【普及参考事項】
玉葱軟腐病の防除法
中央農試稲作部

 玉葱軟腐病の防除について昭和38年、39年の試験の結果、ヒトマイシン系の薬剤散布によって或る程度これを防止し得ることが明らかになったので、的確な防除法の確立するまでの暫定的方法として参考に供したい。

昭和39年度成績
 試験場所
 A試験地 岩見沢市東町 大谷年世男氏圃場
 B  〃  岩見沢市東町 古高 良晴氏圃場
 C  〃  滝川市中島町 三井 義勝氏圃場
 供試品種 各試験地共「札幌黄」
 栽培法 移植栽培 農家慣行法

 試験設計
  A試験地 B試験地 C試験地
面積および区制 25m2 2反復 60m2 2反復 50m2 2反復
薬剤散布期日および量 6月11日 40L 6月11日 80L 7月14日 50L
6月18日 40L 6月18日 80L 7月21日 50L
6月24日 45L 6月24日 90L 7月28日 55L
7月3日 45L 7月3日 90L 8月5日 60L
7月10日 50L 7月10日 100L 8月12日 60L
7月16日 50L 7月16日 100L  
7月25日 55L 7月25日 110L  
8月3日 55L 8月3日 110L  
散布方法 ミスト機 半自動噴霧機 ミスト機
供試薬剤および区別 1.無散布 1.無散布 1.無散布
2.トリアジン 200倍 2.トリアジン 400倍 2.ストマイボルド 300倍
3.マンネブダイセン 200倍 3.マンネブダイセン 400倍 3.ストマイ水銀ボルドウ 400倍
4.トリアキューベ 200倍 4.ジマンダイセン 400倍 4.濃厚タケダマイシン 200倍
5.シミルトン 1,500倍 5.ダイセンステンレス 1,000倍 5.ヒトマイシン 100倍
6.トリアジン粉剤 3㎏ 6.ソイル乳剤 3,000倍 6.HLF-49 500倍
7.ストマイボルドウ 500㎏ 7.ヒトマイシン 250倍 7.HLF-50 500倍
8.ストマイ水銀ボルドウ 500㎏ 8.ストマイ水銀ボルドウ 1,000倍  
9.濃厚タケダマイシン 250㎏ 9.濃厚タケダマイシン 500倍  
10.グランド乳剤 2,000㎏    
11.アクチジオンキャプタン 200㎏    
備     考 A、B試験地では、殺菌剤は供試薬剤のみ単用し、C試験地では6月24日トリアジン、7月1日マンネブ、
7月8日マンネブ、7月15日デユポン328、7月23日トリアジン、8月5日トリアジンをそれぞれ200倍を散布し
更に供試薬剤を併用した。その他各試験地共EPN乳剤、粉剤を適時散布してタマネギバエの発生被害を
予防した。

試験成績
1.A試験地

 軟腐病発生状況(7月3日調査)
試   験   区   別 欠株数 軟腐病発病株数 発生率(%)
平均 平均 欠株 病株
1.無散布 0 0 0 3 0 1.5 0 1.0
2.トリアジン 200倍 1 0 0.5 0 0 0 0.3 0
3.マンネブダイセン 200倍 0 0 0 2 0 1.0 0 0.7
4.トリアキューベ 200倍 0 0 0 0 0 0 0 0
5.シミルトン 1,500倍 0 0 0 0 0 0 0 0
6.トリアジン粉剤 3㎏ 1 0 0.5 1 0 0.5 0.3 0.3
7.ストマイボルドウ 400㎏ 0 0 0 0 1 0.5 0 0.3
8.ストマイ水銀ボルドウ 500㎏ 0 0 0 0 0 0 0 0
9.濃厚タケダマイシン 250㎏ 0 1 0.5 1 0 0.5 0.3 0.3
10.グランド乳剤 2,000㎏ 0 1 0.5 0 0 0 0.3 0
11.アクチジオンキャプタン 200㎏ 0 1 0.5 0 0 0 0.3 0
  備考 1区148株中の欠株或いは発病株数で示す。

 軟腐病発生状況(7月16日調査)
試験区別 軽 症 中 症 甚 症 合 計 発病株率
平均 平均 平均 平均
1.無処理 0 0 0 0 0 0 4 4 4.0 4 4 4.0 2.7
2.トリアジン 2 0 1.0 2 2 2.0 1 2 1.5 5 4 4.5 3.0
3.マンネブダイセン 1 0 0.5 0 0 0 2 0 1.0 3 0 1.5 1.0
4.トリアキューベ 0 0 0 0 0 0 2 0 1.0 2 0 1.0 0.7
5.シミルトン 1 1 1.0 0 1 0.5 2 3 2.5 3 5 4.0 2.7
6.トリアジン粉剤 1 0 0.5 0 3 1.5 5 1 3.0 6 4 5.0 3.2
7.ストマイボルドー 0 0 0 0 2 1.0 1 0 0.5 1 2 1.5 1.0
8.ストマイ水銀ボルドー 0 0 0 0 0 0 2 3 2.5 2 3 2.5 1.7
9.濃厚タケダマイシン 0 0 0 1 0 0.5 2 0 1.0 3 0 1.5 1.0
10.グランド乳剤 0 0 0 0 0 0 1 3 2.0 1 3 2.0 1.4
11.アクチジオンキャプタン 3 0 1.5 0 0 0 1 1 1.0 4 1 2.5 1.7
  備考 軽症は葉或いは葉鞘の1枚が発病せるもの
      中症は2枚以上が発病せるもの
      甚症は生長点(芯)まで発病せるもの
      1区148株について調査した。

 軟腐病発生状況(収穫時)
試験区別 A欠株数 B病株数(立毛) C小計(立毛)(A+B)
平均 平均 平均
1.無処理 5 7 6.0 5 11 8.0 10 18 14.0
2.トリアジン 1 4 2.5 8 5 6.5 9 9 9.0
3.マンネブダイセン 4 2 3.0 5 4 4.5 9 6 7.5
4.トリアキューベ 3 3 3.0 1 3 2.0 4 6 5.0
5.シミルトン 4 4 4.0 3 5 8.0 7 9 8.0
6.トリアジン粉剤 9 5 7.0 1 4 2.5 10 9 8.5
7.ストマイボルドー 10 1 5.5 0 1 0.5 10 2 6.0
8.ストマイ水銀ボルドー 10 5 7.5 2 2 2.0 12 7 9.5
9.濃厚タケダマイシン 3 4 3.5 1 0 0.5 4 4 4.0
10.グランド乳剤 5 9 7.0 1 1 1.0 6 10 8.0
11.アクチジオンキャプタン 4 5 4.5 14 1 7.5 18 6 12.0


試験区別 D罹病球数(掘取り) E合計
(C+D)(立毛堀取り)
腐敗球率
平均 平均
1.無処理 24 13 18.5 34.0 31.0 32.5 11.0
2.トリアジン 200倍 26 8 17.0 35.0 17.0 26.0 8.8
3.マンネブダイセン 200倍 4 16 10.0 13.0 22.0 17.5 5.9
4.トリアキューベ 200倍 9 15 12.0 13.0 21.0 17.0 5.7
5.シミルトン 1,500倍 15 10 12.5 22.0 19.0 20.5 6.9
6.トリアジン粉剤 3㎏ 6 9 7.5 16.0 18.0 17.0 5.7
7.ストマイボルドー 400倍 5 15 10.0 15.0 17.0 16.0 5.4
8.ストマイ水銀ボルドー 500倍 11 8 9.5 23.0 15.0 19.0 6.4
9.濃厚タケダマイシン 250倍 15 14 14.5 19.0 18.0 18.5 6.3
10.グランド乳剤 2,000倍 6 16 11.0 12.0 26.0 19.0 6.4
11.アクチジオンキャプタン 200倍 18 12 15.0 36.0 18.0 27.0 9.1
  備考 欠株は軟腐病により腐敗消失のもののみ
      病株は立毛のまま一見して罹病と認められるもの
      罹病球は立毛での外見上以上はないが、堀取って一部に腐敗の認められるもの
      1区296株について調査した

小括
 軟腐病の発生は比較的少なく効果の判定は困難であるが、トリアジン、アクチジオンキャプタンを除く他のものは何れも稍効果があったように認められる。タケダマイシン区の腐敗球には、フザリウムによるものが稍多い様に観察された。

 収量調査
試  験  区  別 10a当(換算)収量(㎏)
合計 腐敗球
1.無処理 3,851.8 652.3 4,504.1 100.0 121.3 4,625.4 100 275.4
2.トリアジン 200倍 5,311.5 411.6 5,701.8 127.1 73.2 5,774.9 124.9 256.5
3.マンネブダイセン 200倍 5,774.0 407.9 6,181.9 137.1 54.7 6,236.5 134.8 164.1
4.トリアキューベ 200倍 4,550.9 607.9 5,158.8 114.0 136.1 5,294.9 114.5 178.2
5.シミルトン 1,500倍 3,541.7 826.4 4,368.0 96.5 132.0 2,500.0 97.8 197.2
6.トリアジン粉剤 3㎏ 4,262.1 650.9 1,813.0 106.5 122.7 4,935.7 106.7 100.9
7.ストマイボルドー 400倍 4,046.3 621.8 4,668.1 103.4 99.5 4,767.6 103.1 419.0
8.ストマイ水銀ボルドー 500倍 3,592.6 839.8 4,432.4 98.3 113.9 4,546.3 98.3 140.8
9.濃厚タケダマイシン 250倍 3,273.2 959.8 4,228.4 94.0 150.0 4,380.0 94.7 199.1
10.グランド乳剤 2,000倍 3,884.3 820.9 4,705.2 104.9 113.0 4,818.0 104.2 163.4
11.アクチジオンキャプタン 200倍 3,745.4 681.5 4,426.8 98.9 97.7 4,524.5 97.8 185.7
  備考 各区10.8m2について堀取り調査し10a当たりに換算2ブロック平均で示した。
      尚腐敗球熟には軽度のもののみで甚或は欠株は含まれない。

小括
 収量では無散布区に比較してトリアジン、マンネブダイセン等は可成りの増収が認められ、トリアキューベ、トリアジン粉剤がこれに次いで10%内外、グランド乳剤、ストマイボルドー5%内外の増収が認められた。他は何れも無散布と同等乃至稍劣る経口にあった。これら収量の多少は主として葉枯病に対する防除効果の差が影響したものと考えられる。

2.B試験地(古高氏圃場)

 軟腐病発生状況
試  験  区  別 7月3日現在欠株の状況 7月3日現在軟腐病発生状況
平均 平均
1.無散布 2 1 1.5 1 0 0.5
2.トリアジン 400倍 2 0 2.0 0 0 0
3.マンネブダイセン 400倍 2 3 2.5 1 1 1.0
4.ジマンダイセン 400倍 3 1 2.0 1 0 0.5
5.ダイセンステンレス 1,000倍 0 5 2.5 0 0 0
6.ソイル乳剤 300倍 1 2 1.5 0 2 1.0
7.ヒトマイシン 250倍 3 7 5.0 1 0 0.5
8.ストマイ水銀ボルドー 1,000倍 3 0 1.5 0 0 0
9.濃厚タケダマイシン 500倍 2 1 1.5 1 2 1.5
  備考 1区136株について調査した。


試 験 区 別 7月16日(1区136株中の発病株数)
軽症 中症 甚症 合計
平均 平均 平均 平均
1.無散布 3 2 2.5 1 0 0.5 3 4 3.5 7 6 6.5
2.トリアジン  2 0 1.0 1 2 1.5 1 0 0.5 4 2 3.0
3.マンネブダイセン  2 0 1.0 0 0 0 0 1 0.5 2 1 1.5
4.ジマンダイセン  0 0 0 0 0 0 1 0 0.5 0 0 0
5.ダイセンステンレス  1 2 1.5 0 1 0.5 1 4 2.5 2 7 4.5
6.ソイル乳剤  3 0 1.5 0 1 0.5 2 0 1.0 5 1 3.0
7.ヒトマイシン  1 2 1.5 0 0 0 1 0 0.5 2 0 1.0
8.ストマイ水銀ボルドー  4 7 5.5 3 2 2.5 0 5 2.5 7 14 10.5
9.濃厚タケダマイシン  1 1 1.0 2 3 2.5 1 0 0.5 4 4 4.0
  備考 1.葉鞘または葉が1枚発病しているもの。
      2.    〃     2枚発病しているか芯に及ばざるもの。
      3.芯まで発病しているもの。


試 験 区 別 収穫機における発病並びに腐敗状況(9月7日)
A発病株数 B発病株数(甚) C合計 D発病球数(甚) 発病株合計(C+D)
平均 平均 平均 平均 平均
1.無散布 14 11 12.5 27 22 24.5 41 33 37.0 11 35 23.0 52 68 60.0
2.トリアジン  5 3 4.0 21 12 16.5 25 15 20.0 23 31 27.0 48 46 47.0
3.マンネブダイセン  8 5 6.5 26 8 17.0 34 13 23.5 45 19 32.0 79 32 55.5
4.ジマンダイセン  9 4 6.5 16 12 14.0 24 16 20.0 46 21 33.5 70 37 53.3
5.ダイセンステンレス  8 7 7.5 14 26 20.0 22 33 27.5 43 31 37.0 65 64 64.5
6.ソイル乳剤  10 10 10.0 11 13 12.0 21 23 22.0 16 19 17.5 37 42 39.5
7.ヒトマイシン  9 9 9.0 11 10 10.5 20 19 19.5 14 15 14.5 34 34 34.0
8.ストマイ水銀ボルドー  4 0 7.0 11 15 13.0 15 25 20.0 12 25 18.5 27 50 38.5
9.濃厚タケダマイシン  3 6 4.5 15 10 12.5 18 16 17.0 15 18 16.5 33 34 33.5
  備考 調査1区408株について行った。その他は試験地に準ずる。

 収量調査
試  験  区  別 10a当換算収量(㎏) 対無防除
収量比
腐敗
合計
1.無散布 4,509.3 417.2 4,926.4 60.2 4,986.6 100 469.0
2.トリアジン  5,463.0 312.5 5,775.5 44.9 5,820.4 116.7 494.0
3.マンネブダイセン  5,611.1 307.9 5,919.0 37.5 5,956.5 119.5 474.1
4.ジマンダイセン  5,569.7 263.9 5,842.6 54.6 5,895.9 118.2 610.2
5.ダイセンステンレス  4,435.2 510.2 4,945.9 85.2 5,030.6 100.9 494.5
6.ソイル乳剤  4,537.1 499.1 5,036.1 80.1 5,116.2 102.6 269.0
7.ヒトマイシン  4,305.6 480.1 4,785.7 108.8 4,894.5 98.2 164.4
8.ストマイ水銀ボルドー  4,796.3 524.6 5,321.3 77.3 5,398.2 108.3 256.0
9.濃厚タケダマイシン  3,921.3 551.0 4,472.3 122.7 4,545.0 91.1 203.7
  備考 1区10.8m2について堀取り調査し10a当に換算表示した。

3.C試験地(滝川市中島町 三井氏圃場)

 軟腐病発病状況(8月11日調査)
試  験  区  別 完全腐敗球数(甚) 被害(軽)球数 合計
平均 平均 平均
1.標準区 3 2 2.5 2 9 5.5 5 11 8.0
2.ストマイボルドー 300倍 0 0 0 0 0 0 0 0 0
3.ストマイ水銀ボルドー 400倍 1 3 2.0 1 4 2.5 2 7 4.5
4.濃厚タケダマイシン 200倍 0 0 0 2 3 2.5 2 3 2.5
5.ヒトマイシン 100倍 0 0 0 1 4 2.5 1 4 2.5
6.HLF-49 500倍 0 3 1.5 1 3 2.0 1 6 3.5
7.HLF-50 500倍 0 0 0 1 2 1.5 1 2 1.5
  備考 1区任意100株調査

収穫機における調査

 収量並びに腐敗状況
試  験  区  別 10m2当収量(個数) 10m2当り 欠株+腐敗数 腐敗株率
合計 腐敗 移植株数 換算欠株数
1.標準区 191.5 44.5 236.0 10.5 246.5 23.5 296 26.0 49.5 16.7
2.ストマイボルドー 300倍 214.5 42.5 257.0 17.0 274.0 17.0 5.0 22.0 7.4
3.ストマイ水銀ボルドー 400倍 230.0 31.5 261.5 15.5 277.0 18. 1.0 19.0 6.8
4.濃厚タケダマイシン 200倍 223.5 38.5 262.0 20.1 281.0 15.0 0 15.0 5.1
5.ヒトマイシン 100倍 202.5 33.0 235.5 27.5 261.0 23.5 11.5 35.0 11.8
6.HLF-49 500倍 203.0 40.0 243.0 19.0 262.0 26.5 7.5 34.0 11.5
7.HLF-50 500倍 204.5 44.5 249.0 24.5 273.5 22.0 0.5 22.5 7.6
  備考 1.10m2当移植株数は裁植密度45×15㎝2条チドリ植として算出した。
      2.欠株数は移植株数-(健全株数+腐敗株数)として算出した。
      3.成績は2区平均とする。

総括
 以上3ヶ所の試験結果を総括すると、供試薬剤の中で軟腐病の防除効果が認められたものは、濃厚タケダマイシン、ヒトマイシン、ストマイボルドー、ストマイ水銀ボルドー、シミルトン、ソイル乳剤、その他12のものであった。この中で、薬剤混用の問題、薬害の問題および葉枯病に対する効果などとの関係から差当たり軟腐病防除のために使用し得るのは、濃厚タケダマイシンとヒトマイシンと考えられる。その使用濃度、散布量などについては、噴霧器の場合、濃厚タケダマイシン500~1,000倍、ヒトマイシン200~400倍で10a当たり100L内外、ミスト機では濃度を2倍前後として散布量を1/2とする程度が適正と考えられる。またこの両者は葉枯病、黒斑病などには殆ど効果がないので、これらに有効なマイネブダイセン、ジマンダイセン、トリアジンなど混用することが望ましい。