【指導参考事項】
りんごの薬剤摘果に関する試験成績
北海道農試園芸第1研究会

Ⅰ 材料および方法
  祝、旭、紅玉、スタ-キングデリシャス、国光の成木を供用した。デナポンは85%ミクロデナポンを用い、1.200倍の濃度としたが、試験によっては、600倍、2.000倍も用いた。各品種とも3~4樹を供試し、7~8年生枝を単位として処理区を任意に配置した。結実歩合は満開後約1カ月目に結実数を測定し、とくに断らない限り、満開中の着花数に対する割合で示した。なお成績の表中、カッコ内の数字は無処理(100)に対する各処理区の指数を表す。

Ⅱ 試験成績
 1. 散布時期よよび品種間差異
  (1) 昭和38年
  祝
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン1週間後 5.8(54.7) 32.6(67.5) 24.1(77.0) 1.9(35.8)
デナポン2週間後 3.1(29.2) 16.6(34.4) 15.0(47.9) 0.4(7.5)
デナポン3週間後 4.1(43.4) 19.0(39.3) 16.4(60.1) 1.2(22.6)
デナポン4週間後 5.9(55.7) 32.6(67.5) 24.8(79.2) 1.8(34.0)
石灰硫黄合剤 8.8(83.0) 35.4(73.3) 34.5(110.2) 3.3(62.3)
無処理区 10.6(100) 48.3(100) 31.3(100) 5.3(100)

  旭
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン1週間後 13.5(47.7) 58.6(69.1) 36.5(93.4) 7.9(30.5)
デナポン2週間後 13.6(48.1) 59.6(70.3) 35.1(89.8) 8.5(32.8)
デナポン3週間後 10.3(36.4) 46.5(54.8) 32.0(81.8) 4.7(18.1)
デナポン4週間後 9.9(35.0) 51.2(60.4) 36.1(92.3) 3.9(15.1)
石灰硫黄合剤 17.7(62.5) 66.6(78.5) 38.0(97.2) 12.9(49.8)
無処理区 28.3(100) 84.8(100) 39.1(100) 25.9(100)

  紅玉
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン1週間後 8.6(62.8) 17.5(34.6) 10.6(35.9) 8.2(81.2)
デナポン2週間後 3.0(21.9) 11.6(22.9) 7.9(26.8) 1.9(18.8)
デナポン3週間後 3.0(21.9) 11.0(21.7) 6.3(21.4) 2.3(22.8)
石灰硫黄合剤 7.0(51.1) 33.3(65.8) 21.3(72.2) 3.7(36.6)
無処理区 13.7(100) 50.6(100) 29.5(100) 10.1(100)

  国光
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン1.200倍 2週間後 20.1(77.0) 74.6(84.4) 49.7(104.9) 13.6(62.7)
デナポン1.200倍 3週間後 24.8(95.0) 79.6(90.0) 58.1(122.6) 17.2(79.3)
デナポン600倍2~3週間後 16.5(63.2) 65.8(74.4) 41.7(88.0) 11.0(50.7)
デナポン600倍  2週間後 20.3(77.8) 70.4(79.6) 41.3(87.1) 15.7(72.4)
デナポン600倍  3週間後 20.1(77.0) 82.3(93.1) 60.9(128.5) 11.3(52.1)
石灰硫黄合剤 20.9(80.1) 86.1(97.4) 50.2(105.9) 14.8(68.2)
無処理区 26.1(100) 88.4(100) 47.4(100) 21.7(100)
  注)  1)デナポンの散布濃度は祝、旭、紅玉とも1.200倍であり、国光に対しては600倍も用いた。
      2)石灰硫黄合剤は100倍の濃度で満開時に回散布

 (2) 昭和40年
品  種 処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン 17.5(85.4) 70.9(100) 18.1(80.1) 17.4(87.0)
無処理 20.5(100) 70.9(100) 22.6(100) 20.0(100)
デナポン 8.9(53.9) 45.1(62.7) 19.5(76.5) 6.5(45.1)
無処理 16.5(100) 71.9(100) 25.5(100) 14.4(100)
紅玉 デナポン 7.0(46.1) 33.5(56.1) 18.6(51.0) 4.3(41.7)
無処理 15.2(100) 59.8(100) 36.5(100) 10.3(100)
スタ-キング デナポン 10.8(73.6) 50.3(75.4) 38.9(82.7) 3.6(57.1)
無処理 14.8(100) 66.7(100) 46.9(100) 6.3(100)
国光 デナポン 19.1(149.2) 77.7(128.0) 37.8(112.2) 15.0(178.6)
無処理 12.8(100) 52.8(100) 33.7(100) 8.4(100)
  注) 1)デナポンの濃度は1.200倍で満開2週間後に散布した。
     2)樹全体を1区にとり、各処理区とも2本を供試した。
     3)結実歩合はデナポン散布時の結実数に対する割合で示した。

 2. 樹勢の影響(昭和38年)
処  理 強勢 弱勢 処  理 強勢 弱勢
デナポン1週間後 5.8(54.7) 5.6(64.4) デナポン1週間後 13.5(47.7) 9.0(41.5)
デナポン2週間後 3.1(29.2) 3.7(42.5) デナポン2週間後 13.6(48.1) 7.2(33.2)
デナポン3週間後 4.1(43.4) 2.7(31.0) デナポン3週間後 10.3(36.4) 7.0(32.3)
デナポン4週間後 5.9(55.7) 8.3(95.4) デナポン4週間後 9.9(35.0) 9.3(42.9)
石灰硫黄合剤 8.8(83.0) 7.5(86.2) 石灰硫黄合剤 17.7(62.5) 19.0(87.6)
無処理区 10.6(100) 8.7(100) 無処理区 28.3(100) 21.7(100)

紅玉
処  理 強勢 弱勢
デナポン1週間後 8.6(62.8) 2.7(26.7)
デナポン2週間後 3.0(21.9) 1.7(16.8)
デナポン3週間後 3.0(21.9) 1.7(16.8)
石灰硫黄合剤 7.0(51.1) 7.0(69.3)
無処理区 13.7(100) 10.1(100)

国光
処  理 強勢 弱勢
デナポン1.200倍  2週間後 20.1(77.0) 10.9(52.9)
デナポン1.200倍  3週間後 24.8(95.0) 12.9(62.6)
デナポン 〃 倍2~3週間後 16.5(63.2) 13.7(66.5)
デナポン600倍   2週間後 20.3(77.8) 10.8(52.4)
デナポン600倍   3週間後 20.1(80.1) 18.6(90.3)
石灰硫黄合剤 20.9(80.1) 16.8(81.6)
無処理区 26.1(100) 20.6(100)
  注) 1)デナポンの散布濃度は、祝、旭、紅玉とも1.200倍であり、国光に対しては600倍も用いた。
     2)石灰硫黄合剤は100倍の濃度で満開時に2回散布
     3)結実歩合のみを示した。

 3. 濃度の影響
  (1)紅玉(昭和39年)
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
デナポン1.200倍 1週間後 10.2(40.2) 46.3(53.2) 15.7(46.9) 8.7(36.9)
デナポン1.200倍 2週間後 9.5(34.7) 46.5(53.4) 17.3(51.6) 7.5(31.8)
デナポン2.000倍 3週間後 9.8(38.6) 47.3(54.4) 20.2(60.3) 7.3(30.9)
石灰硫黄合剤 12.7(50.0) 54.3(62.4) 27.0(80.6) 9.2(39.0)
無処理区 25.4(100) 87.0(100) 33.5(100) 23.6(100)

  (2) 国光(昭和40年)
処理区 結実歩合 花叢結実歩合 着位別結実歩合
中心果 側果
     100倍 36.6(57.5) 68.4(79.7) 66.8(79.4) 26.3(46.8)
     300倍 37.0(58.1) 79.0(92.0) 65.6(78.0) 28.6(50.9)
     600倍 38.5(60.4) 63.3(73.7) 63.0(74.9) 30.7(54.6)
    1.200倍 44.1(69.1) 78.6(91.5) 74.7(88.8) 32.6(58.0)
無処理 63.7(100) 85.9(100) 84.1(100) 56.2(100)
  注) 1)デナポン散布は満開後2週間目に行った。

 4. 薬害について(昭和38年)
  (1) 旭
処理区 調査果数 サビ果
健全
デナポン1週間後 461 0 0.6 2.6 96.8
デナポン2週間後 417 0 1.0 3.7 95.3
デナポン3週間後 530 0 2.4 4.7 93.0
デナポン4週間後 330 0 0.5 1.2 98.3
石灰硫黄合剤 425 0 1.3 4.8 93.9
無処理区 443 0 0.4 4.3 95.3

  (2) 紅玉
処理区 調査果数 サビ果
健全
デナポン1週間後 296 0.7 2.1 23.4 73.7
デナポン2週間後 240 1.3 4.3 29.9 64.5
デナポン3週間後 225 2.2 2.9 27.5 67.3
石灰硫黄合剤 263 0.7 4.1 23.1 72.1
無処理区 338 0.6 1.5 23.7 74.3

  (3) 国光
処理区 調査果数 サビ果
健全
デナポン1.200倍  2週間後 354 0 0 4.5 95.5
デナポン1.200倍  3週間後 321 0 0.2 6.8 93.0
デナポン1.200倍2~3週間後 339 0.2 0.2 3.7 95.8
デナポン 600倍  2週間後 245 0 0 7.2 92.8
デナポン 600倍  3週間後 368 0 0 2.1 97.9
石灰硫黄合剤 280 0 0 11.5 88.5
無処理区 265 0 0 4.5 95.5
  注) 1)デナポンの散布濃度は旭、紅玉については1.200倍とし、国光については1.200倍と600倍とした。

Ⅲ 概評
 1. デナポンの効果品種によって著しい差があり、紅玉がもっとも敏感に反応し、旭がこれに次ぎ、祝、デリシャスは比較的効果劣る。国光に対しては一般的に効果が小さい。
 2. 散布時期との関係は祝、紅玉は満開後2~3週間目の効果が優れているが、旭は時期による差が少ない。
 3. 樹勢が弱い場合にデナポン散布の影響が強く現れやすい。
 4. いずれの品種もデナポンは中心果よりも側果に対する効果大きい。
 5. デナポンの効果はある範囲内の濃度であれば効果に差がなく、結局殺虫剤としての効果をあわせもたせるために85%ミクロデナポンの1.200倍が適濃度と考えられる。
 なお、国光は1.200倍液の2回の散布を必要としよう。
 6. 自然結実歩合の低い年次にはデナポンの散布により結実が過少となる場合があり、デナポン散布の可否は開花時の気候あるいは、幼果の発育の良否などによって慎重に決めなければならない。
 7. 紅玉はデナポンの散布により果実のサビが若干増加する。