【指導参考事項】
根釧地方の早春放牧用草地に対する秋施肥の効果
(昭41〜45)
北海道立根釧農試 草地科、土壌肥料科、農業改良科

・ 目 的
 根釧地方の草地に対し、早春の初期生育を早めることによって、早期放牧あるいは生産向上、施肥党力節減を図ることを目的として、従来の早春追肥に代わって晩秋に追肥した場合の効果を知る。

・ 試験方法
 〔試験A〕 新播草地;秋施肥時期(10月下旬、11月下旬、4月下旬)を異にし、N(2、4、6kg/10a)とK2O(2、6、10kg/10a)とを組合せ、2つの混播草地で実施。
 〔試験B〕 経年草地;秋施肥時期(10月中旬、11月上旬、11月下旬)に3要素試験(N 4、P2O5 5、K2O 10kg/10a)を組合せ、夫々春無追肥、春追肥を組合せ、2ヶ年実施。また、オ−チャ−ドグラス単播、チモシ−単播について同様の設計で実施。
 〔試験C〕 経年草地のN、K2O用量試験;9月下旬、11月上旬、5月上旬の3時期にN(3、6、9kg/10aまたは4、8、12kg/10a)の3段階、K2O(6、12、18)の3段階を組合せて用量試験を行う。
 〔試験D〕 現地試験;大規模放牧草地(多和)、根釧管内5ヶ町村で2ヶ年間実施。

・ 試験成果の概要
 1. 晩秋に施肥した肥料は施肥時期の早いほど牧草に吸収され、遅い時期の施肥は貯蔵器官の濃度を高めたしかし、秋の窒素施肥は越冬性を低下させる恐れがある。
 2. 秋施肥の1部は土壌中に残留していた。
 3. 秋施肥区は早春の再生が良好で草丈も勝った。収量は5月中〜下旬で増収するが、6月以降の利用では早春施肥区より劣る。
 4. 草種別にはイネ科草とくにオ−チャ−ドグラスに対する効果が大きいのでマメ科率の低い混播草地で秋施肥の効果が大きい。
 5. 要素別には、早秋(10月中旬)の窒素、晩秋(11月上・中旬)のK2O肥効が大きい。混播草地では10a当たりN4-6kg、カリ6-10kg、P2O55kg程度秋施肥すれば良い。

・ 主要成果の具体的デ−タ−
 〔A〕 新播草地の1番草収量 (kg/10a);6月下旬刈取、K2O10kg10aの場合
草地 チモシ−・アカクロ−バ オ−チャ−ドグラス・ラジノクロ−バ
全収量 イネ科 全収量 イネ科
N用量 2 4 2 4 2 4 2 4
10月下旬 331 345 229 265 352 359 226 253
11月下旬 331 300 186 208 348 320 119 195
367 465 238 359 364 456 241 331

 〔B〕 経年草地の3要素区1番草収量(kg/10a)とその指数:5月中旬〜5月下旬刈取
草地 チモシ−混播 オ−チャ−ド混播 チモシ−単播 オ−チャ−ド単播
収量 指数 収量 指数 収量 指数 収量 指数
無肥料 76 80 101 83 28 53 54 96
10月中旬 71 84 211 173 66 124 82 146
11月上旬 83 98 206 169 48 91 72 129
11月下旬 123 145 211 173 45 85 95 170
85 100 122 100 53 100 56 100

 〔C〕 経年草地のN、K2O用量と1番草収量 (kg/10a);6月上旬〜下旬刈取
草地 チモシ−・アカクロ−バ オ−チャ−ド・ラジノクロ−バ
K用量 6 18 6 18
N用量 3 6 9 3 6 9 4 8 12 4 8 12
11月上旬 46 50 50 53 56 55 23 24 25 25 27 27
42 51 52 47 56 54 21 23 23 24 27 28

 〔D〕 現地試験における秋施肥区の春施肥に対する比較−5ヶ年町村平均−
用量別 N施肥量 (kg/10a) K2O施用量 (kg/10a)
2.9
以下
3.0〜
3.9
4.0〜
4.5
4.6
以上
4.9
以下
5.0〜
6.9
7.0
以上
生草・収量 78 79 87 91 82 84 89
草丈 イネ科 99 95 101 100 99 98 101
マメ科 102 91 102 94 101 93 100

・ 普及指導上の注意事項
 (1) 秋施肥は5月中でその効果が大きいことから、早期放牧を期待するようなときに適用すべきである。
 (2) 最終利用時期が早過ぎると、秋施肥により晩秋生長が多く、春枯草のため再生が遅れる。なお、最終利用時に極端な過放牧を避けること。
 (3) 秋施肥は越冬性を低下せしめるから、腐植が少なく極端に地力が低いところや、冬損の起こりやすいようなところでは危険である。