【指導参考事項】

大豆冷害年度産種子の生産力
十勝農業試験場

 -まえがき-
 昭和39年度の冷害は十勝地方において、豆類の収量を減少させたが、生産された子実に未熟粒が多かったために、次年度の種子不足が大きな問題となった。
 そこで、昭和39年度産の大豆の子実を節によって粒大別に分類して栽植し、生育や生産力にどのような差があらわれるか、また、どの程度までの粒大の子実が種子として使用することが可能であるかを調べた。

Ⅰ 供試材料および試験方法
 供試材料は第1表に示した通り、4品種および系統を用いた。品種を主試験区、粒大を副試験区とし、1区7.2m2で、3反復増法により実施した。

 第1表 供試材料
品種および系統名 試験区名 節目の直径
(mm)
1.000粒重(平年比)
(gr) (%)
粒大の分布
(粒数比%)
コガネジロ Ko-1 7.27~7.88 232.6(98.7) 3.8
Ko-2 6.67~7.27 190.1(80.2) 17.4
Ko-3 5.45~6.67 133.4(56.3) 59.9
   5.45以下    18.9
北 見 白 Ki-1 7.27~7.88 234.8(85.3) 20.1
Ki-2 6.67~7.27 195.1(70.9) 44.5
Ki-3 5.45~6.67 149.3(54.2) 35.4
ワセコガネ    7.27~7.88    4.6
Wa-1 6.67~7.27 194.6(91.3) 30.9
Wa-2 5.45~6.67 139.7(65.5) 60.0
Wa-3 5.45以下 84.3(39.5) 4.6
十育118号 118-1 7.88以上 310.6(100.0) 32.7
118-2 7.27~7.88 250.0(80.5) 46.6
118-3 6.67~7.27 203.3(65.5) 17.8
  5.45~6.67    2.9
  注) 昭和39年  初霜  9月24日   中程度降霜  9月28日
       〃     成熟期コガネジロ 10月27日、北見白 10月17日
                 ワセコガネ 10月18日、十育118号 10月15日

Ⅱ 試験結果
 1. 発芽率
  圃場における各品種および系統の粒大別の発芽率は第2表の通りであり、十育118号以外は、粒大-2、粒大-3は粒大-1に対し、やや劣る傾向はみられるが、その差は小さく分散分析の結果、Wa-1、2>Wa-3にのみ有意差が認められた。
 この結果、極端な未熟種子(平年比50%以下)を除いては発芽に関しては問題がないようである。
品種
および
系統
粒大-1 粒大-2 粒大-3
Ko 87.8(100) 85.4(97.3) 85.0(96.8)
Ki 83.7(100) 80.0(95.6) 79.8(95.3)
Wa 88.5(100) 83.0(93.8) 68.2(77.1)
118 74.6(100) 80.9(108.4) 76.0(101.9)
   L.S.D.5%=5.21
  ( ):粒大-1に対する比

 第1図 茎長の推移





 しかし、粒大-2は7月26日頃までに粒大-1に、ほとんど追いつき、粒大-3についても8月7日頃までに、Wa-3以外は粒大-1、粒大-2との差がほとんどなくなっている。
 乾物重は6月18日と7月26日の2回にわたり測定した。これらの結果を粒大-1を標準とし粒大-2、粒大-3の変化を第2図に示した。

 第2図 粒大別の生育中の乾物重の変化




調査期日
調査期日

 乾物重も茎長と同様の傾向を示し、6月18日には粒大-1に対し、粒大-2、粒大-3は明らかに劣っている。7月26日になると粒大-2は粒大-1とほとんど同じ程度になるが、118-3以外の粒大-3は7月26日に至っても粒大-1、粒大-2の70~80%を示すにとどまった。(第2図において、118-2が7月26日に118-1より重いのは118-1のサンプリング誤差によるものと思う。)
 以上の結果から、粒大の小さいものほど初期生育の悪いことが認められるが、生育が進むにつれて普通の粒大の生育に追いつき、粒大-2程度では、生育中期頃までに、おおよそ差がなくなる。しかし、粒大-3は7月26日の測定では、粒大-1、2に対する乾物重の差が茎長の差よりも大きいことは、生育が軟弱であることを示しているものと考える。

 3. 総重および子実重
  総重および子実重については第3表に示した。

 第3表 総重および子実重
品種
および
系統
総 重 子実重
粒大-1 粒大-2 粒大-3 粒大-1 粒大-2 粒大-3
kg % kg % kg % kg % kg % kg %
Ko 623.3 (100) 606.9 (97.3) 598.3 (96.0) 258.8 (100) 239.8 (92.7) 244.7 (94.6)
Ki 530.0 (100) 510.0 (96.2) 526.6 (99.4) 249.5 (100) 234.1 (93.8) 243.4 (97.6)
Wa 590.0 (100) 598.3 (101.4) 541.6 (91.8) 271.7 (100) 269.4 (99.1) 237.7 (87.5)
118 520.0 (100) 525.0 (101.0) 501.6 (96.5) 255.1 (100) 245.4 (96.2) 234.2 (91.8)
  注) ( ):粒大-1に対する比

 分散分析の結果、総重については、粒大間の有意差はいずれの品種にも認められなかったが、Wa-3がWa-2、2に比しやや低い傾向がみられた。子実重については粒大-1と粒大-2の間には有意差が認められなかったが、粒大-2、粒大-3はいずれも粒大-1に対し、やや低い傾向を示し、とくにワセコガネにおいては粒大間にWa-1、2>Wa-3のように有意差が認められた。十育118号の118-1と118-3の間には有意差に近い値がえられた。
 以上の結果から粒大-2、粒大-3はいずれも粒大-1に対し減収する傾向を示すが、とくに粒大-3においては、減収の危険性大になることが認められた。

 4. 1.000粒重、着莢数
  子実収量を構成する形質のうち1.000粒重、着莢数を第4表に示した。
 1.000粒重については分散分析の結果、粒大間に有意差は認められなかった。着莢数については粒大-2、粒大-3がいずれの品種についても粒大-1よりも、やや低い傾向を示し、Wa-2>Wa-3、118-1>118-3については有意差が認められた。

 第4表 1.000粒重および着莢数
品種
および
系統
総 重 子実重
粒大-1 粒大-2 粒大-3 粒大-1 粒大-2 粒大-3
kg % kg % kg % kg % kg % kg %
Ko 231.8 (100) 237.3 (102.4) 235.1 (101.4) 66.0 (100) 63.7 (76.5) 63.4 (96.1)
Ki 256.2 (100) 255.7 (99.0) 257.7 (100.6) 70.9 (100) 69.0 (97.3) 70.1 (98.9)
Wa 225.9 (100) 222.1 (98.3) 214.3 (94.9) 71.4 (100) 69.6 (97.5) 65.6 (91.9)
118 328.7 (100) 325.6 (97.1) 322.9 (98.2) 53.9 (100) 50.1 (92.9) 46.0 (85.3)
   L.S.D.5%=4.4

 この結果、粒大-3における子実重の減少は、主として着莢数の減少に起因しているものと考える。

Ⅲ むすび
 冷害年度産の同一品種内で粒の大きさによって3段階に分類した種子の生育と収量を調べた結果は次ぎのよう要約できる。
 1. 初期生育については中粒種子(粒大-2)は生育の中期(発芽後50~60日)で大粒種子(粒大-1)に近づく。ただ小粒種子(粒大-3)は中粒種子よりも遅れて大粒種子の生育に近づく。
 2. 1000粒重については粒大間の差はほとんど認められなかった。
 3. 総重については粒間の差は小さいが着莢数は大粒>中粒>小粒の順に減少する傾向を示した。
 4. 子実収量ではワセコガネのみ、その他の品種では粒大間の有意差はみられなかった。
 これらの結果から冷害年度の粒の大小による収量の差は実際上大きなものではないが、大、中粒をえらんで安全を期すべきである。
 そして、大、中粒をえらんで播種した場合、ほとんど平年産の種子に近い収量をあげるものと思われる。