【普及奨励事項】
放牧荒廃野地造成管理法
根釧農業試験場
協力:北海道開発

1. 目的
 根釧地方に分布する共同利用の自然牧野の大部分は単にの草地の牧棚を囲繞して無管理な連続放牧方式で供しているものが多く、このために野草地はたちまち地表が露出するほどに衰退し、著しく牧養力が低下する。この様な状態の老廃草地は中標津町で2.000ha、別海村では8.000haも存在するという。この種牧野は利用組合などにより微収される経費はバラ線の補修経費にも満たず、草地の改良など及ぶべくもない。この結果は草地の悪化に拍車をかけることになる。従ってこのような荒廃牧野を如何に安価に草地造成し、飼料基盤を整備するかが重要課題である。本試験は、これら荒廃野草地の草地造成法を検討し、引き続いて放牧に供する場合の維持管理法を調査するため企画された。

2. 試験方法
 (1) 試験地  中標津町字上標津町有共同放牧地(摩周統火山灰土壌、平坦無立木地)
 (2) 試験区  プラウ区、デスク区、掃除刈区、表層無処理区、自然植生区
     造成:昭和38年7月
     造入草種:チモシ-、ケンタッキ-ブル-、レッドトップ、デジノクロ-バ-、白クロ-バ-
     土改資材:燐酸0.5t、石灰1.4t/ha
     施肥量:草地化成2号(日東)0.3t/ha
 (3) 試験実施方法
  ア)昭和39年度
   1区面積40aを2区分し、(各20a)若雄牛4頭で1区分7日間、計14日間放牧後、予備牧区で14日放牧させた。換言すれば28日間1周の方式となり、同一牧区へ輸換される日は21日目となる。4周実施、昼夜放牧
  掃除刈:施行せず
  追肥量:5月15日草地化成0.15t/ha及び萌芽期及び第2放牧期終了時に夫々K2O5kg/10a施用
  放牧開始:6月10日、終牧9月16日
  イ)昭和40年度
   1区面積を52aに拡げて4区分し(各13a)若雄牛2頭を1区分7日間の放牧とし、28日間1周の方式とした。放牧牛は固定し、昼夜放牧とした。
  掃除刈:施行せず
  追肥量:昭和39年に同じ(但し草地化成の追肥は実施せず)
  放牧開始:6月15日、終牧10月5日
 (4) 調査項目
  牧草生産量、採食量、供試牛の増体量、その他

3. 試験結果
 (1)草地荒廃放牧地の植生状態を調査し結果の概要は、無立木地でスゲ類が優先し、シロバナワレモコウ、キンミズヒキ、アキカラマツ、野生白クロ-バなどの群落がみられ、ミヤコザサは少なく、なおワラビ、タンポポ、オバコなどが侵入混生しており、また放牧によりもたらされた白クロ-バ、トモシ-がわずかにみられた。これらの草種はいづれも過放牧によって倭生化しており、草最盛期に於いても10a当たり250~750、平均450kgにすぎなかった。草地造成法の相違による試験区は次の通りとした。
 第1表 試験牧区造成のための作業内容
作業順序 作業内容 主作業機 副作業機
1 プラウイング< 35HPトラクタ-2台 18吋プラウ  1連
20HPトラクタ-1台 16吋プラウ  1連
2 デスキング< 35HPトラクタ-2台 18吋×24枚刃デスク
42HPトラクタ-1台 16吋×24枚刃デスク
3 石灰散布 42HPトラクタ-1台 トレ-ラ-、ブロ-ドキャスタ-
4 施   肥 人  力  
5 播   種 人  力  
6 鎮   圧 52HPトラクタ-1台 コンクリ-トロ-ラ-
7 掃除刈 42HPトラクタ-1台 モア-(7呎)

 第2表 試験区別
試験区別 実施した作業種別(第1表による)
プラウ区 1.2.3.4.5.6
デスク区   2.3.4.5.6   
掃除刈区     3.4.5.6.7
表層無処理区     3.4.5
自然植生区 作業工程なし

 第3表 草地造成作業に要した経費
区別・時間/
作業工程
プラウ
(円)
デスク
(円)
掃除刈
(円)
表層無処理
(円)
プラウイング 7.000  
デスキング 4.000 4.000  
鎮  圧 3.000 3.000 3.000  
掃除刈 2.500  
小 計 14.000 7.000 5.500
施肥播種(共通)土壌改良資材、肥料の価格と作業費36.910
合 計 50.910 43.910 42.910 36.910
  これによれば、プラウ区では所要経費は資材費を含めて50.910円となった。集約草地造成工程の場合は起土に先立って実施される障害物除去費の占める比率が高く、90.000円~100.000円を要するのが普通であるが、本試験地の造成は平坦、無立木地でかつ短草型雑草の植生であったので当該除去費が省略された形になっており、標準北海道施行費91.000円中の障害物除去に要する経費比率35%を差し引いた施行費59.000円をも下回ることになった。従って、簡易造成工法であるデスク区、掃除刈区は43.910円、42.910円と順に廉価となっった。(但し、昭和38年度における物価、労賃などで計算した。)根釧地方の荒廃野草地は本圃場のような平坦、無立木地の好条件ばかりでない。従って集約造成に際しては当然抜根などの障害物除去費を計上する必要があろう。一方、起土を伴わないデスク区などの簡易造成工法ではこの点がかなり軽減されるわけである。
 第4表 造成初年目秋の収量調査成績(40a当り)
項目/区別 全生草重
(kg)
内  訳(kg) 混生割合(%)
イネ科 マメ科 雑草 イネ科 マメ科 雑草
プラウ 10.180 7.140 1.216 70.1 29.9
デスク 11.080 9.610 900 228 86.7 8.1 5.2
掃除刈 9.350 2.010 380 6.390 18.6 9.7 71.7
表層無処理 8.730 650 500 6.383 7.5 14.1 78.4
自然植生 2.430 2.430 100.0

 第5表 造成2年目春の収量調査成績(40a当り)
項目/区別 全生草重
(kg)
内  訳(kg) 混生割合(%)
イネ科 マメ科 雑草 イネ科 マメ科 雑草
プラウ 3.200 3.024 176 94.5 5.1
デスク 3.372 1.768 576 1.028 52.4 16.9 30.6
掃除刈 2.904 1.236 172 1.496 42.6 5.8 51.6
表層無処理 2.464 576 144 1.744 23.5 5.6 70.9
自然植生 520 520 100.0
  これによれば、初年目秋において鉱質土壌面が露出されたプラウ区及びデスク区の牧草化率が高く、しかも雑草を抑制した。一方直接原植生地に播種した掃除刈および表層無処理区に、依然として雑草の競合を克服できないままに初年目を経過することになり、これらのじょうきょうは前に報告した試験の場合と同様であった。
 しかし、造成当初雑草率の高い簡易造成草地は越冬によって雪積による鎮圧と潤沢な水分供給などの好条件を自然界より付与され、その結果2年目の春季には雑草が駆遂されはじめ牧草用牧野は、集約、簡易造成地の区別なく造成2年目春より利用される可能性が強い現況である。この場合、一定期間計画的に放牧採食させるならば雑草を抑制し、かつ導入牧草の混生比率を高める筈であるから、広義の掃除刈りとして簡易草地造成法のしめくくり技術となりうるのである。しかし牧野における放牧方式の体系は、未開発に近い二で放牧期間中は無計画、無管理な連続放牧に終始し、多額な経費を投下した造成草地は直ちに荒廃する事となる。
 従って、今回は各種の工法によって造成した2年目の草地(この時点における草地造成作業はプラウ区を除いては未完成であって、造成技術の後半、即ち牧草同志間または雑草との競合調整が残されている)に対して家畜を放牧し、造成作業をほぼ完結させつつ同時に維持管理作業への移行を円滑化させる方法を見出すため放牧試験を実施した。

 (2) 造成草地に家畜を放牧した場合の草生産量
 第6表 放牧試験結果の総括表(kg/40a)造成2年目
区別 項目/放牧期 再生草 A
有効利用草
B
残  草
C
採食量
1日1頭
採食量
1日平均
増体量
プラウ 第1期   3.031 767 2.264 40.4 086
2 3.240 4.007 1.316 2.691 48.0
3 2.492 3.808 805 3.003 53.6
4 654 1.459 1.459 33.1
デスク 1   3.324 1.215 2.109 37.6 0.50
2 2.613 3.825 1.120 2.708 48.3
3 2.156 3.276 495 2.781 49.6
4 956 1.451 1.451 32.9
掃除刈 1   2.767 1.120 1.647 29.4 0.44
2 2.757 3.877 1.450 2.427 43.3
3 2.256 3.706 1.115 2.591 46.2
4 496 1.611 1.611 50.5
表 層
無処理
1   2.500 875 1.625 29.0 0.42
2 2.253 3.128 625 2.503 44.6
3 2.516 3.141 790 2.351 41.9
4 602 1.392 1.392 43.5
自然植生 1   505 60 445 27.8 0.36
2 1.237 1.297 1.297 23.1
3 889 889 889 31.7
4 82 82 82 20.5
  注) A=B+C

 第7表 TDN、DCP摂取量(kg/1日1頭)
項目/区別 T.D.N D.C.P
プラウ区 1 5.51 1.07
2 9.48 1.25
3 5.67 0.83
4 4.02 0.59
デスク区 1 4.30 1.07
2 6.19 1.26
3 5.34 1.10
4 3.70 0.68
掃除刈 1 3.26 0.69
2 5.79 1.08
3 5.64 1.07
4 6.34 1.12
表 層
無処理
1 3.14 0.60
2 4.83 0.89
3 4.44 1.08
4 5.28 1.00
自然植生 1 3.22 0.56
2 2.85 0.48
3 3.46 0.61
4 2.25 0.50

 第8表 造成3年目放牧試験総括表(kg/50a)
区 別 項目/放牧期 再生草

(kg)
有効
利用草
(kg)
残草

(kg)
採食草

(kg)
採食量

(kg/頭・日)
増体量

(kg)
プラウ区 1 3.396 3.396 1.165 2.231 39.83 42
2 3.191 4.356 1.928 2.428 43.35 14
3 2.545 4.473 1.912 2.561 45.73 23
4 2.018 3.930 1.037 2.893 51.66 16
11.150 16.155 6.042 10.113 45.14 95
デスク区 1 5.381 5.381 3.176 2.205 39.37 61
2 3.398 6.574 4.030 2.544 45.42 16
3 1.980 6.010 3.340 2.670 47.67 32
4 1.791 5.131 2.094 3.037 54.23 15
12.550 23.096 12.640 10.456 46.67 124
掃除刈 1 4.977 4.977 2.084 2.173 38.80 48
2 3.143 5.947 3.212 2.753 48.83 16
3 1.557 4.796 2.181 2.588 46.21 22
4 2.779 4.960 2.026 2.934 52.39 26
12.456 20.653 10.223 10.430 46.56 111
表 層
無処理
1 5.368 5.368 3.201 2.167 38.69 56
2 2.162 5.363 2.770 2.593 46.30 21
3 1.862 4.632 1.831 2.801 50.01 9
4 2.183 4.014 1.304 2.710 48.57 11
11.575 19.377 9.106 10.271 45.85 97
自然植生 1 1.081 1.081 1.081 (19.31)  
2 991 991 991 (17.69)  
3 595 595 -  595 (10.62)  
4            
2.667 2.667   2.667 15.87  

 第9表 TDN、DCP摂取量(kg/1日1頭)
項目/区別 T.D.N D.C.P
プラウ区 1 5.87 0.80
2 6.12 0.86
3 7.42 1.25
4 6.66 1.18
デスク区 1 4.14 0.77
2 6.30 1.11
3 9.60 1.27
4 6.85 1.14
掃除刈 1 3.35 0.71
2 6.57 1.42
3 9.35 1.39
4 6.73 1.52
表 層
無処理
1 3.51 0.91
2 7.42 1.11
3 9.62 1.61
4 6.89 1.41
自然植生 1 3.05 0.75
2 2.82 0.69
3 1.71 0.25

 第1図 生草収量の年次別変遷(t/ha)


 第2図 混生比率年次別変遷

  造成2年目の成績によれば、早春第1放牧期ではプラウ区のように播種床を丁寧に仕上げるほど牧草化率が高く、簡易にするほど雑草の混入が顕著でこの傾向は増体量に反映した。導入牧草の再生に必要な適当な休息期間を与える放牧法を採ることによって第2放牧期以降はデスク区、掃除刈区の順に従ってプラウ区に匹敵するような草生状態となった。しかし表層無処理区のみは終牧時においても雑草混生比率が若干高いことから第3年目に至って造成が終了するであろうことを示唆した。第3年目は牧草の調査各項目ともデスク区などの簡易造成工程群はプラウ区を上回るほどになり放牧牛の増体量もほぼ同様の傾向を示すに至った。マメ科牧草の混生比率は各区とも40~50%を示し、2年目で認められたような造成処理別の顕著な差は認められなかった。
 雑草率は、デスク区は2年目前半、掃除刈区は2年目後半、表層無処理区は3年目春季で10%以下を示しいづれも簡易造成工法でありながら、牧草と雑草の生育競合を計画的な放牧採食によって調整しつつ、草地化を完結しえた。
 ここにいう計画的な放牧採食とは、21日間の再生に要する期間を牧草に与える方法である。(農業技術普及資料第8巻第5号、低コスト放牧草の造成維持管理法根釧農試成績参照)しかし、造成過程中の草地で慣行の連続放牧をするとすれば、放牧中は混生比の少ない牧草をとくに選択採食することになり、従って草地造成の目標時期から後退若しくは逆に直ちに荒廃する。
 以上のことから、適切な利用をしながら造成するのが簡易草地造成法であるといってよいであろう。