【指導参考事項】
公共用牧草地の施肥に関する一考案
根釧農試草地科
(昭和41〜42年)

・ 目 的
 近年、大規模草地をはじめ多くの公共草地では放牧草地を少なくとも30t/ha、利用草20t/ha程度を確保することが一応の目安となっている。一方大規模草地はその面積が広大なためできる限り安価な肥料費で維持されることが望ましくいわゆる低コスト草地の概念があるが、この方法では必ずしも目的収量を得られないうらみがある。本試験は目的収量を確保するため増肥による生産性の増大を検討した。

・ 試験方法
  試験場所 ; 標津郡中士別町 町営牧場
  試験区   ; カリ単用区(造成後K2Oのみ追肥、肥料代約4.000円/ha)
   増肥区  (造成後3年目までK2O単用、4年目より3要素増肥、肥料代約10.000円/ha)
  供試草地 ; チモシ−、ケンタッキ−ブル−、ケンタッキ−31フエスク、レッドトップ、ラデノクロ−バ、
ホワイトクロ−バ混播、1区、1ha
  放牧試験 ; 各区を4区分、1牧区7日間入牧、21日休牧とし28日1周の輪換乳用育成牛3〜4頭放牧
  4〜5周実施
  年間施肥量;
   (kg/10a)
カリ単用区…K2O 10.0  増肥区N2.0、P2O53.0、K2O12.0


・ 試験成果の概要
 1. 草産量からみると、増肥によって処理2年目で30t/haを確保できた。
 2. 放牧試験の結果、増肥区ではカリ単用区に比べ、常に多い有効利用草(採食可能草)を有する草地となり、放牧牛の採食量も多かった。
 3. 放牧牛の発育調査からみて、1ha当りの草地から得られた延増体重は27%増となり、なお草量において余裕がみられた。
 4. 1日当りの採食可能草からの試算では全放牧期間(100〜120日間)を通じて、頭数を調節せずに、一定面積に放牧できる牧養力はカリ単用区で約2頭/ha、増肥区では4〜5頭/haと推定された。
 5. 増肥した草地の再生草中の3要素含有率は高まり、生育旺盛であった。
 6. カリ単用により、低コスト管理法を行ってきた草地における3要素試験(施肥量N2.0、P2O53.0、K2O10.0、各kg/10a)の結果、窒素、燐酸の肥効が大きく、カリの肥効はやや少なかった。(但し、燐酸は土改良資材として多用すれば肥効が少ないと思われる。)
 7. 従来のカリ単用による低コスト管理法ではha当り4.000〜5.000円であったが、増肥区では10.000〜12.000円となり、肥料費は大きくなるが、草産量の増加、牧養力の増大をはかることができる。

・ 主要成果の具体的デ−タ−
 放牧試験結果(ha当)




再生草
(kg)
有効
利用草
(kg)
採食量

(kg)
残草量

(kg)
1日当利
用可能草
(kg)
1日当
採食量
(kg)
放牧期
毎利
用率
(%)
延入牧
頭数
(頭)
1日1頭
当採食量
(kg)
採食量
の生体
重に対
する(%)
1頭当
増体重
(kg)
日増
体重
(kg/
日)
生草 乾草


41



1 5.023 1.138 5.023 3.739 1.284 218 163 74 69 12.3 4.2 17.7 0.79
2 3.381 813 4.665 4.157 508 166 148 89 84 11.8 3.7 36.0 1.29
3 2.877 797 3.385 3.253 132 121 116 96 84 10.5 3.0 30.3 1.08
4 1.937 508 2.071 2.071 0 74 74 100 84 9.0 2.4 17.7 0.89
13.220 3.256 15.144 13.220       (100) 297 11.0 3.0 101.7 1.03



1 7.388 1.411 7.338 3.498 3.840 152 152 59 69 9.5 3.6 27.0 1.17
2 2.967 673 6.807 5.357 1.450 191 191 79 84 14.3 4.4 31.0 1.11
3 3.418 747 4.868 3.794 1.074 135 135 78 84 8.7 2.6 16.5 0.59
4 3.146 634 4.220 2.738 1.482 98 98 65 84 7.7 2.2 20.5 1.03
16.919 3.465 23.233 15.387       (71) 297 10.3 3.0 95.0 0.96


42



1 4.302 904 3.657 2.069 1.588 159 90 57 69 5.6 2.5 23.7 1.03
2 2.372 430 3.509 2.198 1.311 125 78 63 84 5.4 2.2 22.7 0.81
3 2.979 735 3.694 2.182 1.512 132 78 59 84 5.3 1.9 27.0 0.96
4 2.377 530 3.437 2.006 1.431 123 72 58 84 6.1 2.0 27.0 0.96
5 1.127 299 2.400 1.191 1.209 127 85 50 42 6.8 2.1 12.0 0.86
13.157 2.898 16.697 9.646       (73) 363 5.7 2.1 112.4 0.93



1 8.140 1.384 7.000 3.514 3.486 304 153 50 92 4.6 2.0 30.0 1.30
2 5.721 942 7.650 4.345 3.260 271 155 57 112 5.6 2.2 33.0 1.18
3 6.474 1.292 7.986 4.477 3.509 285 160 56 112 6.8 2.4 16.8 0.60
4 7.433 1.180 8.688 4.817 3.821 308 172 56 112 8.0 2.6 22.8 0.81
5 3.656 708 6.709 3.306 3.403 479 236 56 56 8.1 2.6 4.5 0.07
31.424 5.504 37.938 20.456       (65) 484 6.5 2.5 107.1 0.89

 3要素試験結果(kg/10a)
区  名 無肥料 無窒素 無燐酸 無カリ 3要素 3要素倍量
再生草収量(生) 2.985 3.726 3.346 3.974 4.255 4.667
同上割合 70 87 79 93 100 110

・ 奨励又は指導参考上の注意事項
 1. 従来の低コスト管理法は、窒素はクロ−バの固定するものを利用し、燐酸は造成時に基肥として十分施し、カリのみを毎年補給するという理論であるが、本試験の結果は全収量を支配する窒素は或る程度以上の収量を目標とするときには必ずしもクロ−バ固定窒素のみでは十分でないことを示す。もちろん草種構成や放牧管理法によっても異なり、さらに放牧による糞尿による還元も大きな問題であろう。
 2. 施肥法は本試験では早春および第2放牧期後の2回に分施したが、今後年間1回施肥の省力化も検討しなければならない。