【指導参考事項】
富良野地方における玉葱の生育異常現象とその対策に関する試験
(昭和45年)
北海道立上川農業試験場土壌肥料科

・ 目 的
 近年、富良野地方の玉葱栽培地帯に特異的な生育異常現象(葉が黄白化、カ−ル、小葉化するなどの症状)が発生して、これが玉葱の初期生育の遅滞、枯死などを招き、品質及び収量面に対して多大の影響を及ぼしている。
 従って、当地方における生育障害発生地域の実態調査を行ってその原因を解明し、以て適切なる対策を樹立せんとする。

・ 試験方法
 A. 実態調査と要因解明
  ○調査地点…富良野市(障害発生地点と隣接している健全地点)、岩見沢市、滝川市
  ○調査時期…生育障害発生時期(6月下旬)、収穫期(9月上旬)
  ○調査項目…土壌及び作物体の微量要素含量(S、Fe、Mn、Zn、Ni)
 B. 
  ○直播栽培
   ①Zn施用量…0.1、0.2、0.3kg/a
   ②Znの形態…ZnSO4、ZnCl2
   ③土壌PH……5.0、6.0、7.0   処理は①×②×③の組合せ
  ○移植栽培
   ①無処理
   ②0.2%ZnCl2液苗浸漬処理(瞬間15分間)
   共通施肥量(kg/a);N…1.8、P2O5…3.0、K2O…2.25

・ 試験成果の概要
 (1) 生育異常現象を呈する玉葱は健全なものに比して、特にZnの濃度(16PPM)が異常に低く、N濃度が高く、Zn/Niも1以下である。叉、障害発生地域の畑土壌も叉、0.1N-HCl可溶Zn含量(10PPM以下)が極端に低く、健全なものの半分以下であり、土壌PHは概して高い傾向を示している。
 (2) 生物体のZn濃度と土壌中の0.1N-HCl可溶Zn含量の間に極めて高い正の相関(r=0.950***)が認められ、且、作物体及び土壌中Zn含量の高いもの程、生育障害の発生程度が軽く、玉葱の生育量、乾物重が高まる傾向を示す。
 (3) 当地方における玉葱の生育障害は明らかにZn欠乏が主要因である。
 (4) 生育障害発生畑に対するZnの施与効果が顕著に認められ、その施用量としたは0.2kg/a前後施用Znの、形態としてはZnCl2よりもZnSO4の方が効果的である。叉、硫黄粉施用による土壌PHの低下は該症状を軽減するが、収量面に対しては寧ろマイナスであり、土壌PHとしては6.0〜6.5前後が妥当である。
 (5) 移植栽培においては、0.2%ZnCl2液による苗浸漬の効果が極めて高く、実用的に富む。

・ 主要成果の具体的デ−タ−
 1. 症害発生地域及び健全地域の玉葱並びに土壌の微量要素含量(6月下旬)
成  分/
区  分/
採取地点
玉  葱 土  壌
P2O5 S Zn Ni Zn/Ni PH
(H2O)
Truog-
P2O5
水溶性
SO4
ex-Ni O.HV-HCl
抽出Zn
空 知 健全 %
1.19
%
0.87
PPM
29.8
PPM
7.6

3.9

6.04
mg
183
mg
40.5
PPM
2.8
PPM
20.2
富良野 健全 1.17 0.83 19.8 17.4 1.1 6.08 85 32.8 8.2 12.6
異常 1.47 0.83 13.7 27.0 0.5 6.39 77 26.3 8.6 7.2


 玉葱の生体重とZn濃度の関係

               作物体のZn濃度


 玉葱の生体重と土壌中の可溶性Zn含量の関係

         土壌中の0.1N-HCl可溶Zn含量

 2. Znの施用効果と土壌PHの変換効果(直播)
区  名 生育障害発生 障害発
生年度
(7.2)
生育調査(7.2) 収量
(kg/a)
比率
(%)
Zn(PPM) Ni(PPM)

(月日)

(月日)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
6.22 9.8 6.22
対 照 区 6 .5 8 .18 +++ 22.2 4.2 442 100 15.5 12.1 15.0
ZnSO40.1kg/a区   . 9   . 5 + 31.4 5.0 565 128 18.0 16.3 15.1
 〃  0.2  〃   .10   . 1 +〜- 31.9 4.7 597 135 24.0 16.3 14.3
 〃  0.3  〃   .12   . 1 ± 29.5 4.6 569 129 31.0 17.8 11.6
ZnCl20.2kg/a区   .10   . 1 +〜- 28.6 4.5 551 125 21.5 15.8 16.3
土壌PH5.0区   .14   . 1 ± 25.6 4.4 377 85 22.5 13.5 19.4
  〃  6.0〃     .12   . 5 + 26.8 4.5 529 120 19.5 13.6 10.8
  〃  7.0〃   . 9   .15 + + 27.1 4.5 503 114 17.0 13.6 8.9

 3. Zn溶液に対する根浸漬効果(移植)
無 処 理 区 5.28 7.25 +++ 45.5 7.0 612 100 15.0 126
0.2%ZnCl2液苗浸漬区 6.13 8.2 + 57.2 7.4 707 116 20.5 181

・ 普及指導上の注意事項
 Znの施用量については特に過剰にならぬ様に配慮し、連年施用の必要性については作物体及び土壌中のZn含量の面より更に検討を要する。