【普及奨励事項】
馬の早期繁殖に関する研究
道立新得畜産試験場

1. 試験目的
 従来雌馬の繁殖供用開始年令は明4才(34~36カ月)とされている。しかし近年著しく馬格が向上し、下表に示すとおり発育が良好になっており、明3才において過去の明4才程度の状態を示すものも少なくないので、馬飼養の経済性を高めるために、従来の観念を改め、早期繁殖供用の可否について試験した。

 年度別繁殖開始時の発育数値
測尺/区分 体重 体高 胸囲 管囲 体長 胸深 胸巾 腰角巾 頭数 摘要
大正15~昭19年 521.8 154.1 182.7 21.1 3カ月令
昭23年~昭32年 679.0 154.3 210.1 23.7 170.2 49.4 62.0 20頭
昭36年  3才群 666.0 154.8 202.0 23.3 167.1 74.0 45.4 59.1 6頭 23~25カ月令
昭38年  3才群 712.4 159.2 210.2 24.0 172.2 78.8 47.2 61.0 5頭 23~24カ月令
昭39年  3才群 755.0 161.4 214.0 24.0 175.0 78.0 46.8 62.6 5頭 22~25カ月令
昭40年  3才群 734.3 161.3 212.3 24.0 175.7 78.0 48.3 62.0 3頭 24~25カ月令
3才群平均 712.6 158.9 209.0 23.8 175.9 77.0 46.7 60.5 19頭   


2. 試験方法
 (1) 試験期間
  昭和36年4月~昭和40年12月
  昭和37年は3才繁殖を行わなかった。
 (2) 試験材料
  試験期間に供試した頭数は3才雌馬19頭、4才雌馬11頭、交配種雌馬5頭で、これを年度別に示すと次表のとおりである。

 年次別供試頭数
年度別/
区 分
36年 38年 39年 40年
3才群 6頭 5頭 5頭 3頭 19頭
慣行群(4才馬) 6頭 5頭 11頭
交配種雌馬 2頭 1頭 1頭 1頭 5頭
 (3) 試験方法
  慣行4才馬の交配は昭和36年と38年のみ行ったが、3才雌馬は試験期間中毎年実施し、翌年4才時までその経過を調査した。
 試験項目は供試全頭に対し交配、発情微候、種付、受胎、分娩、産仔の発育、繁殖について、それぞれ3才馬群と慣行才馬群とを比較した。
 また供試群の飼養管理は当場の規律に従った。

3. 試験成績
 (1) 発情微候及び交配成績
  試験に供試した3才馬の発育微候は慣行4才群に比較しほとんど差はなかった。発情周期の回数は3才群が多かったが、ほとんど差がなかった。
 (2) 受胎及び生産成績
  受胎成績は3才群が84.2%、慣行4才群は90.9%であり3才群が低かった。しかし当場の最近15カ年間の受胎率は77.9%で、3才群が特に低かったといえない。生産成績も同様に3才群は68.8%、慣行4才群は72.2%で4才群が僅かに良かったが、当場成馬の平均は67.2%なので両群ともうわまわっている。

 受胎及び生産成績表
区  分 周期別受胎頭数 受胎
(%)
分娩区分 産仔数 生産
(%)
在胎
日数
1周 2周 3周 4周 正産 難産 流死産
3才群 種付数 8 6 1 4 19 84.2 72.8 333.5
受胎数 7 5 1 3 16 11 2 8 4 11
慣行群 種付数 8 2 1 11 90.9 72.2 327.4
受胎数 8 2 0 10 7 1 2 4 4 8
  備考) 3才群らんの受胎数計16頭中3頭は40年の受胎馬なので生産率には含まない。
    従来早期繁殖馬は翌年度の受胎が困難とされたが差はなかった。

 翌年受胎及び生産成績
区  分 周期別受胎頭数 受胎
(%)
分娩区分 産仔数 生産
(%)
在胎
日数
1周 2周 3周 4周 正産 難産 流死産
3才群 種付数 8 6 2 16 81.25 8 72.8 333.5
受胎数 8 5 16 8 1 4 4 11
慣行群 種付数 6 2 2 10 90.0 66.7 337.3
受胎数 6 2 1 9 6 2 5 1 6
  備考) ⅰ)早期群生産%は種付頭数16頭中、40年に交配したもの5頭は分娩していないので除き種付11数頭として%を出した。
       ⅱ)慣行群生産%は母馬売却(受胎確認の上)1頭があったので種付数10頭を9頭として%を出した。

 (3) 早期繁殖によって生産された仔馬の発育
  早期繁殖によって生産された仔馬の発育も標準発育を示している。

 3才馬群産仔及び慣行馬群仔平均発育値
月別 性別 区分
(頭数)
体重 体高 胸囲 管囲 体長 胸深 胸巾 腰角巾


A(8) 68.8 101.8 87.7 15.3 77.3 33.3 23.8 24.1
B(4) 65.1 99.3 87.6 15.1 74.3 33.4 23.0 23.5
A(3) 68.1 100.3 88.0 15.4 77.3 33.3 22.5 24.3
B(4) 63.7 98.3 85.4 15.1 74.2 33.3 23.4 24.0
3

A(7) 230.4 124.7 135.7 19.1 116.1 49.4 35.1 36.0
B(4) 209.5 121.5 129.5 18.8 110.3 49.3 34.9 35.1
A(3) 212.7 121.7 126.0 18.9 113.3 49.0 34.5 35.2
B(4) 213.5 122.3 132.0 18.4 112.3 49.8 34.3 35.1
6

A(7) 322.8 135.2 153.5 21.4 132.8 57.0 38.7 41.7
B(4) 305.8 132.3 150.3 20.0 126.5 56.3 38.0 41.1
A(3) 328.0 133.7 148.7 20.6 133.3 57.3 38.7 43.0
B(4) 321.0 132.0 152.3 20.0 128.0 56.8 37.5 41.3
15

A(3) 569.7 153.7 189.0 25.3 166.3 70.7 45.0 53.3
B(4) 545.3 150.0 185.8 23.8 159.8 70.1 44.8 53.4
A(1) 566.0 153.0 188.0 25.2 168.0 68.0 45.0 54.0
B(2) 550.3 149.8 185.5 23.6 161.0 68.5 42.5 52.0
18

A(3) 661.7 157.3 200.3 26.4 171.3 70.3 47.3 55.8
B(4) 618.8 154.8 196.3 24.8 166.8 73.8 46.3 56.8
A(1) 655.0 155.0 200.0 26.3 168.0 72.0 47.0 59.0
B(2) 640.0 151.5 195.0 24.2 167.0 71.0 43.5 54.8
  記号  A-3馬産仔  B-慣行馬産仔

4. 試験成果のまとめ
 従来馬の繁殖は4才より実施していたが発育のよい馬は3才で繁殖に供しても4才慣行馬と比較して繁殖成績、仔馬、母馬の発育などもほとんど差がないので、飼養管理に留意し発育をよくし3才で繁殖に供することは馬飼養の経済性を高めることになる。
 注意事項としては発育のよいものを選定すること分娩後馬の飼養管理に注意することなどである。