【指導参考事項】
短期輸作におけるダイズシストセンチュウの繁殖について
北海道農業試験場

Ⅰ 普及上の要点
 線虫密度の低い場合に豆類を作付けると、線虫の繁殖力は旺盛となることが明らかとなった。即ち越年した産卵シストが多い畑では、豆類が植え付けられると、線虫の幼虫への侵入数が多く、作物の生育は初期から被害を受け、根の伸長が悪く、線虫の成熟率が低下し、シスト内の産卵数も少なくなる傾向がみられる。
 これに反し、シストすうの少ない畑では、作物の生育が旺盛のために、寄生した線虫の増殖が盛んに行われる結果となる。
 従って、非寄生作物をとり入れた作付け体系の組立にあたっては、豆類50%の作付け、即ち隔年輸作は、線虫の増殖を助長することになり当然避けなければならず、線虫に強い品種の導入、化学的防除法などを併用して行う必要がある。

Ⅱ 試験調査成績
 試験方法:
  1959年に燕麦を均一栽培した圃場を第1表のようにA・B・C・D・Eの5団地に分けた各団地に12種類の作物を1960年に植え付けし、1961年および1963年には団地単位に5種類の作物を植え付けた。
 試験区は1団地844m2とし、各作物別に1区12m2とした。
 線虫調査は作物収穫跡地を任意に選んだ地点から深さ15cmに採土し、風乾土100g中の産卵シスト数および産卵シスト内に含まれている全卵・幼虫数を計数した。
 試験結果:
  12種の作物別の区の産卵シストおよびシスト内全卵・幼虫数を寄生作物群(大豆・菜豆・小豆)と非寄生作物群(えん豆・大麦・小麦・燕麦・とうもろこし・ばれいしょ・てん菜・あま)とに大別し、各群平均値を示すと第2表のとおりである。また第2表の結果から。それぞれ翌年度の増加量を示したのが第3表である。

 第1表 供試作物
1960年および1962年供試作物 1961年および1683年供試作物
1. 大   豆(北見白) A 菜豆(大正金時)
B 大豆
C 小豆
D えん麦
E てん菜
2. 菜   豆(大正金時)
3.   〃   (大手亡)
4. 小   豆(宝小豆)
5. え ん 豆(改良青手無)
6. 大   麦(アカンムギ)
7. 小   麦(農林75号)
8. 燕   麦(前   進)
9. とうもろこし(坂  下)
10. ばれいしょ(紅 丸)
11. てん菜  (導入2号)
12. あ   ま(ウイラ-)

 第2表 寄主・非寄主作物の作付様式と蔵卵シスト数および全卵・幼虫数の年次変動
  作付順序 蔵卵シスト数
(風乾土100g中)
全卵・幼虫数
1960 1961 1962 1963 1960 1961 1962 1963 1960 1961 1962 1963
A 1 寄 主 金時 寄 主 金時 33 232 151 229 4.183 40.976 15.735 18.803
2 非寄主 非寄主 5 58 27 186 270 8.568 2.979 32.416
B 1 寄 主 大豆 寄 主 大豆 68 242 131 188 6.956 47.491 13.120 12.609
2 非寄主 非寄主 8 122 78 205 286 16.836 7.420 3.960
C 1 寄 主 小豆 寄 主 小豆 27 154 148 148 2.565 25.256 13.432 9.440
2 非寄主 非寄主 2 49 21 189 106 6.174 1.881 29.406
D 1 寄 主 えん麦 寄 主 えん麦 49 43 66 60 5.335 3.397 8.329 7.465
2 非寄主 非寄主 9 10 4 5 479 611 120 127
E 1 寄 主 てん菜 寄 主 てん菜 25 30 43 42 2.248 2.682 6.192 5447
2 非寄主 非寄主 2 4 3 2 134 147 86 26

 第3表 作付様式とダイズシストセンチュウの繁殖量
   蔵卵シスト数増加量(倍) 全卵・幼虫数増加量(倍)
1960~1961 1961~1962 1962~1963 1960~1961 1961~1962 1962~1963
A 1 7.0 0.7 1.5 9.6 0.4 1.2
2 11.1 0.5 7.0 31.6 0.3 10.9
B 1 3.6 0.5 1.5 6.9 0.3 1.0
2 14.5 0.6 2.6 59.0 0.4 4.1
C 1 5.7 0.9 1.0 9.8 0.5 0.7
2 20.5 0.4 9.0 58.7 0.3 15.6
D 1 0.9 1.5 0.9 0.6 2.5 0.9
2 1.1 0.4 1.3 1.3 0.5 1.1
E 1 1.2 1.4 1.0 1.2 2.3 0.9
2 1.7 0.7 0.7 1.1 0.6 0.3

 作付初年度には寄主作物跡地のシスト数は各団地とも非寄主作物跡地に較べ著しく多い。
 第2年目は、寄主作物連作区はシスト密度がさらに高まり、シスト増加量が前年の4~7倍に、全卵・幼虫数が7~10倍になる。一方、非寄主作物の後地に寄主作物を作付けた区ではシストの絶対数は寄主連作区に全卵・幼虫数は32~60倍にもなる。非寄主作物連作区は前年と同密度である。
 第3年目は寄主作物連作区では、シスト数、全卵・幼虫数ともに前年よりやや低密度である。また、非寄主-寄主-非寄主の区も前年より密度は低下した。
 第4年目には、寄主作物連作区は再びシスト数が前年の1~1.5倍となったが、絶対量は第2年目とほぼ同じである。しかし、全卵・幼虫数は前年(第3年目)と殆ど変わらなかった。一方、寄主作物の隔年作付区ではシストの増加量は3~9倍、全卵・幼虫数は4~16倍にもなり、著しく密度が高まり、シストの絶対数は寄主連作区とほぼ同数になり、全卵・幼虫数は次第に密度の減少傾向を示しているが、なお多少のシストは残っている。
 次ぎに、1961年と1963年に植え付けた豆類の収量構成要素と前年のシスト密度との関係をみると第4・5表のとおりである。

 第4表 作付順序の相違による収量の変動
  1961年 1963年
前 作
茎長
(cm)
茎莢重
(kg/10a)
子実重
(kg/10a)
前  作
茎長
(cm)
茎莢重
(kg/10a)
子実重
(kg/10a)
大正金時 寄 主 32.2 120.3 128.6 寄-寄-寄 31.0 62.4
非寄主 38.0 177.8 196.6 非-寄-非 36.2 103.8 104.7
大  豆 寄 主 60.4 155.3 163.9 寄-寄-寄 46.7 167.9 111.4
非寄主 76.2 227.6 226.7 非-寄-非 45.6 140.9 110.0
小  豆 寄 主 31.8 71.7 129.9 寄-寄-寄 25.4 78.4 67.4
非寄主 53.2 133.2 262.1 非-寄-非 27.1 101.5 90.0

 第5表 シスト数と後作物の収量との相関関係
  1961年 1963年
前 作
茎長
(cm)
茎莢重
(kg/10a)
子実重
(kg/10a)
前  作
茎長
(cm)
茎莢重
(kg/10a)
子実重
(kg/10a)
大正金時 寄 主 -0.440* -0.285 -0.356 寄-寄-寄 -0.188 -0.343
非寄主 +0.007 -0.311 -0.249 非-寄-非 -0.406* -0.369* -0.337*
大  豆 寄 主 -0.426 +0.321 +0.045 寄-寄-寄 -0.049 -0.229 -0.127
非寄主 -0.120 -0.268 -0.574* 非-寄-非 -0.387* -0.436* -0.519**
小  豆 寄 主 -0.490* -0.502* -0.429 寄-寄-寄 +0.182 +0.464 +0.443
非寄主 -0.230 -0.311 -0.509** 非-寄-非 -0.348* -0.344* -0.417*

 1961年は菜豆・大豆・小豆のいずれも寄主連作区が収量低く、線虫密度と相関関係があることを示している。1963年では各作物とも寄主連作区は有意な相関関係がなく、小豆では正の相関となり、連作による線虫以外の要因も考えられる。しかし、隔年作付区は、いずれも有意な負の相関関係がみられ、線虫密度が寄主連作区と同程度まで高まるような旺盛な繁殖をするときは作物の生育に大きな影響を与えたようである。
 次ぎに実験的にシスト密度を変えて、線虫の繁殖の差異をみたのが、第6表のとおりである。
 ポット(1/5000a)に所定の蔵卵シストを接種し、大豆を栽培して収穫時における蔵卵シスト数、全卵・幼虫数を計数した。
 線虫増加量は接種後の少ないほど多い傾向を示し、シスト数は50、100接種区は約200になり200以上接種区は100余と減少している。また1シストあたりの全卵・幼虫数の増加量も接種数が多くなるに従い段階的な低下を示している。

 第6表 接種密度の差によるダイズシストセンチュウの繁殖差異
接種予定
シスト数
蔵卵シスト数 シスト内卵・幼虫数
(1シストあたり)
全卵・幼虫数
播種期 収穫期 増加量 播種期 収穫期 増加量 播種期 収穫期 増加量
50 34 189 5.6倍 63 263 4.2 2.142 49.707 23.3
100 106 208 2.0 304 4.8 6.678 63.232 9.5
200 221 108 0.5 153 2.4 13.823 18.054 1.3
400 462 122 0.3 57 0.9 29.106 6.954 0.2