【普及奨励事項】
加工用トマト「ファイアボ－ル」に関する試験成績
道立中央農試　園芸部
国立農試園芸第2研究室

Ⅰ　来歴
　米国のHarris Seed Coが1952年育成(Round Pium Line Valiant)した早生、早期多収型の無支柱栽培向け加工用品種である。本道には道立農試園芸部が1962年カナダより導入し、1963年以降試作を行ったものである。

Ⅱ　特性概要
　早生で、開花成熟は、ウルバ－ナより早く、着果も耐肥性と相俟って良い。草勢は、初めは旺盛な生育を示し、7月中旬～下旬までに草体の大きさは、ほぼ決定し、ウルバ－ナにように立性でなく、初期より横に拡がり、芯止り性が強く概ね3花房で生長点が止まる。葉は、稍黄緑色を呈して、葉面平滑で、小葉小さく稍盃状のわん曲する。後半、着果成熟期に達してから、側枝の発生、伸長がなく、草勢衰え果実のみが裸出しいわゆるリ－フカバ－は不良となる。
　耐病性、初期茎葉繁茂中に、多湿の時は生理的腐敗果を生じ易く、軟腐病に侵され易いが、疫病に対しては7初中旬より10日おき程度の鋼剤と、多湿時のジネブ剤使用により回避できる。
　耐肥性があり、多肥えの反応が鋭く、施肥上の失敗が少なく作り易い。後半の草状維持にはウルバ－ナより窒素を増加することがよく、元肥重点で施肥して差し支えないが、草状により4～5kg/10a位の窒素、加里の追肥を7月中旬までに1回程度行うことも望ましい。
　果実は90～100g前後着色の良いユニフォ－ムグリ－ンで、朱赤色扁球形、多少浅いひだを生ずるが、加工上特に問題ない。着果状態は芯止り性のため、株の周辺に近く集まり、収穫作業はしやすい。
　ジュ－ス加工の面では、色調、加工歩留り等ウルバ－ナと同程度で、また、前年パネルテストで問題にされと特有の味も、本年の結果よりみると絶対的なものと考えられず、加工形質は並である。

Ⅲ　普及上の注意
　1.　ウルバ－ナと配合作付し、収穫、加工期間の増幅をはかるようにする。
　2.　栽培上の注意としては排水によいほ場を選び、ウルバ－ナの場合よりも密植(畦幅100-120cm、株間30-40cm、10a当り2000～3000株)、やや多肥(10a当りNは8～12kg、但し、堆肥は1/2を加算)にする。

Ⅳ　試験成績
　1.　耕種概要
年次 播種期
(月日)		 育苗日数
(日)		 定植期
(月日)		 畦幅×株間
(cm)		 10a栽植本数
(本)		 施肥量
(kg/a)		 病害虫防除回数
(回)
昭38 3.29 60 5.29 120×45 1.851 N： 1.9・P：2.4・K：1.9 8
　 39 4. 1 68 6. 8 120×40 2.083 N：1.25・P：3.0・K：2.0 8
　 40 4. 1 69 6. 9 120×40 2.083 N：1.25・P：3.0・K：2.0 　

　2.　草状特性
品種名 草姿 草勢 リ－フカバ－ 芯止性 耐病性
Fireball 拡 弱 不良 中 弱
Uebana 立 強 良 弱 中

　3.　果実特性
品種名 帯の離脱 襞の多少 果形 花痕 果皮色 未熟果色 着色性 食味 裂果重(北缶) 裂果症状別　指数 日焼果健全果
38年 39年 40年 平均 C R S
Fireball やや難 やや有 扁円球 少 朱赤 ユニフォ－ム
グリ－ン		 良 中 19.4 34.5 35.8 29.9 0.30 0.88 0.72 13.5
Uebana 中 無 扁円球 少 濃紅 スタンダ－ド
グリ－ン		 良 良 46.2 54.0 51.3 50.5 － 1.00 0.26 16.6

　4.　生育調査及び収量
　 年次 草　　　状 開花始 収穫始 同終 収穫
回数		 健全果収量
(kg/10株)		 4ヶ場の
平均収量		 1個
平均
重量
高さ 拡がり 側枝数 主枝第1
花房花		 主枝第2
花房花		 早期 全期 早期 全期
Fireball 38 38.8 80.9 7.4 11.2 － 5.24 8. 5 9.12 － 8.66 18.06 11.50 17.91 80.8
39 42.6 98.2 6.2 9.2 12.4 6. 8 8.15 9.24 7 9.73 18.65 8.05 19.27 120.0
40 38.0 40.4 8.6 7.9 7.0 6.14 8.20 9.28 6 27.40 41.58 － － 86.1
平均 39.8 73.0 7.4 9.4 9.7 6. 5 8.13 9.21 　 15.26 26.10 9.78 18.59 95.6
Uebana 38 46.8 71.2 6.4 10.0 － 6. 3 8.10 9.12 　 10.22 29.01 6.98 18.87 76.4
39 58.0 65.6 6.0 8.8 7.4 6.15 8.15 9.24 　 7.03 20.97 6.02 22.37 98.9
40 38.8 37.0 8.6 6.4 8.2 6.15 8.20 9.28 　 15.76 33.64 － － 83.3
平均 47.9 57.9 7.0 8.4 7.8 6.11 8.15 9.21 　 11.00 27.87 6.50 20.62 86.2
　　注)　草状調査日は38年7月1日、39年7月17日、40年7月7日

　5.　加工試験結果
品種名 製造
年月日		 総重量
(g)		 1個
平均重
(g)		 調整
重量
(g)		 ジュ－ス
重量
(g)		 搾汁率(%)
対
原重量		 対
調整重量
Fireball 40.8.27 19.410 － 18.450 14.620 75.3 79.2
Uebana 〃 8.820 － 8.430 6.100 69.2 72.4
Fireball 40.9.3 28.850 101.9 27.410 25.200 87.3 91.9
Uebana 〃 29.460 103.4 27.100 25.260 85.7 93.2

　6.　ジュ－ス成分分析結果
供試品 製造
年月日		 A
全固
形物		 不溶
性固
形物		 B
可溶性
固形物		 B/A C

還元糖		 D

総酸量		 C/D アミノ態N PH Bx
Fireball 40.8.27 5.26 0.75 4.51 85.7 2.61 0.40 6.53 55.9 4.4 5.6
Uebana 〃 5.90 0.89 5.01 84.9 3.24 0.45 7.20 55.9 4.4 6.5
Fireball 40.9.3 5.60 0.63 4.97 88.8 2.66 0.45 5.91 55.9 4.4 6.1
Uebana 〃 5.71 0.69 5.02 87.9 3.13 0.51 6.14 55.9 4.3 6.4
デルモンテ 40.8.28 5.47 0.48 4.99 91.2 2.78 0.45 6.18 41.9 4.3 6.6
森　　永 39.8.28 5.35 0.39 4.96 92.7 3.53 0.42 8.40 55.9 4.2 6.9
カゴメ 39.8.11 5.87 0.53 5.34 90.9 3.45 0.35 9.86 48.9 4.3 7.2

　色調分析結果
供試品 製造
年月日		 L a b b/a Lb/a a/b
Fireball 40.8.27 29.5 20.2 12.3 0.61 18.0 1.6
Uebana 〃 29.8 19.8 12.8 0.65 19.4 1.5
Fireball 40.9. 3 27.7 21.3 11.9 0.56 15.5 1.8
Uebana 〃 29.2 16.1 12.1 0.75 21.9 1.3
デルモンテ 40.8.21 27.2 18.4 12.1 0.66 18.0 1.5
森　　永 39.8.28 26.5 18.9 11.3 0.60 15.9 1.7
カゴメ 39.8.11 27.1 18.0 11.8 0.66 17.9 1.5
　　○Lb/a値が実際の色成と相関する。小さい程良好
　　○a/b値は値の大いなるもの程赤色強い。

　7.　パネルテスト結果
　　優秀…5点～不良…1点の5段階の評点により、色調、香味、状態の総合平均点を示す。
　　(A)　40年12月14日
　　　　北缶缶詰研究所にて


　　　　　参加　18名
品種名 採点
Fireball 3.0
Uebana 2.7
Summerdown 3.0
新札幌 3.3
大　　豊 4.1
赤　　福 3.9

　　(B)　41年1月12日
　　　　中央農試園芸部にて

　　　　　参加　7名
品種名 採点
Fireball 3.0
Uebana 3.0
Keusky 4.3
Rideau 3.1
H1608 3.0
大　　豊 3.6