【普及参考事項】
昭和39年に発生した注意すべき病害虫に関する調査
北海道立農業試験場

 昭和39年は病害の発生は多目で、かつ多様であったが、害虫は比較的少目であった。それらの内特に注視された病害虫は次のとおりである。

水稲 いもち病、稲黄化萎縮病、稲白葉枯病、葉鞘褐変症、イネドロオイムシ
麦類 赤かび病
馬鈴薯 疫病、塊茎腐敗、ウイルス病類(特に葉捲病)
豆類 菌核病、菜豆葉焼病、菜豆炭そ病
とうもろこし 褐斑病
特用作物 てん菜根腐病、はっか銹病
そ菜 トマト疫病、とまと潰瘍病、玉葱の腐敗、あぶらな科ね瘤病
果樹 りんごモニリヤ病、りんご黒星病(空知、石狩)、ふらん病、リンゴハダニ
牧草 赤クロバー炭そ病、赤クロバー黒葉枯病、シロモンヤガ

 新たに発生を記録された病害虫のうち、主なものは次のとおりである。

麦類 シロオビウンカ(北地麦モザイック病媒介昆虫)
特用作物 ウスミミモンキリガ(アスパラガス葉部を喰害、大野町)

1.いもち病
 39年の葉いもちの初発は低温のため一般におくれたところが多かったが、7月下旬以降最低気温の上昇にともなって空知館内を中心にして、日高、石狩管内の一部で葉いもち病が7月末から8月はじめにかけて急速に蔓延し、とくに従来まで耐病性の強い品種として奨励されていた「ユーカラ」や「テイネ」から採集した菌を調べたところ、C-1及びC-2菌型が得られ、特にC-1菌型が多かった。C-1菌型は従来の調査ですでに全道の主要稲作地帯に分布していることが知られているが、本年にいたりC-1菌型がどうして猛威をふるったかその原因は不明である。しかし、本年の気象条件が深く関係しているものと考えられるとともに、多肥栽培なども関与してC-1菌型の増殖を促進したものと考えられる。
 いずれにしても、ユーカラ、テイネは他の品種と同様に防除の万全をはかることが必要であり、特に、これら品種に多発生した地域は、C-1菌型の密度が高まっており、一層の注意を要する。

 菌型とは 現在いもち病菌は12の判別品種上における病斑型にもとずいて菌型(レース)を類別している。

判別品種に用いた 外国稲をもおかすものを・・・・・T群
外国稲をおかさず中国系品種をおかすもの・・・・・C群
日本稲のみおかずもの・・・・・N群

 以上のように類別に、さらに各群を各品種に対する反応の差にもとずいて細別している。

 いもち病菌型判別基準(登録菌型)
菌型/特別品種 Te-Tep Taud kan 鳥尖 長香稲 野鶏梗 関東
51号
石狩
白毛
ほま
れ錦
銀河 農林
22号
愛知旭 農林
20号
備考
T-1 〇 抵抗性(無病斑と褐点型)

● 罹病性(中大型病斑点病)

◎ 中間型(小病斑)
T-2
C-1
C-2
C-3
C-4
C-5
C-6
C-7
C-8
N-1
N-2
N-3
N-4
N-5
N-6
0

2.稲白葉枯病
 昭和37年に発生を確認した本病は、低冷な天候のため39年は多発をまぬがれたが、従来の発生地域(石狩、空知、胆振)に加えて上川支庁管内(フラノ町、神楽町)にも新たに発生をみるにいたったので40年度には更に拡大のおそれがあり充分の警戒を要する。

3.稲黄化萎縮病
 39年6月3~4日、石狩、空知地方を中心に集中豪雨があり(石狩73.4mm、空知81.4)、分けつ初期の水稲が浸冠水をこうむり、札幌市、江別市、千歳市、広島村、恵庭町、岩見沢市、長沼町、南幌町、北村、月形町、美唄市を中心に本病の大発生を見るにいたった。
 本病に対する措置については未解決の面が多いが、次の事項について注意すべきである。

(1)本病は数多くのいね科雑草で越冬して稲への感染源となるので、春季畦畔の雑草に銅剤、有キ水銀粉剤などを時々散布する。又畦畔ブロックの利用も有効である。

(2)冠水した苗床の種苗は使用すべきでない。

4.豆類菌核病
 菌核病、大豆、小豆、菜豆に発生し特に菜豆、小豆に発生が多く、殆ど全道一円に亘り累年増加の傾向にあり、39年の低冷、多湿な気象条件が誘因の主であるか否かについては検討の余地がある。本病の病原菌はスクレロチニア・スクレロチオルムという子のう菌であって、鼠糞状の菌核が起年器関であり、初夏の6月末ころより発芽して株の地際に綿状のカビを生じ生育を妨げ、更に上昇して茎葉一莢をおかし萎凋一腐敗枯死させるが、本道では8月全期がその盛期となることが多い。
 品種では大手亡、金時系に発生し易い傾向が認められ、誘因としては多湿な年、連作地に発生が多い。
 本病の防除については解明に努めつつあるが、現段階では耕種的な措置しか考えられない。

5.菜豆葉焼病
 本病もこの2、3年に急増しており、菜豆が主体をなすが大小豆にも発生し、発生時期はほぼ菌核病に準ずる。本病菌はクサントモナス、ファゼオリという最近で子苗、茎葉、莢、種子に発生する。本病の葉における病徴の特異な点は、初期の油浸状斑点が褐変し更に淡黄色病斑となりこれが融合して火で焼いたようになることである。莢では腐敗し易いことが特徴である。
 本病に対する措置についても未解決の面が少なくないが次の事項に努めること。
1)種子消毒の励行、チウラム剤の粉衣(種子重量の0.2-0.3%)または水銀剤による浸漬(1,000倍×20分)等があるが、本病菌は病種子中に2年以上生存しないといわれているので、多発の翌年は2、3年前の種子を用いることもよいといわれる。

2)収穫跡地の清掃に努め、連作をさけること。

3)本病に対する薬剤防除については、なお検討の余地はあるが銅水和剤(高含銅)300-500倍液を発生前から数回散布することにより、かなりの硬化が期待できる見込みである。
 なお、菜豆には、黄斑性細菌病(かさ枯病)(シュードモーナス・ファゼオリーナ)も発生し、掌状がはげしいとほとんど葉焼病と区別出来ない。
 防除法は葉焼病に準ずる。

6.イネドロオイムシ
 近年次第に増加の傾向にあるが、昨年も上川、空知北部などで多発し、越冬成虫もこれらの地帯では多かった。このため本年発生初期の成虫発生量は平年よりも多く、幼虫の発生する6月後半から7月にかけての気象条件は低温に経過したので、幼虫の活動には好適な条件となり、7月末まで盛んに採食した。
 最近、BHC剤の硬化の低下が指摘されている。殊に山間部の水田で、この傾向が多い。防除にあたっては春季の越冬成虫を対象にして比酸石灰粉剤、DDT粉剤(5,10%)、BHC粉剤3%、EPN粉剤1.5%を10a当たり2.5㎏前後の散布を励行すること。
 又、現在までBHC剤の効果の疑念があった地帯においては、当初からDDT剤、EPN剤の散布を励行する。尚、畦畔よりの吹荒しによる不徹底な散布はいけない。
 抵抗性の出現の有無については目下試験中である。

7.リンゴハダニ
 越冬卵の孵化は平年より遅れ、孵化消長も平年よりややだらだらした状態を示した。越冬量も一部の地方を除いて一般には平年並~少目であったため、初期発生量は比較的少な目に経過した。更に6月後半から7月にかけての低温多雨の気象条件が本虫の増殖を抑制していたが天候による防除の不徹底などにより7月後半から次第に増加の様相を呈し、8月には後志、網走支庁両地方を始め空知、石狩の一部にもかなりの多発生を示した。その後、8月中旬頃より越冬卵の産卵が極めて多くなり、終熄が平年よりおくれ、各地とも越冬卵は平年よりはるかに多くなっている。このことから昭和40年の初期発生量はかなり多くなるものと予想されるから、芽出し前に越冬卵に対する防除を必ず励行しなければならない。