14.6 19.3 69.5 40.6 88.8 17.6 18.4 18.9
22.6 12.9 17.8 63.3 42.3 75.2 16.1 16.9 17.4
19.5 9.4 14.5 46.9 50.3 96.3 13.0 16.4 16.4

  試験年次における節期
  融雪期
(月日)
晩霜
(月日)
初霜
(月日)
初雪
(月日)
根雪
(月日)
積雪量
(㎝)
積雪期間
(日)
年間降水量
(㎜)
昭和35年 4.9 5.14 10.3 10.25 11.28 100 131 1,195.7
 〃 36年 4.11 5.26 10.2 10.24 12.14 118 118 1,469.0
 〃 37年 4.8 4.26 10.5 11.16 11.26 86 132 1,498.7
 〃 38年 3.19 5.11 10.6 11.12 12.10 56 95 1,258.3
 〃 39年 3.19 5.1 9.28 10.24 11.22 74 118 1,325.1


3 生育経過の概要
 1)昭和35年播種区は8月及び9月は平年に比して降水量が少なかったため、発芽にやや多くの日数を要した。播種2年目は生育及び収量にかなり変動を生じたが、播種3年目には各処理間に殆ど差がなくなった。

 2)昭和36年播種区は気象的に比較的安定していたため発芽及び播種2年後の生育はほぼ順調に行われた。

 3)昭和37年播種区は播種時の天候が不安定で台風9、10号に遭遇したため、1時に100㎜を越える雨量を記録し、特に赤クロバーの発芽が不同であった。

4 試験結果
 (1)初年目の生育

  第1表 発芽状況
区 分 処理 チモシー発芽(日) 赤クロバー発芽(日)
発芽期 発芽日数 良否 発芽期 発芽日数 良否
昭和35年播種 5.中 5.27 8 5.27 8
8.5 8.16 11 やや良 8.15 10 やや良
8.15 9.6 21 8.28 12
8.25 9.9 15 9.6 12
9.5 9.13 8 やや良 9.14 9 やや良
9.15 9.23 5 9.23 5
9.25 10.4 9 10.4 9
昭和36年播種 5.中 5.29 13 5.28 12
8.5 8.12 7 8.21 16
8.15 8.26 11 8.25 11
8.25 9.1 6 9.1 6
9.5 9.10 5 やや良 9.10 5 やや良
9.15 9.25 10 9.25 10
9.25 10.4 8 10.5 9
昭和37年播種 5.中 5.23 7 5.31 7
8.5 8.15 7 やや良 8.14 8 やや良
8.15 8.21 8 8.21 5
8.25 9.5 10 9.5 10
9.5 9.23 13 やや否 9.20 10
9.15 9.26 8 10.12 25
9.25 10.26 17 10.19 21

 35年播種区は8.15区及び区8.25が発芽に比較的多くの日数を要した。
 36年播種区では気温的に比較的安定していたため、発芽は全般的にほぼ良好であった。
 37年播種区は全般的に気温が低下したため、特に晩播になるに従って発芽に多くの日数を要し、赤クロバーの出現にも変動がみられた。

  第2表 初期生育   (㎝)
区 分 処理 播種後45日目草丈 越冬前草丈
チモシー 赤クロバー チモシー 赤クロバー
昭和35年播種 5.中 - - - -
8.5 11.1 11.6 12.3 12.9
8.15 10.8 8.8 12.0 9.8
8.25 11.4 9.2 12.7 10.2
9.5 9.1 9.8 10.1 10.9
9.15 4.7 3.0 5.2 3.3
9.25 3.4 1.4 3.8 1.5
昭和36年播種 5.中 - - - -
8.5 23.7 16.7 33.1 19.5
8.15 18.3 11.0 24.3 14.1
8.25 20.7 13.1 21.9 12.7
9.5 11.9 6.9 11.7 7.8
9.15 8.1 4.0 8.1 4.0
9.25 7.6 - 6.9 -
昭和37年播種 5.中 - - - -
8.5 22.1 17.1 22.3 18.6
8.15 17.2 10.3 19.5 13.9
8.25 13.1 6.7 13.5 8.1
9.5 10.1 5.1 9.0 5.3
9.15 7.3 2.5 7.3 2.5
9.25 2.7 1.0 2.7 1.0

 35年播種区の生育は気温の低下等になり生育が充分でなく、越冬前草丈では36年、37年播種区に比して最も低かった。特に9.15区及び9.25区のチモシーでは本葉2~3葉で終わり、アカクロバーでは本葉1~2葉で草丈も5㎝を下廻った。
 36年播種区の発芽後の生育は、ほぼ良好に行われたが9.15区及び9.25区では草丈低く赤クロバーの出現も少なかった。
 37年播種区の生育は気象的に不安定であったため、草丈は35年播種区に次いで低く、赤クロバーの出現にも変動がみられた。

 (2)2年目の生育
 9.5区以前の萌芽はいずれもやや良好に行われたが、37年播種区は38年の融雪期が前年より20日間も早く、気温が伴わなかったため萌芽には多くの日数を要した。
 草丈では萌芽45日目草丈及び1番刈草丈に於いて播種時の気象及び生育日数等の影響が認められ、特に9.15区は低かった。しかし2年目2番草次降及び3年目には草丈に於いて変動はみられない。

 (3)3年目の生育
 3年は4月8日、38年は3月19日、39年は3月19日がそれぞれ融雪期であった。
 萌芽はいずれもほぼ良好に行われたが、36年及び37年播種区は38年、39年共に融雪期が早く、気温が伴わなかったため萌芽には多くの日数を要した。
 草丈では萌芽当初から変動少なく、いずれもほぼ整一であった。

5 要約
 (1)発芽
 牧草の発芽は播種時の気象条件に左右されやすく、特に秋播の場合には、その変動が大きい。
 チモシーの発芽は9月上旬までは概ね良好に行われるが、赤クロバーについては気象条件による影響が大きく認められ、晩播するに従って出現個体数が減少することは明らかである。

 (2)初期生育
 牧草の生長は概ね初霜の時期まで続けると考えられ、当地域における平年の初霜は10月8日であるので8月上旬の播種では生育日数が約65日あるのに対し、9月下旬では約15日である。
 本試験において草丈及び収量では9月5日区がそれぞれ以降の播種区に比して大差ない値を示しているが、これは播種後の生育日数が33日であった。
 以上の点から牧草の発芽が環境条件に左右されやすいため、赤クロバーの生育を考慮し約40日の生育日数が必要であると考えられる。

 (3)次年度以降の生育
 次年目の1番草刈取時までは播種当年の影響が生育に認められ、特に晩播区において著しい。2番草以降3年目には、その生育等には殆ど差異が認められない。

 (4)収量
 播種後2年目の収量は播種当年の生育日数及び気象条件の影響によって変動がみられ、晩播区においては特に収量の低減が著しく、赤クロバーの混入割合も少ない。
 3年目ではいずれも各処理間にその差異が認められない。

6 摘要
 道央地域における牧草の秋播適期及び許容限界を明らかにするため、昭和35年より5年間に亘って「牧草の秋播に関する試験」を実施した。
 すなわち混播牧草(チモシー、赤クロバー)を供試し、播種期を8月5日から9月25日まで10にち間隔として3ヶ年に亘る年次反覆により実施した。
 (1)秋播における播種期の差異が牧草の初期生育に及ぼす影響は顕著である。

 (2)一般に秋播については早播が望ましく、その適期は8月上~中旬と考えられる。しかしその許容範囲は、赤クロバーの発芽、生育を考慮するならば、8月下旬までであるが、天候によっては9月上旬まで播種可能な年次もある。

 (3)赤クロバーは晩播するに従って出現数も少なく、生育も劣る。したがって、冬損の影響をうけやすいので、秋播の時期については当該年の気象状況を勘案し、晩播にならないような注意が望まれる。