【普及奨励事項】
水稲「ハツトカチ」(十育7号)に関する試験成績
北海道立十勝農業試験場

Ⅰ 来歴ならびに育成経過
 ハツトカチは昭和31年に北海道立上川農業試験場(旧上川支場)において「新栄」を母とし「農林15号」を父として人工交配を行ったもので、昭和33年度にF3集団で十勝農業試験場(旧十勝支場)が譲り受けF4で個体選抜を行い、F5以後系統育種法により選抜固定を計り、昭和37年度に「十系6203号」を附して生産力検定試験を行った。昭和38年以後は「十育7号」の系統名を附して生産力検定試験を行うとともに道内各試験機関において適応性検定並びに特性検定試験を併せて行い、さらに奨励品種決定現地調査を行い、地方の適否を確かめたものである。

Ⅱ 特性概要
 1. 形態的特性
  (1) 草丈
  「ハツトカチ」の稈長は「シオカリ」より長く「農林20号」と同程度の稈長に属する。穂数は「シオカリ」より少なく、「農林20号」並で明らかに草型は偏穂重型である。穂は「農林20号」より若干長目で「シオカリ」に比べ可成り長い。粒着は「農林20号」並の、やや密で「シオカリ」より疎である。芒性は無芒でふ先色は黄白色である。葉身の枯上は「農林20号」より若干早目である。
  (2) 玄米形状
  糠種で形状は「農林20号」に比しやや、長粒で、粒大は中の部に属し、腹白、心白共に少なく「農林20号」「シオカリ」と同程度で色沢も良く、品質は中の上である。
 2. 生態的特性
  (1) 熟期
  出穂期は「農林20号」に比し平年次においては「農林20号」が若干早いが、冷害年においては逆に1~2日「ハツトカチ」が早まる傾向を示すが、いずれにしても大差ない。「シオカリ」に比べると2~3日早く「ハツトカチ」の出穂は十勝地方では中生の中に属する。
 成熟期は「農林20号」に比し若干遅く「シオカリ」と同程度で年次により差はあるが「ハツトカチ」は十勝地方では中生の中に属する。
  (2) 障害抵抗性
  いもち病に対する抵抗性は「農林20号」より強く、「シオカリ」は弱く総合判定ではやや弱である。耐冷性は冷水掛流し検定の結果、障害型に対しては「農林20号」より強く、「シオカリ」並で中~やや強に属し「農林20号」より安定している。
 耐倒伏性については「シオカリ」に比べるとやや弱いが「農林20号」と同程度で中に属する。
  (3) 収量性
  本試験現地試験共に「農林20号」に比し勝り、「シオカリ」より多収で、年次間においても「農林20号」より安定して多収である。

Ⅲ 試験成績
 1. 十勝農試における試験成績
  (1) 生育調査および観察
 a 移植栽培 標準肥区
系統名 試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
結実
日数
(日)
生育
日数
(日)
障害の多少 成熟期における
倒伏
いも
不稔
(%)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
ハツトカチ 37 7.31 9.21 52 151 21.7 69.0 16.9 14.8
38 8. 6 9.30 55 159 やや少 9.8 84.5 17.4 14.5
39 8.13 達せず 55.2 71.5 17.3 17.9
40 8. 8 9.29 52 159 極少 28.9 74.4 18.0 19.1
平均 8. 7 9.27 53 156 極少 28.9 74.9 17.4 16.6
農林20号 37 7.29 9.21 54 151 27.1 67.5 16.6 17.2
38 8. 5 9.25 51 154 22.5 76.8 15.4 12.9
39 8.15 達せず 76.4 80.1 17.0 16.7
40 8. 9 9.28 50 158 やや少 27.6 74.4 17.2 19.6
平均 8. 7 9.25 52 154 極少 38.4 74.7 16.6 16.6
シオカリ 37 8. 5 9.26 52 156 14.8 68.6 14.4 15.4
38 8. 5 9.25 51 154 12.7 71.1 15.2 15.8
39 8.16 達せず 27.2 73.3 17.6 19.1
40 8.11 9.29 49 157 23.1 72.2 17.5 23.6
平均 8. 9 9.27 51 156 極少 19.3 71.3 16.2 18.5

 b 移植栽培 多肥区
系統名 試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
結実
日数
(日)
生育
日数
(日)
障害の多少 成熟期における
倒伏
いも
不稔
(%)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
ハツトカチ 39 8.13 達せず 72.3 78.1 17.3 18.0
40 8. 9 9.29 51 159 25.9 72.7 17.7 20.2
平均 8.11 9.29 51 159 やや少 49.1 75.4 17.5 19.1
農林20号 39 8.15 達せず 79.0 79.3 16.8 18.3
40 8.10 9.29 50 159 38.9 73.5 16.8 22.8
平均 8.13 9.29 50 159 59.0 76.4 16.8 20.6
シオカリ 39 8.14 達せず 26.7 72.3 17.2 19.9
40 8.12 10.1 50 161 やや少 20.9 68.5 16.9 22.5
平均 8.13 10.1 50 161 極少 23.8 70.4 17.1 21.2

試験
年次
播種期
(月日)
移植期
(月日)
栽植密度(cm) 移植本数
(本)
施肥量(kg/10a) 備  考
畦巾 株間 堆肥 N P2O5 K2O
37 4.26 5.28 30 15 2 1.125 6.9 6.9 7.0 芽室町北伏古農家水田
38 4.25 5.28 750 1.6 6.2 6.6 芽室町新生水稲試験地
39 4.25 5.26 750 3.8 7.0 8.0   〃       〃
40 4.24 5.26 750 4.0 7.0 8.0   〃       〃

 2. 多肥区は標準肥区のN、P2O5、K2Oをそれぞれ割増である。
  (2) 収量調査
 a 移植栽培 標準肥区
品種名 試験
年次
10a当り
玄米重量
(kg)
比率

(%)
屑米
歩合
(%)
籾摺
歩合
(%)
玄  米 玄米品質
1l重
(g)
千粒重
(g)
順位 等級
ハツトカチ 37 46.2 114 83.8 823 21.4 3中下
38 42.5 134 1.4 80.5 806 22.2 中上 3 中
39 11.1 225 4.7 76.7 808 19.0 中上 3 下
40 35.0 95 0.8 82.3 823 20.6 中上 3下
平均 33.7 118 2.3 80.8 815 20.8 中上 3 下
農林20号 37 41.7 100 83.1 822 20.1 3中上
38 31.7 100 0.4 82.3 822 21.0 上下 2 下
39 4.9 100 3.5 78.0 800 18.4 上下 4 上
40 37.0 100 0.3 82.5 815 20.1 上下 3 上
平均 28.6 100 1.4 81.5 818 19.9 上下 3 中
シオカリ 37 40.8 100 81.7 823 19.1 3 中
38 37.4 118 0.4 81.9 814 19.9 上中 2 上
39 12.7 259 6.3 72.8 805 17.9 上中 3 中
40 40.8 110 1.1 81.7 807 19.2 上中 3 上
平均 32.9 115 2.6 79.5 812 19.0 上中 3 上

 b 移植栽培 多肥区
品種名 試験
年次
10a当り
玄米重量
(kg)
比率

(%)
屑米
歩合
(%)
籾摺
歩合
(%)
玄  米 玄米品質
1l重
(g)
千粒重
(g)
順位 等級
ハツトカチ 39 143 171 5.7 76.5 811 18.9 中中 4 下
40 351 109 0.9 82.0 821 21.1 中上 3 中
平均 247 122 3.3 79.3 816 20.0 中上 3 下
農林20号 39 84 100 3.4 78.9 813 18.5 上下 4 上
40 322 100 0.4 82.9 819 20.2 上下 3 上
平均 203 100 1.9 80.9 816 19.4 上下 3 中
シオカリ 39 242 288 6.5 75.0 795 17.7 上中 3 下
40 380 118 0.9 81.4 801 19.7 上中 2 下
平均 311 153 3.7 78.2 798 18.7 上中 3上下

  (3) 特性調査
品種名 粳糯
の別
熟  期
稈の 穂の 芒の

玄   米
出穂 成熟 長さ 強弱 長さ 粒着 多少 長短 形状 大小 色沢 腹白 心白
ハツトカチ 中の中 中の中

やや

やや
やや
良~中
やや
農林20号
やや
やや
シオカリ 中の晩 中の晩

やや
短~中

やや
やや
やや
  注) 熟期は十勝の熟期別、特級区分を示す。

  (4) 障害抵抗性
 a いもち耐病性
区 別 ハツトカチ 農林20号 シオカリ
38年
(%)
39年
(%)
40年
(%)
平均
(%)
38年
(%)
39年
(%)
40年
(%)
平均
(%)
38年
(%)
39年
(%)
40年
(%)
平均
(%)
20 80 73 58 8 100 100 69   78 44
15 50 55 40 8 5 25 21
枝  梗 45 95 77 72 38 58 65 64
判  定 やや弱 やや弱 やや弱 やや強
総合判定 やや弱
  注) 1. いもち耐病性は中央農試稲作部の試験結果である。
     2. 調査結果は観察による節・頸枝梗の各罹病茎率2区の平均値で示す。
     3. ※印は罹病甚だしく調査不能を示す。

 b 耐冷性
品  種/
年  次/
区  別
ハツトカチ 農林20号 シオカリ
38年 39年 40年 総合
判定
38年 39年 40年 総合
判定
38年 39年 40年 総合
判定
障害型 冷水掛流し やや強 やや弱 やや強 強~
やや強
遅延型 遅延日数 11日 やや強
~中
15日 12日 中~
やや強
  注) 1. 耐冷性(障害型)は上川農試における冷水掛流し処理による結果である。
     2. 遅延日数は上川農試生産力検定、冷水掛流区についての出穂期差により判定した。

 c 耐倒伏性
区 別 ハツトカチ 農林20号 シオカリ
38年 39年 40年 総合
判定
38年 39年 40年 総合
判定
38年 39年 40年 総合
判定
耐倒伏性 やや弱 やや強 やや弱 やや強 やや強

 2. 奨励品種決定現地調査成績


品種名 試験
年次
栽植
密度
(cm)
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期における 不稔
歩合
(%)
10a当り
玄米重量
(kg)
比率

(%)
籾摺
歩合
(%)
玄米
1l重
(g)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)




ハツトカチ 39 30×15 8.14 達せず 76.6 17.5 18.7 76.6 109 260 76.0 794
40 8. 6 10. 6 76.0 16.5 18.0 26.8 458 142 81.4 819
平均   8.10 10. 6 76.3 17.0 18.4 51.7 284 156 78.7 807
農林20号 39 30×15 8.17 達せず 71.2 16.8 17.5 87.3 42 100 78.6 810
40 8. 7 10.10 70.9 16.1 19.4 35.4 322 100 82.2 821
平均   8.12 10.10 71.1 16.5 18.5 61.4 182 100 80.4 816
シオカリ 39 30×15 8.24 達せず 71.7 14.7 18.7 69.9 21 50 63.0 784
40 8.11 10.10 73.5 16.4 22.4 24.1 425 132 81.5 836
平均   8.18 10.10 72.6 15.6 20.6 47.0 223 123 72.3 810




ハツトカチ 39 30×16.5 8.21 達せず 86.4 16.4 23.5 83.0 53 241 76.0 790
40 8.10 10. 4 68.0 15.0 21.0 39.0 379 198 83.0 818
平均   8.16 10. 4 77.2 15.7 22.3 61.0 216 202 79.5 804
農林20号 39 30×16.5 8.20 達せず 76.9 17.2 22.1 80.1 22 100 78.6 809
40 8.12 9.26 65.0 15.0 22.0 32.0 192 100 81.5 836
平均   8.16 9.26 71.0 16.1 22.1 56.1 107 100 80.1 823
シオカリ 39 30×16.5 8.22 達せず 76.8 15.7 25.3 69.5 27 123 70.0 770
40 8.16 9.28 63.0 14.0 22.0 47.0 326 170 82.0 821
平均   8.19 9.28 69.9 14.9 23.7 58.3 177 165 76.0 796

Ⅳ 栽培適応地帯並びに栽培上の注意
 1. 栽培適応地帯
  熟期、その他の特性からみて、中生の代表として安全確収に優れているので「農林20号」その他、不適、晩生品種に置き換え、次の地帯に適する。
  (1) 十勝支庁管内の全域
 2. 栽培上の注意
  (1) 稈長く、耐冷性も中であるから冷水田および多肥栽培は避けること。
  (2) いもち病防除に充分留意するとこ。
  (3) 本系統は特性および収量性よりみて、初期生育量および穂数確保のため移植本数を増し、安全確収につとめることが望ましい。