【普及奨励事項】
花ゆり「大井・神恵・雷電・積丹」に関する試験成績
北海道立中央農業試験場園芸部(岩宇園芸試験地)

Ⅰ 来歴並に育成経過の概要
 昭和27年に、岩宇園芸試験地設立と共に、岩内地方海岸の砂丘地に自生せるえぞ透百合を採集、約15.000株より優良系統を選抜したものに、28年、29年、32年に愛知県園芸試験場より送付を受けた花粉を交配し、実生、育成したもので、40年7月2日、岩内に於て、北海道ユリ協会の査定を受け優良と認められたものである。
 (1) 大井(岩宇3号、旧系統504)
  昭和28年、♀えぞ透×♂上重代、交配数11ヶ、受精率55%
  種子数258ヶを29年播種、32年開花、33年予備系統として選抜
  504号として増殖、36年以降系統として特性を検討
 (2) 神恵(岩宇8号、旧系統661-1)
  昭和28年、♀えぞ透×♂黄透、交配数11ヶ、受精率64%
  種子数772ヶを29年播種、32年開花、33年予備系統として選抜
  661号として増殖、36年以降本系統661-1号として分離増殖特性を検討
 (3) 雷電(岩宇8号、旧系統1019)
  昭和29年、♀えぞ透×♂金武扇、交配数60ヶ、受精率21%
  種子数1.616ヶを30年播種、32年開花、33年予備系統として選抜
  1019号として増殖、36年以降本系統として増殖、特性を検討
 (4) 積丹(岩宇9号、旧系統1009)
  昭和28年、♀えぞ透×♂黄透、岩宇5号と同じ交配育成経過で、
  32年開花、33年予備系統として選抜1009号として増殖、36年以降本系統として特性を検討

Ⅱ 特性概要
 (1) 大井(岩宇3号)
  開花期早く、(6月15日頃)、花色は橙色で、斑点は中位、花径は15cm内外で稍大輪、上向に咲く、花弁は僅かに波状を呈す。
 草丈50cm内外で、葉数50~70枚位、茎は剛く、基部で淡紫赤色である。木子は着くが、極めて少ない。
 (2) 神恵(岩宇5号)
  開花期早く、花径は16~17cm内外で大輪、上向に咲き、花弁は稍々波状を呈す。
  草丈40cm内外で、葉数50~70枚位、茎は剛く、基部は淡紫赤色である。
  木子は着くが、少ない。
 (3) 雷電(岩宇8号)
  開花期は前2種より稍々遅く(6月20日頃)、花色は朱色で、斑点は稍々多い。花径は15cm内外で稍大輪、花梗が長く上向に咲く、蕾の毛が多い。
  草丈60cm内外で、葉数60枚位で、葉巾が広い。
  木子の着生は普通程度。
 (4) 積丹(岩宇9号)
  開花期早く(6月15日頃)、花色は橙色で、斑点は少ない。
  花径は16cm内外で大、輪上向に咲き、草丈は50cm内外で、葉数50枚位、葉は斜上に着生する。
  木子の着生は稍々少ない。
項  目 系  統  名
大井(岩宇3号) 神恵(岩宇5号)
蕾の毛 少ない 多い
自然開花期 6月15日(岩宇) 6月14日(岩宇)
色 調 橙(色相4-7)斑点数中位 朱(色相3-9)斑点数中位
ない ない
上向 上向
花 径 15cm 14.6~15.2cm
花 被 外弁:10.0×2.8cm 外弁:11.5×3.7cm
内弁: 9.6×4.0cm 内弁:11.0×4.6cm
裏面に特別色なし 外弁裏面黄を帯びる
花 序 輪生 輪生
花 梗 剛い 1.2~7.0cm 硬さは普通2.8~14.0cm
密 線 白毛あり 白毛あり
雄ずい 花糸は紫褐赤色 6.5cm 花糸は紫赤色6.4cm
花粉は褐色 花粉は褐色
雌ずい 花柱は橙色5.8cm  子房緑2.6cm 花柱は紫赤色4.6cm、子房は緑2.6cm
柱頭紫黒色 柱頭紫黒色

色 調 白色外側淡黄 白色
扁球形 腰高扁球形
大きさ 径6.5cm(5花株) 径7.8cm(8花株)  5.0cm(3花株)
鱗片抱合 浅い 稍深い
  〃 形 外側のもの中央でくびれる 細長貝形、くびれなし
剛い 剛い
着 色 茎部で淡紫赤色 茎部に淡紫赤色
5.5cm(5花株)  4.5cm(2花株) 62cm(8花株)  5.0cm(3花株)
地下茎 直立 直立
木 子 着くが極めて少ない 稍少ない
球 芽 ない ない
72枚(2花株) 93枚(3花株)
発芽時色調
着生状態 密、散生、稍斜上 密、散生、斜上
色 調
披針形、中位で最も巾広 披針形、中位で最も巾広
大きさ 7.2×13cm 10.2×1.2cm
9.6×1.0cm
葉 脈 3本 3本
巾広 稍巾広となる
茎出根 あり あり
特に特徴と思われる性質 花弁の縁はわずかに波状 花弁の反捲少ない
花便の期部は紫褐色を示す 花弁縁辺 稍波状

項  目 系  統  名
雷電(岩宇8号) 積丹(岩宇9号)
蕾の毛 非常に多い 少ない
自然開花期 6月21日(岩宇) 6月15日(岩宇)
色 調 橙(色相3-9)斑点数稍多い 橙(色相4-6)斑点少ない
なし なし
上向 上向
花 径 14.0~14.2cm 13.0~14.0cm
花 被 外弁:10.0×3.4cm 外弁:10.0×2.8cm
内弁: 9.6×4.6cm 内弁:9.6×4.0cm
外弁裏面は淡くなる 外弁裏面黄緑がかる
花 序 輪生 輪生
花 梗 稍弱い。4.0~9.0cm 質は普通1.0~6.2cm
密 線 白毛を生ず 白毛を生ず
雄ずい 花糸は紫赤色 6.5cm 花糸は紫赤色5.7cm
花粉は褐色 花粉は褐色
雌ずい 花柱は淡紫赤色4.7cm 花柱は淡紫赤色5.2cm
花房は淡緑1.9cm 子房は緑2.3cm
柱頭淡紫色 柱頭淡黒色

色 調 白色 白色
稍扁平な球形 尖頭球形
大きさ 径5.0cm(5花株) 径5.0cm(7花株)  3.5cm(4花株)
鱗片抱合 掴みが深く固い ゆるい 掴みは深い
  〃 形 貝形、くびれなし、肉厚 貝形、くびれなし
剛い 剛い
着 色 基部わずかに淡紫赤色 基部わずかに淡紫赤色
70cm(5花株)  58cm(2花株) 59cm(7花株)  3.5cm(4花株)
地下茎 直立 直立
木 子 普通程度着く 稍少ない
球 芽 なし なし
83枚(5花株) 53枚(2花株) 88枚(7花株)  54枚(4花株)
発芽時色調
着生状態 密度普通、散生、下垂 密度普通、散生、斜上
色 調 濃緑
披針形 披針形
大きさ 10.6×1.7cm
9.4×1.6cm
10.0×1.6cm
葉 脈 3本 3本
稍巾広となる 稍巾広となる
茎出根 あり あり
特に特徴と思われる性質 球根は固く抱合される 葉先が内捲気味
鱗片が特に肉厚  

 開花日
系統名 年     次 平均
(月日)
昭34
(月日)
35
(月日)
36
(月日)
38
(月日)
39
(月日)
40
(月日)
大井(岩宇3号) 6. 8 6.21 6.12   6.15 6.20 6.15
神恵(岩宇5号) 6. 9 6.20 6.10 6.17 6. 9 6.20 6.14
雷電(岩宇8号) 6.27 6.16 6.17 6.19 6.28 6.21
積丹(岩宇9号) 6.18 6.11 6.13 6.11 6.20 6.15

えぞ透 5.26 6. 7 5.27 6.15
改良千草 6.29 7. 6 6.28
金剛城 6.21

・ 用途
 4種とも透百合であるので、切花用で開花期が非常に早いため、特に、本州方面での暮出し用切花(正月用)、又は3月出荷用として有望と思われる。
 尚、北海道では、球根の生産を行い、8月上旬に掘り出し出荷を行えば、本州方面で冷蔵、正月用、3月彼岸用の促成に充分間に合うので、将来性は期待できる。
 従来は、えぞ透百合の山堀1作球、又は新潟県産の「金剛城」「黄透」「千草」「大正透」を使用しているが、球根の生産が少なく、入手困難な状況である。

Ⅲ 栽培上の注意事項
 (1) 乾燥及び寒さに強いが、球根の鱗片が剥がれ易い欠点があるので、砂質土及び火山灰土にような、軽い土壌が適する。
 (2) 道内、何れの地方でも栽培可能であるが、促成用球根栽培の場合は、球根の冷蔵管理の関係上8月中旬までに掘上げ出荷の可能な地域に限定される。
 (3) バイラス、ボトリチス等の病害には強くないので、薬剤防除、被害株の抜き取りが必要である。