【指導参考事項】
昭和40年に発生した注意すべき病害虫に関する調査成績
北海道立中央農業試験場
北海道農業試験場
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昭和40年における主要病害虫の発生状況は次の通りである。
1. 病害虫の発生に影響したと思われる気象経過
(1) 昭和39年度の根雪は各地とも平年に比して早めであり、昭和40年3月には平年に比して融雪量が多く、また3月、4月の気温が低かったため融雪期が約2週間おくれ、積雪期間が長かった。(麦類、菜種及び牧草類の雪腐病多発、麦類さび病、ヨトウガ少発)
(2) 農耕期に入ってからの気温は、4月、5月、6月上旬まで低温に経過し、特に5月半旬に寒波が襲来し、道北、東部では凍害が生じた。(ヒメハモグリバエ、麦瑠璃さび病少発)
(3) 降水量は5月中旬、6月上旬にやや多かったが、その他は少な目であり、特に6月上旬から6月下旬にかけては全道的に乾燥気味であった。(馬鈴薯疫病、麦類さび病、麦赤かび病、てん菜褐斑病、りんごモニリア病少発、ジノミ瑠璃、タマナガヤ、アカザモグリハナバエ、アブラムシ類多発)
(4) 生育盛期の気温は6月下旬はやや高目であったが、7月及び8月上旬まで低目であり、とくに7月25日~26日にかけて異常低温を示した。(稲葉鞘褐変病、豆類菌核病、にせいもち病多発、ニカメイチュウ、セジロウンカ少発)
(5) 一般に、8月中旬以降気温はやや高目であったが、上川地方においては生育期間を通じて最低気温が16℃を越えた半旬がきわめて少なかったことは注目する必要がある。(いもち病の上川地域少発)
(6) 9月の気温は上旬の終わりから中旬に低く経過したが、下旬には再び高目を示した。しかし、台風23号、24号が9月上旬末と中旬末に襲来したため、降雨量は上、中旬にきわめて多かった。(馬鈴薯塊茎腐敗多発、マメシンクイガ少発)
2. 主要病害虫の発生の特徴
作物名 |
多発した病害虫 |
少発した病害虫 |
病 害 |
害 虫 |
病 害 |
害 虫 |
本 稲 |
いもち病(含にせいもち) 葉鞘褐変病 |
イネドロオイムシ |
紋枯病 |
ニカメイチュウ
セジロウンカ
ヒメハモグリバエ |
麦 類 |
雪ぐされ病
(含なたね) |
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さび病類
赤かび病
北地モザイク病 |
ムギカラバエ |
馬鈴薯 |
塊茎腐敗 |
アブラムシ類 |
疫 病 |
オオニジュウホシテントウ |
豆 類 |
菌核病
かさ枯病 |
ナミハダニ
タマナヤガ |
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マメシンクイガ |
てん菜 |
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ジノミ類
タマナガヤ
アカザモグリハナバエ |
褐斑病 |
ヨトウガ |
とうもろこし |
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アワヨトウ |
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そさい類 |
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ジノミ類
タマナガヤ
モンシロチョウ
アカザモグリハナバエ |
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果樹類 |
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リンゴハダニ |
モニリア病
うどんこ病 |
モモシンクイガ |
牧草類 |
雪ぐされ病 |
ウリハムシモドキ
アワヨトウ |
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3. 主要病害虫の解説
(1) 病害
ア いもち病
昭和40年の葉いもち病の初発は全般におそい傾向があったが、7月中旬と6月半旬以降の最低気温の上昇に伴って、空知、日高、後志および留萌管内(南部)で8月1~2半旬から葉いもちの発生が急速に増加した。しかし他の地域、とくに上川、網走、十勝管内では夏季の最低気温が低いために、初発期はかなりおくれ、その後の発生も軽微であった。
首いもちの発生は、葉いもちの多発した地域で多かったが、後志管内では葉いもちの発生程度に比し多発の傾向があった。
以上のような発生経過であったが、本年も昨年に引き続きユ-カラやデイネ、とくにユ-カラにおいて著しい罹病化の現象がみられたことが本年の多発の原因であった。
なお、本年は昨年に罹病化のみられなかった地域(道南の一部)でも罹病化し、罹病化した地域の拡大されたことは注目を要する。
なお、ユ-カラなどの支那稲系の抵抗性因子をもつ品種から菌を採集して菌型を調査した結果、昨年と同様C-1菌型がほとんどで、稲にC-6菌型がえられた。
このような罹病化の原因には、昨年、本年のような異常気象条件が深く関係しているものと考えるとともに、C-1菌型の分布地域が広まり、かつ密度の高まったことが大きな原因と考えられ、加えて多肥栽培によってC-1菌型の増殖を促進したものと推定される。
したがって、今後もユ-カラなどについては他の品種以上の注意を必要とし、早期発見、早期防除に最重点を置くことが必要である。
イ 稲白葉枯病
本病は、昭和37年に発生を確認し、その後も空知管内を中心に毎年発生が認められており、昭和39年には上川管内の一部にも発生がみられるなど、発生地域が拡大しつつあったが、本年は夏季の低温によって初発はおくれ、著しい発生はみられなかった。しかし、今後も気象条件によっては発生地域が拡大し、被害の増大するおそれがあるので、十分な警戒を要する。
ウ 稲葉しよう褐変病
本病は、細菌制病原Pseudomonas属菌が主体となって発生する場合が多いが、それ以外に生理的障害によって生ずる場合がないかどうか現在検討中である。
また、本病は一般に低温年に発生が多い傾向を示しているが、特に上川北部及び網走地域が最も発生が多いようである。
本病の発病部位は、葉鞘、穂首及び籾であるが、本病が水痘の収量に対して如何なる影響を及ばしてるかは、現在調査中であって不明である。防除方法としては、銅剤の散布が若干有効である結果をみた場合(昭和39年上川農試)もあるが、適切な方法については今後検討する予定である。
エ むぎ雪腐病(含なたね)
本年は全道的に多発し、とくに網走、十勝管内の被害は著しかった。多発の原因としては①根雪が早く、防除時期を逸したこと。②積雪期間が長かったことがあげられる。
網走管内は主として大粒菌核病による被害が多かったが、十勝管内は紅色雪腐病が約80%をしめ、ついで黒色小粒菌核病であった。また他の地域においても紅色雪腐病による被害も多かったが、道南地方ではむしろ褐色小粒菌核病が多い傾向を示した。
なお、空知管内のなたねは主として黒色小粒菌核病によった。
オ むぎさび病類
さび病類(赤さび病、小さび病、黄さび病、黒さび病)は、昨年に引き続き全道的に少発生であった。すなわち、初発期は平年よりかなりおくれたところが多く、その後の蔓延もきわめて緩慢であった。ただ黄さび病が北見農試ほ場で局発したことが特徴であった。
カ 麦類北地モザイク病
近年連続的に広域にわたって多発をみていたが、本年は各地ともきわめて少発生にとどまった。しかし、その原因は不明である。
キ 馬鈴薯疫病
本年は、6月の降雨量が少なく、旱魃気味であったため、第1次発生が平年より著しく遅れた地方(道南、道央部)が多く、しかもその間に防除の徹底がみられたので、全道的には発生は少なかった。しかし、防除の不徹底なところにおいては、後期に多発がみられ、ほぼ平年並みの発生を示したところがあるが、被害はいずれも軽微であった。
ク 菜豆かさ枯病
近年細菌性の病害が網走、十勝管内を中心に急増しているが、とくにかさ枯病の発生が目立っており、本年も十勝、網走管内および空知、上川管内で多発した。本病の病原菌はPseudomonas phaseolicilaで、茎葉、莢、種子に発生する。したがって、防除対策としては、種子消毒の励行と発病初期からの銅剤の散布が重要であり、また、発病株の抜き取りをするなど、ほ場の清掃に努めることが大切である。
ケ その他、豆類菌核病、馬鈴薯塊茎腐敗については部雨tに解説した。
(2) 害虫
(ア) イネドロオイムシ
2~3年前より次第に増加の傾向にあり、特に上川、空知両地方を中心にして発生が多くなってきている。本年も春季の高温により越冬成虫の活動は平年より約1週間前後早く、このため産卵も多かった。加えて7月の低温は幼虫の加害を好適にし、被害も一部防除不良の個所では著しいものがあった。
本虫の防除には、従来比酸石灰、BHC、DDT、EPN等が使用されていたが、数年前よりBHCの効果に疑問が持たれ、本年も上川地方を中心にしてBHCの効果の劣ることが報ぜられた。これがBHCに対する抵抗性であるか否かは今後の試験、研究にまたねばならないが、BHCの劣る地帯ではEPN、DDT等の使用により防除を行うべきである。また幼虫の防除は成虫に比較して困難であるから、できるだけ成虫期に防除を徹底することが大切である。
(イ) アカザモグリハナバエ
ビ-トの主産地である十勝、網走地方を始め、ほとんど全道的に多発した。本年の初発は平年よりやや遅く、初期の発生はそれ程多くなかったが、6月の高温多照が産卵活動に好適したため、6月中~下旬に産卵は極めて多くなり、第1世代幼虫による加害は各地とも多かった。引き続き第2世代の加害も多かったが第3世代の発生はほど平年並みであった。
本虫による被害は稚苗期(第1世代幼虫の加害)において特に著しく生育、収量にも大きく影響するから、春季の防除は決してゆるがせにはできない。防除薬剤の種類は豊富であり、比較的容易に防除できるから、適期を失わないようにすることが肝要である。
(ウ) タマナヤガ
本年、道西南部において、6~7月に大発生し、ビ-ト、蔬菜はもとより、豆類、玉蜀黍、馬鈴薯等多くの作物にかなりの被害がみられた。
幼虫は5~6令期に達するときわめて貧食で一夜にして大損害を与えることも決して少なくない。特に小豆、玉蜀黍等では茎を切断されるため、葉茎類等の作物に比較して損害が著しい。
本虫の防除には播種前に塩素剤を土壌施用するのが良いが、発生をみてからは、EPN、DDT等の葉面、根際散布、あるいは毒餌の散布が効果的である。
(3) その他
豆類菌核病、馬鈴薯塊茎腐敗については部雨tに解説した。