【指導参考事項】
潅水直播田における苗腐病の防除に関する試験成績
(昭和38年~40年)
道立中央農試稲作部
道立中央農試病虫部
道立上川農試

Ⅰ 総括
 苗腐病に対する防除法を本田、本田内木枠、ベット、バットおよびポットなどで検討した結果を総括すると次ぎの通りである。
 1. 23種以上の農薬について検討した結果、キャプタンク水和剤および、キャプタン特殊加工粉衣剤の着菌防止力はもっともまさった。
 2. 使用法は種籾の予浸後水をきり、キャプタン剤を粉衣する。
 3. 粉衣量は粉衣時における籾重量の0.3~0.5%の薬量(浸種前の籾重量に対しては0.4~0.6%)を均一に粉衣する。
 4. キャプタン剤の着菌防止力の持続期間は2週間以上3週間以内とみられた。
 5. キャプタン剤の粉衣で種籾の浮上をかなり防止できる。(OEDグリ-ンよりやや劣る)。
 6. キャプタン剤の粉衣で藻類の着生(種籾)を防止でき、その有効期間はおおよそ2週間以上とみられた。
 7. 予浸期間の短い方(5日間前後)がながい(10日間以上)ものより着菌率の低いことが多かった。また河川での浸種中における菌の感染は一般的には少なかった。

Ⅱ 使用上の注意
 1. 予浸2~3日目に水銀剤による種籾消毒を実施すること。
 2. 催芽籾に粉衣すると薬害を生ずることがあるので、無催芽籾に粉衣すること。
 3. 無催芽籾に粉衣した場合でも浮根をやや多く生じた例もあったが、一般にはほとんど薬害はみられなかった。
 4. 薬剤の粉衣後は過度の乾燥をさけて播種すること。

Ⅲ 試験成績
 1. 本田における苗腐病防除試験成績
  (1) 道立中央農試病虫部成績(昭和38年度)
   ア 試験方法
    (ア) 試験場所 道立中央農試ほ場
    (イ) 浸種場所 手稲町西野の灌漑水路
    (ウ) 浸種日数 4日間、10日間
    (エ) 播種月日 5月20日
    (オ) 播種密度 30.3×15.2cmの点播
    (カ) 播種量   10a当り12kg
    (キ) 播種時の菌の浸入率 4日間…0%
                     10日間…4.8%
    (ク) 試験区制 3反復乱塊法
    (ケ) 発芽期   4日間、10日間浸種区とも5月22日
    (コ) 調査月日 第1回(5月27日)
              第2回(6月6日)
              第3回(6月23日)
              第4回(6月27日)
    (サ) 調査方法 網で籾を土とともにすくい上げ、その全粒について調査した。
    (シ) 供試薬剤及び用方法
薬 剤 名 有効成分(%) 使 用 方 法
チウラム剤 (粉 剤) 50 浸種後適度に水を切り乾燥種子重量の0.5%を播種前に粉衣
キャプタン剤(水和剤) 50
ジクロン剤 (水和剤) 50
MMC  (ウフプルン) Hg2.5 1.000倍液24時間浸漬

   イ 試験結果
調査
回数
浸漬
日数
薬 剤/
項 目
チウラム剤 キャプタン剤 ジクロン剤 MMC 平均 備  考

1

調

(播

7

目)
4

供 試 数 140.7 192.0 161.0 103.7 149.4  
着 菌 率 7.0 0.7 0 10.7 4.6
無着菌発芽率 97.0 96.2 95.1 92.9 95.3
10

供 試 数 86.7 88.3 112.0 76.7 90.9  
着 菌 率 7.8 3.5 3.1 10.1 6.1
無着菌発芽率 94.4 96.4 96.3 95.1 95.6

1

調

(播

7

目)
4

無着菌草丈 2.9cm 2.6 2.8 3.2 2.9 無着菌の調査
個体は各30
個体
同 根 数 20本 2.2 2.0 2.3 2.1
着菌草丈 2.1cm 2.0 2.2 2.7 2.3
同 根 数 1.3本 1.2 1.6 1.5 1.4
10

無着菌草丈 2.5 2.6 2.1 3.0 2.6 同左
同 根 数 1.8 1.7 1.5 2.1 1.7
着菌草丈 1.7 2.7 1.6 2.2 2.1
同 根 数 1.1 1.5 1.1 1.6 1.3

3

調

(播

24

目)
4

供 試 数 73.0 76.3 92.3 79.7 80.3  
着 菌 率 28.1 19.2 21.6 32.4 25.3
無着菌発芽率 94.4 94.4 78.3 81.7 87.2
全体の良苗率 70.3 70.6 49.2 56.9 61.8
10

供 試 数 80.0 91.3 82.0 99.0 88.7  
着 菌 率 30.8 23.7 40.9 39.7 33.8
無着菌発芽率 89.7 91.6 87.9 76.2 86.2
全体の良苗率 53.5 57.5 49.3 44.6 51.2
  注) ほ場の都合で無処理を設定できなかった。

  (2) 道立中央農試稲作部成績(昭和39年度)
町 村/
項 目
A 石狩町 B 新篠津村 C 岩見沢市 D 北 村 E 新十津川町
供試品種 ウリュウ ウリュウ ウリュウ ウリュウ ウリュウ
栽培方法 39×15cm点播
慣 行 法
3×136cm点播
慣 行 法
39cm点播
慣 行 法
36×13.6cm点播
慣 行 法
36×13.6cm点播
慣 行 法
播 種 期 5月18日 5月17日 5月13日 5月24日 5月13日
面積及び区制 32m22反復 30m22反復 20m22反復 80m22反復 33m22反復
播 種 量 10a当18L 10a当18L 10a当18L 10a当18L 10a当17L

  (ア) 供試薬剤及び使用方法
1 無処理
2 チウラム 0.3% チウラム(特殊加工粉衣剤)50% 播種直前0.3%粉衣
3   〃   0.5%   〃  (     〃    )〃    〃  0.5  〃
4 キャプタン0.3% キャプタン(    〃    )〃    〃  0.3  〃
5   〃   0.5%   〃  (     〃    )〃    〃  0.5  〃
6 MMC(ウルプルン)MMC(Hg2.5%)1.000倍播種直前時間浸漬

  (イ) 調査方法
  30×15×5cmの網底の枠に各処理に100播種しておき播種後15日目に引き上げて夫々発芽並びに着菌歩合を調査した。生育状況は播種後1カ月目に任意1株について草丈、茎数を調査した。

   イ 試験結果
項目 区  別 石狩 新篠津 岩見沢 北村 新十津川 平均



1. 無処理 23.6 7.4 1.7 0 2.9 7.1
2. チウラム 0.3% 9.6 2.2 3.6 0 2.0 3.5
3.   〃   0.5% 22.3 5.6 1.8 0 1.7 6.3
4. キャプタン 0.3% 0 1.0 1.0 0 1.1 0.6
5.   〃   0.5% 0.5 1.0 0.5 0 0 0.4
6. MMC1.000倍15時間 9.9 0.5 5.1 1.6 3.4 4.1





1. 無処理 39.7 82.5 96.0 89.4 90.3 79.6
2. チウラム 0.3% 41.4 92.6 96.5 89.1 94.1 82.7
3.   〃   0.5% 36.5 92.1 96.1 94.0 96.1 88.3
4. キャプタン 0.3% 76.0 95.5 97.4 93.5 85.4 89.6
5.   〃   0.5% 87.5 91.2 99.0 83.8 95.0 91.3
6. MMC1.000倍15時間 76.7 79.2 97.5 93.8 92.2 87.9






1. 無処理 58.3 14.9 1.6 3.4 8.6 17.4
2. チウラム 0.3% 56.6 5.9 1.6 3.0 7.3 14.9
3.   〃   0.5% 60.5 6.4 2.3 0.6 3.0 14.6
4. キャプタン 0.3% 22.0 3.6 1.0 12.4 3.9 8.6
5.   〃   0.5% 10.0 6.7 1.1 4.0 7.1 5.8
6. MMC1.000倍15時間 22.3 17.8 1.0 3.4 4.2 9.7




1. 無処理 98.0 97.4 97.6 98.0 93.7 96.7
2. チウラム 0.3% 98.0 98.4 98.1 96.4 97.1 97.6
3.   〃   0.5% 97.0 98.4 98.3 97.0 96.7 97.5
4. キャプタン 0.3% 98.0 99.1 98.5 97.4 97.7 98.1
5.   〃   0.5% 97.5 97.9 100 90.9 99.0 97.1
6. MMC1.000倍15時間 99.0 97.0 98.0 98.0 91.0 96.9




1. 無処理   8.8   11.6 10.9 10.4
2. チウラム 0.3%    9.9   12.3 10.7 11.0
3.   〃   0.5%   10.5   11.8 11.1 11.1
4. キャプタン 0.3%   10.5   12.1 11.2 11.3
5.   〃   0.5%   10.5   11.4 10.5 10.8
6. MMC1.000倍15時間   10.3   11.9 10.0 10.7




1. 無処理   8.8   4.2 10.9 8.0
2. チウラム 0.3%   11.7   6.6 12.1 10.4
3.   〃   0.5%   11.6   5.5 12.6 9.9
4. キャプタン 0.3%   15.0   5.9 13.9 11.6
5.   〃   0.5%   13.9   5.8 12.8 10.8
6. MMC1.000倍15時間   12.2   5.0 14.5 10.6

  (3) 道立上川農試成績(昭和39年度)
   ア 試験方法
    (ア) 試験場所 上川農試ほ場
    (イ) 供試品種 フクユキ
    (ウ) 予浸日数 5日間および10日間
    (エ) 区   制 1区6m2 3区制
    (オ) 薬剤処理方法 乾燥もみ重量の0.5%粉衣、ただしMMC1000倍液24時間浸漬、なお種子粉衣前にOEDグリ-ン100倍液に浸漬した。
    (カ) 播種月日 5月14日

   イ 試験結果
調査月日 浸播期間 区 別 調査
粒数
発芽粒 不発芽粒 発芽率 発芽着
菌率
不発芽
着菌率
全着
菌率
無着
菌粒
着菌粒
無着
菌粒
着菌粒
5月21日
(播種7日目)
5日間 キャプタン 92.0 90.0 0.3 1.7 0 98.2 0.4 0 0.4
チウラム 78.7 76.0 0 2.7 0 96.2 0 0 0
MMC 81.0 79.0 0.3 1.7 0 97.9 0.4 0 0.4
無処理 74.0 70.0 2.0 0.3 1.7 97.1 2.6 2.3 4.8
10日間 キャプタン 79.7 78.3 0 1.3 0 88.4 0 0 0
チウラム 93.0 87.7 1.0 3.7 0.7 95.4 3.9 3.6 7.5
MMC 82.7 80.7 0.7 1.3 0 98.4 0.8 0 0.9
無処理 91.0 88.0 0 2.3 0.7 96.8 0 0.7 0.7
5月28日
(播種14日目)
5日間 キャプタン 80.7 79.0 0 1.7 0 97.8 0 0 0
チウラム 78.7 70.3 5.3 1.7 1.3 96.1 6.4 2.2 8.2
MMC 93.7 73.0 17.0 1.3 2.3 96.0 19.0 2.6 21.7
無処理 84.3 63.7 16.3 1.0 3.3 94.8 22.4 4.4 23.3
10日間 キャプタン 92.0 85.3 5.3 1.3 0 98.5 6.3 0 6.3
チウラム 104.0 84.0 17.3 1.7 1.0 97.5 16.5 0.9 17.7
MMC 93.3 73.0 17.0 2.0 1.3 96.6 18.5 1.4 23.2
無処理 60.6 76.0 17.3 1.7 0.7 97.6 18.9 0.7 19.0
6月4日
(播種21日目)
5日間 キャプタン 89.0 59.3 27.0 2.7 0 97.1 30.4 0 30.4
チウラム 89.3 53.7 32.3 2.0 1.3 96.3 35.9 1.6 37.4
MMC 81.3 36.7 41.0 2.0 1.7 95.6 50.4 2.2 52.6
無処理 82.0 35.0 42.7 4.0 0.3 94.7 52.2 0.4 52.6
10日間 キャプタン 73.3 40.0 32.0 0.3 1.0 98.2 43.1 1.4 44.5
チウラム 79.0 27.0 50.7 0.7 0.7 98.2 64.0 0.9 64.9
MMC 84.3 25.0 53.7 0.7 5.0 93.3 63.4 5.8 69.2
無処理 87.7 30.0 54.0 1.7 2.0 95.8 61.4 2.3 63.8
平   均 5日間 キャプタン 87.2 76.1 9.1 2.0 0 97.7 10.3 0 10.3
チウラム 82.2 66.6 12.5 2.1 0.9 96.2 14.1 1.3 17.6
MMC 85.3 62.9 19.4 1.7 1.3 96.5 12.4 1.6 24.9
無処理 80.1 56.2 23.3 1.8 1.8 95.5 18.3 2.2 26.9
10日間 キャプタン 81.7 67.9 12.4 1.0 0.3 95.0 16.5 0.5 16.9
チウラム 92.0 66.2 23.0 2.3 0.8 97.0 28.1 1.8 30.0
MMC 86.8 59.6 23.8 1.3 2.1 96.1 27.6 2.4 31.1
無処理 79.8 64.7 23.8 1.9 1.1 96.7 26.8 1.2 27.8

 2. 催芽の有無と薬害との関係
  (1) 道立中央農試病虫部成績(昭和40年度)
   ア 試験方法
    (ア) 試験場所 道立中央農試ほ場
    (イ) 木枠の大きさ 水田の中に30.3×60.6×15.2cmのそこなしの木枠を埋めて試験した。
    (ウ) 供試品種 石狩白毛
    (エ) 予浸期間 6日間
    (オ) 予浸期間の水温 10℃(無催芽)  20℃(催芽…約0.1~0.5mm)
    (カ) 播種月日 7月9日
    (キ) 供試薬剤 キャプタン(水和剤及び特殊加工粉)、チウラム及びMMC
    (ク) 試験区制 3反復 乱塊法
    (ケ) 調査月日 第1回7月20日(11日目)
              第2回7月27日(18日目)

   イ 試験結果
  (ア) 第1回調査(7月20日)
項      目/
薬剤催芽有無
供試数 着菌率 無着菌
発芽率
同 左
発根率
無着菌
草丈 根数
キャプタン
(水和剤)
無催芽 124.7 0.3 80.6 59.6 4.2 3.1
催 芽 130.0 0.9 92.1 79.8 3.8 3.8
キャプタン
(特殊加工粉)
無催芽 124.0 0.7 95.9 90.5 4.9 3.5
催 芽 144.3 0 87.4 76.2 4.3 3.3
チウラム
(  〃  )
無催芽 115.3 2.8 98.2 92.5 4.7 3.5
催 芽 130.0 1.6 90.5 86.7 4.2 3.4
MMC 無催芽 105.0 0.6 93.2 83.3 5.0 3.7
催 芽 113.7 2.2 91.8 55.3 3.8 2.1
無処理 無催芽 95.7 1.7 79.6 81.0 5.0 3.8
催 芽 141.3 1.5 94.8 87.2 5.7 3.7
平  均 無催芽 112.9 1.2 91.5 81.4 4.8 3.5
催 芽 131.9 1.2 91.3 77.0 4.4 3.4

  (イ) 第2回調査(7月27日)
項      目/
薬剤催芽有無
供試数 着菌率 無着菌
発芽率
同 左
発根率
無着菌
草丈 根数
キャプタン
(水和剤)
無催芽 96.3 0.8 86.0 82.9 9.5 6.0
催 芽 87.0 1.2 83.8 79.3 10.4 6.4
キャプタン
(特殊加工粉)
無催芽 71.7 0 89.7 83.2 10.5 6.2
催 芽 84.3 0 91.6 89.6 9.8 6.3
チウラム
(  〃  )
無催芽 99.7 0 96.2 94.6 11.1 6.1
催 芽 59.7 0 93.9 92.9 10.7 6.0
MMC 無催芽 100.0 0.7 92.0 87.2 12.2 6.9
催 芽 111.7 0 64.4 60.8 10.3 6.6
無処理 無催芽 98.7 0 89.3 86.6 11.6 6.6
催 芽 95.0 0.8 90.9 87.1 11.8 7.3
平  均 無催芽 93.3 0.3 90.6 86.9 11.0 6.4
催 芽 87.5 0.4 84.9 81.9 10.6 6.5

  3. 薬剤の種子粉衣による種籾浮上防止試験
  (1) 道立中央農試病虫部成績(昭和40年度)
   ア 試験方法(シャ-レを使用)
    (ア) 供試品種 農林20号
    (イ) 予浸期間 40日間(10℃)
    (ウ) 供試薬剤及び処理方法 各薬剤を乾燥種子重量の0.5%粉衣及びOEDグリ-ン100倍液浸漬
    (エ) 試験時の籾の含水率 無処理38.6% OEDグリ-ン区42.2%(第2回調査時も同じ)
    (オ) 試験区制 3反復

   イ 試験結果
試験
年次
薬 剤/
項 目
キャプタン
(水和剤)
キャプタン
(特加粉)
チウラム
(特加粉)
OEDグリ-ン
(100倍液)
無処理
第1回 供試数 120.0 97.0 83.0 114.0 107.0
浮上率 9.5 19.5 21.4 0 100.0
第2回 供試数 132.0 153.3 115.3 100.0 100.0
浮上率 10.2 49.5 49.9 0.3 100.0

  4. 藻類の種籾への着生防止力について
  キャプタン剤やチウラム剤を種籾に粉衣して播種すると、藻類の籾への着生を防止することが各場において観察されており、その有効期間はおおよそ2週間以上にわたるのもとみられた。

  5. 種籾の河川に浸漬中における着菌状態について
                    道立中央農試病虫部
  昭和39年と40年に市町村(空知・石狩・上川管内)における実態を調査した結果、浸漬中での最大の着菌は6.0%で、その他は3.0%以下であった。したがって一般的には播種後における着菌を防止することによって重点をおくことで十分と考えられた。