【指導参考事項】
種子粉衣剤によるタネバエ防除試験成績
北海道農業試験場
北海道立十勝農業試験場
  〃   北見農業試験場
  〃   道南農業試験場

Ⅰ 普及上の要点
 タネバエの防除法として、従来アルドリン、ヘプタクロ-ルなどの有機塩素剤の作条施用が奨励されていたが、近年これら有機塩素剤の効果の劣る事例が見られ、これに対してはECP、ダイアジノン、メカルバムなどの有機燐剤の作条施用の有効なことが確認されている。その後の試験の結果、燐剤の種子粉衣も有効なことを認めたので、有機塩素剤の効果の劣るいったいでは、ECP・TMTD粉衣剤の種子粉衣はECPダイアジノン粉剤の作条施用と同様の効果があることが確認された。粉衣量は重量比で乾燥種子の0.3~0.5%が適当である。
 有機塩素剤の有効な場所では、アルドリンまたはヘプタクロ-ル種子粉衣剤を使用して差し支えない。

Ⅱ 試験調査成績
 1. 試験方法
  供試作物 菜豆
 播種前日作条に魚粕をまいて成虫を誘引し、翌日播種した。粉衣方法は乾燥種子あるいはわずかに湿らせた種子を腰高シャ-に入れて、これに薬剤をふりかけ、充分振って粉衣した。
 調査は播種後20日目頃全株を掘り取り、被害程度別に分けて算え被害率を算出した。
 2. 試験結果
 北海道農業試験場
 (1) 39年(春)
供試薬剤 薬量 種子 被害率(%)
平均
ECP・TMTD粉衣剤
(20%、30%)
0.3% 湿 33.0 37.0 38.0 36.0
0.5 湿 33.0 34.0 40.0 35.7
0.5 26.0 34.0 24.0 28.0
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
(20%、20%)
0.3% 湿 79.0 84.0 97.0 86.7
0.5 湿 80.0 91.0 94.0 88.3
0.5 93.0 81.0 99.0 91.0
ECP3%粉剤 3kg 作条 37.0 23.0 30.0 30.0
無 処 理 94.0 90.0 86.0 90.0
  注) 1区5m2 3連制。品種「金時」。5月22日播種。6月17日調査。被害率は生育に支障のあるもので、食痕程度の軽被害は健全に含めた。

 (2) 昭和39年(秋)
供試薬剤 薬量 被害率(%)
作条 粉衣 平均
ECP3%粉剤
(作条単用)
1 13.0 13.0 11.0 12.3
3 16.0 15.0 7.0 12.7
5 12.0 10.0 12.0 11.3
ECP3%粉剤
ECP・TMTD粉衣剤
(作条・粉衣併用)
1 0.3 14.0 16.0 9.0 13.0
3 0.3 9.0 9.0 17.0 11.7
5 0.3 15.0 9.0 17.0 11.7
ECP・TMTD粉剤 0.3 18.0 15.0 15.0 16.0
無 処 理 87.0 71.0 76.0 78.0
  注) 粉衣剤は前試験と同じもの使用。9月1日播種、11日調査。他は前試験と同じ。

 (3) 昭和40年(夏)
供試薬剤 薬量 種子 被害率(%)
平均
ECP・TMTD粉衣剤
(20%、30%)
0.5% 9.0 17.0 10.0 12.0
0.5 湿 13.0 15.0 11.0 13.0
ヘプタクロ-ル・TMTD
(20%、30%)
0.5 76.0 77.0 74.0 75.7
0.5 湿 84.0 82.0 80.0 82.0
ヘプタクロ-ル2.5%粉剤
ECP3%粉剤
3kg 作条 77.0 91.0 82.0 83.3
3 19.0 39.0 15.0 24.3
無 処 理 99.0 93.0 94.0 95.3
  注) 1区4m2、7月20日播種、8月5日調査。幼虫密度104頭(10株当り)

 (4) 昭和34年〔参考〕
供試薬剤 殺虫剤濃度 被害率(%)
0.1%粉衣 0.3% 0.5% 1.0%
アルドリン   ・  Hg 20% 21.7 30.0 20.0 26.7
アルドリン   ・  Hg 40 3.3 38.3 23.3 23.3
ヘプタクロ-ル・TMTD 20 26.7 15.0 22.0 12.3
ヘプタクロ-ル水和剤 20 23.3 8.3 13.3 18.3
アルドリン2.6%粉剤(作条) 1kg 10.0      
ヘプタクロ-ル2.5%粉剤(作条) 1 23.3      
無    処    理 78.0      
  注) 1区20茎、3連制。品種「金時」。5月23日播種。6月18日調査。粉衣は湿種子。

 北海道立十勝農業試験場
 (1) 昭和39年(春)
供試薬剤 成分量
(%)
個体数 被害率
(%)
健全
発芽被害
不発芽
被害

ECP  ・  TMTD粉衣剤 25・25 91 3 2 5 5.2
20・30 91 4 1 5 5.2
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
25・25 77 4 15 19 19.8
2020 73 5 18 23 24.0
ECP3%粉剤     (作条) (3kg) 88 1 7 8 8.3
無    処    理 27 14 55 69 71.9
  注) 1区5m2 3連制。数字は3連平均。5月28日播種。6月18日調査。品種「大手亡」

 (2) 昭和39年(秋)
供試薬剤 成分量
(%)
個体数 被害率
(%)
健全
発芽被害
不発芽
被害

ECP  ・  TMTD粉衣剤 25・25 88 0 8 8 8.3
20・30 77 3 16 19 19.8
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
25・25 47 47 30 49 51.0
2020 35 31 30 61 63.5
無    処    理 2 25 69 94 97.9
  注) 9月1日播種。9月16日調査。他は前試験に同じ。

 (3) 昭和39年(秋)
供試薬剤 成分量
(%)
個体数 被害率
(%)
健全
発芽被害
不発芽
被害

ECP  ・  TMTD粉衣剤 25・25 92 0 8 8 8.0
20・30 91 0 9 9 9.0
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
25・25 75 5 20 25 25.0
2020 73 1 26 27 27.0
ECP3%粉剤     (作条) (3kg) 94 0 6 6 6.0
無    処    理 32 11 57 68 68.0
  注) 5月28日播種。6月29日調査。

 (4) 昭和40年(春)
供試薬剤 成分量
(%)
個体数 被害率
(%)
健全
発芽被害
不発芽
被害

ECP  ・  TMTD粉衣剤 25・25 92 0 8 8 8.0
20・30 91 0 9 9 9.0
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
25・25 75 5 20 25 25.0
2020 73 1 26 27 27.0
ECP3%粉剤     (作条) (3kg) 94 0 6 6 6.0
無    処    理 32 11 57 68 68.0
  注) 5月28日播種。6月29日調査。

 (5) 昭和40年(秋)
供試薬剤 成分量
(%)
個体数 被害率
(%)
健全
発芽被害
不発芽
被害

ECP  ・  TMTD粉衣剤 25・25 88 1 15 16 15.4
20・30 86 1 17 18 17.3
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤
25・25 25 9 70 79 76.0
2020 17 13 74 87 83.7
ECP3%粉剤     (作条) (3kg) 69 1 34 35 33.7
無    処    理 1 17 86 103 99.0
  注) 9月3日播種。9月21日調査。

 北海道立北見農業試験場
 (1) 昭和40年(春)
供試薬剤 成分量
(%)
健全茎率
(%)
被害茎率(%) 生育不能
被害率
(%)
病害
被害率
(%)
発芽後 不発芽
ECP  ・  TMTD粉衣剤
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
20・30 69.7 6.7 4.3 17.0 28.0 21.3 2.3
25・25 60.7 7.3 7.3 17.0 31.6 24.3 7.7
ECP3%粉剤     (作条)
アルドリン2.6%粉剤 (作条)
(3kg) 74.3 5.0 3.0 11.7 19.7 14.7 6.0
(3kg) 80.7 3.3 2.3 9.3 14.9 11.6 4.0
無   処   理 47.0 12.0 11.3 28.3 51.6 39.6 1.3
  注) 1区5m2、3連制、品種「大手亡」。5月26日播種、6月10日調査。幼虫密度(10株当平均)30頭。数字は3連平均。生育不能被害率は軽被害を含まず。乾燥種子重量比0.5%粉衣。

 (2) 昭和40年(秋)
供試薬剤 成分量
(%)
健全茎率
(%)
被害茎率(%) 生育不能
被害率
(%)
病害
被害率
(%)
発芽後 不発芽
ECP  ・  TMTD粉衣剤
アルドリン ・ TMTD粉衣剤
20・30 55.3 28.3 7.0 8.7 44.0 15.7 0.7
25・25 54.7 28.3 9.0 7.3 44.6 16.3 0.7
ECP3%粉剤     (作条)
アルドリン2.6%粉剤 (作条)
(3kg) 62.7 21.7 4.3 10.7 36.7 15.0 15.0
(3kg) 64.3 26.0 4.7 4.7 35.4 9.4 9.4
無   処   理 27.7 21.7 25.3 25.3 72.3 50.6 0
  注) 品種「大正金時」。8月24日播種、9月8日調査。幼虫密度40頭。他は前試験に同じ。

 北海道立道南農業試験場
 昭和39年(春)
供試薬剤 成分量
(%)
被害率(%)
平均
ECP・TMTD粉衣剤 20・30 21.3 26.3 20.0 22.5
ヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤 20・20 71.3 83.8 62.5 72.5
ダイアジノン3%粉剤(作条) (3kg) 21.3 26.3 18.8 22.1
無   処   理 77.5 91.3 77.5 82.1
  注) 1区4m2、3連制。供試品種「大手亡」。5月16日播種、6月13日調査。粉衣は乾燥種子重量比0.3%、幼虫密度(10株当り)72頭。被害率は生育に影響あるもののみを示す。

Ⅲ 試験結果総括
 (1) 北農試および道南農試ではヘプタクロ-ル・TMTD粉衣剤の効果はなく、ECP・TMTD粉衣剤が有効であった。
 (2) 北見農試ではECP・TMTD、アルドリン・TMTDとも有効であった。
 (3) 十勝農試では春季試験ではアルドリン・TMTD・ヘプタクロ-ル・TMTDはECP・TMTDにやや劣るが防除効果があった。しかし秋季試験ではアルドリン・ヘプタクロ-ルは効果がなかった。
 タネバエ防除連絡試験結果
  琴似圃場において昭和32年からタネバエ防除試験を行っており、当初はアルドリン、ヘプタクロ-ル等の有機塩素剤の作条施用が顕著な防除効果を示していたが、昭和36年から多少防除効果の劣る傾向が見られた。そこで各地における防除効果の差を知るため、昭和37年から5カ所で同一の方法による防除試験を行っている。
 その結果の概要は次表のとおりで、現在、琴似、岩見沢、大野では塩素剤の効果が劣り、芽室、訓子府では有効である。

 連絡試験結果(抜萃)
試験場所 供試薬剤 被害率(%)
昭36※ 37 38 39 40
琴  似
北農試
アルドリン 20.9 55.7 92.7 96.3 92.0
ヘプタクロ-ル 24.2 58.0 96.3 99.7 95.7
E   C   P 33.3 27.0 24.3 31.0 9.0
無  処  理 85.4 90.0 99.3 99.3 98.7
岩見沢
(中央)
アルドリン   32.4 29.6 71.7 56.0
ヘプタクロ-ル   51.4 23.4 76.7 56.0
E   C   P   36.3 22.5 43.8 35.0
無  処  理   86.4 88.6 85.5 50.0
大野
(道南)
アルドリン   5.6 65.4 65.0  
ヘプタクロ-ル   8.0 52.7 75.0  
E   C   P   4.2 14.0 23.4  
無  処  理   24.4 76.3 80.7  
芽室
(十勝)
アルドリン 30.8 22.6 18.7 8.3 8.0
ヘプタクロ-ル 29.2 27.1 13.5 10.4 14.3
E   C   P 28.4 18.4 8.3 6.0
無  処  理 43.3 49.2 71.9 98.3 64.7
訓子府
(北見)
アルドリン   30.7 34.3 34.3 11.6
ヘプタクロ-ル   33.0 30.0 35.4 7.3
E   C   P   39.7 34.0 57.3 14.7
無  処  理   88.7 85.7 97.3 39.6
  注) アルドリン2.6%粉剤、ヘプタクロ-ル2.5粉剤、ECP2.5%粉剤。3kg/10a作条施用(※昭36琴似は2kg/10a)。数字は3連平均。
     試験は魚粕で成虫を誘引して行った。