【指導参考事項】
子牛の育成方法の差異が草地の利用に及ぼす影響に関する試験
道立天北農業試験場

Ⅰ 試験目的
 子牛の育成法は省力的、かつ経済的でなければならないが、特に草地酪農を目指す場合は、さらに離乳後における草地の利用性の高い育成法でなければならない。かかる観点から最も合理的な育成法を究明する目的で本試験を行った。

Ⅱ 試験成果の要約
 哺乳期間中の異なる育成方法が離乳後の放牧によって発育にいかなる影響を及ぼすかを究めるため、生後2週令の牡犢(ホルスタイン系種)12頭を、それぞれ6頭づつ対照群(全乳→カ-フミ-ル)と試験群(ミルクリプレ-サ-→カ-フスタ-タ-)に分けて100日間哺乳し、離乳後はさらに各群を5頭づつに分けて一方は放牧し、一方は引き続き舎飼して計200日間試験した。
 前期においては試験群の方が下痢ないしは軟便となり易く、一時的に発育が停滞し、そのため発育が劣る結果となった。しかし後期の放牧することによって、リプレ-サ-→スタ-タ-方式の真価が発揮され、後期における最高の発育率を示した。
 対照群においても放牧開始後2ヵ月位は同時の舎飼区より若干劣ったが後半において挽回し、放牧効果の高いことを示した。
 また、リプレ-サ-→スタ-タ-方式の方が飼料費が安くあがった。特に後期放牧をした場合対照より14%安上がりになった。
 なお、後期も引き続き舎飼した時はいづれの方式でも飼料率が悪くなり、収支は赤字となった。反対に放牧することによって飼料効率は著しく向上し黒字になった。

Ⅲ 成績資料
 1表 供試家畜一覧表(ホルスタイン系雑種の雄子牛12頭を次のように6頭づつ2群に分けた)
個体番号 生年月日 1週令
体重
(kg)
備   考
2 40.2.19 41 雄(去勢)











舎飼区 



対照群
放牧区  











放牧区



対照群
舎飼区
4 40.2.21 50
5 40.2.24 47
8 40.2.23 46
9 40.2.26 46
10 40.2.24 47
11 40.2.24 47
12 40.2.24 47
15 40.2.26 44
16 40.2.25 43
17 40.2.28 44
19 40.2.24 50

 2表 離乳までの飼料給与基準
対照群 試験群
生後週令 全乳
(kg)
カ-フミ-ル
(kg)
エンバク
(g)
乾草 生後週令 全乳
(kg)
リプレ-サ
(g)
スタ-タ エンバク
(g)
乾草
1 4.5~5.5       1~4日 4        
2 5.6~6.5     自由採食 5~7   500      
3 6.8~4.5 200     2週   750 少量   自由採食
4 4.0~0 500     3   1.000  
5   800 20~120   4   750 500  
6   1.000 120~180   5   500 800  
7   1.200 180~240   6   250 1.200  
8   1.500 260~300 7~8     1.500  
9   1.800 300~400   9     1.700  
10   1.600 440~540   10      
11   1.300 600~720   11     2.000  
12   1.100 720~840   12      
13   800 840~1.050   13      
14   300 1.100~1.350   14      
15   100 1.400~1.500   15     1.000 1.000

 3表 全期発育調査成績(kg、cm)
区別 群  別 対照群 試験群 二群平均(放牧効果)
調査事項 体重
体高
胸囲
体長
体重
体高
胸囲
体長
体重
体高
胸囲
体長




試験開始時 (kg)
49.1
(cm)
75.7
(cm)
80.0
(cm)
73.3
(kg)
45.7
(cm)
74.3
(cm)
76.7
(cm)
66.0
(kg)
47.4
(cm)
75.0
(cm)
78.4
(cm)
69.7
試験終了時 184.7 100.7 124.7 108.3 144.7 91.0 114.7 100.0 164.7 95.9 119.7 104.2
増    量 135.6 25.0 44.0 35.0 99.0 16.7 38.0 34.0 117.3 20.9 41.3 34.5
1日増量 (g)
0.678
(mm)
1.25
(mm)
2.24
(mm)
1.75
(mm)
4.95
(mm)
0.84
(mm)
1.90
(mm)
1.70
(mm)
5.87
(mm)
1.03
(mm)
2.07
(mm)
1.73
% 100 100 100 100 73 67 85 97 100 100 100 100




試験開始時 49.7 75.0 81.0 68.7 46.0 74.7 67.6 67.0 47.9 74.9 78.9 67.9
試験終了時 209.3 104.3 132.3 113.0 193.0 102.0 128.7 113.3 201.2 103.2 130.5 113.2
増    量 159.6 29.3 51.3 44.3 147.0 27.3 52.0 46.3 153.3 28.3 51.6 45.3
1日増量 0.798 1.47 2.56 2.22 7.35 1.37 2.60 2.32 2.67 1.42 2.58 2.27
% 118 118 114 127 108 110 116 132 130 138 125 131
二区
平均
(飼料
効果)
試験開始時 49.4 75.4 80.5 71.0 45.8 74.5 76.7 66.5        
試験終了時 197.0 102.5 128.5 110.7 168.9 96.5 121.7 106.7        
増    量 147.6 27.1 48.0 39.7 123.1 22.0 45.0 40.2        
1日増量 0.738 1.36 2.40 1.99 6.16 1.10 2.25 2.01        
% 100 100 100 100 83 81 94 101        

 4表 育成前期発育調査成績'kg、cm)
群  別 対照群 試験群
調査事項 体重
(kg)
体高
(cm)
胸囲
(cm)
体長
(cm)
体重
(kg)
体高
(cm)
胸囲
(cm)
体長
(cm)
試験開始時 49.4 75.4 80.5 71.0 45.8 74.5 76.7 66.5
試験終了時 114.0 96 109.2 96 95 85.8 103.3 91.5
増    量 64.6 20.6 28.2 25 49.2 11.3 26.6 25
1日増量 0.646 0.206 0.287 0.25 0.492 0.113 0.266 0.25
% 100 100 100 100 76 55 93 100

 5表 育成後期発育調査成績(kg、cm)

群  別 対照群 試験群 二群平均
調査事項 体重 体高 胸囲 体長 体重 体高 胸囲 体長 体重 体高 胸囲 体長




試験開始時 113.3 92.3 110.0 95.7 90 84.3 101.7 90 101.7 88.3 105.9 92.6
試験終了時 184.7 100.7 124.7 108.3 144.7 91.0 114.7 100 164.7 95.9 119.7 104.2
増    量 71.4 8.4 147 12.6 54.7 6.7 13 10 63 7.6 13.8 11.3
1日増量 0.714 0.84 0.147 00126 0.547 0.67 0.13 0.10 0.63 0.076 0.138 0.113
% 100 100 100 100 65 80 88 79 100 100 100 100




試験開始時 114.7 93.7 108.3 96.3 100 87.3 104.7 93 107.4 90.5 106.5 94.7
試験終了時 209.3 104.3 132.3 113.0 193.0 102.0 128.7 113.3 201.2 103.2 130.5 113.2
増    量 94.6 10.6 24 16.7 93 14.7 24 20.3 93.8 12.7 24 18.5
1日増量 0.946 0.106 0.24 0.167 0.93 0.147 0.24 0.203 0.938 0.127 0.24 0.185
% 132 126 163 132 130 175 163 161 149 167 174 164



試験開始時 114 93 109.2 96 95 85.8 103.2 91.5         
試験終了時 197 102.5 128.5 110.7 168.9 96.5 121.7 106.7        
増    量 83 9.5 19.3 14.7 73.9 10.7 18.5 15.2        
1日増量 0.83 0.095 0.139 0.147 0.739 0.107 0.185 0.152        
% 100 100 100 100 89 112 96 103        

 図1 平均体重の推移

 表1によると全期間における増体は体重および各部位とも両群の放牧区が優れ、試験群の舎飼区が最も劣っているようである。今舎飼放牧の区別を度外視して、2群の比較をすると周囲および体長の増量は大差ないが、体重および体高のそれは試験群の方が劣るようである。また逆に群別を度外視して舎飼と放牧の比較をすると各項目とも放牧区が優っているようである。

 6表 経済性
  参考までに本試験における収支計算を行った結果は次表のとおりである。
群・区別 収  支 支      出 差額
(円)
個体売却
(円)
牛購入費
(円)
飼料費
(円)
労力費
(円)

(円)
対照群舎飼区 25.000 4.500 18.451 3.500 26.451 -1.451
  〃 放牧区 36.000 4.700 17.601 2.100 24.401 11.599
試験群舎飼区 20.000 4.400 16.723 3.500 24.623 -4.623
  〃 放牧区 32.000 4.600 15.873 2.100 21.573 9.427
  備考
     ⅰ) 労力費は舎飼は17.5円/日、放牧は3.5円/日として計算された。
     ⅱ) 支出費目には建設施設、管理用具費、衛生費などを除外した。
   これによると経費は対照群の舎飼区が最も多額を要しており、対照群の放牧区および試験群の舎飼区は同じ程度で対照群の舎飼区より若干少なく、試験群の放牧区が最も少額で対照群の舎飼区より15%少なかった。しかし個体売却の結果、舎飼区は両群とも赤字になった。そして対照群の放牧区が最も黒字になり、試験群の放牧区はそれにより2.000円位利益が少なかった。