【指導参考事項】
多雨期におけるサイレ-ジ大量調製法実用化試験成績 (慣行タワ-サイロによるヘイレ-ジ、低水分サイレ-ジの調製とその飼養効果について) 北海道立根釧農業試験場 |
Ⅰ 試験目的
サイレ-ジの調整方法については水分含量の低い場合、かびの発生や再醗酵の危険性があるので適水分で調整するようにいわれてきた。しかし、最近慣行タワ-サイロでも低水分サイレ-ジの調製が技術的に可能であるという試験成績がみられるようになり、また現地の酪農家でもすでに実施しているところがしばしばみられるが、低水分サイレ-ジの利点については賛否両論がある。
本試験は標題である大量調整法の場合、機械化を前提とすると、ワッフラ-その他による予乾作業、ハ-ベスタ-のビックアップタッチメントの取付、ハ-ベスタ-ブロアなどの作業能率、踏み込みが困難になると、気象条件と作業予定の立て方など、従来のダイレクトカットの場合よりも複雑な要求が入ってくるため、低水分サイレ-ジ調製の実際に当たって考慮せねばならぬ問題点があるが、しかし、将来の方向として低水分サイレ-ジとすることにより粗飼料供給を単一化し得る可能性があることから、飼料供給を機械化できるので大量調整、大頭数飼育の場合ほど有利であろう。またサイレ-ジの品質向上による産乳、育成効果も上がることが期待される。
一般酪農家の場合、稼働力2~3人で100~150tものサイレ-ジを調製している場合が多く、運搬を能率化するためにも圃場で出来る限り水分を少なくすることが必要であり、また実際現地酪農家のサイレ-ジ品質を調査した場合、高水分の場合は、劣悪なものが多く、低水分の場合はほとんど良質であることからも今後の方向として低水分を採るべきであろう。
本試験は1964、1965年の2ヵ年実施し、いずれも慣行タワ-サイロに水分65%、60%、40%のものを調製し、両年の結果から慣行タワ-サイロでも技術的に可能であること、またその消化率や飼養効果なども調査したので指導の参考に供する。
Ⅱ 試験成果の要約
1. 1964、1965の2ヵ年邸水分サイレ-ジの調製試験を実施した結果、慣行タワ-サイロで技術的には調製が可能であるとの結論を得た。
2. 20tタワ-サイロ1基当り乾物量はダイレクトカットサイレ-ジ100に対し、低水分サイレ-ジ、ヘイレ-ジはそれぞれ117.8、127.8であった。
3. サイレ-ジ取り出し時における外観調査結果では低水分サイレ-ジは芳香の強い、黄緑色のきわめて優れた品質を示したが、中層に至るに従い、サイロ周辺10~20cmに白かびの発生をみることが多いので、取り出し後ビニ-ル被覆をし、発かびの防止をした。
4. 低水分サイレ-ジ、ヘイレ-ジになるに従いPHが高くなり、乳酸、揮発酸含量はダイレクトカットサイレ-ジに比較してきわめて少なかった。しかし酸組成は良好であった。
5. 乳牛による飼養試験の結果ではダイレクトカットサイレ-ジに対し、低水分サイレ-ジ、ヘイレ-ジの乾物摂取量の増加は10%以下にとどまった。
6. 産乳効果は認められなかったが増体効果は高かった。
7. めん羊による消化試験の結果ではダイレクトカットサイレ-ジ、低水分サイレ-ジに比較して、ヘイレ-ジの消化率は一般に劣っていた。ダイレクトカットサイレ-ジと低水分サイレ-ジの間には大差はなかった。
(注 低水分サイレ-ジは水分含量60~65%、ヘイレ-ジは概ね40%で試験した)
Ⅲ 試験成績資料
第1表 サイレ-ジ調製の作業経過
処理 | D.Cサイレ-ジ | 低水分サイレ-ジ | ヘイレ-ジ |
調製 月日 |
6月30日 7月10日 7月13日 |
7月 9日 7月10日 細切生草後詰 7月13日 |
7月 8日 7月 9日 細切生草後詰 7月13日 |
作業 体系 |
カッタ-刃アタッチメント ハ-バスタ-(細切) ↓ トラック又はトレ-ラ-(運搬) ↓ ブロア-(吹き上げ) |
モア- (刈倒し) ↓ ワッフラ-(2回反転およびウインドロ-) ↓ ウインドロ-ピックアップアタッチメント ハ-ベスタ-(細切) ↓ トラック又はトレ-ラ-(運搬) ↓ ブロア- |
モア- (刈倒し) ↓ ワッフラ-(4回反転およびウインドロ-) ↓ ウインドロ-ピックアップアタッチメント ハ-ベスタ-(細切) ↓ ブロア-(吹き上げ) |
ハ-ベスタ-で直接細切し、 添加物なしで埋草 踏込5人 ビニ-ルで被覆しその上に 土を32kg/m2のせた |
9日、9時から11時をモア-で刈倒し つづいてワッフラ-を時時にかけ、 翌10日10時、ワッフラ-により反転及び ウインドロ-としてハ-ベスタ-により 細切無添加にて埋草踏込7人 ビニ-ルにて被覆し、その上に13日細切 生草を1.2t前後加重としてあと詰めした。 |
8日9~11時モア-で刈倒し、ワッフラ- を11時、14時にかけた。9日、9時にワッフ ラ-をかけ12時にウインドロ-とし、13時 よりハ-ベスタ-にて細切し、無添加にて 埋草した。 ビニ-ルで被覆し、その上に13日細切生草 を0.7t前後加重としてあと詰めした。 |
区 分 | 埋草後 の日数 |
水分 | 色 沢 | 香 気 | PH | 有機酸組成(無水物中%) | 白かび の有無 |
醗酵 温度 |
||
総酸 | 乳酸 | 揮発酸 | ||||||||
D.C サイレ-ジ |
7 | 79.9 | 褐色をおび た黄金色 |
やや生草 臭をおびた 少刺激臭 |
4.15 | - | 5.17 | - | 上部表面 に点在 |
20℃ |
16 | 79.7 | 黄金色 | やや強い 快酸臭 |
4.03 | 7.18 (100) |
5.86 (82) |
1.32 (18) |
〃 | 18℃ | |
75 | 79.7 | 〃 | 〃 | 3.80 | 8.10 (100) |
6.71 (83) |
1.39 (17) |
なし | 18℃ | |
低水分 サイレ-ジ |
7 | 57.7 | 淡 緑 黄 色 |
軽い 甘酸臭 |
5.40 | - | 0.47 | - | 上部白 かび密生 |
18℃ |
16 | 59.7 | 黄緑色 | 快 甘酸臭 |
4.90 | 1.71 (100) |
1.48 (87) |
0.23 (13) |
上部表面 に点在 |
18℃ | |
75 | 63.5 | 褐 黄 緑 色 |
〃 | 4.00 | 5.97 (100) |
5.32 (87) |
0.65 (13) |
なし | 17℃ | |
ヘイレ-ジ | 7 | 43.9 | 明るい緑味 をおびた黄色 |
やや生草を おびた軽い 酸臭 |
5.55 | - | 0.32 | - | 上部表面 に点在 |
19℃ |
16 | 41.8 | 〃 | 軽い甘酸臭 茅香あり |
5.55 | 0.49 (100) |
0.40 (82) |
0.05 (18) |
〃 | 19℃ | |
75 | 40.6 | 〃 | 〃 | 4.90 | 1.25 (100) |
1.04 (83) |
0.21 (17) |
上部に密生 | 21℃ |
群別 | D.Cサイレ-ジ | 低水分サイレ-ジ | ヘイレ-ジ | |||||||||
乾草 | サイレ-ジ | 配合 | 合計 | 乾草 | サイレ-ジ | 配合 | 合計 | 乾草 | サイレ-ジ | 配合 | 合計 | |
Ⅰ | 0.7 | 11.3 | 2.3 | 14.3 | 0.4 | 13.1 | 2.1 | 15.6 | 0.6 | 13.5 | 2.2 | 16.3 |
Ⅱ | 1.0 | 12.5 | 2.2 | 15.7 | 0.9 | 12.9 | 2.1 | 15.9 | 0.7 | 12.7 | 2.0 | 15.4 |
Ⅲ | 0.8 | 12.8 | 2.1 | 15.7 | 0.6 | 13.2 | 2.1 | 15.9 | 0.8 | 13.8 | 2.1 | 16.7 |
平均 | 0.8 | 12.2 | 2.2 | 15.2 | 0.6 | 13.1 | 2.1 | 15.8 | 0.7 | 13.3 | 2.1 | 16.1 |
群別 | D.Cサイレ-ジ | 低水分サイレ-ジ | ヘイレ-ジ | |||
サイレ-ジ | 全体 | サイレ-ジ | 全体 | サイレ-ジ | 全体 | |
Ⅰ | 2.02 | 2.55 | 2.24 | 2.66 | 2.32 | 2.80 |
Ⅱ | 2.31 | 2.91 | 2.42 | 2.99 | 2.33 | 2.83 |
Ⅲ | 2.18 | 2.67 | 2.19 | 2.64 | 2.30 | 2.78 |
平均 | 2.17 | 2.70 | 2.28 | 2.75 | 2.31 | 2.80 |
区分/群 | D.Cサイレ-ジ | 低水分サイレ-ジ | ヘイレ-ジ | ||||
DCP | TDN | DCP | TDN | DCP | TDN | ||
Ⅰ | 摂取量 | 138.8 | 864.4 | 121.5 | 1.006.7 | 115.0 | 963.7 |
畜試比 | 132.6 | 91.4 | 115.4 | 105.2 | 108.5 | 99.6 | |
Ⅱ | 摂取量 | 140.7 | 991.6 | 138.4 | 1.034.0 | 110.0 | 903.1 |
畜試比 | 135.7 | 106.2 | 137.6 | 113.9 | 110.6 | 100.0 | |
Ⅲ | 摂取量 | 137.4 | 998.6 | 133.1 | 1.036.4 | 118.9 | 983.7 |
畜試比 | 136.9 | 108.2 | 131.9 | 111.2 | 114.7 | 103.6 | |
平 均 |
摂取量 | 139.0 | 131.0 | 131.0 | 1.025.7 | 114.6 | 950.2 |
畜試比 | 135.1 | 128.3 | 128.3 | 110.1 | 111.3 | 101.1 |
区分/ 群別 |
D.Cサイレ-ジ | 低水分サイレ-ジ | ヘイレ-ジ | ||||||
乳量 | 脂肪率 | FCM | 乳量 | 脂肪率 | FCM | 乳量 | 脂肪率 | FCM | |
Ⅰ | 17.1 | 3.43 | 15.6 | 17.0 | 3.40 | 15.5 | 17.3 | 3.47 | 15.9 |
Ⅱ | 17.0 | 3.50 | 15.6 | 16.4 | 3.45 | 15.0 | 15.3 | 3.70 | 14.6 |
Ⅲ | 15.7 | 3.50 | 14.4 | 15.0 | 3.73 | 14.4 | 15.7 | 3.77 | 15.0 |
平均 | 16.6 | 3.48 | 15.2 | 16.1 | 3.53 | 16.1 | 16.1 | 3.65 | 15.2 |
利 点 | 欠 点 | |
調 製 法 と 品 質 |
1. サイロ1基あたりの乾物量が多い。 | 1. 機械及び労力が多くかかる。 |
2. あと詰めしなくてもよい。 | 2. ブロア-がつまりやすい。 | |
3. 香気ならびに酸組成が良い。 | 3. ハ-ベスタ-の細切部に熱をもちやすい (機械に無理がかかる) |
|
4. 凍結しない。 | 4. 取り出し後サイロ周辺にカビが生えやすい | |
5. 現地調査の結果では低水分になるに従い品質が向上した。 | 5. 天候に左右される。 | |
飼 養 効 果 |
1. 乾物摂取量が多い。 | 1. 産乳量に差がみられない(飼料効率が低い) |
2. 体重が増加する。 | 2. ヘイレ-ジの消化率が落ちる。 | |
3. D.Cサイレ-ジと低水分サイレ-ジでは消化率に 差がない。 |
3. ル-メン内VFA組成は酢酸が多くプロピオン酸が 少ない。 |
Ⅴ 指導上の参考事項
試験結果ではダイレクトサイレ-ジに比較して低水分サイレ-ジ、ヘイレ-ジの産乳効果は認められなかったが、この場合のダイレクトカットサイレ-ジは機械労働集約的に最も理想的な条件で調製したもので、品質もきわめて優れていた。
従って、厳密な意味で差が認められないということであり、農家のサイレ-ジ調査結果では、高水分の場合がきわめて多く、これらはいずれの場合も不良なものとなっているので、このような場合を含めて差がないということではないので注意する必要がある。サイレ-ジ調製の実際に当たっては農家の場合は労働軽減品質向上を計るため、予乾もしくは低水分とすることが望ましいということができる。
この場合、必ずしも一定の水分含量とする必要はないし、天候の状況と作業の関係で、サイロ内の水分が層別に異なることもやむを得ないし、現在の檀家では、このような適水分の巾をひろげた考え方が必要であると思われる。