【指導参考事項】
道南高台地における草地酪農確立に関する経営試験
-瀬棚経営試験農場の成績-
北海道立中央農業試験場経営部

Ⅰ 研究の目的と経過概要
 1. 研究の目的と意義
  本研究の目的は、道南高台地における草地酪農確立に関する研究の一環として行ったもので、本稿は昭和34年より昭和37年迄の4年間檜山管内瀬棚町に設置した経営試験農場の経営試験に関する成績を纏めたものである。
 道南高台地帯における営農確立については、気候、土壌ならびに立地条件が不良にして、これが安定には困難を極めていた現状であった。しかも、本地帯には開拓地が多いが、戦後入植者は、入植年次、家族労働構成、経営者の営農技術者等によって階層分化が認められているが、その多くは営農が不安定で開拓不振地区とされていた。ここにおいて従来の営農形態を検討し本地帯開拓地の営農確立を目的として、瀬棚町ガンビ岱地区に経営試験農場を設置したものである。

 2. 研究方法と経過概要
  瀬棚ガンビ岱地区は瀬棚町市街約2kmの地点より北方へ楔型をなして展開せる高台地にして、最奥地迄は5km、東西の巾は3kmあり、経営試験農場はそのほぼ中央、市街より約4kmの地点に設置した。本経営試験農場は担当農家4戸で構成され、その選定は、本地区を代表し得る農家を現地指導者と協議し決定した。
 本地帯は標高150mに位置するので道南とはいえ、農耕期間の積算温度が低く天北ならびに根釧地帯と稍々類似した気象条件にあるので、従来の混合経営をあらため、極力草地造成に務め、草地酪農への発展の可能性を実証したものである。

Ⅱ 経営試験農場における問題点と改善目標
 1. 経営試験農場の問題点
  (1) 立地条件は、標高150m~180m、耕地は傾斜8~10度の波状形を展開している。なお、利用困難と考えられる附帯地が1戸当りの配当面積の50%を占めている。
  (2) 気象条件で特に問題となるのは、農耕期間の積算温度が2.300℃、日照時数は767時間と少なく、かつ濃霧地帯で常に強風がある。
  (3) 土壌の作土は浅く(8.0cm内外)強酸性(PH表土5.6、心土5.1)有効燐酸は少ない。なお、処理によっては排水不良の圃場もあり、土地生産力が低い。
  (4) 経営内の消費圧が高い反面、稼働力が少ない。また、営農の装備は弱体で農業所得も低く、系統負債もかなりある。

 2. 経営試験農場の改善目標
  (1) 経営の形態は主畜経営とし、養畜の種類は乳牛を主体とする。
  (2) 乳牛の飼料は牧草を基本とし、耕種部門は牧草の生産を主体として販売作物としては将来甜菜等の1.2の種類に止める。
  (3) 土地生産力の増進と労働合理化並びに風害を考慮に入れた輸作方式を確立する。
  (4) 土地生産力の向上を図るため酸性・矯正・深耕・心土耕・有機物の多施・燐酸肥料の施用、暗渠排水等の一連の耕土改良を施行する。
  (5) 共同農機具の導入により農作業の合理化を図る。
  (6) 耕地防風林の栽植を行う。

Ⅲ 草地酪農の組織展開に関する考察
 1. 生産構造
  本地区の入植者に対する土地の配分は図面上で1戸当り約12haに区画し、以後実測により割当を決定し、結論的には第1表に示す如き配当面積となった。ただし④号農家は昭和37年度に4.2haの増地をみた。入植年次は①号、②号、③号の各農家は昭和22年、④号農家は24年である。
 耕地造成は各農家とも8割が補助金により開墾した。開墾の方法は①号農家は機械力が65%、②号農家は人畜力が81%、③号、④号農家は人畜力機械併用で81%の地農造成を行った。

 第1表 地目別土地利用(昭37)
農家番号 配当
面積
(ha)
耕 地 未利用地
(ha)
沢地
(ha)
宅地
(ha)
将来の可耕地
面積
(ha)
比率
(%)
面積
(ha)
比率
(%)
14.99 6.15 41.3 3.90 4.79 0.15 10.2 68.3
13.58 7.35 54.4 0.85 5.18 0.20 8.1 59.8
14.29 5.52 38.7 1.43 7.19 0.15 7.1 49.7
13.70
(4.20)
7.00
(2.10)
51.8
(50.0)
1.50
(0.6)
5.10
(1.50)
0.10 8.6
(2.8)
62.8
(66.8)
  注) ( )は増地を示す。
 配当地の傾斜度別面積をみると15度以上が3~5割を占めている。耕土改良の実施の最も良好と考えられたのが②号農家であったが、暗渠排水、熔燐客入をみると必ずしも良好とは言えず、土地基盤整備の問題は今後に残されている。
 なお、耕地防風林については唐松、白樺による植林を計画し実施したが、風害による損傷のためその育成には困難をきわめた。各担当農家の労働歩合は1.8人であるが、消費歩合を労働歩合で割った消費圧は1.5から3.4とその差が著しい。
 農機具の所有状況は、経営試験開始にさきだち、昭和34年にヘ-モ-ア、ヘ-レ-キ、エンシレ-ジカッタ-、軽油発動機、新墾プラウ、心土プラウ各1台宛、草地酪農に必要なる最少限度の農機具を貸与し、またデスクハロ-は昭和36年度末に3戸共同で購入した。なお、昭和37年度末における農機具の評価額をみると、①号農家が5.2万円で②③④号農家は約2倍の10万円内外、年間償却費は①②③号農家は1万円台、④号農家は2・3万円である。
 家畜の飼養状況は第2表に示す如く、家畜単位に換算し昭和33年と対比すると昭和37年は③号農家の39%増から④号農家の170%増となっている。これは家畜構成を乳牛、耕馬、鶏の3種類に限定し、鶏は自家用程度の羽数にとどめ、乳牛の積極的な増加に努力して来た結果である。
 建物および農用施設は経営組織を乳牛部門に求め、経営試験を展開したので牛舎ならびに附属施設の増改築を重点に施行した。施設に投入した額は各担当農家の経済性、社会的信用の範囲において決定し、融資の主体をなしたものは開拓営農振興臨時借置法(昭32制定)に基づくものである。

 第2表 家畜飼養状況
種  類/
農家番号
牛(頭)
(頭)
緬羊
(頭)

(羽)
家畜単位換算計(頭)
育成
昭33 1 1 1 4 2.04(100%)
〃37 3 3 6 1 8 5.58(278 )
昭33 3 3 6 1 1 10 5.70(100 )
〃37 5 3 8 1 3 20 8.00(142 )
昭33 4 4 1 6 5.06(100 )
〃37 5 2 7 1 4 7.04(139 )
昭33 2 2 1 3.00(100 )
〃37 5 4 9 1 10 8.10(272 )

 2. 技術構造
  (1) 耕種部門
   本地区における作付構成をみるに従来は、豆類が約2割を占め経営組織も有畜との混同経営が支配的であった。しかし本地区は標高150m内外の地帯にあり、農耕期間の積算温度を推定すると約2.300℃であり、日照時数も767時間と道南地帯とはいえ、天北、根釧ならびに網走(湧別、斜里)地帯と稍類似した気象条件下にある。故に経営試験の展開にあたっては、極力豆類の作付を制限し、草地造成に務めた。即ち、本農場の作付構成は第3表に示すとおりで、特に牧草は昭和37年には各農家とも5~7割を占めるに至った。

 第3表 作付構成(単位:a)
農家番号/
作   付
昭34 37 34 37 34 37 34 37
燕  麦 130 70 110 90 60 35 90 70
麦  類 50 55 30 32 20
玉蜀黍 10 8 15 20 10
豆  類 45 25 70
秋播菜種 30 30 5
甜  菜 10 13 40 20 20 45
馬鈴薯 15 30 15 10 10 10 20 10
牧  草 140 340 270 415 308 344 300 620
デントコ-ン 80 80 100 70 96 83 100 100
その他の飼料作物 20 10 70 2 40 40 15
蔬菜その他 15 15 20 40 15 40 30 10
495 615 626 735 556 552 727 900

 作物の収量は一般に低く、かつ、農家間において収量差があることが認められた。この作物増収の要因は土地生産性の基盤を確立することと、耕種管理技術を向上させることである。
 耕種管理技術の問題として、燕麦を例にとり作物の増収要因を解析すると、施肥量の増加が必ずしも収量に関係はなく、むしろ増収要因は早期播種の効果が大きく、適期適作業が望まれる。
 また、飼料基盤の確立について飼料作物である牧草についてみると、収草総生産量は年度毎に増加し、昭和34年度と対比すると①号農家は3.7倍の92t、②号農家は2.6倍の116t、③号農家は2.1倍の82t、④号農家は1.6倍の81tとなる。ただし、②号農家の牧草の圃場面積は4haで圃場は8ヶ所に区画され、小は20a、大は100aに及び、また牧草の播種年度も古くは昭和32年、新しいもので昭和35年で播種経過年数は2年から5年に亘り、刈取回数はその利用方式によっても異なるが、1回より5回である。その結果10a当り収量も0.5tより8.0tとその差が大きく認められ、同一農家圃場であっても土地条件によって土地生産力に大きな変動が認められ、地力の上昇均一化が今後の課題となる。
 これが対策は耕土改良を施行しなければならないが、本地区では特に心土耕と混層耕の実施が必要であろう。即ち本地区の土壌は前述せる如く表土は、駒ヶ岳統火山灰よりなる粗粒砂質土で、心土は安山岩を母材とする稍堅密な埴壌土である。この表土は平均約8cm内外あるが本農場用地では水蝕並びに風蝕のため2cm内外となり、その為生産があがらずかつ農作業を困難ならしめている。故に表土と心土とを混合し、作土を深くすることが第一であるが、有機物の生産量も少なくかつ深耕を行うに耕馬1頭のみの所有の現況で施行するには困難をともなうのでますトラクタ-による心土耕を行い、併せて心土の酸性矯正(心土PH5.2、10a当必要石灰量300kg)ならびに土壌改良材として燐酸肥料(10a当40kg)の施用を行い、漸次深耕に誘導するのが望ましい。
 なお、参考迄に過去の実績を基礎として主要作物の耕種肥培管理について畜力体系を基礎とした試案を示すと第5・6表のとおりである。

 第4表 牧草の収量調査(昭36、②号農家)
圃場名/
項 目
A B C D E F G H 合計


調
総  量 (t) 16.0 23.8 7.7 7.0 16.8 4.0 1.6 5.0 81.9
面  積 (a) 20 70 70 50 30 40 20 100 400
10a当収量 (t) 80 3.4 1.1 1.4 5.6 1.0 0.8 0.5 2.1
収量比率 (%) 382 162 53 67 267 48 37 24 100
刈取回数 (回) 5 2 1 3 3 3 1 1  
牧草播種年度 (昭) 35 34 35 34 35 33 33 32  
経過年数 (年) 2 3 2 3 2 4 4 5   
備   考               放牧用   

  (2) 養畜部門
   本経営試験においては、その経営形態は主畜経営とし、養畜の種類は乳牛を主体とし、その基礎牛の増殖に努めた。経営試験終了の昭和37年度には成牛換算で①号農家は3.5頭、②号農家は5.5頭、③号農家は4.5頭、④号農家は6.5頭で経営試験開始の昭和34年と対比すると、①号農家は45%増、②号農家は22%増、③号農家は10%減、④号農家は45%増となっている。各担当農家の個体増は①号、②号農家は国、道、町の貸付牛による導入と一部購入によるものであるが、④号農家は購入と自家増殖による自然増による。但し、③号農家は昭和34年度に乳牛頭数と飼料生産量との間に均衡がとれず、とりあえず成牛ならびに犢を売却したが、その後の増殖を行わなかったので10%の頭数減となったのである。
 次ぎに搾乳量について、昭和34年度と昭和37年度とを対比すると、①号農家は2.5倍増の9.2t、②号農家は1.3倍増の26.4t、③号農家は1.1倍増の14.7t、④号農家は1.7倍の21.6tとなったが本経営試験の設計にあたって当初担当農家の資本、労働、経営者能力、経営試験の期間等を考慮し、基礎牛は成牛5頭、搾乳量は年間20.0tをとりあえずの目標としたが、その目標に達成し得たのは②号、④号農家のみであった。
 成牛の1頭当飼料給与の実績は第7表に示すとおりであり、各農家の搾乳量1頭当り体重及び搾乳量と対比すると、一般のFUの過給、DTPにおける不足がめだち、飼養技術がなお低位にあることが認められる。

 第7表 乳牛の1頭当飼料供給量(昭36)
農家番号/
項  目




配合飼料 330 400 450 320
燕  麦 120
牧 草(生) 10.120 12.240 10.120 6.710
 〃  (乾) 184 457 882
家畜根菜類 610 4.280 1.372 310
甜菜茎葉 920
サイレ-ジ(牧草) 1.475 3.210 1.050
 〃(デントコ-ン) 4.130 3.210 9.502 5.430
ビ-トパルプ 122 180 226 52
麦 稈 類 181 428
野草 (乾) 178 428 900 19
F
U
給与量 2.828 3.886 3.655 3.127
D
T
P
給与量 293 426 394 320

 成牛の自給飼料給与量計画は、1頭当必要面積は96a、その構成は牧草が83%、飼料用根菜類が17%としたが飼料給与面積の実績を整理すると第8表のとおりであるが、同一農家でも年次によって変動がある。これが原因は圃場間に土地生産力のあるためだけである。
 また、デントコ-ンは、本地帯の農耕期間の積算温度が約2.300℃と低く年次収量の差が大きいので、各担当農家とも作付を中止しようと計画した。しかし、昭和34年迄の4カ年の平均を牧草を100としデントコ-ンの収量比をみると、デントコ-ンの生産量は①号農家が55%増、②号農家が23%増、③号農家が62%増、④号農家が79%増と牧草よりもデントコ-ンはいづれの農家も増収し、しかも、牧草の10a当り収量は1.6t~2.6tと低い。故に。この様な状況においては少しでも飼料作物として収量の上る作物を作付するので、各担当農家ともデントコ-ンの作付を中止するにいたらなかったのである。将来は牧草の単位生産量を増大し草地に統一すべきであろう。
 本経営試験においては基礎牛を5頭、搾乳量を年間20tと設定したが、その飼料の1頭当計画面積は96aで育成牛も含め約5~6haの飼料面積が必要となる。ここにおいて、将来、基礎牛を10頭と約2倍の生産規模へと発展させるための条件は、
 1. 土地生産力が同一であれば飼料作付面積が12ha必要となる。
 2. 所有面積を同一とすれば土地生産力を2倍とする必要がある。
 以上2つの方向が考えられるが、前者は耕地規模の拡大が必要となるが既に④号農家は入植当時の配当面積13.7haに更に経営試験終了年の昭和37年度には4.2haを追加され、計17.9haと耕地拡張が現地の指導機関で一部実施にうつされている。また後者は、現在牧草の10a当り収量は平均2.0t内外となっているが、昭和36年度の②号農家の圃場では5回刈取で8.0tの生産可能な耕地も認められ6.0tの可能性が認められている。
 以上の如く、乳牛規模の拡大は牧草平均6.0tをあげ得る耕地規模を確立することが今後の課題である。

 第8表 乳牛1頭当飼料面積
農家番号/
項   目
昭34 35 36 昭34 35 36 昭34 35 36 昭34 35 36
飼料面積(a) 79 45 102 115 84 113 120 70 168 92 127 74


(%)
燕   麦 15.2 7.0 8.3 6.2 3.3 13.0 7.1
大   豆 2.5 12.2
牧   草 78.5 77.8 77.4 66.9 71.4 67.2 69.2 74.3 59.5 63.0 75.6 73.0
デントコ-ン 3.8 22.2 16.7 9.6 16.7 12.4 25.8 25.7 23.8 20.7 12.6 21.6
飼料用根菜類 5.9 4.3 3.6 14.2 1.7 16.7 3.3 4.7 5.4
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

 第9表 部門別労働時間  単位:時間( )は割合
番号 年 次/
部門別
耕種 養畜 経営一般 経営外 合計 内   訳
自家労働
時間
手伝雇傭
労働時間
昭34 1.675.5
(31.0)
1.743.4
(32.3)
1.121.0
(20.7)
864.0
(16.0)
5.403.9
(100.0)
4.357.4
(80.6)
1.046.5
(19.4)
昭37 1.087.0
(25.3)
2.340.3
(45.2)
178.5
(4.2)
686.5
(16.0)
4.292.3
(100.0)
3.938.3
(91.8)
354.0
(8.2)
昭34 1.929.8
(28.3)
3.080.9
(45.2)
615.5
(9.0)
1.193.2
(17.5)
6.819.4
(100.0)
5.147.1
(75.5)
1.672.3
(24.5)
昭37 1.190.0
(21.2)
3.489.1
(62.0)
190.0
(3.4)
755.0
(13.4)
5.642.1
(100.0)
5.206.1
(92.6)
418.0
(7.4)
昭34 2.120.0
(34.9)
3.213.5
(53.0)
214.0
(2.8)
521.5
(8.6)
6.069.0
(100.0)
5.934.0
(97.8)
135.0
(2.2)
昭37 1.083.5
(20.7)
3.630.5
(69.4)
147.5
(2.8)
369.0
(7.1)
5.230.5
(100.0)
5.062.0
(96.8)
168.5
(3.2)
昭34 1.688.8
(29.6)
2.918.3
(51.1)
349.0
(6.1)
751.0
(13.2)
5.707.1
(100.0)
5.327.6
(93.4)
379.5
(6.6)
昭37 1.043.3
(15.7)
4.509.6
(68.0)
222.5
(3.4)
856.0
(12.9)
6.631.4
(100.0)
6.623.4
(99.9)
8.0
(0.1)

 なお、乳牛管理労働(飼育+搾乳)の乳牛1頭当管理労働をみると、管理労働の少ないのは②号農家の400時間内外、多いのは①号農家の600時間内外となっている。
 ①号農家の搾乳牛は昭和37年には3頭となり管理労働時間は1頭当り600時間より500時間へと短縮し、②号農家は搾乳が5頭で1頭当りが400時間内外となっている。また乳牛管理労働にうち、搾乳時間も乳牛規模が大となれば短縮する傾向にはあるが、搾乳は各担当農家とも手搾りによるもので、機械による省力化は電力の見透しがないうちは困難である。
 農外投下部門は、総投下労働の1割内外を示しているが、昭和34年と昭和37年とではその構成が異なる。即ち、昭和34年度には各担当農家とも出稼ぎによる副業が3乃至5割を占めていたが、農業所得が増大し、それにより家計費が賄える様になると次第に兼用労働は減少し、④号農家は全然行われていない。
 農外労働のうち賦役労働の主体は開拓地区の農道の整備ならびに防風林の栽植等であるが、昭和37年において年間10乃至18日の賦役を必要としている。
 1人当り耕地面積をみれば昭和34年は2.4haから3.6ha,また、昭和37年には2.7haから4.5haと昭和37年の方が1人当耕地面積が拡大されている。
 この原因は牧草の作付面積の拡大にもよるが畜力体系においては1人当、耕地面積3~4haが限界で、より以上の稼働面積を求めるには機械化が必要となる。
 また、1人当り年間稼働時間をみると、年間標準を2.5千時間とすれば、④号農家は31%増の3.3千時間となって稍々過重労働である。今後の課題は過重労働の減少と2.5千時間以内における労働の質の改善が残されている。

4. 経営構造
 各担当農家は開拓地に入植したので農業経営の基礎である土地基盤を整備しつつ経営を展開し、その安定に努力して来た。しかし、本地区は、農業粗収益の絶対額が低く、いわゆる不振開拓地区とされていた。これは各指導機関各担当農家とも経営の方向が定まらず、その目標設定に暗中模索の状態であったことに起因する。ここにおいて本経営試験においては経営目標を立地条件、気象条件、経済的条件を考慮し、経営形態を酪農経営とし経営確立をこころみたのである。
 それらの成果をまず、農業粗収益で示すと第10表のとおりである。即ち、農業粗収益を昭和34年と昭和37年とを対比すると①号農家は昭和34年は4.4万円と極端に低く、不振開拓農家の典型を示していたが、昭和37年には農業粗収益は約8.4倍となった。また、②号農家は75%増、③号農家は62%増、④号農家は約2.2倍と各担当農家とも4カ年間に農業粗収益の増加が認められている。この農業粗収益の内訳をみると、各担当農家とも植産部門に対して畜産部門の比率の増加が認められ、特に乳牛は①号農家、④号農家が著しい。

 第10表 農業粗収益
項  目/
農家番号
昭34 37 昭34 37 昭34 37 昭34 37
農業粗収益 (千円) 44.7 376.7 517.5 907.1 363.6 589.3 428.7 966.3
(比率%) (100.0) (842.7) (100.0) (175.2) (100.0) (162.0) (100.0) (225.4)
内現金
(総額に対する割合)
(千円) 90.0 272.7 431.3 669.1 314.6 416.6 355.7 675.6
(比率%) (201.3) (72.4) (83.3) (73.8) (86.5) (70.7) (82.9) (69.9)



燕 麦 9.5 2.4 5.9 5.3 6.8
豆 類 4.0
秋蒔菜種 4.4 3.1 0.7
馬鈴薯 4.0 1.7 0.3 2.4 1.7 2.8
甜 菜 7.9 2.0 4.2 5.1 5.9 7.9 4.2
飼料作物その他 9.5 6.2 2.3 2.5 4.5 3.8 1.5 14.0
小 計 35.3 13.7 14.1 7.9 18.1 4.5 23.7 18.2



乳 牛 61.7 78.3 85.6 84.6 80.1 89.9 40.2 81.0
中小家畜 3.0 2.4 0.3 5.9 1.8 3.1 0.2
その他 5.6 1.6 2.5 11.1 0.6
小 計 64.7 86.3 85.9 92.1 81.9 95.5 76.3 81.8
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

  また、農業経営費は農業粗収益の増加に伴って増加し、③号農家を除き、昭和37年には昭和34年と対比すると約2倍増となった。農業経営費の年次別変遷を示すと第11表のとおり、昭和37年は①号農家は2.1倍、②号農家は8.1%増、③号農家は7%減、④号農家は2.4倍増となり、その内訳で支出率の高いのは家畜飼料、飼育費で4割内外を占めている。

 第11表 農業経営費
項  目/
農家番号
昭34 37 昭34 37 昭34 37 昭34 37
総額
(比率)
(千円) 90.2 190.5 244.4 442.8 239.6 223.4 183.4 445.6
(%) (100.0) (211.2) (100.0) (181.1) (100.0) (93.2) (100.0) (242.9)
内現金
(総額に対する割合)
(千円) 77.1 138.7 198.0 363.5 167.0 177.0 156.6 363.8
(%) (85.5) (72.8) (81.0) (82.1) (69.7) (79.2) (85.4) (81.6)






土地改良費(%) 0.4 4.7 3.9 5.5 0.7 6.9
建物費 0.8 3.5 0.9 7.4 13.5 2.0 1.3 3.5
農具費 9.3 5.1 8.9 5.4 7.7 4.1 8.8 4.5
種苗費 7.0 10.8 6.6 4.0 1.2 8.8 1.7 5.7
肥料費 23.3 22.2 17.1 21.1 12.2 12.2 18.5 14.1
家畜、飼料、飼育費 36.6 40.0 44.9 37.0 56.0 43.9 39.6 40.6
消耗品光熱薬剤費 10.7 1.1 1.0 0.9 1.8 3.8 7.6 3.2
雇入費 0.4 6.2 1.3 2.8 0.4
租税、公課、保険費 7.3 3.9 3.0 7.2 3.9 4.2 5.2 14.4
販売、運搬、雑費 4.2 8.7 11.4 11.8 3.7 15.6 8.4 6.7
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

  農業の収益性を農業所得でみると、第12表のとおりである。経営試験開始に当り、開拓営農振興臨時借置法に従い最終年次の農業所得の目標を搾乳牛5頭として試算し30万円としたが、この農業所得の目標は現在からみればかなり低いものであるが、この所得目標の達成には①号農家は困難であった。しかし、農業所得は昭和37年と昭和34年を対比すると、①号農家は4倍の18.6万円、②号農家は70%増の46.4万円、③号農家は2.9倍の36.5万円、④号農家は2.1倍の52.0万円となっている。
 農業所得と搾乳量との関係をみると、搾乳量の増加に伴い農業所得も増加し、②号農家の昭和36年度の実績では乳牛規模は搾乳牛5頭、1頭当り搾乳換算能力は5.500kg内外となる。

 第12表 農業の収益性
項  目/
農業番号
昭34 37 昭34 37 昭34 37 昭34 37
農業粗収益(千円) 44.7 376.7 517.5 907.1 363.6 589.3 428.7 966.3
農業経営費(千円) 90.2 190.5 244.4 442.8 239.6 223.4 183.4 445.6
農業所得(千円) △45.5 186.2 273.1 464.3 124.0 365.9 245.3 520.7
      (比率%) (100.0) (409.2) (100.0) (170.0) (100.0) (295.0) (100.0) (212.2)
農業所得率(千円) △101.7 49.4 52.7 51.1 34.1 62.0 57.2 53.8
耕地10a当農業所得(千円) △0.9 3.0 4.3 6.3 2.2 6.6 3.3 5.8
農企業利潤(千円) △434.7 △128.2 △219.9 17.1 △347.2 △47.6 △91.2 7.9
経営費の中の労賃(千円) 80.6 60.2 64.9 46.6 78.2 63.5 62.8 50.8
         割合(千円) (375.6) (488.4) (467.4) (389.5) (446.1) (388.9) (414.9) (461.9)
労働報酬(千円) △59.4 160.2 232.9 403.6 98.9 341.3 218.6 468.1
農業従業者1日当労働報酬
(千円)
△0.1 0.4 0.3 0.8 0.1 0.7 0.4 0.8
耕地10a当労働報酬(千円) △1.2 2.6 3.7 5.4 1.7 6.1 3.0 5.2

  耕地10a当り農業所得をみると、最低は①号農家の昭和34年度のマイナス0.9千円、最高は②号農家の昭和36年度の9.5千円と幅があるが、搾乳量が増加するに伴い、耕地10a当り農業所得も増加の傾向にある。
 なお、参考のために農企業利潤=農業所得-(家族労働見積額+農業資本利子見積額)
 なる式で算出した。即ち、家族労働見積額とは農業投下総労働時間に労働賃金を地区平均時間当80円と仮定してこれを乗じた金額をもってし、農業資本利子見積額は農用固定資産と農業経営費の1/2を加えた額に利子率0.04を乗じた金額をもってした。その試算結果によると、経営試験最終年度(昭和37年)で農企業利潤を得たのは②号農家の17.1千円、④号農家の7.9千円であった。
 また、農業所得から農業資本利子見積書を差し引いた労働報酬を試算すると、最高は②号農家の昭和36年度の56.5万円である。
 また、農業従業者1日当り労働報酬は最高で1千円、労働報酬を耕地面積で除した10a耕地当り労働報酬の最高は8.6千円であった。労働報酬および耕地10a当り労働報酬は搾乳量の多少によって左右される傾向にあるが、農業従業者1日当り労働報酬は搾乳量の多寡に労働効率が加わるので必ずしも搾乳量に左右される傾向が認められない。
 次ぎに農家が所有している資産を固定資産、流動資産、流通試算とに分類し整理すると第13表のとおりである。

 第13表 農家財産 (年度末)
項   目/
農家番号/
年   次
昭34 37 昭34 37 昭34 37 昭34 37





土 地 149.9 149.4 135.8 141.8 142.9 142.9 137.0 189.0
建 物 31.4 166.7 182.5 539.7 114.4 95.7 92.3 370.9
大農具 17.7 24.6 15.1 65.8 81.5 49.3 46.4 90.0
大動物 110.0 376.0 573.5 464.7 206.5 321.5 315.0 545.0
計  (A) 309.0 717.2 906.9 1.212.0 545.3 609.4 590.7 1.194.9
流動資産 180.0 202.7 322.7 299.7 265.9 209.2 241.5 341.5
流通資産 22.8 68.4 120.4 704.4 60.1 135.7 43.7 377.7
合計  (B) 511.8 988.3 1.350.0 2.216.1 871.3 954.3 875.9 1.914.1
負  債  (C) 398.7 759.4 227.6 377.4 588.0 548.3 285.7 523.9
農家純財産(D) 113.3 228.9 1.122.3 1.838.7 283.3 406.0 590.2 1.390.2
他人資本比率    C
(-)
B
77.9 76.8 16.8 17.0 67.4 57.4 32.6 27.3
自己資本比率    D
(-)
B
22.1 23.1 83.1 82.9 32.5 42.5 67.3 72.6
資本負債比率    C
(-)
D
351.8 331.7 20.2 20.5 207.5 135.0 48.4 37.6
固定比率        D
(-)
A
36.6 31.9 123.7 151.7 51.9 66.6 99.9 116.3
長期資本固定比率 165.6 137.7 148.8 182.8 159.7 156.5 148.2 160.1

  次ぎに農業資本について、固定資本と流動資本とに分けて整理したのが第14表である。固定資本については前記固定資本を計上し、流動資本は年度内に投入した直接経費即ち物財費の1/2を計上した。
 10a当り農業投下資本額をみると昭和37年には1万円が①号、③号、④号農家、2万円が②号農家である。しかし、農業投下資本額が大であるからと云って必ずしも資本が効率的に利用されている訳ではない。即ち、農業粗収益を農業投下資本額で除した農業資本回転率をみると昭和37年においては②号農家は0.59、また③号農家は0.95を示している。
 また、農業資本利廻りを試算すると、各担当農家の資本効率はいづれも極端に低い。
 参考までに農業収支を加えた農家経済をみると、農家収支での農業収入の占める比率は経営の安定化にともない①号、③号が70%、②号、④号農家が90%内外となっている。また、農家所得を家計費で除した家計費充足率をみると、昭和34年には農家所得で家計費を賄えなかったのは①号、③号農家であったが、昭和35年以降は家計費の充足が認められている。
 以上の如く、本経営試験農場は不振開拓地と称せられていた瀬棚町ガンビ岱に昭和34年に設置し試験期間は僅か4カ年間であったが、草地酪農を指向し、これのよって営農安定化の見通しが得られたのである。

 第14表 農業資本
項   目/
農家番号/
年   次
昭34 37 昭34 37 昭34 37 昭34 37
固定資本(千円) 309.0 581.5 907.0 1.337.4 545.3 528.0 590.7 1.133.4


(%)
土地





48.5











25.7











14.9











10.6











26.2











26.8











23.1











12.0





建物 10.1 29.6 20.1 42.2 20.9 19.1 15.6 33.0
大農具 5.7 5.2 1.6 10.9 14.9 10.9 7.8 9.5
大動物 35.5 39.3 63.2 36.2 37.8 42.8 53.3 44.9
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
流動資本 38.5 69.3 99.0 181.7 83.5 88.5 78.3 181.9
347.5 650.8 1.006.0 1.519.1 628.8 616.5 669.0 1.315.3
10a当農業投下資本額(千円) 7.0 10.5 16.0 20.6 11.3 11.1 9.2 14.6
農業資本回転率(回) 0.12 0.58 0.51 0.59 0.57 0.95 0.64 0.73
農業資本利廻り △121.0 △15.7 △17.8 0.051 △51.2 △3.7 △9.6 0.045
農業資本1万円当
農業純収益(千円)
△1.29 2.86 2.71 3.05 1.97 5.92 3.66 3.95

Ⅳ 要約
 1) 道南高台地における草地酪農確立に関する研究の一環とし行っているもので、瀬棚経営試験場の昭和34年から昭和37年迄の4年間の試験成績を纏めたものである。
 2) 道南高台地とは北海道農業地域区分道南西部に属し、経営試験農場は瀬棚町ガンビ岱即ち瀬棚町市街地より北に約4km、標高150~180mの高台に位置し、自然的社会的ならびに経済的条件の不良な開拓不振地区を対象として設置した。
 3) 経営試験担当農家は開拓農家より4戸選択し、所有地面積は①号農家14.9ha、②号農家13.5ha、③号農家14.2ha、④号農家17.9haで耕地率は①号農家41.3%、②号農家54.4%、③号農家38.7%、④号農家51.8%である。
 担当農家はいづれも混同経営形態が支配的であったが、気象条件が不良なため経営試験農場は極力豆類の作付を制限し、草地造成に努め有畜化へと経営組織を展開発展せしめたのである。しかし試験期間が短かったので問題提起にとどまったものが多い。
 4) 本農場の牧草の作付比率は各担当農家とも5~7割を占め、牧草生産量も年次毎に増加しているが、同一担当農家の圃場であっても、土地条件によって土地生産力に大きな変動が認められ、耕地の均一化が今後の課題である。この対策は土地基盤の確立で、これには心土耕と混層耕の実施が必要であろう。
 5) 本経営試験の養畜は乳牛を主体とし、その基礎牛の増殖に努め試験終了年次には成牛家畜換算で①号農家は3.5頭、②号農家は5.5頭、③号農家は4.5頭、④号農家は6.5頭となった。各担当農家の個体増は、国、道、町の貸付牛による導入と一部購入によるものである。また搾乳量の目標は年間20tとしたが、①号農家は9.2t、②号農家は26.4t、③号農家は14.7t、④号農家は21.6tとなった。
 成牛の飼料給与の自給率はFu、DTPいづれも70%以上を占め、1頭当り飼料必要面積は45a乃至168aと幅があり、同一農家でも年次によって変動がある。この原因は各担当農家ならびに同一農家においても圃場間に土地生産性の差があるためである。
 なお、将来基礎牛を10頭と現在の約2倍の生産規模へと発展させる為の条件イ)土地生産力が同じであれば飼料作付面積が12ha必要となり、ロ)所有面積を同一とすれば土地生産力を2倍とする必要がある。後者の場合は10a当り牧草収量6.0t生産することであるが、その可能性は認められる。
 6) 1人当り耕地稼働面積は2.7ha乃至4.5haでこれは畜力体系によるものである。また、1人当り年間稼働時間は標準2.5千時間であるが、④号農家は31%の増3.3千時間となって稍々過重労働である。今後の課題は過重労働の減少と2.5千時間以内における労働の質の改善が残されている。
 7) 本経営試験の草地酪農の成果を農業粗収益から農業所得でみると、①号農家は18.6万円、②号農家は46.4万円、③号農家は36.5万円、④号農家は52.0万円で①号農家は目標所得の30万円には達しなかったが、従来の混同経営をあらためた草地酪農への発展の可能性が認められた。