【指導参考事項】
稲作安定阻害要因の解析にもとづく対策技術組立現地実証試験成績
(昭和44年〜45年)
中央農試稲作部・育種科・栽培第1科・道南農試・作物科・土壌肥料科・上川農試・水稲栽培科

・ 目 的
 道内の主要稲作地帯における水稲収量は、近年とみに上昇してかなりの高水準に達しているが、一面土壌の還元とか、老朽的傾向などに起因する安定性、品質の問題点が多く存在する。従って、稲作安定阻害要因を土壌別に解析し、その対策について検討された技術を組立て、現地において実証する。

・ 試験方法
 1. 試験場所  ①空知郡栗沢町  グライ土壌 湿田              中央農試担当
           ②上磯郡上磯町  グライ土壌 強粘土型 湿田       道南農試担当
           ③旭川市永山町  黄褐色土壌、壌土マンガン型、乾田  上川農試担当
           ④上川郡東鷹栖町 灰褐色土壌、強粘土構造型、湿田(地下水位は低く透水不良田)
 2. 処理方法および区別
  ① 栗沢町
    排水の施工方法(44年)45年
  ①弾丸暗渠 ②同左渠管使用 ③心土破砕1回 ④心土破砕2回
深さ (cm) (35) 30 (50) 40 (25) 20 (25) 20
間隔 (m) (4.0) 2.0 (8.0) 6.0 (1.8) 1.0 (1.8) 1.0
   通常の暗渠は、深さ100cm間隔 11.0mで昭和41年に施工ずみ
   ①〜④を各々組合せた処理区分で実施
   44年は上記処理に、畦巾36cm、株間12cm、15cm、1株2本植、4本植を組合せ
  ② 上磯町
   44年  落水区分 (幼穂形成前、同後、同前後)
        施肥区分 (標肥、追肥)           >供試品種 苗素質 栽植密度
        減水深 (10〜15mm、5mm/日)        南栄 普通苗 36cm×14cm
   45年  排水区分 (無排水、排水)
        落水区分 (湛水、落水)
        施肥区分 (標肥、追肥0.2・0.4・P多・P多・硅カル・P多追肥0.2・P多堆肥)
  ③ 永山町  ④ 東鷹栖町  
   試験区の構成                          処理法その他
区 名 内   容
改善区Ⅰ 密植+止葉期追肥    (+P多)*
  〃 Ⅱ  〃 +   〃   +熟苗(+P多)* 
対照区 標準密度+基肥のみ
  *( )は44年の④のみ
  供試品種 しおかり、そらち

  N基肥 追肥 共  通
44年③ 0.8kg/a 0.4kg/a P2O5 0.8kg/a(20)*
   ④ 0.75 0.4 K2O  0.6
45年③ 0.8 0.5 堆肥  80
   ④ 0.75 0.5 密植30cm×12cm(27.8株/m2)
   対照30  ×15  (22.2 〃 )


・ 試験成果の概要
 本試験が実施された年次の気象の特徴、44年:5月中旬〜6月上旬にわたる異常低温と8月以降の低温と8月以降の低温寡照、45年:5月〜6月上旬と8月中旬以降の高温多照
  1. 排水が問題である道央の湿田での成果概要
 ① 弾丸暗渠、心土破砕は、土質などの関係により、初年度では排水が十分に行われず、初期生育が僅かにまさり、総粒数も稍増加したが、稔実、登熟歩合などがやや低下し、玄米収量では低下の傾向を示した。
 ② 排水が十分に行われるような条件を修正した45年は、穂数の確保が早まり、穂数も多くなった。収量は、総粒数が多くなり、登熟歩合の向上した区は少ないが、粒厚の大きい粒が増加し、千粒重も増加して、5〜10%増加した。
 ③ 弾丸暗渠に併用した渠管からの排水量は、8月12日の測定で、減水深6.5mm/日に相当し、土壌還元の推移、落水後の土壌三相にも幾分の改善が認められた。
 ④ 密植は、初期の茎数確保に対して効果は高かったが、その有利性は後期まで十分に継続されず、玄米収量では4〜5%の増収に留まった。
  2. 収量構成要素の不足が問題である道南の湿田での成果概要
 ⑤ 落水の効果、最高地温は上昇するが生育進度に影響ない。穂数は稍減少するが、1穂粒数の増加により(7〜16粒)総粒数では7〜12%増加した。登熟歩合は排水+落水で稍低下した。玄米収量は10%程度増収したが品質はごくわずか低下した。
 ⑥ 暗渠排水の効果、穂数は排水により、地水温、減水深、Eh等は高まる傾向にあったが、N吸収量に差は認められなかった。
 ⑦ 施肥の効果、N追肥により生育は2日程度おくれたが他の要素では影響はなかった。穂数、1穂粒数、総粒数、千粒重並びに収量は次の関係にあった。標準<追肥0.2、P多P多畦カル<P多追肥0.2、同堆肥<追肥0.4・米質はN追肥によりわずかに低下した。 N吸収量は、N追肥並びに堆肥施用によって漸増的傾向が認められた。
  3. 初期生育と登熟性が問題であるか上川の乾田と湿田での成果概要
 ⑧ 42年〜44年の解析試験の結果、密植、後期追肥の技術体系が収量目標60kg/aレベルでの安定技術として確認された。この技術をもとにし、熟期の異なる「しおかり」「そらち」を供試し、熟苗の利用も加えた。
 ⑨ 乾田および湿田の両方において、「しおかり」程度の熟期の品種では、密植+止葉期追肥で「そらち」程度の熟期の品種ではこの体系に熟苗を組合せると、60kg/aレベルで安定した。
 ⑩ しかし、東鷹栖町のような初期生育が不良な湿田においては、出穂期までの生育量が劣り、出穂後の生育量が優っていながら低収になることから、この技術体系のみでは永山町の乾田ような安定効果は期待できない。こられの対策の外に、初期生育量の増大と後期生育量を玄米収量に結びつける対策技術の検討が必要である。(燐酸の施用法、水管理の完全など)。

・ 主要成果の具体的デ−タ
 45年 収量構成要素並びに収量調査 (栗沢町)
区   別 幼形期
茎数
(本/m2)
最終
穂数
(本/m2)
m2
総粒数
(×100)
登熟
歩合
(%)
未登熟
歩合
(%)
不授精
歩合
(%)
a当
玄米重
(kg)
収量
割合
(%)
玄米
千粒重
(g)
2.2mm
以上粒数
(%)
暗渠のみ 755 556 308 76.1 11.7 12.2 50.8 (100) 21.8 6.3
暗渠+心砕1 811 636 349 65.2 17.3 17.5 53.2 105 21.5 6.1
 〃 + 〃 2 729 617 336 71.3 12.1 16.6 52.5 103 22.4 7.2
暗+弾+心砕1 733 654 355 73.0 8.8 18.2 50.4 99 22.6 13.2
〃+〃+〃 2  739 652 390 63.8 16.6 19.6 53.2 105 22.5 11.8
〃+渠管+心砕1 710 601 325 74.9 15.5 9.6 53.1 105 22.0 9.0
〃+〃+〃 2 572 564 315 78.0 14.8 7.2 52.8 104 22.6 14.1
〃+弾+渠管+心砕1 801 675 378 67.3 16.8 15.9 55.8 110 21.8 10.5
〃+〃+〃+〃 2 560 566 326 76.5 13.8 9.7 55.9 110 22.6 14.7

 44年 a当玄米重 (上磯町)
区  別 減水深10〜15mm/日 減水深5mm/日
標肥(kg) 追肥(kg) 標肥(kg) 追肥(kg)
幼形前落水 49.5 47.5 45.8 38.1
 〃 後 〃 49.8 45.3 39.7 41.8
 〃 前後 〃 45.2 45.2 47.2 39.2
標  準 52.6 52.5 38.8 39.4

 45年 減水深 (mm/24時間) (上磯町)
月日/
区別
5.30

31
6.1

10
11

20
21

30
7.1

10
11

20
21

31
8.1

10
排水 25.0 19.0 11.5 10.5 13.0 9.0 12.0 10.5
無排水 10.0 12.5 6.5 5.5 10.0 10.0 11.0 9.0

 45年 収量構成要素並びに収量調査 (上磯町)
区 別 m2
穂数
(本)
一穂平
均粒数
(粒)
m2
総粒数
(×100)
登熟
歩合
(%)
玄米
千粒重
(g)
a当
玄米重
(kg)
収量
割合
(%)
玄米
等級
出穂期
LAI




無排水 落水 403 78.5 317 79.8 23.3 44.00 (100) 4中上 2.77
 〃   落水 394 85.5 337 78.9 23.3 48.10 109 4下上 3.38
排 水  湛水 422 72.8 307 79.9 22.1 42.50 96 5上上 3.01
 〃   湛水 397 89.1 354 75.9 23.1 48.50 110 5中上 3.28




標    準 353 75.0 259 81.7 22.8 41.19 (100) 4下下 2.95
追 肥 0.2  377 80.9 305 78.9 23.3 45.46 110 3.04
  〃  0.4 446 86.1 376 75.7 23.4 48.45 118 5上上 3.40
P    多 396 81.9 332 78.5 23.3 44.46 108 4下下 3.13
P多+畦カル 392 81.9 321 78.6 23.1 46.18 112 3.10
 〃+追肥0.2 434 85.5 366 78.1 23.3 47.46 115 5上上 3.17
 〃+堆肥 424 79.8 336 78.1 22.9 47.07 114 4下下 2.99

 45年成熟期におけるN吸収量mg/1株
区   別 無排水 排 水
落水 湛水 落水 湛水
標      準 315 326 308 314
追肥    0.2  364 392 332 392
〃     0.4 361 391 409 456
P         多 355 401 320 359
 〃   +   畦カル 345 393 387 338
 〃+畦カル+追肥0.2 358 372 395 387
 〃   +     堆肥 384 391 416 443

 Ehの推移 (上磯町)
処理/
月日
無排水湛水  〃 落水 排水湛水  〃 落水
1 7 1 7 1 7 1 7
7月15日 -85 -110 -30 -80
   28日 -140 -130 60 60 -130 -160 -60 -70
8. 13 -140 -200 110 110 -120 -130 -85 -100
NH4-N 推移 (mg/100g)
7. 15 2.61 2.47 1.87 2.75
  28   0.84 1.67 0.40 0.81 1.42 2.18 0.86 0.93
8. 13 0.91 0.84 0.97 1.65 0.92 0.93 0.78 1.63

 生育および収量調査 (永山町)



出穂

(月日)
出穂期における m2
穂数
(本)
m2
総粒数
(×100)
登熟
歩合
(%)
玄米
千粒重
a当
玄米重
(kg)
収量比
(%)
玄米
等級
60kg
対比
(%)
LAI 乾物重
(g/m2)
葉身N
(%)



44
改Ⅰ 8. 2 3.7 570 3.01 460 336 80.9 21.9 60.5 110 3下 101
改Ⅱ 7.30 3.2 561 2.91 478 353 81.3 21.8 59.6 108 3中 99
対照 8. 3 3.1 464 2.70 420 319 82.6 20.9 55.1 (100) 4中 92
45
改Ⅱ 7.27 3.5 680 3.80 581 402 74.7 19.3 58.9 123 3上 98
対照 7.29 2.8 563 3.02 480 334 82.9 19.1 48.0 (100) 3上 80


44
改Ⅰ 8.11 4.4 589 2.89 512 388 60.3 21.2 49.6 122 83
改Ⅱ 8. 6 4.4 483 3.00 512 361 75.4 22.7 61.8 153 5中 103
対照 8.13 3.8 519 2.33 468 301 66.9 20.1 40.5 (100) 68
45
改Ⅱ 7.31 4.1 791 3.50 606 372 78.9 21.9 65.0 119 3下 108
対照 8. 4 3.2 617 2.72 525 361 74.6 21.5 54.4 (100) 4上 91

 生育および収量調査 (東鷹栖町)



出穂

(月日)
出穂期における m2
穂数
(本)
m2
総粒数
(×100)
登熟
歩合
(%)
玄米
千粒重
a当
玄米重
(kg)
収量比
(%)
玄米
等級
60kg
対比
(%)
LAI 乾物重
(g/m2)
葉身N
(%)



44
改Ⅱ 7.31 2.3 467 2.57 4.48 316 80.0 21.4 54.1 112 2中 90
対照 8. 3 2.5 418 2.86 4.06 292 82.3 20.1 48.5 (100) 3中 81
45
改Ⅱ 7.27 3.0 580 3.71 5.22 360 74.6 19.6 56.6 110 2下 94
対照 7.29 2.7 529 3.35 4.51 301 72.6 19.4 51.5 (100) 3上 86


44
改Ⅰ 8.14 3.4 531 3.08 4.70 282 72.4 21.9 44.7 111 5下 75
改Ⅱ 8. 7 3.2 502 3.03 4.23 286 81.6 23.3 54.4 135 3下 91
対照 8.14 (3.0) 457 2.37 3.73 242 (75.0) 20.4 40.3 (100) (外) 67
45
改Ⅱ 7.31 3.4 583 3.49 6.17 363 74.9 21.7 61.5 106 3下 103
対照 8. 6 3.1 545 2.73 5.39 345 61.7 22.3 58.1 (100) 3下 97

・ 普及指導上の注意事項
 1. 密植にあたっては、耐倒伏性が強く密植適応性の高い品種を選定する。
 2. 熟苗の利用には、早播熟苗方式が望ましい。苗床での高温障害に注意する。
 3. 追肥量は、止葉期までの稲の生育状態をその後推定される気象推移並びに放出地力窒素量によって適量を決める。