【普及奨励事項】
蛇紋岩土壌における作物の生育障害とその対策について
道立中央農業試験場

Ⅰ 緒言
 蛇紋岩の風化により生成した土壌に生育する作物には特有な生育障害の発現することは以前より多くの報告がみられるが、本道においても中心部を縦断する蝦夷山脈に沿った地帯に蛇紋岩が露出しており、その風化により生成された土壌が散在して分布している。かかる土壌よりなる畑地において生育障害の発生がみられ、収量の向上を阻んでいる場合が多い。よって障害の要因の確認、障害対策、障害発生地の分布について試験調査を進めて来たが、その成績を取りまとめ当該地の営農指導上の参考に供する。

Ⅱ 生育障害要因の解析
 蛇紋岩土壌における障害要因として重金属が一因と考えられるが、とくにNiおよびCrの存在が重視されていることから、幌延町間寒別土壌(沖積土)を全分析(炭酸ソ-ダによる土壌溶融)した結果、ニッケル(Ni)クロム(Cr)は多量に検出された。しかしCrは易溶性形態の2.5%酷酸に溶解するものは僅かに認められ、また置換性としては殆ど認められず、Niとは対照的で、土壌中におけるクロムの存在は非常に安定な形態を示し、作物への障害発生の原因とは考えられず、ニッケルによる障害が主因とみられた。(第1~3表)

 第1表 蛇紋岩土壌のNi、Cr含量
層位 Na2CO3-
fuse
2.5%ACOH
可   溶
置換性
(EX-)
Ni
(ppm)
Cr
(ppm)
Ni
(ppm)
Cr
(ppm)
Ni
(ppm)
Cr
(ppm)
1 417 511 36.1 5.6
2 604 682 50.0 1.52 16.7
3 792 568 1.4 1.82
4 746 1.421 54.2 0.26 11.1

 第2表 供試原土の分析成績
土壌別 PH 置換性 2.5%酷酸可溶 置換性
H2O Kcl CaO
(me)
MgO
(me)
Ni
(ppm)
Cr
(ppm)
Ni
(ppm)
Cr
(ppm9
Ni Cr
琴似沖積土 6.2 5.2 18.2 2.1 20.6 24.7 2.1 0.4
間寒別土 A 6.5 6.2 11.0 17.1 1.390.0 397.0 88.0 0.5 16.7
  〃    B 6.4 5.9 6.6 17.4 1.378.0 42.9 100.0 0.6 15.6

 第3表
土壌試験区 処理内容
a/2.000当たり添加物(g)
燕麦体内含量 症状発生度
6月10日
跡地土壌
PH 置換性
CaO
(MM)
MgO
(MM)
Ni
(ppm)
H2O Kcl CaO
(me)
MgO
(me)
Ni
(ppm)
原土区 27.1 25.3 6.2 5.3 17.6 2.0
Ni添加区 硫酸ニッケル85.8(NiSO4・7H2O) 39.4 21.3 57.4 6.0 5.0 17.2 1.9 3.7
Mg  〃 硫酸苦土1.500.0(MgSO4・7H2O) 33.2 21.3   5.8 5.0 16.9 9.6
Cr  〃 クロム酸カリ4.0(K2Cr2O) 29.6 44.6  
原木区 20.2 46.6 36.9 6.5 6.2 10.7 10.8 17.8
Ca添加区A 石膏    51.6(CaSO4・2H2O) 24.6 57.3 39.8 6.4 6.2 15.2 14.4 18.9
   〃  B  〃    918.3(    〃   ) 29.2 69.2 63.7 6.0 6.2 27.4 15.6 27.1
原木区 20.9 37.2 54.0 6.4 5.9 6.2 15.5 13.5
Ca添加区A 石膏    423.2 26.8 36.5 54.9 6.2 5.9 15.0 15.5 14.6
   〃  B 1.176.4 28.2 37.7 58.8 6.0 5.9 23.2 15.3 15.6
  注) 施肥量 a/2.000当たりN5.09、P2O58.05、K2O5.4g
     MM…土100g中ミリモル単位で表した含量、me…土100g当りミリグラム当量で示した含量
     ppm…百万分の1単位で示した含量
     琴似土壌に対するNi、Mg、Crの添加量は、間寒別土壌の含量と同等の含量になるように計算した量であり、間寒別土壌に対するCa添加量はCaとMgの割合が琴似土壌と同等になるように計算した量である。

 つぎに障害発生の顕著な幌延町間寒別土壌と琴似沖積土を対比して障害要因試験を行った結果、石灰、苦土の含量とは直接的関係なく、ニッケルによる生育障害であることが判明した。(従来の1つの説として、蛇紋岩土壌は石灰含量に対する苦土含量割合が異状に多いので両成分の不均衡が障害の原因であるとも言われていた。)

Ⅲ 本道に於ける蛇紋岩土壌の分布とニッケル含量
 第4表 調査地区障害発生面積および土壌の置換性Ni含量
調 査
市町村
試坑
点数
分析
点数
障害発
生面積
(ha)
分布
地域
土壌 区別 土壌のEX-Ni(ppm) 調査
年次
Trace Trace-5 5~
10
10~
15
15~
20
20~
25
25~
30
30~
40
40~
50
50
天塩郡
幌延町
7 7 1.000 間寒別 洪積土
沖積土
表土
心土
2
2
1
1
1
1
3
2

1
          35年
空知郡
多度志町
9 9 230 北多度志 沖積土 表土
心土
6
6
   
1
1

    1
1
  1
1
36年
空知郡
富良野町
3 3 250 御料地 扇状堆土 表土
心土
2

 
3
1

           
勇払郡
穂別町
6 6 150 二股
富内
沖積土 表土
心土
2
2
1

2
1
1
1

2
          37年
旭川市 5 5 100 豊里
西丘
扇状堆土 表土
心土
4
4
  1

 
1
         
雨竜郡
幌加内町
25 表土25
心土23
800 全域 洪積土
沖積土
扇状堆土
泥炭土
表土
心土
13
15
8
5
1
1
1
1
1

1

 
1
    38年
沙流郡
平取町
9 表土8
心土2
80 岩知志
仁世宇
洪積土
沖積土
火山性土
表土
心土
3

5
2
                 39年
沙流郡
日高町
6 表土7
心土1
30 三岩
豊岡
千栄
沖積土
扇状堆土
火山性土
表土
心土
5
1
2

                
勇払郡
占冠村
9 表土8
心土4
10 トマム
ニニウ
沖積土
扇状堆土
表土
心土
1

7
4
                40年
静内郡
静内町
4 表土4
心土1
30 豊畑
有勢内
沖積土
扇状堆土
表土
心土
1

3

               
三石郡
三石町
4 表土4
心土
表土
心土
1
1
                 
様似郡
様似町
5 表土2
心土
20 田代 沖積土
扇状堆土
表土
心土
 4

2

                
中川郡
中川町
    60 歌内 沖積土                      
  表土88
心土61
2.760     表土
心土
43
31
29
12
5
6
6
5
2
4
1
0
0
0
1
2
0
0
1
1
 
 以上のように調査地区における障害発生面積は約2.760haと推定され、その土壌も沖積、洪積、扇状堆土、火山性土および泥炭土となかり広範な土壌に発生が見られるが、これらの土壌は蛇紋岩風化物を母材とするか、或いは何らかの状態で蛇紋岩風化物を混入している土壌である。沖積土においては蛇紋岩山系を水源地とする河川の流域において往時の河川氾濫により蛇紋風化物の累積がみられ、とくに小河川においてその状況は顕著である。泥炭土においては土壌改良を目的とする客土の土取場が蛇紋岩風化物を母材とする土壌を用いることが基因となって発生した例がみられた。火山性土においては表土の火山灰が流亡等により削剥され薄層化した耕においてその下層が蛇紋岩風化物を混入している場合に障害がみられたが、その症状は軽微であった。
 障害の発生は各地区とも土壌条件により一定ではないが、地形的に凹地域は伏流水のある比較的湿潤な地帯は各区とも周辺の乾燥地に比し障害の発生は顕著であった。
 ニッケル含量については、南部地域に比し中~北部の各地区は比較的置換性ニッケルは多い場合がみられるが、全般的にみれば殆ど20ppm以下の含量であり、最も多い場合で65ppm(多度志町)であった。しかし置換性ニッケルを全ニッケルとは関連性がみられなかった。
 蛇紋岩土壌の苦土と石灰の割合を是正することにより障害を防ぎ得るか否かを確かめるため石灰の施用を試しみ、この場合石灰資材として、土壌のPHに殆ど影響を与えないと考えられる石膏(CaSO4)と、普通に用いられる炭カルを用い、これらの単用および混用について試験を行った。なお硫黄粉はPHの上昇を抑えるため(炭カル施用区の場合)、また土壌をこれにより酸性化した場合の影響をみる目的で施用した。その成績は第5表の通りである。

Ⅳ 対策試験
 A 土壌反応と障害との関係試験
 第5表 石灰、硫黄施用試験(ポット試験a/2.000)
処    理/
石膏タンカル
施用量(/gPO5) 成熟期 地上部
乾重
(g)


跡地
土壌
PH
7月6日
地上部含量
収穫物分析
Ni Ca Mg Ni(ppm) Mg(MM) Ca(MM)












kcl (ppm) MM MM 茎葉 茎葉 茎葉
4/4   0 0 206.4 0 79.6 12 23.1 10.6 +++ 6.5 6.3 76.6 8.3 17.4 58.7 48.6 5.4 14.1 3.9 9.4
3/4  1/4 30 154.8 0 95.0 11 24.5 13.4 ++++

+++
7.3 7.1 75.9 7.3 18.8 51.9 30.2 4.7 14.9 4.1 10.4
2/4  2/4 60 103.2 0 93.3 12 24.9 13.2 ++ 7.4 7.3 47.0 7.8 18.0 51.7 29.5 4.4 13.6 5.2 11.3
1/4  3/4 90 51.6 0 97.7 17 25.2 15.1 + 7.5 7.4 46.9 8.5 17.3 46.0 29.4 3.2 12.4 4.0 9.6
 0   4/4 120 0 0 105.1 17 26.3 14.2 + 7.6 7.5 47.1 7.2 16.3 39.0 29.0 3.2 10.7 3.7 6.6
原土区 0 0 0 83.7 12 22.8 12.0 +++ 6.8 6.5 71.1 7.8 15.6 62.3 44.5 5.6 14.6 2.7 6.0
硫黄粉 0 0 19.2 69.1 6.7 ++++ 5.7 5.6 156.9 7.4 16.2 119.3 53.5 6.1 15.1 3.1 6.2
 〃 2倍量 0 0 38.4 58.8 1.8 ++++ 4.5 4.3 186.9 8.3.00 16.4 128.1 60.2 6.8 15.4 3.0 6.6
硫黄+炭カル 60 0 19.2 90.5 16 24.1 17.3 + 7.1 6.8 61.3 7.8 13.5 48.2 30.6 5.5 14.6 4.2 9.3
同上2倍量 120 0 38.4 89.6 12 24.2 13.6 ++ 7.1 6.8 61.6 8.1 13.2 59.9 41.1 4.7 14.0 4.4 10.3

 試験条件
 供用土壌  幌延町間寒別土壌
 供試作物  燕麦
 施肥     石灰施用量は土壌100gにつき20ミリグラム当量(me)N、P2O5、K2O夫々ポット当たり(5万分の/a)0.5g
 原土の性質 PH水6.8、kcl6.6  置換容量(CEC)10.1me/100g、置換性CaO2.4、Mgo9.7me/100g、置換性ニッケル(Ni)21.6ppm

 結果の概要:
  原土、CaSo4および硫黄末等の施用区はCaSO3施用区に比べPHが低く、障害も顕著で、とくに硫黄末では著しい。このことはCaSo4による土壌中の石灰量の調整のみでは障害の回避とはならず、土壌反応を高めるニッケルの吸収を抑制させることにより障害の軽減されることが認められた。

 B 土壌の置換性ニッケル含量とPHとの関係試験
  以上の成績からPHの低下がニッケルの可溶化(置換性ニッケルの増加により端的に示される)をもたらすと考えられたので次の試験を行った。
 ・試験条件
  供試土壌  発寒川沖積土
    添加NiはNiSO4、7H2Oを用いた。
  供試作物  燕麦
  使用ポット  直径23cm素焼無底土管
  土壌量    10kg/pot
  施肥量    硫安10、過石10、硫加4g/pot
  播種期

その1  5月14日収穫期8月22日
その2  6月19日

  原土分析
PH 置換容量
CEC
me/100g
置換塩基
EX-Base
mg/100g
H2O Kcl CaO MgO H2O
5.85 4.60 21.9 437.5 65.7 7.8

 第6表 PHと置換性ニッケルとの関係試験成績(その1)

ニッケル
添加量
(ppm)
5/Ⅵ 成熟期 収量(g/pot) ニッケル
障害程度
作物体ニッケル
(ppm)
跡地土壌
1/Ⅶ 収穫物 置換性
ニッケル
(ppm)
PH
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
茎稈重 子実重 同左比 25/Ⅴ 30/Ⅵ 茎葉 茎稈 子実 H2O Kcl




(PH
5.85)
ニッケル0 18.5 31 116.7 27.4 40 132.2 117.1 100 tr 5.30 4.80
    15 17.2 31 115.8 25.8 40 125.6 80.0 68 ± ++ 18.4 10.8 24.2 4.2 5.20 4.10
    30 11.8 15 74.1 18.4 15 31.0 8.7 7 +++ +++ 31.5 16.1 63.2 10.1 4.90 3.85
    45 10.3 15 56.7 15.4 13 9.6 4.2 4 ++++ ++++ 103.0 24.2 90.5 13.7 4.90 3.85
PH
7.0

ニッケル0 18.9 33 121.4 27.9 38 158.8 118.2 101 tr 6.55 5.70
    15 17.5 32 118.2 26.9 34 128.8 99.8 85 20.0 1.3 10.5 2.6 6.60 5.90
    30 18.0 29 114.3 27.0 33 112.0 101.2 86 20.0 2.7 19.0 6.8 6.50 5.80
    45 17.1 26 113.1 26.0 39 118.3 83.8 76 23.5 4.2 19.0 7.4 6.60 5.90
PH
8.0
系列
ニッケル30 18.1 29 118.7 27.0 38 141.6 89.0 76 17.9 2.1 19.0 3.7 7.20 6.70
     45 16.5 27 115.5 26.1 38 139.8 81.9 70 13.6 2.5 14.7 4.2 7.20 6.80
 
 第7表 PHと置換性ニッケル含量との関係試験成績(その2)
ニッケル
添加量
(ppm)
CaCO3
添加量
(g)
25/Ⅶ 成熟期 障害程度 収量(g/pot) 跡地土壌
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
3/Ⅶ 25/Ⅶ 茎稈重 子実重 同左比 置換性
ニッケル
(ppm)
PH
H2O Kcl
0 0 52.0 25 78.1 24.2 18 32.0 17.2 100 tr 5.20 4.10
10 0 51.1 22 65.0 24.2 12 25.2 6.8 40 2.8 5.45 4.20
15 52.6 24 66.3 24.4 12 27.0 8.5 49 2.6 6.05 4.75
30 55.6 26 67.8 26.9 14 31.2 12.0 70 2.1 6.70 5.85
45 57.9 26 69.3 29.0 17 31.6 16.4 95 1.1 6.85 6.10
15 0 47.8 17 60.0 20.3 11 ++ ++ 17.7 3.4 20 4.2 5.25 4.05
15 51.9 18 61.2 22.4 12 28.0 7.5 44 3.9 5.70 4.65
30 55.5 18 69.7 24.2 16 29.7 7.4 43 3.7 6.45 5.55
45 56.7 24 77.0 25.8 23 34.4 10.5 61 1.1 6.75 6.25
60 57.4 22 80.7 26.3 20 39.7 11.0 64 1.1 6.85 6.40
30 0 17.8 7 25.7 9.0 6 ++++ ++++ 2.0 0.5 3 17.5 5.25 4.00
15 19.1 7 26.8 10.5 6 ++++ ++++ 2.8 0.8 5 13.7 5.75 4.65
30 24.2 7 38.3 12.0 6 +++ +++ 3.7 0.8 5 9.5 6.15 5.05
45 56.2 21 56.7 20.0 25 34.2 9.1 53 2.1 6.90 6.35
60 54.3 18 68.1 29.8 16 34.4 9.5 55 2.1 7.00 6.45

 結果の概要:
  琴似沖積土に硫酸ニッケルを用いて置換性ニッケルとして10~45ppm相当量を添加して燕麦を栽培した結果、原土条件(PH5.8)においては置換性ニッケル10ppmから障害を発現し、ニッケル添加量を高めると比例的に障害は顕著になった。しかし炭酸石灰にてPHの上昇を図るとその障害も軽減し、PHとニッケル障害の間には負の関係がみられ、ニッケル添加量が多い場合はそれに伴って、さらにPHの上昇を図る必要性が考えられ、本試験からその関係を概察すれば置換性ニッケル10ppmではPH6.0、15ppmではPH6.5、30ppmではPH7.0に上昇させる必要が推察された。

 第8表 アルカリ資材の比較試験成績
PH上昇
資  材
ニッケル
添加量
(ppm)
25/Ⅶ 成熟期 障害程度 収量(g/pot) 跡地土壌
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
3/Ⅶ 25/Ⅶ 茎稈重 子実重 同左比 置換性
ニッケル
(ppm)
PH
H2O Kcl
CaCO3
(PH7.5)
0 60.7 21 72.3 23.7 13 34.6 12.4 100 tr 7.55 7.00
30 60.5 22 73.1 23.2 13 35.7 12.3 99 1.6 7.75 7.10
NaCO3
(PH7.5)
0 56.2 23 70.8 23.9 12 35.1 12.4 100 tr 6.90 5.45
30 56.5 22 78.7 23.7 13 34.6 12.7 102 3.2 6.75 5.30
原土
(PH5.8)
0 52.0 25 78.1 24.2 18 32.0 17.2 100 tr 5.20 4.10
30 17.8 7 25.7 9.0 6 ++++ ++++ 2.0 0.5 3 17.5 5.25 4.00

 試験条件:前項(その2)と同じ

 結果の概要:
  PHの上昇は土壌中の置換性ニッケルを低下させ、作物の障害が回避されることが、炭酸石灰を用いて行った試験の結果認められた。本試験はそれと対比してアルカリ資材として炭酸ソ-ダ-によるPHの上昇を行った結果、置換性ニッケル30ppmにおいても炭酸石灰同様障害の発現はみられず、かつ収量に及ぼす影響がなかった。このことは炭酸石灰の効果は、Caそのものの効果よりも施用による土壌PHの上昇が主要因であることを示す。

 C 有機物施用に関する試験
 第9表 堆肥、泥炭粉施用試験成績
  試験条件
  供試土壌  幌延町蛇紋岩土壌
  供試作物  燕麦(前進)
  試験規模  a/5.000植木鉢
  施肥量(g/pot)
   硫安5、過石2.5、熔燐2.5、硫加2.0
  資材施用量(g/pot)
   炭カル2.5、塩化鉄(FecI3)10、堆肥および泥炭は乾燥粉砕したもの10
処理区別 45日目 成熟期 収量(g/pot) 収穫物体内(ppm) 跡地土壌 障害
程度
45日目
茎葉
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
茎稈重 子実重 同左比 Ni Fe Ni Fe 置換性
ニッケル
(ppm)
PH

(Kcl)
1. 原土区 69.3 34 101.5 25.5 16 36.0 21.1 100 42.8 276 68.7 161 22.3 6.25 ++
2. 堆肥粉区 68.4 28 108.0 24.0 14 32.6 17.0 81 42.8 442 63.3 78 19.8 6.30 ++
3. 堆肥粉+炭カル区 72.4 26 103.5 28.3 10 31.3 22.2 105 31.6 311 52.2 89 11.1 7.25
4. 泥炭粉区 69.2 31 112.0 21.0 12 33.0 19.8 94 43.5 368 67.3 85 22.5 6.20 ++
5. 泥炭粉+炭カル区 73.3 29 113.0 20.5 9 36.6 21.3 101 22.9 345 42.3 55 10.9 7.10
6. 堆肥粉+炭カル+Fecl3 73.7 29 105.0 23.5 8 24.0 26.0 123 29.1 532 40.0 66 12.0 7.15
7. 泥炭粉+炭カル+Fecl3 70.7 28 106.0 28.5 11 27.0 25.5 121 28.6 290 48.7 101 12.6 7.10
8. 炭カル区 70.7 31 98.5 25.5 12 26.5 26.5 127 19.9 334 41.2 75 109 7.40

 結果の概要:
  堆肥粉或は泥炭粉の単用では原土区と同程度の障害の発生がみられるのみでなく、収量では劣る結果を示し、また炭酸石灰によりPHの上昇を図り、併せてこれら有機物を施用した場合では障害の発現はみられないが収量的には原土区を僅かに凌駕する程度で、施用量によって効果の異なることもあろうが、炭酸石灰単用区に比べいづれの場合も劣る結果であった。また、堆肥、泥炭粉、石灰等のほか塩化鉄を併用した場合、生育障害の発生は若干みられるが、子実収量では炭酸石灰単用区に匹敵する値を示した。これらの処理はかなりニッケルを吸収しているが、鉄の吸収も多いことがみられ、ニッケルと鉄の括抗作用によりニッケルの害作用が抑えられ収量が向上したものと考えられた。

 第10表 堆肥施用試験成績
  試験条件
  供試土壌  幌加内町蛇紋岩土壌
  供試作物  燕麦
  試験規模  直径23cm高さ30cm素焼無底土管2連
  施肥量(g/pot)  硫安10、過石10、硫加
  播種期  5月14日
PH 塩基
置換
容量
(me/100g)
置換性塩基(me/100g)
H2O Kcl CaO MgO K2O
5.10 3.85 18.1 460.0 217.5 11.7

炭カル
施用量
堆肥
施用量
(g/pot)
5/Ⅵ 成熟期 収量(g/pot) ニッケル
障害程度
作物体ニッケル
(ppm)
跡地土壌
1/Ⅶ 収穫物 置換性ニッケル PH
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
茎稈重 子実重 同左比 25/Ⅴ 30/Ⅵ 茎葉 茎葉 子実 H2O Kcl
原 土 0 7.5 15 50.1 14.9 5 4.8 1.4 100 ++++ ++++ 157.7 56.8 75.0 26.3 4.65 4.21
200 9.1 19 69.2 19.1 18 14.3 6.1 436 +++ ++++ 118.4 46.3 73.8 25.3 4.80 4.32
PH7.0
相当量
0 15.6 28 98.3 26.9 25 83.1 70.1 100 ± ± 27.9 4.9 13.0 7.4 6.30 5.31
200 14.6 32 97.6 27.9 31 85.7 77.0 110 ± 27.4 6.5 15.8 6.8 6.20 5.53
PH7.5
相当量
0 15.7 28 89.9 27.6 27 90.3 79.0 100 22.2 2.6 13.7 6.8 6.30 5.75
200 14.5 31 93.7 30.3 30 91.2 89.5 113 22.1 4.7 10.5 5.3 6.50 6.04
 
 結果の概要:
  原土区では堆肥施用の有無に拘わらず極めて強度の生育障害は発生し、生育、収量は著しく低いが堆肥の効果は顕著であった。しかしPHを高めた条件においては10%程度の増収であり、作物のニッケル吸収は堆肥の施用によって差がみられないことから、堆肥はニッケル障害に直接的回避作用をもたず、肥沃度を高めるためのものと考えられた。

 D 微量要素施用試験
  重金属間には作物に対する吸収括抗作用のあるものがあるもで次の試験を行った。

 第11表 微量要素施用試験成績
炭酸
石灰
施用量
処理区別 5/Ⅵ 成熟期 ニッケル
障害程度
収量(g/pot) 作物中ニッケル
(ppm)
跡地土壌
1/Ⅶ 収穫物 置換性
ニッケル
(ppm)
PH
草丈
(cm)
茎数
(本/pot)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/pot)
25/Ⅴ 30/Ⅵ 茎稈重 子実重 同左比 茎葉 茎葉 子実 H2O Kcl
原土
系列
原   土 7.5 15 50.1 14.9 5 ++++ ++++ 4.8 1.4 100 157.7 56.8 75.0 26.3 4.65 4.21
Mn,Cu,Zn施用 8.7 15 48.3 15.1 5 ++++ ++++ 4.3 2.1 150 74.3 44.7 91.5 28.0 4.60 4.23
     Mn施用  9.0 16 54.2 15.6 6 ++++ ++++ 5.7 1.9 136 93.0 52.6 78.7 29.0 4.60 4.24
     Zn施用 10.5 17 61.0 16.1 8 ++++ ++++ 8.7 3.2 228 95.0 42.0 90.5 29.0 4.60 4.22
     Cu施用 9.4 16 63.5 17.2 7 ++++ ++++ 7.2 2.5 199 88.9 46.5 92.6 26.3 4.70 4.36
PH7.5
相当量
原   土 15.7 28 89.9 27.6 27 90.3 79.0 100 22.2 2.6 13.7 6.8 6.30 5.75
Mn,Cu,Zn施用 14.3 32 97.0 26.3 21 86.6 79.9 101 21.7 9.2 12.6 5.3 6.50 5.74
     Mn施用  13.3 32 96.2 25.6 21 89.9 79.0 100 20.0 3.7 15.8 5.3 6.50 6.07
     Zn施用 16.3 34 96.5 26.6 24 90.0 81.9 104 21.0 5.4 15.8 4.2 6.55 5.83
     Cu施用 14.2 34 93.0 23.3 24 90.9 80.5 102 15.3 9.5 15.8 4.7 6.50 5.91
  試験条件
  施用微量要素剤 Mu:硫酸マンガン(MuSo4、7H2O)780mg/pot
             Cu:硫酸(CuSO4、5H2O)104mg/pot
             Zn:硫酸亜鉛(ZuSO4、7H2O)525mg/pot
  その他は前項と同じ

 結果の概要:
  燕麦を供試作物としてマンガン、亜鉛、銅の施用効果を行った結果、原土系列においてはこれらの単用域は併用でも生育障害は原土区と同じで、極めて強度な障害を受け、収量は原土に比し指数的にはかなり効果的であるが、その生産量は異常に少なかった。
 また、PH7.5相当炭酸石灰施用系列においては、炭酸石灰の施用により全区生育障害の発現は認められず、収量も殆ど同程度であった。このことから燕麦においてはこれら微量要素は生育障害の回避域は収量向上に及ぼす影響はみられないものと考えられた。

 E 各種畑作物の生育障害と収量に及ぼす影響試験
  1. 作物の障害発現とニッケルの関係調査
   各種畑作物(15作物)の蛇紋岩土壌における生育障害ならびに収量に及ぼす影響を検知する目的から雨竜郡幌加内町において39、40年度実施した現地改良試験のうち、40年度試験について各処理から生育障害の段階別の作物体ならびにその根圈土壌を採取し、土壌の置換性ニッケル、PHおよび作物体のニッケル含量を調査した。その結果まづPHと置換性ニッケルの関係は下図に示すごとく負の関係を示し、炭酸石灰の施用によりPHが高まるに伴い置換性ニッケルは減少し、PH7では5ppm以下となった。
 次ぎに作物の障害についてはオ-チャ-ドグラス、アカクロ-バ、ラジノクロ-バ、馬鈴薯、デントコ-ンにおいては生育障害と思われる症状は観察出来なかったが、他の10作物については生育障害がみられた。障害の発生と作物体のニッケル含量と関連は作物の種類により異なる。障害のあった作物について根圏土壌の置換性ニッケルとの関連をみれば、チモシ-、アルファルファ、小豆、菜豆は5ppm、大根、てん菜10ppm以上、その他はこれらの中間的な濃度から生育障害が発生するものと推定され、さらに土壌中の置換性ニッケルが増せば障害程度も強まることがみられた。


 第12表 土壌の置換性ニッケルと作物体内のニッケル含量(ppm)の関係(幌加内) (略)

 2. 炭酸石灰施用が各種作物に及ぼす影響調査
  試験条件
   試験施行地 雨竜郡幌加内町
年次 土壌 表土の深さ PH 塩基吸収容
(me/100g)
置換性塩基mg/100g 置換性ニッケル
(ppm)
H2O Kcl CaO MgO K2O
39年 泥炭土 15cm 5.30 4.80 53.6 568.0 45.2 16.5 28.5
40年 沖積土 15cm 5.25 4.00 48.4 950.1 219.4 19.2 15.8
  試験規模  1区15m2 2連制
  施肥量(kg/a)

   39年 40年 使用肥料
N P2O5 K2O N P2O5 K2O
麦   類 0.4 0.6 0.6 0.5 0.5 0.5 N   :硫安
P2O5:過石
K2O :硫加
いね科牧草 0.4 1.5 0.6 0.5 1.0 1.0
まめ科牧草 0.2 1.5 1.0 0.2 0.5 1.0
豆   類 0.15 0.1 0.8 0.2 1.0 1.0
てん菜、馬鈴薯 0.6 0.75 1.0 1.0 1.0 1.0
キャベツ、大根
デントコ-ン
1.0 0.5 1.0
  試験操作
   石灰施用区はPH7.5相当量の炭酸石灰を耕起後に撒布し、よく混合し整地した。

 第13表 炭酸石灰の施用が収量に及ぼす影響(kg/a)
作物名 39年 40年
無処理 石灰施用 石灰施用
を100
とした比
A/B
無処理 石灰施用 石灰施用
を100
とした比
C/D
頸茎
葉重
子実
根重
A
頸茎
葉重
子実
根重
B
1番
生草
2番
生草
茎葉
年間生草
子実根重
C
1番
生草
2番
生草
茎葉
年間生草
子実根重
D
チモシ- 83.4 94.2 177.6 72.3 69.5 141.8 125
ペレニアルライグラス 103.3 109.0 212.3 97.8 98.0 195.8 108
オ-チャ-ドグラス 117.5 47.8 165.3 129.0 55.8 184.8 89
アルファルファ 66.1 38.0 104.1 163.0 88.8 251.8 41
アカクロ-バ 167.0 92.5 259.5 159.8 80.0 239.8 108
ラジノクロ-バ 135.0 135.0 200.5 200.5 67
大  豆 22.4 11.8 19.1 14.3 83 15.3 19.4 78
小  豆 37.5 2.2 72.0 5.4 41 3.2 20.4 16
菜  豆 0.7 10.0 7
大  根 176.5 400.0 363.5 110
馬鈴薯 300.2 273.5 110 377.0 352.0 107
てん菜 367.3 240.0 275.8 278.3 86 356.0 240.5 308.0 78
燕  麦 17.6 103 17.9 13.5 76 25.0 25.3 29.8 85
デントコ-ン 生全重
314.3
全穂重
138.3
生全重
285.5
全穂重
132.3
110 生全重
153.0
生茎葉
380.5
生全重
533.5
全穂重
175.0
生茎葉
393.0
生前重
563.0
94
キャベツ 260.5 282.0 92
小  麦 15.0 11.4 17.0 11.1 103

 結果の概要:
  2ヶ年における収量結果から考察すれば馬鈴薯、大根、ペレニアルライグラス、アカクロ-バ等は土壌中の置換性ニッケルに比しかなり多量のニッケルを吸収しており、生育中に障害のみられた作物もあるが、石灰の施用によって体内のニッケル含量は低下されるにも拘わらず、収量的には効果がなかった。またニッケルの体内濃度は低いが障害のみられたチモシ-、障害は明らかでないがニッケル濃度の低いデントコ-ンも同様に収量に及ぼす影響はほとんどみられなかった。てん菜についても石灰施用により増収しているが、体内のニッケル濃度が石灰施用によっても無施用に比し差は少なく、かなり高い濃度であることから、石灰の効果はPH上昇によるニッケル吸収抑制以外の効果も考えられた。これらの作物についてはニッケルによる生育障害のみられるものもあるが、収量に対するニッケルの直接的な影響はみられない作物と考えられる。
 これらに比べ燕麦、キャベツ、大豆、小豆、菜豆、アルファルファの収量は石灰施用区に比べ無施用区は減収し、まかでもアルファルファ、小豆、菜豆の減収度は顕著であった。これら各作物では石灰施用により体内のニッケル濃度が顕著に低下し、生育障害も軽減していること、さらにこれら作物は比較的土壌の塩基含量が高いレベルを好む特性もあることからニッケルの吸収抑制と塩基効果が増収をもたらしたものと考えられた。

Ⅴ 総括
 本道における蛇紋岩土壌のうち今回の調査により約2.760haに及ぶ畑作物に生育障害の発生があると推定され、この主因はニッケルの過剰障害であることが判明した。これら蛇紋岩土壌の置換性ニッケル含量は部分的に高い土壌もあったが、大半は20ppm以下である。また調査過程において凹地および伏流水により湿性化した部分は障害が強くみられた。これは溶解度および酸性の点から土壌のニッケルの活性化が起こりやすいと考えられ排水排水試行が望まれた。
 また泥炭地改良の客土に蛇紋岩風化物を母材とする土壌を用いたことによる障害の発生もみられたので土取場に留意すべきことが考えられた。
 生育障害は作物の種類によってかなり相違し、障害のみられる作物は土壌の置換性ニッケルが5~10ppmの範囲からみられ、土壌中のニッケル濃度が高まるに伴って顕著になった。
 障害の明らかでない作物はオ-チャ-ドグラス、アカクロ-バ、馬鈴薯、デントコ-ン等であったが、これらの作物はニッケルの吸収は必ずしも少ない作物でなく、障害発現の有無と体内ニッケル濃度の関連はなかった。
 このようなニッケル過剰障害に対し最も効果的な対策はPHの上昇により、活性なニッケルを不活性化する手段であるが、今回の試験成績から炭酸石灰のみでなく他のアルカリ剤によっても障害の回避がみられること、また石膏の効果がないことから、PHの上昇→土壌中のニッケル不活性化→作物のニッケル吸収抑制→障害の回避という関連作用によるものと考えられる。
 障害を回避するためのアルカリ剤の施用は、置換性ニッケルによって変わるが、試験結果では置換性ニッケル30ppmでPH7、15ppmでPH6.5までの上昇を図ることが必要であった。しかし実際的にはPH7以上の上昇は他要素(とくにB.Mn等の微量要素)の有効量の減少、並びにPHが6.5以上の蛇紋岩土壌で置換性ニッケルが多い場合などがあり、PHの上昇を図ることのみでは全面的な対策とならない場面が多い。
 この観点から作物のニッケルによる障害抵抗性をみた結果、燕麦、キャベツ、大豆、菜豆、小豆、sルファルファ、ラジノクロ-バなどは蛇紋岩土壌(PH5.3、置換性ニッケル15ppm)においては程度の相違はあったが生育障害はみられ、かつ収量も炭酸石灰施用した場合よりも低く、ニッケルに対する抵抗性は少ない(この場合ある程度のアルカリ効果、石灰効果を含んでいる)これらに比べアカクロ-バ、オ-チャ-ドグラス、チモシ-、ペレニアルライグラス、馬鈴薯、てん菜、大根、デントコ-ン等については炭酸石灰の施用によって体内のニッケル濃度は低下することが多く、しかも生育障害も軽減したにも拘わらず、収量的にはニッケルによって直接影響されることなく、ニッケルに対する抵抗性は大きいと考えられた。
 以上の結果より蛇紋岩土壌の対策として、酸性で置換性ニッケルが15ppm以下の土壌においてはPHを6.5まで上昇させることにより各作物の障害が少なくなると考えられるが、それ以上のニッケルをもつ酸性土壌ではPHを6.5~7.0まで上昇させたのち抵抗性作物を選択的に栽培する必要がある。また土壌本来のPHが高く少量の石灰施用によってPH7.0になる土壌でかつ置換性ニッケルの高い土壌も抵抗性作物の選択的な栽培が必要と考えられた。
 さらに施肥法については土壌の酸性化を避けるべき施肥が望まれ、とくに置換性ニッケルの高い土壌においても必要性が考えられる。また堆肥等の有機物の施用効果は、PHの上昇と併せて行うことが最も効率的である。
 微量要素(亜鉛、マンガン、銅)については燕麦のみの試験で効果的でなかったが、作物、要素、量的な点についてなお検討されるべき点が残されている。