【指導参考事項】
アカクロ-バ「月系37~1」に関する試験成績
北海道立農業試験場草地開発部

Ⅰ 来歴および育成経過
 本系統は昭和28年以降北海道農試畜産部(昭和39年以降は草地開発部)で集団選抜法により育成、昭和38年以降は道内各地域の適応性について調査を実施してきたものである。
 ・育成材料の来歴
  北海道農試畜産部で保存中の北海道在来種およびアメリカ・カナダ・スエ-デン・イギリス等から輸入した35品種を母材料として育成した。このうち北海道在来種は、古くからクロ-バ採種が行われていた美深原産のものを用いた。しかし在来種は古くアメリカより導入されたアカクロ-バ種子に起源を発するものと思われるが、よく北海道の気候風土に適応した生態系で、全道的に比較的安定した生産力を発揮している地方系統でもある。病害については年によりさび病、茎割病の被害が著しい。しかし冬枯れの原因となる大粒菌核病については比較的抵抗性を有すると認められるので、冬枯抵抗性系統を得るには適度な母材料と認められた。

Ⅱ 特性概要
 (1) 早生種に属し、開花期は札幌附近では6月27、8日前後である。
 (2) 葉は大きく葉斑は鮮明である。毛茸はマンセスクロ-バほど多くないが、中程度に有する。
 (3) 2番草の生育は良好で、在来種に比較しても再生力は大きいと認められる。
 また、3年目植物の2番草の生育は良好であるから永続性は大きいと認められる。
 (4) 病害抵抗性は、大粒菌核病(Sclerotinia tri-foliorum)には抵抗性を有し、茎割病(Kabatiellacaulivora)やさび病(Uromyces fallens)にも比較的抵抗性を有する。しかし小粒菌核病(Typhulasp.)にはやや罹病性である。
 (5) 生産力は在来種なみであるが、元来月寒で保存中の在来種(標準品種)は、長年月にわたる栽培で濁汰が加えられるから、一般種子に比しはるかにすぐれていると考えられる。
 収量は道央、道南では好結果が得られる。

Ⅲ 奨励態度
 本系統は道北よりむしろ道央およびそれ以南地域で好成績が期待される。その生産力は全般的には在来種なみであるが、大菌核病や茎割病およびさび病に対しては比較的抵抗性がみられ、また永続性の向上等質的形質に改良が加えられている。したがって普及地域は主として道央およびそれ以南の地域を対象としたい。
 なお、該地域ではこれまでottawaが早生型品種として優良品種の指定(昭和17年3月)を受けていた。本品種はすべに過去の品種となっているばかりでなく、北海道における普及はこれまではほとんどみられなかった。月系37-1はottawaにおきかえるべき品種として奨励したい。

Ⅳ アカクロ-バ「月系37-1」適応性検定試験
 1. 試験年次
  昭和38年~40年 3カ年間
 2. 試験場所
  北海道農業試験場(札幌)
  天北    〃   (浜頓別)
  天北    〃   天塩支場(天塩)
  根釧    〃   (中標津)
  北見    〃   (訓子府)
  十勝    〃   (芽室)
  日高種畜牧場   (浦河)
 3. 試験材料および方法
  (1) 供試品種
品 種 早晩性 育成地 備   考
1 月系37-1 月寒  
2 北海道在来種(月寒) (月寒) 美深より在来種種子を得て月寒で2世代隔離採種
3 Keniana アメリカ >輸入量比較的多い外国品種
4 Altaswede カナダ
  「備考」  現在までの数多いアカクロ-バ品種試験において北海道在来種を凌駕する外国品種は見逃せなかったので、在来種を対照品種とした。KenlandおよびAltaswedeは適応性が比較的高く輸入量もわかりあい多い外国品種であるので参考のために加えた。なお中生種としてSiloを予定していたが種子入手困難のために除外した。
 4. 試験結果
  各試験場所における供試品種の収量を示すと第1~2表の通りである。
 第1表 各試験場所における品種の生草量(kg/a)
品   種 1年目 2年目 3年目 4年目
1.2番草合計 1.2番草合計 1.2番草合計 1.2番草合計




























月系37-1 148 286 458 109 164 227 95 440 508 722 329 483 533 471 285 351 358 197 387 415 455 875 1.145 1.538 635 1.034 1.175 1.021
北海道在来種(月寒) 147 300 465 108 172 221 103 455 494 725 362 448 536 453 260 350 359 191 394 470 391 863 1.144 1.549 661 1.014 1.227 947
Kenland 117 241 453 92 155 214 108 312 407 680 244 396 523 405 138 226 258 145 329 378 423 565 874 1.391 481 880 1.115 936
Altaswede 60 203 289 62 107 162 48 280 497 830 347 473 371 460 118 390 450 274 357 228 319 458 1.090 1.569 683 937 761 827
同上比率
(北海道在来種を100とした)
月系37-1
101 95 98 101 95 103 92 97 103 100 91 108 99 104 110 100 100 103 98 88 116 101 100 99 96 102 96 108
北海道在来種(月寒) 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
Kenland 80 80 97 85 90 97 105 69 82 94 67 88 89 89 53 65 72 76 84 80 108 66 76 90 73 87 91 99
Altaswede 41 68 62 57 62 73 47 62 101 114 96 106 69 102 45 111 125 143 91 49 82 53 95 101 103 92 62 87

 第2表 各試験場所における品種の乾物収量(kg/a)
品   種 1年目 2年目 3年目 4年目
1.2番草合計 1.2番草合計 1.2番草合計 1.2番草合計




























月系37-1 22 37 59 19 26 37 17 77 81 97 61 88 88 71 65 58 60 38 90 69 81 163 176 216 118 204 194 169
北海道在来種(月寒) 22 41 59 19 27 34 18 75 82 107 70 78 88 74 58 61 60 37 90 79 67 155 184 226 124 195 201 159
Kenland 17 31 58 16 26 37 20 58 65 101 47 79 89 69 32 35 47 29 81 64 75 107 131 206 92 186 190 164
Altaswede 8 23 36 11 17 25 8 38 87 102 56 75 67 63 23 63 68 53 81 38 53 70 173 206 120 173 130 124
同上比率
(北海道在来種を100とした)
月系37-1
100 90 100 100 96 109 94 103 99 91 87 113 100 96 112 95 100 103 100 87 121 105 96 96 95 105 97 106
北海道在来種(月寒) 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
Kenland 77 76 98 84 96 100 111 77 79 94 67 101 101 93 55 57 78 78 90 81 112 69 71 91 74 95 95 103
Altaswede 36 56 61 58 63 74 44 51 106 95 80 96 76 85 40 103 113 143 90 48 79 45 94 91 97 89 65 78

 5. 考察
  収量については、いずれの場所とも各年次において「月系37-1」と「北海道在来種(月寒)」の間に有意な収量差を認めるにいたらなかった。しかし両者の傾向を見て一般的にいえることは、初年目および2年目1番草は「在来種」が多収であるが、2年目2番草およびそれ以後は「月系37-1」が多収傾向にあるとこである。すなわち月系37-1は再生力の旺盛な点を1つの特徴とみなしうる。「Kenland」は1・2の場所を除き一般的に低収であったが、とくに3年目における低収が特徴的である。「Altaswede」は2・3年目の1番草において多収を示し、とくに道東、道北の寒冷地域においてその傾向が著しかったが、初年目および2年目以降の2・3番草においては著しい低収を示した。これはアカクロ-バ晩生種に特徴的なことである。
 病害については「月系37-1」の選抜目標とした茎割病およびさび病抵抗性が若干の場所において大であることを認められた。なお病害の場合には発生時期と植物ステ-ジの関係から早生種を同一レベルで論ずることがいいかどうかは検討の余地がある。
 早晩性については「月系37-1」は「北海道在来種」および「Kenland」と同程度の早生種と認定しうる。
 冬損については全般的に少なかったが、早生種のうちでは「Kenland」に若干多く認められたほか、「月系37-1」と「北海道在来種」間には差異は認められなかった。
 以上の試験結果から「月系37-1」は生産力、早晩性およびその他の若干の形質において「北海道在来種」とほぼ類似していたが、再生力ならびに茎割病およびさび病抵抗性等若干の形質においてすぐれていると認められた。