【普及奨励事項】
蹄耕法による草地造成試験(笹型野草地における適応試験)
北海道立新得畜産試験場

Ⅰ第1試験(蹄耕法の適応比較試験)
 1.試験目的
 家畜の蹄を利用した簡易な、草地造成方式としニュージーランド国において行われている方法の本道における適応性の可否について検討するため、国立農試草地開発部と提携し、草地開発部が長草型(ススキ、ハギ、ワラビ等)野草地を対象としたのに対し、当場ではササを主体とする野草地帯での試験を実施し、慣行法による場合との比較検討を行い、この方式の適応性を明らかにしようとするものである。

試験地の概要:昭和37年開始の第1試験地は当場事務所より約1.5㎏の地点にある。この地は試験着手前はカラ末の人工林であったのを伐採火入れを行い牧柵で囲い、3haの試験地を設置した。
施行前の植生は第1表の通りである。

 第1表 処理前の原植生
  密生度 大きさ
人工林
からまつ
10アール当たり300本 樹令22年 樹高12m
胸高8~16㎝
くまい笹 1m2当たり85本 草丈95㎝
10アール当たり 1.3t

 2.試験方法
 試験処理:処理の概要は第2~第4表に示すとおりで、処理区分は5区とし対照区、NZ区、簡易砕土区、慣行区および慣行改善区とした。各区とも38×160mで約60アールで、中央で2区分し輸換放牧ができるようにした。水と塩は自由とし給水の設備を施した。


  第1図 試験区の配置

 第2表 試験処理の概要
区分 伐採 火入 抜根 耕起 砕土 石灰
撒布
施肥 播種 覆土 鎮圧 ストッ
キング
NO1
放牧
追肥※
  1962
6.
1962
7.9
7.9
15
7.13
15

7.15

7.16

7.16

71.6

7.16

7.16
7.17
19
9.3
6

9.13
A区                    
B区            
C区   3回
 
D区 2回
 
E区  
  ※ 2年目の追肥は草地化成肥料(8:11:8)50㎏/10aを2回に分肥、3年目は高度化成肥料(11:8:14)20㎏/10aを施用した。

 第3表 播種牧草と播種量(㎏/10a)
区分 赤クロバー ラジノクロバー オチャードグラス チモシー ペレニアルライクラス オーツ
播種量 0.7 0.5 1.0 1.0 1.0 2.0
発芽率 90.5 91.0 60.0 63.0 97.5  

 第4表 肥料処理(㎏/10a)
A区 B区 C区 D区 E区
N
0
基 6.68
6.68
2.46
6.68
N2 O5
0
基 14.2
追 7.6
14.2
7.6
7.6
14.2
7.6
K2 O
0
基 6.6
追 11.2
6.6
11.2
4.4
6.6
11.2

 供試家畜:供試牛は当場繁養のヘレホード、短角および黒毛和種などの牛群を供試した。
 調査方法:調査方法はおおむね草地開発部の方法に準じて実施した。

 3.試験成績

 第5表 3ヶ年における試験成績
区     分 1年目 2年目 3年目
生草量
(㎏/10a)
対照区 616 4,125 2,033
NZ区 1,166 6,934 6,294
簡易砕土区 1,104 6,285 6,707
慣行区 528 5,023 5,822
慣行施肥改善区 742 5,353 6,134
採食
TDN
(㎏/10a)
対照区 36.3 113.4 48.2
NZ区 82.7 313.8 290.7
簡易砕土区 60.1 360.6 304.7
慣行区 40.8 258.4 273.9
慣行施肥改善区 44.8 363.8 295.4
放牧
延頭数
(頭/10a)
対照区 6.2 33.3 33.3
NZ区 6.2 78.0 74.7
簡易砕土区 3.1 84.5 68.3
慣行区 3.1 59.4 64.6
慣行施肥改善区 3.1 84.6 65.3

 参考表 造成経費及び管理費
年次 区分 A区 B区 C区 D区 E区
対照区 NZ区 簡易砕土区 慣行区 慣行施肥改善区
第一年次 種子費 種子 0 12,336 12,336 12,336 12,336
肥料費 肥料 0 33,138 33,138 33,138 33,138
労力費 火除線 880 880 880 880 880
火入 320 320 320 320 320
区内整理 2,240 2,240 2,240 2,240 2,240
抜根 0 0 1,600 1,600 1,600
起土 0 0 0 1,200 1,200
砕土 0 0 400 200 200
施肥 0 800 800 800 800
炭カル 0 2,800 2,800 2,800 2,800
播種 0 1,080 1,080 1,080 1,080
覆土鎮圧 0 120 120 120 120
トラクター費 抜根 0 0 15,600 15,600 15,600
起土 0 0 0 3,120 3,120
砕土 0 0 780 390 390
覆土鎮圧 0 0 400 400 400
燃料費 抜根 0 0 2,520 2,520 2,520
起土 0 0 0 1,260 1,260
砕土 0 0 252 126 126
覆土鎮圧 0 0 168 168 168
小計 3,440 53,594 75,434 68,158 80,298
施設費 牧柵 m当り 135 135 135 135 135
給水 一区当り 8,800 8,800 8,800 8,800 8,800
63,144 116,394 138,234 130,958 143,098
第二年次 肥料費 肥料 0 824 824 824 824
労力費 施肥 0 132 132 132 132
その他 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000
2,000 2,956 2,956 2,956 2,956
第三年次 肥料費 肥料 0 824 824 824 824
労力費 施肥 0 132 132 132 132
その他 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000
2,000 2,956 2,956 2,956 2,956
1~3 合計 67,144 122,306 144,146 136,970 149,010
  算出基礎
   1.種子、肥料、燃料は当場購入価格
   2.労力費は当場臨時人夫単価による。
   3.トラクター経費は原価の1/10000を1時間単価とした。
   4.牧柵はアングル使用支間3mとし、1ha四方に換算。
   5.給水は、ポリパイプで河川よりサイホン原理にて水道化し、自動弁(モールボール)を装着した。
   6.第2年次以降の追肥は1回とし高度化成を使用した。

 4.概要
 (1)初年目のNZ区は発芽、生育とも良好で生草量も最も多かった。又雑草抑制の放牧も効果的であり牧草の生育を阻害する程の蹄傷もなかった。
 (2)2年目には生草収量でNZ区が最も多く簡易砕土区、慣行施肥改善区の順であるが、採食TDNでは逆の順になっている。これは耕起しないNZ区、簡易砕土区には笹が残っており牧草が低い為であろう。慣行区と施肥改善区の差は初年目の施肥量の差を示していることと、初年目の放牧で慣行区がやや過放牧であったことによる。
 しかしNZ区の生草は良好であった。
 (3)3年目は草収量で簡易砕土区、NZ区、施肥、改善区の順であったが、あまり差はなかった。
 慣行区も稍低いが前年のような大差はなかった。
 NZ区は笹が減少し、牧草率も高まり草生は良好であった。

Ⅱ第2試験(蹄耕法の実用化試験)
 1.試験目的
 昭和38年開始の第2試験地は事務所より約4㎞の地点にある。この試験地の設置した意義は、第1試験地の実績を勘案し、より実用的価値を検討しようとするもので、そのため標高350~430m傾斜10~15地点に15haの試験地を設置した。

 2.試験方法
 試験処理:
 試験地の概要

 第1表 処理前の原植生
区分 草量(笹)
(kg/10a)
1m2当たり本数
ササ 雑草
中央(2) 238 56 19
下(4) 430 56 18
上(1) 661 65 32

 第2表 試験処理の概要
No. 区 分 火入後
播種
火入等方法 施肥 播種 ストッキング 家畜による
雑草抑制
放牧
植生に
応じた
放牧
追肥
1 2/5火入区 7週 立焼 38
7.11
38.712~17
ha20頭
ha当り20㎏
2 13/6火入区 4週 刈払火入
3 林間区   刈払
7 9/5火入区 9週 刈払火入
8 プライング区   プライングのみ
10 13/6火入区 4週 刈払火入
4 22/5火入区 7週 立焼
5 22/5火入区 7週 立焼
6 プライング区   プライングのみ


実施概要
○伐木・・・立木は低地の一部を除いて殆ど無かった。
○火入れ・・・2回実施し、一部はロータリーカッターでササを刈払い、火入れを行った。
○施肥・・・化成肥料8-11-8 10a当り60㎏
○播種・・・オーチャード1.5㎏、ラデノクロバー0.5㎏
○ストッキング・・・馬63頭×5日 ha当り20頭
○放牧・・・8月28日~9月11日 馬38頭 ha当り約40頭

火入れ後直ちに、ストッキングを行うと家畜のエサを搬入する必要があり、この手間を省くため、火入れしてから期間をおいて笹の再生萌芽をモチストッキングを行う方法を試みた。

 3.試験成績

 第3表 2年目における生草収量と利用状況
No.1 No.2(上段区) No.4 No.5 (下段区)
利用時期別 1 2 3 4 1 2 3 4
植生(草丈㎝) オーチャード 28.5 46.1 64.3     25.2 52.6 73.4    
ラジノクロバー 8.5 25.2 13.1     11.6 29.1 20.3    
ササ 26.0 33.3 21.5     26.4 33.7 33.0    
その他 20.6 20.7 31.6     19.8 35.0 22.0    
生産量㎏/10a 1011 1573 1040 1050 4674 842 1488 1294 985 4609
栄養収量㎏/10a DM 15.9 25.3 17.0 16.9 75.1 13.2 21.1 23.3 15.9 64.2
DCP 13.0 21.7 14.9 14.5 64.1 10.9 18.5 20.0 13.6 63.0
TDN 70.4 104.9 67.8 70.0 313.1 58.6 84.4 96.6 65.7 305.3
放牧10ha 時期 3/6 10/7 2/9 5/10   5/25 10/7 2/9 5/10  
日数 14 15   11.5 30.5 10 2   5.5 17.5
延頭数 1,344 55   490 1,889 174 27   234 435
利用法別 放牧 放牧 採草 放牧   放牧 放牧 採草 放牧  
Cowday(10a) 13.4 0.55   4.9 18.89 3.48 0.54   4.68 8.7


 4.第2試験の概要
 (1)初年目 火入れして4週間後に若笹を採食しながらストッキングする方法が最も良かった。ストッキング時の笹の生草収量は少ないが、利用TDNは最も多い。
 放牧時期の草量、採食TDNについても上記区が最も生産量が多かった。
 15haに対し馬63頭、5日間のストッキングで大体良好な発芽を示したが、天候の影響もあった。
 草生も1,350㎏に達した。
(2)2年目 3回の放牧利用と1回の乾草収穫を行い生草に換算し、4~5屯の収量であったが、乾草調製時期に多雨のため相当のロスを生じており、実際には6屯以上の収量であろう。
 笹の残存も少なくなり牧草率高まり非常に良好な草地になった。

Ⅲ総括
 (1)火入れ、ストッキングが十分によく行われれば、初年目の草生は良好であり、その後放牧を適正に行えば3ヶ年の草生牧養力は良好であった。
 (2)ストッキングは火入れ直後に行うより、火入れ後4週間で笹の再生し始める頃に行えば再生した笹を採食しながらストッキング出来る。
 (3)ストッキングの頭数は家畜の種類、土質、天候等により増減することが出来る。第1試験地では肉牛80頭/ヘクタール当り第2試験地では重種馬20頭/ヘクタール当たりであった。
 (4)初年目の放牧は過度にならなければ次年の草生に殆ど影響なく、雑草抑制の効果著しい。
 (5)肉牛、馬、ともよく雑草を採食し、蹄耕法には適していると思われる。
 (6)造成経費は播種前の処理迄は極めて僅かで済む、抜根費が造成経費の中で大きな金額であり、又抜根作業が大きなトラクターを必要とし造成作業のネックになっている。

以上3ヶ年の試験から
 大型トラクターにより抜根し、耕起砕土整地を行わなくても蹄耕法により慣行法に劣らぬ草地造成が笹型野草地でも可能であることが認められた。
 この実績のみで満足な結論を出すことは困難であるが、蹄耕法の応用による草地造成の実用性については充分期待出来るといって差支えなかろう。
 勿論環境条件に応じ弾力的に活用される技術として草地造成の役立つものと考えられよう。