【普及参考事項】
トマトモザイク病の弱毒ワクチンによる防除
北海道農試病理昆虫部病害第2研究室
北海道農試作物部 園芸第2研究室

目的
 トマトに無害な弱毒ウイルスを作り、これを早期に健全植物に接種し、後で感染する強毒性のウイルスにたいして免疫にすることを目的とする。

 試験方法
 試験場のトマト圃場に自然発生したモザイク病株から分離したTMVを使用した。これを35℃、2週間の温度処理によって弱毒化した系統の中でトマトに対して最も無害な系統を選びワクチンとして用いた。処理区はワクチン、強毒系統とも無接種の対照区の他に8処理区を設けた。供用品種はトマト「福寿2号」で、4月3日播種、2回移植後6月2日(播種後60日)定植した。圃場設計は1区10株の4反復乱塊法とした。この他農家の圃場を用い、ワクチン接種を自然放任の2区を設け各区250株程度を供試し参考試験とした。

 試験成績

 第1表 試験場圃場の成績
試験区番号 1 2 3 4 5 6 7 8 対照
※ワクチン接種期 15日 40日 無接種 15日 40日 無接種 15日 40日 無接種
※強毒系統接種期 55日 55日 55日 85日 85日 85日 無接種 無接種 無接種
播種70日後 草丈(㎝) 22 22 22 23 25 29 23 26 28
播種102日後 草丈(㎝) 99 78 70 78 82 82 84 85 85
第1花房開花まで日数 71 71 71 70 70 69 71 70 69
第1花房着果率(%) 54 44 4 54 46 49 55 50 48
第2   〃   (%) 65 53 26 60 54 50 61 61 63
第3   〃   (%) 53 54 46 58 54 36 54 55 56
※※ 全期収量(t) 1.23 1.12 0.24 1.26 1.32 1.20 1.37 1.12 1.35
※※※ 全収量(t) 5.72 5.35 4.02 5.77 5.52 3.99 6.22 5.63 5.74
  注)※いずれも播種後日数
   ※※8月3日~24日まで10a当たり収量
   ※※※8月3日~9月24日まで10a当たり収量

 第2表 農家圃場の成績
場所及び農家名 供用品種 区別 第3花房までの
着果数(個)
1果平均重
(g)
10a当り
果重(t)
放任区における
モザイク病発生程度
東八軒(海老名 庄一) 宝冠1号 ワクチン接種 15.5 148 5.50
放任 12.1 150 4.37
山の手(安細 昌一) 宝冠1号 ワクチン接種 12.1 157 4.57
放任 10.0 102 2.45
山の手安細 昌一() ひかり ワクチン接種 11.8 156 4.42
放任 11.5 131 3.63
  注)1.花房別着果数は50株の平均値
    2.1果平均重は1収穫時の平均果重
    3.10a当たり果重は1、2より推定

 草丈でみるとワクチン接種による生育の遅れ(特に早期接種において)が認められるが開花までの日数では2日程度の遅れで、前期収量においても対照区と有意差は認められず、ワクチン接種による生育遅延は生育後期にある程度回復すると考えられる。
 前期収量では早期に強毒系統のみの接種区は早期および後期のいずれの接種区においても他の処理区に比して3割程度の収量減となり、残りの処理区間では有意差は認められなかった。(5%水準L.S.D=0.79t)
 強毒系統による減収は生育遅延よりも主として着果率の減少によるもので、強毒系統接種後、着果率が著しく低下した。
 農家圃場の試験では直接収量を測ることはできなかったが、第3花房までの調査でワクチン接種の効果が明らかに認められた。

考察
 以上39年度の成績は38年度の成績と殆ど一致した。TMVによる早期感染はもちろん、比較的後期の感染によってもトマトの収量は著しい減少を示すことが明らかになったが、ワクチンによる防除効果は極めて高く、確実性のあることが実証された。ただ収量に大きな影響は与えないが、ワクチン接種直後の生育遅延がみられることおよびワクチン接種区においても生育後期にモザイク症状を呈する株が増加したことからワクチンとして用いる弱毒系統のいっそうの改良が必要と考えられる。