【普及奨励事項】
苦土欠乏地における苦土の施用法に関する試験成績
(昭和38年~40年)
道、農業改良課、道立中央農業試験場、化学部

Ⅰ 試験目的
 苦土欠乏地における苦土肥料の実際的な施用法を見出すため

Ⅱ 試験施行場所
 北海道雨竜郡幌加内町字新成生  奥山孝一

Ⅲ 試験設計
 (1) 試験区別及び供試作物(品種)
区   別 昭和38年 昭和39年 昭和40年
区番号 内  容 区番号 内容 区番号 内容
原  土 1 原  土 1 原  土 1 同 左
初年度のみ酸度
矯正(初酸矯)
2 酸度矯正 2 初酸矯 2
初酸矯、連年
苦土5kg条施
3 酸度矯正、
苦土5kg条施
3 初酸矯、
苦土5kg条施
3
 〃      〃
 〃  10kg  〃
4 酸度矯正、
苦土10kg条施
4 初酸矯、
苦土10kg条施
4
 〃  初年のみ
苦土15kg全層
5 酸度矯正、
苦土10kg
全層
5 初酸矯
苦土不施用
5
     初年度15kg全層
初酸矯、次年より連年
     苦土5kg条施
5' 初酸矯
苦土5kg条施
5'
供試作物(品種) 燕麦(前進) 馬鈴薯(農林1号) 燕麦(前進)

  1) 酸度矯正はPH(Kcl)6.5に矯正相当量の炭カルを施用、10a当り作土15cm矯正相当量の炭カル644.7kgを自動耕耘機で十分に混入する。
  2) 苦土は硫酸苦土を以て施用する。苦土肥料は施用肥料と混合し、軽く覆土後播種する。
 (2) 供試土壌  扇状堆土、重埴土(国際法)
 (3) 施肥量(kg/10a)
区 別 N P2O5 K2O 堆 肥
燕 麦 5.0 7.0 3.0 不施用
馬鈴薯 7.5 8.0 8.0 不施用
  備考  Nは硫安、P2O5は過石、K2Oは硫加で施用
  (4) 1苦面積並びに区制
   1苦10m2但し昭和38年度の5苦は2m2で実施し、昭和39年度に10m2の2区に分ける。各区2区制
  (5) 畦巾、株間、播種量
   燕麦   昭和38年  畦巾46cm  昭和40年畦巾50cm
   馬鈴薯  昭和39年  畦巾82cm×株間30cm

Ⅳ 試験成績
 (1) 原地の土壌断面調査並びに分析成績

深さ
(cm)
水分
(%)
腐植
(%)
細土無機物中 土性
粗砂
(%)
細砂
(%)
砂合計
(%)
シルト
(%)
粘土
(%)
1 0 ~17 6.18 16.1 0.5 8.0 8.5 37.8 53.7 HC
(重埴土)
2 17~27 4.48 5.5 0.2 4.7 4.9 38.0 57.1
3 27~53 5.25 3.2 0.1 4.2 4.3 33.6 62.1
  注) シルト…微砂


土 色 腐 植 構 造 粗密





斑  紋
結  核
グライ層
湿
根の分布
1 頗る富む 粒状と細粒状 頗る疎 半乾 富む
2 黒 褐 富む 細塊状 中~強 糸根状、膜状の
鉄斑を含む
湿 含む
3 灰黄褐 含む 細塊状と塊状 湿 含む~なし
4 なし 塊 状 膜状、斑状の
鉄斑を含む
湿 なし


PH 置換
酸度
(Y1)
全炭素

(%)
全窒素

(%)
炭素率

(C/N)
塩基置換容量

(me/乾土100g)
置換性塩基
(mg/乾土100g
石灰
飽和度
(%)
燐酸
吸収
係数
窒素
吸収
係数
H2O Kcl 石灰
(CaO)
苦土
(HgO)
1 4.50 3.60 61.50 9.34 0.54 17.3 37.20 99.0 6.3 9.5 1.200 428
2 4.55 3.68 89.25 3.19 0.26 1.23 24.50 29.4 2.9 4.3 1.090 367
3 4.58 3.60 103.00 1.83 0.20 9.2 18.70 41.9 3.7 8.0 1.390 306

 (2) 昭和38年度成績-燕麦(前進)
  1) 生育調査(2区平均)


区  別 6月25日 成熟期 備考
草丈
(cm)
30cm間茎数
(本)
稈長
(cm)
穂数
(本)
穂長
(cm)
1 原    土 23.7 45 102.5 67 25.2 播種
5月18日
2 酸  度  矯  正 53.9 56 120.0 71 27.7
3  〃+苦土5kg条施 56.9 40 118.7 74 28.1
4  〃+苦土10kg条施 55.8 52 119.0 78 26.9
5  〃+苦土15kg全層 53.5 48 122.3 87 25.9

  2) 収量調査(2区平均)


区  別 10a当収量(kg) 同左割合 千粒重
(g)
子実

×100
総重
総重 茎稈量 子実重
1 原    土 363.9 200.3 139.7 40 30.0 38
2 酸  度  矯  正 722.2 363.5 319.1 91 33.0 45
3  〃+苦土5kg条施 798.7 396.4 350.2 100 34.2 44
4  〃+苦土10kg条施 786.1 407.5 324.1 93 31.6 42
5  〃+苦土15kg全層 749.9 384.5 313.5 90 31.4 42

 (3) 昭和39年度成績-馬鈴薯(農林1号)
  1) 生育調査(2区平均)


区  別 発  芽 開  花 6月26日 開花終わり 苦土欠症状
の程度
(7月25日)

(月日)
良否 整否
(月日)

(月日)
草丈
(cm)
茎数
(本)
草丈
(cm)
茎数
(本)
1 原  土 6. 9 7. 4 7.25 20.0 4.0 41.0 3.5 ++++
2 初年度のみ酸土矯正
(初酸矯)
6. 7 7. 4 7.24 29.3 3.3 53.2 3.3 ++
3 初酸矯、連年苦土5kg条施 6. 7 7. 4 7.24 27.2 3.2 56.0 3.0  
4  〃   連年苦土10kg条施 6. 8 7. 4 7.25 27.2 3.2 54.2 3.0  
5   〃  初年のみ苦土15kg全層 6. 7 否~
否~
7. 4 7.23 32.8 4.2 55.4 4.5  
5'  〃   初年苦土15kg全層
次年より連年苦土5kg条施
6. 7 中~
7. 4 7.23 32.6 4.0 55.5 3.8  
  備考  播種月日  5月13日

  2) 収量調査(2区平均)


区  別 10a当薯個数 10a当り薯重量(kg) 澱粉
含有率
(%)
10a当澱粉
収量(kg)
(屑を除く)
同左比
同左比 大中小計 同左比
1 原  土 990 7.174 8.573 16.737 171.0 745.4 405.1 21.4 1.342.9 46 1.321.5 46 14.5 191.6 44
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 4.404 12.872 7.384 24.660 840.1 1.415.5 342.8 31.2 2.629.6 90 2.598.4 90 15.5 402.8 93
3 初酸矯、連年苦土  5kg条施 5.203 14.218 6.471 25.892 977.0 1.587.0 319.7 38.1 2.921.8 100 2.883.7 100 15.1 435.4 100
4   〃 、連年10kg条施 6.167 13.054 6.601 25.822 1.186.4 1.460.5 333.2 25.7 3.005.8 103 2.980.1 103 14.8 441.1 101
5   〃 、初年のみ苦土15kg全層 4.291 13.435 10.726 28.452 805.0 1.485.8 544.2 20.3 2.855.3 98 2.835.0 98 14.8 419.6 96
5'   〃 、初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
4.516 14.000 9.484 28.000 932.6 1.495.9 474.2 41.8 2.944.5 101 2.902.7 101 14.2 412.2 95

 (4) 昭和40年度成績-燕麦(前進)
  1) 生育調査


区  別 発 芽 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
45日目(7月1日) 成熟期 苦土欠乏
症状の程度

(月日)
良否
整否
草丈
(cm)
30cm間茎数
(本)
草丈 穂長 穂数
1 原  土 5.31 7.23 8.28 34.1 28 117.4 23.2 26 ++++
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 5.29 7.23 8.26 49.2 38 144.4 26.5 38 +++
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 5.29 7.21 8.24 54.2 34 144.4 22.7 36  
4   〃 ・連年10kg条施 5.30 7.21 8.24 59.1 32 146.1 22.7 32  
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 5.29 7.21 8.24 63.1 47 147.7 23.1 41  
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
5.29 7.20 8.24 57.9 41 149.0 22.8 37  
  備考  播種期 5月18日

  2) 収量調査(2区平均)


区  別 10a当収量(kg) 同左比 子実
千粒重
(g)
子実

×100
総重
総重 稈重 子実重
1 原  土 291.0 158.0 116.0 32 40
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 697.0 351.0 323.0 90 46
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 740.0 349.0 359.0 100 48
4   〃 ・連年10kg条施 760.0 373.0 362.0 101 48
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 797.0 412.0 361.0 101 45
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
751.0 370.0 345.0 96 46

  3) 作物体分析成績


区  別 窒素
(N)
燐酸
(P2O5)
カリ
(K2O)
石灰
(CaO)
苦土
(MgO)
茎葉
(%)
子実
(%)
茎葉
(%)
子実
(%)
茎葉
(%)
子実
(%)
茎葉
(%)
子実
(%)
茎葉
(%)
子実
(%)
1 原  土 1.04 1.79 0.39 0.84 2.86 0.79 0.34 0.23 0.11 0.14
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 1.03 1.71 0.26 0.79 2.79 0.73 0.41 0.17 0.10 0.17
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 0.48 1.64 0.19 0.72 1.60 0.81 0.33 0.18 0.12 0.17
4   〃 ・連年10kg条施 0.31 1.43 0.31 0.68 1.86 0.73 0.31 0.17 0.12 0.23
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 0.51 1.41 0.20 0.76 1.74 0.81 0.37 0.13 0.11 0.18
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
0.35 1.38 0.28 0.73 1.97 0.80 0.29 0.17 0.12 0.21

 燕麦の養分吸収量(kg/10a)


区  別 N P2O5 CaO
茎葉 子実 茎葉 子実 茎葉 子実
1 原  土 1.82 2.08 3.90 0.68 0.97 1.65 5.01 0.92 5.93
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 3.85 5.52 9.37 0.97 2.55 3.52 10.43 2.36 12.79
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 1.83 5.89 7.72 0.72 2.58 3.30 6.10 2.91 9.01
4   〃 ・連年10kg条施 1.23 5.18 6.41 1.23 2.46 3.69 7.40 2.64 10.04
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 2.22 5.09 7.31 0.87 2.74 3.61 7.59 2.92 10.51
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
1.42 4.76 6.18 1.14 2.52 3.66 8.00 2.76 10.76



区  別 CaO MgO 地上部中子実の要素含有割合
茎葉 子実 茎葉 子実 N P2O5 K2O CaO MgO
1 原  土 0.60 0.27 0.87 0.19 0.16 0.35 53 59 16 31 46
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 1.53 0.55 2.08 0.37 0.55 0.92 59 72 18 26 60
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 1.26 0.65 1.91 0.46 0.61 1.07 76 78 32 34 57
4   〃 ・連年10kg条施 1.23 0.62 1.85 0.48 0.83 1.31 81 67 26 34 63
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 1.61 0.47 2.08 0.48 0.65 1.13 70 76 28 23 58
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
1.18 0.59 1.77 0.49 0.72 1.21 77 69 26 33 60



子実収量比 要素吸収比(苦土5kg条施区を100とする)
N P2O5 K2O CaO MgO
1 32 51 50 66 46 33
2 90 121 107 142 109 86
3 100 100 100 100 100 100
4 101 93 112 111 97 122
5 101 95 109 117 109 106
5' 96 80 111 119 93 113

 40年燕麦跡地分析成績


区  別 置換性塩基
(mg/乾土100g)
PH 置換
酸度
Y1
置換性苦土
の増加量
(mg/乾土100g)
苦土 カリ 石灰 H2O Kcl
1 原  土 6.3 9.2 92.9 4.60 3.86 87.3
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 7.3 10.5 423.2 5.36 4.54 4.7 1.0mg
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 19.2 8.4 529.7 5.50 4.70 2.6 12.9
4   〃 ・連年10kg条施 23.8 7.2 517.5 5.38 4.60 3.1 17.5
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 20.7 14.4 584.4 5.56 4.74 2.1 14.4
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
21.7 12.9 554.9 5.58 4.76 2.0 15.4
  備考…10a作土15cmの乾土重80.408kg(風乾土100cc 61.4g 水分6.18%)

 収量比一覧表及び3年目跡地の置換性苦土含量


区  別 1年目
燕麦
2年目
馬鈴薯
3年目
燕麦
3年目燕麦跡地の
置換性苦土含量
(mg/100g)
1 原  土 40 46 32 6.3
2 初年のみ酸度矯正(初酸矯) 91 90 90 7.3
3 初酸矯・連年苦土  5kg条施 100 100 100 19.2
4   〃 ・連年10kg条施 93 103 101 23.8
5   〃 ・初年のみ苦土15kg全層 (90) 98 101 20.7
5'   〃 ・初年苦土15kg全層苦土5kg
全層次年より苦土5kg条施
101 96 21.7
  注) 1年目の4区は発芽及び初期生育の抑制が見られたための減収
      〃   5区は他区より面積の大きいものを全区刈りとしたための減収と考えられるもの

Ⅴ 考察
 幌加内町の強酸性(PH(水)4.5)苦土欠乏地(置換性苦土乾土100g/6.3mgで苦土の実際的な施用法についての検討を行った。その大要は次の通りである。
 1) 強酸性で置換性石灰100mg以下で石灰飽和度も10%以下であるため、何れの年も原土区の作物の生育は初期から酸性障害に加えて苦土欠乏症状も極めて著しく、全期を通じて生育は不良で生育も遅延した。またその収量も酸度矯正苦土施用区の40%程度の収量に止まった。一方酸度矯正の効果は極めて顕著で原土区に比べて生育は著しく優り、作物の苦土欠乏症状も相当に軽減され燕麦、馬鈴薯共に酸度矯正苦土施用区の90%に及ぶ収量が確保された。この場合石灰の施用により土中の置換性苦土の増加は殆ど期待できないが、養分吸収環境の改善により苦土吸収量は増加し、苦土の吸収量に応じた収量がほぼ確保されている。
 2) 苦土の施用法について見ると、初年目の燕麦は苦土5kg条施区の収量が高く、10kg条施区は硫酸苦土での施用であったためか発芽及び初期生育の抑制が見られたので5kg条施区の収量に及ばなかった。
 また苦土15kg全層区は2年、3年目の結果からみて初年度においても苦土5kg条施と同等となるべき区と考えられるもので、この底収に終わった原因は1区面積の異なるものを全区刈りで収量調査をしたため5kg及び10kg条施区が小面積であったので周縁作用が大きく現れ15kg全層区に比し結果的に高い収量となったと考えられるものである。
 2年目の馬鈴薯では苦土施用区間に収量上殆ど差はないが連年10kg条施区が僅かに有利な結果を示した。
 3年目の燕麦では10kg条施区も発芽及び初期生育の抑制もなく苦土施用区間に収量差は認められない。これは燕麦収穫跡地の置換性苦土含量からわかるように苦土施用区は5kg条施区も初年のみ苦土15kg全層区もほぼ20mgに達していることによるものと考えられる。即ち連年苦土5kg条施区は置換性苦土が毎年増加して来ての結果であり、初年のみ苦土15kg全層区は溶脱、作物により吸収されたあとで20mg程度保たれていたことになる。苦土5kg条施の初年目、2年目では作土全体とすると置換性の苦土は低いはずであるが条施施用と云う条件が有利に働いたものと考えられる。苦土の作物による吸収量は苦土の施用量の増加に伴って増す傾向を示し、苦土の吸収量の増加に伴い燐酸の吸収量も増加するが、一方窒素、石灰の吸収量は減少の傾向が認められる。苦土を十分に施用した場合、時に窒素施用量が制限因子となって収量が心配される可能性も考えられるのものである。
 以上の結果から酸性、苦土欠乏地ではまず第一に石灰の施用により土壌の反応を適正ならしめ、其の上で更に苦土の施用に勉めることが大切である。
 苦土の施用法は本試験地の如く、置換容量が割合高く、透水が小さく、苦土の溶脱の少ない所では作条に毎年苦土として5~10kg程度のものを作物の種類に応じて施用するか、または初年度に苦土として15kg~20kg程度のものを全層施用とし3~4年目からは作物の種類に応じ5~10kgの苦土を肥料と共に作条に施用し、置換性の苦土含量を乾土100g/20mg以上に保ち再び苦土欠乏を引き起こさないようにすることが必要と考えられる。