【指導参考事項】
放牧家畜の標識(薬剤による)に関する試験
(特に大群放牧時における標識として)
北海道農業試験場草地開発部

Ⅰ 試験目的
 公共草地の開発に伴って、大群放牧が行われるようになり、それに伴って日常管理上個体の標識がきわめて重要となってきた。
 特に大群の場合は、①簡易な操作で標識され、②経費が安価であり、③長期間安全に保持され、④識別が鮮明で遠くからでも確認されることなどが要求される。
 現在までは、①写真判定法、②焼烙法、③しらが染法、④耳標法、⑤鉄板番号法などが行われているが、いずれも一長一短があり、特に今後の大規模草地においての標識が問題となる。
 以上の点から、今回ニュ-ジ-ランドや米国などで使用されている特殊薬品による標識法の適用性について試験を行ったので、その概要を報告し指導の参考に供したい。
 
Ⅱ 試験成績の要約
 (1) 供試薬剤の製造元は米国コロラド州デンバ-のFRANKLIN,COMPであり、ニュ-ジ-ランドのEBOR,SNPPLY,COMPの発売する”Brand-EM-OL”である。
 主成分は硫化バリウム14.3%、苛性ソ-ダ14.3%、テレピン油6.3%、その他タ-ルを主体とする安定剤65.1%を含む、タ-ル状の黒色粘性を有する液状態のものである。
 (2) 薬剤塗布器
  鉄製材で第1図に示すごとく、0~9番のナンバ-の他に、必要に応じたA~Xなりの記号も作成し得る。

 

 第1図 薬塗布器(O型)

 (3) Brad-EM-OLは使用時が寒冷な時は温湯中でよく容融し、使用のたびによく混和する。加温時は直接火にあてないようにする。(発火の危険がある)
 (4) 畜体への塗布は牛馬共に臀部がよく、薬剤をつけた塗布器は静かに畜体に圧着し、前後、左右に動かして、薬剤が十分畜体に移行するように注意する。この場合、もし冬毛など粗毛が4cm以上の時や汚物がある場合はバリカンで剪毛すれば効果が高い。
 (5) 塗布後の標識の変化
  塗布後1~2時間で被毛は溶解しはじめ、2日目には薬剤を塗布した部分は乾燥する。30日~60日で塗布部の表皮は一度痂皮となり剥離し、表皮が露出する。6月~10月上旬までは鮮明に標識が残されているが冬期に至れば冬毛が伸長すると、識別が困難となるので、一度バリカンで剪毛する。

 第1表 薬剤塗布と状況
区 分 所   見
5時間後 毛がドロドロに溶解する
5日後 毛が完全に融解し、乾燥する
15日後 塗附部が平滑となり、完全に乾燥する
60日後 塗附部の表皮が離脱し始める
90日後 表皮が離脱し、表面完全に露出する

 (6) 薬剤の処理
  薬剤をあける容器は平低容器を使用するが、もし薬剤が残った場合には、鑵の中にもどし十分密封しておく、また薬剤が手や衣服に附着した時には速やかによく水洗いする。塗布器も使用後に温湯にて洗浄し保管する。