【指導参考事項】
泥炭地における各種牧草の種類及び品種の適否性に関する試験成績
北海道立天北農業試験場

 西天北地帯の泥炭地における、各草種の種類及び品種の適否を明らかにして草地造成の参考に供したい。
Ⅰ 泥炭地における適草種選定試験
 1. 試験場所および年次
  (1) 天塩郡天塩町南川口 支場内新墾低位泥炭地(昭和38年~40年3ヶ年)
  (2) 天塩郡天塩町産工 新墾中間泥炭地(昭和32年~34年3ヶ年)
 2. 供試草種
草種名(品種名) 低 位
泥炭地
中 位
泥炭地
チモシ-(道在来種)
オ-チャ-ドグラス(道在来種)
リ-ドカナリ-グラス
ケンタッキ-31フェスク
メド-フェスク
スム-ズブロ-ムグラス
マウンテンブロムグラス
ペレニアルライグラス
Hワンライグラス
イタリアンライグラス
アカクロ-バ(道在来種)
   〃    (マンモス)
アルサイククロ-バ
シロクロ-バ
スイ-トクロ-バ
アルファルファ(デュピュイ)
   〃     (アトランテック)  
   〃     (バッファロ-)
バ-ズフットトリフォイル(バイキング)
      〃       (エムパイヤ)
エロ-トリフォイル
  (注) ○印が供試草種

 3. 試験結果の要約
  天北地帯の低位泥炭地と中位泥炭地で3カ年間、それぞれ新墾地において単播条件下のもとに各草種の適否性について試験を実施してきた結果を要約すると次の如くである。
 (1) 冬枯れ
  低位泥炭地における試験では越冬下の気象条件が、昭和39年は寡雪で低温、昭和40年は多雪で積雪期間も永かったが、イネ科では、チモシ-・オ-チャ-ドグラス・リ-ドカナリ-グラスおよびスム-ズブロ-ムグラスの各草種は2カ年とも冬枯れは認められず、メド-フェスクは昭和39年に1部冬枯れが認められたが、昭和40年には認められなかった。また、ケンタッキ-31フェスク・マウンテンブロムグラスおよびペレニアルライグラスの各草種には2カ年とも軽少ではあったが冬枯れが最も多かった。
  マメ科でか各草種とも昭和39年には冬枯れは認められなかったが、昭和40年には、各草種とも1部軽少ではあるが冬枯れ現象が認められた。なお中間泥炭地においては、観察調査を行なわなかったので不明である。
 (2) 再生力
  (1) 早春の萌芽再生の最も速い草種は、イネ科ではチモシ-・オ-チャ-ドグラス・リ-ドカナリ-グラスおよびスム-ズブロ-ムグラスの各草種でマメ科ではアカクロ-バ・ラジノクロ-バ・シロクロ-バおよびアルサイククロ-バの各草種であった。
  (2) また、刈取り後の再生の最も速い草種はイネ科ではオ-チャ-ドグラス・イタリアンライグラス・ペレニアルライグラスおよびHワンライグラスでメド-フェスクおよびケンタッキ-31フェスクの各草種も速度としては稍遅く、マメ科では、ラジノクロ-バ・シロクロ-バ・アルファルファおよびアカクロ-バの各草種はいずれも再生の速度が速い。
 (3) 収量性
  (1) イネ科
   ア. 初年目に多収の草種は、ライグラス類、メド-フェスクおよびリ-ドカナリ-グラスで1年生のイタリアンライグラスは圧倒的な多収であった。
   イ. 2年目以降、多収な草種はチモシ-・リ-ドカナリ-グラス・オ-チャ-ドグラスおよびペレニアルライグラスであったが、低位泥炭地ではスム-ズブロ-ムグラス、中間泥炭地ではメド-フェスクも多収であった。
  (2) マメ科
   ア. 初年目に多収の草種はシロクロ-バ・ラジノクロ-バおよびアカクロ-バでアルサイククロ-バは中間泥炭地で多収をあげたが低位泥炭地では低収であった。
   イ. 2年目以降、アカクロ-バ・ラジノクロ-バおよびシロクロ-バが多収で、また、初年目と同様アルサイククロ-バは中間泥炭地では最多収であったが、低位泥炭地では低収であった。
   ウ. 特に3年目の低位泥炭地では、ラジノクロ-バとシロクロ-バが多収を認め、アルファルファも3年目にはアカクロ-バ程度の風乾収量が得られた。

 4. 結論
  以上の試験結果により、天北地帯の泥炭地に適応すると思われる草種は、イネ科では、チモシ-・オ-チャ-ドグラス・リ-ドカナリ-グラス・イタリアンライグラス・ペレニアルライグラスおよびメド-フェスクの各草種で、また、マメ科では、ラジノクロ-バ・シロクロ-バ・アカクロ-バおよびアルサイククロ-バの各草種があげられる。
 なお、アルファルファであっても、低位泥炭地で分解度の進んだところにおいては、適品種の選定によりかなりの生育収量がのぞめる。

Ⅱ 泥炭地における主要草種の品種選定試験
 1. 試験場所および年次
  天塩郡天塩町南川口 支場内新墾低位泥炭地(昭和38年~40年3ヶ年)
 2. 試験地土壌の一般的特性
  各種牧草の種類比較試験に同じ
 3. 供試草種と品種数
  1) オ-チャ-ドグラス  6品種
  2) アカクロ-バ      6品種
  3) アルファルファ    15品種
 4. 試験結果の要約と結論
  オ-チャ-ドグラス
 (1) 生育その他障害
  出穂始ではFrode雪印改良種およびS143の各品種は道在来種に比較して1~3日おくれる。
 草丈では、S143が1番草において各年次とも道在来種より劣った。病害の発生では各品種にほとんど差が認められなかった。
 (2) 収量
  年間合計の風乾物収量におkて、分散分析を行った結果、品種間に昭和40年度のみ5%水準で有意性が認められ、S143は道在来種より年間合計では低収であった。
 道在来種とFrode間には、収量差がないものと思われた。
 なお、S143は1番草は低収であるが、2番草以降は道在来種と同程度の収量であるから、放牧型の品種に適するものと考えられる。

 5. 結論
  天北地帯の泥炭地においてオ-チャ-ドグラス6品種の比較試験の結果、道在来種より多収な品種は認められず道在来種とFrodeは収量および病害の点では大差ないものと思われた。
 また、S143は放牧型の品種向と思われる。
 〔アカクロ-バ〕
  1. 生育その他障害
 Altaswedaは匍匐型の品種で草丈より低く、開花数も少なく、晩生種であるが、他の品種は、開花始においては大差なかった。
 病害の発生ではKenlandに炭疽病および銹病の発生が多かったが、他の品種では発生も少なく、品種間に大差認められなかった。
 冬枯れは昭和39年にはっかう品種に認められなかったが、昭和40年春には、Mammoth、KenlandおよびMediumの各品種に冬枯れがやや多く目立ったが、補完の品種には少なく、Altaswedaのみは冬枯れが、ほとんど認められなかった。
  2. 収量
 年間合計の風乾物収量において分散分析の結果、昭和40年(第3年目)のみ品種間に1%水準で有意性が認められ、また、3ヶ年合計の風乾物収量分散分析の結果では、品種間に5%水準で有意性が認められた。
 即ち、収量性についてみると、第3年目では道在来種に比較して、Altaswedeは5%水準で多収であった。
 また、3ヶ年合計では道在来種、ハミドリおよびAltaswedeの3品種間には有意差が認められなかった。
  3. 粗蛋白収量
 昭和39年1ヶ年の分析結果では、ハミドリが道在来種より10%程度多収であった。
  4. 結論
 天北地帯に泥炭地においてアカクロ-バ6品種の比較試験の結果、Altaswedaは冬枯れはなく3年目には道在来種より多収であった。
 なお、Altaswedaは永続性の点においても勝るものと思われるが、採草の場合には2回程度の利用しか期待出来ない。
 ハミドリについては、道在来種との間に収量において系統的な有意差は認められなかったが、各年次とも稍多収の傾向を示し、病害においてもハミドリは道在来種に比較して、大きな差は認められなかった、ハミドリは粗蛋白収量において、1ヶ年の成績ではあるが、道在来種より多収であった。
 〔アルファルファ〕
  1. 生育その他障害
   (1) 生育では、3ヶ年間を通じて、Du Puits、PhizomaおよびNarragansettの各品種が旺盛であった。
   (2) 早春の萌芽再生では、Du Puitsが最も早く、刈取後の再生では、Du Puits、MoapaおよびCaladinoが他の品種に比較して速かった。
   (3) 病害の発生では、初年目と3年目には全般に各品種とも少なく、特に、初年目には少なかったが、2年目の2番草以降、黒点病が多発し、品種間では、Lahontan、Talent、FeraxおよびCaliuede,puitsの各品種は比較的発生が少なかった。
   (4) 冬枯れおよび株枯れは、昭和39年(2年目)には、Moapa、CaliuedeおよびLadakに多く認められた。昭和40年(3年目)においてはLadakおよびMoapaに特に多く認められ、Caliuede、NomadおよびRamblerも稍多かったが、Du Puits、Mocsel、Rhiyoma、NarragansetおよびCaladinoの各品種には、2ヶ年とも冬枯れは少なかった。
  2. 収量
 年間合計の風乾物収量で分散分析の結果、3ヶ年とも品種間に1%水準で有意差が認められた。
   (1) 初年目に多収の品種は、Du Puits>Caliuede>Caladino>Narragansett>Vernal>Talent>RhizomaおよびMoapaの各品種で、これらの8品種間には有意差が認められなかった。
   (2) 2年目に多収の品種は、Du Puits>Rhizoma>CaladinoおよびNarragansettの各品種で、これらの4品種間には有意差が認められなかった。
   (3) 3年目に多収の品種は、Du Puits>NarragansettおよびRhizomaの品種で、これらの3品種間には有意差が認められなかった。
   (4) 3ヶ年間の合計で多収をあげた品種は、Du Puits>NarragansettおよびRhizomaの3品種であった。
  3. 粗蛋白収量
 昭和39年1ヶ年の分析成績によれば、Narragansett、RhizomaおよびDu Puitsが多収であった。
  4. 結論
 天北地帯の泥炭地においてアルファルファ15品種について比較試験を実施した結果、低位泥炭地で分解の可成り進んだ所のにおいては、適品種を選定の上酸性矯正、排水および根瘤菌の接種が伴えば、収量も生草で10a当初年目で、2.7ton、2~3年目においては5ton以上が期待出来た。
 適品種としては、Du Puits、RhizomaおよびNarragansettの3品種があげられるが、前記の2品種については、既に当地帯における普通地の奨励品種に決定しており、泥炭地においても、この2品種が良好であった。
 Narragansettは過去、普通地において検定試験からもれていたが泥炭地において前2品種とともに有望と考えられる。