【指導参考事項】
放牧草地における牛の肺虫症の予防治療に関する試験
(昭和43〜45年)
(滝川畜試、新得畜試衛生科)

・ 目 的
 牛肺虫症の発生要因の解析および実態調査により流行の本態を把握して放牧牛に対する予防法を見いだすとともに、発症牛については適切な治療法を明らかにしようとするものである。

・ 試験方法
 1. 牧野における牛肺虫浸潤度の実態調査。
 2. 子虫検査法の改良および検査条件の検討。
 3. 人工感染牛における感染と臨床および血液学的所見との関係並びに肺の病理学的所見。
 4. 小型ピロプラズマ感染が牛肺虫の感染発症におよぼす影響。
 5. 摂取栄養の差が牛肺虫の感染発症におよぼす影響。
 6. 牛肺虫子虫の越冬試験。
 7. メチリジンおよびテトラミゾ−ルの牛に対する毒性と牛肺虫に対する駆虫効果。

・ 試験成果の概要
 1. 全道13ヵ所の牧野の放牧牛延1,528頭における牛肺虫の浸潤度は11.8%であり、放牧中期の8月に最も高く(28.2%)、入牧および退牧期は低率であった。(0.6および8.7%)。
 2. 牛を周年繁殖する牧場で工率の感染が認められ、(44.0〜62.0%)、飼育形態と牛肺虫汚染とは関係が深い。
 3. 遠沈管内遊出法による子虫検査に乳牛?紙を用いることは、ガ−ゼに比して操作が簡便であり、糞便の沈渣も少なく、子虫の検出率には差を認めず推償出来る方法である。また糞便は4℃で、4日まで保存可能である。(43年度成績会議)
 4. 人工感染による臨床症状は、感染後3週より発熱、咳嗽および呼吸数の増加などの肺炎症状を呈し、約12週間後にはこれら症状は消退する。血液性状では、2〜3週と5〜7週後に2峰性に好酸球数の増加を示し、血清γ−グロブリンは4〜5週以降に増加する。肺の病理学的所見では好酸球の浸潤を主とする滲出性気管支肺炎像を示し、その病変の程度は概ね寄生虫の数に平行している。
 5. 子虫の排泄は、感染3〜4週後より始まり、5〜6週にピ−クを形成して、9〜10週後にはほとんど陰転する。
 6. 前述の臨床症状および子虫の排泄のパタ−ンは、感染子虫数および栄養状態によって異なり、感染子虫2,500程度の低感染では、排泄LPGも少なく、ピ−クを形成せずに約100日間にわたって子虫を排泄し続け、このような牛は保虫牛として越冬する可能性がある。また栄養状態の良好な牛では、LPGが低く、臨床症状も軽微なものが多い。
 7. 牛肺虫とピロとの混合感染群では、1頭がへい死し、単独感染群に比してLPGの増加と排泄期間が延長する傾向が認められたが、臨床症状は明らかな差を示さない。増体は肺虫単独感染と混合感染のものがピロ単独感染のものより悪かった。
 8. 実験室内(4℃〜室温)および牧野において、牛肺虫第3期子虫は、明らかに越冬することが確認されたがその感染能力については不明である。
 9. メチリジンおよびdl-テトラミゾ−ルの牛に対する臨床的な応用限界はそれぞれ200㎎/㎏および20㎎/㎏である。
 10. 自然感染例に対するメチリジン200㎎/㎏の応用では、臨床症状、栄養状態ともに改善され、人工感染牛では投薬1週間後に子虫が陰転した。人工感染例に対するdl-テトラミゾール12.5㎎/㎏の応用では、感染14日令で94.2%、28日令で99.7%の高い駆虫効果を示した。
 11. 摂取栄養差と感染発症との関係については現在実験中である。

・ 主要成果の具体的デ−タ−
 1 牧野における牛肺虫の汚染度調査 (1968〜1969)
  入 牧 中 間 終 牧 全 期
検査
頭数
陽性
頭数
陽性
(%)
検査
頭数
陽性
頭数
陽性
(%)
検査
頭数
陽性
頭数
陽性
(%)
検査
頭数
陽性
頭数
陽性
(%)
A. 道北 129 0 0 30 7 23.3       159 7 4.4
B.  〃 51 1 2.0 34 9 26.5 33 1 0.5 118 11 9.3
C.  〃 15 0 0             15 0 0
D. 道東 30 0 0 35 8 22.9 45 0 0 110 8 7.3
E.  〃 27 0 0 42 0 0 31 2 6.4 100 2 2.0
F.  〃 85 3 6.5 93 1 1.1 33 5 15.2 211 9 4.3
G.  〃 53 0 0 15 1 6.7 44 9 20.5 112 10 8.9
H.  〃 62 0 0 51 19 37.3       113 19 16.8
I.  〃                 10 1 10.0 10 1 10.0
J. 道央              54 7 13.0 54 7 13.0
K.  〃 45 0 0 141 71 50.4 89 4 4.5 275 75 27.3
L.  〃 76 0 0 31 7 22.6 22 5 22.7 129 12 9.3
M. 道南 55 0 0 35 20 57.1 32 0 0 122 20 16.4
628 4 0.6 507 143 28.2 393 34 8.7 1.528 181 11.8

 2 人工感染牛における子虫数の推移


 3 小型ピログラズマと牛肺虫の混合感染試験
区  分 子虫出現時期
(日)
子虫排泄期間
(20LPG以上)
(日)
ピ−ク時の
LPG
へい死 ピ−ク時の
ピロ原虫数
(0/0.0)
牛肺虫単独感染 23.8
(23〜24)
27
826〜52)
378.5
(209.8〜487.6)
0/4
混合感染 24.3
(24〜25)
44以上
(27〜70と殺)
530.7
(445.7〜626.3)
1/4 60.0
(38〜79)
ピロ単独感染 0/4 31.0
(14〜55)

 4 牛肺虫子虫の越冬性
 感染子虫1000隻の各温度条件下における生存性(12月〜翌年4月)
温度条件 4℃ 10℃ 室温 屋外
水 (100ml) 5 2 64 7
水+土(100g) 0 0 8 4

 草地内における子虫の越冬性
草地 (100m2) 糞便内の第1期子虫 第3期子虫 生存子虫 観察期間
A 1.397.500 13.611(0.1%) 2.500(18.4%) 1969.10〜1970.5
B 1.397.500 4.711(0.3%) 500(10.6%) 1969.10〜1970.6
 5 駆虫試験成績……省略
   人工感染牛に対するdl-テトラミゾ−ルの効果は43年度成績会議参照

・ 普及指導上の注意事項
 1. 汚染牧野において、本症の発症を防止するためには、牛の栄養の保持に務め、ピロの感染を防止すべきである。(放牧環境の改善)
 2. 1度汚染を受けた牧野は頻回の駆虫によって正常化を図らない限り汚染は長期間持続する可能性がある。
 3. 咳嗽、鼻汁、削痩、発育不良および被毛失沢などの症状は、牛肺虫症の疑いが強いので糞便検査の必要があり、一応駆虫を試みるべきである。
 4. 牧野の汚染を予防し、本症の被害を防止するために、以下の方法を行うことが望ましい。
  1) 入牧期に全頭の検査を行い保虫牛を摘発する。保虫牛に駆虫により子虫が陰転した後に入牧させる。
  2) 感染ピ−クの前の7月に抜取り検査を行ない、子虫を検出した場合は全頭に駆虫を行って、8〜9月の発症を抑制する。
  3) 退牧期には全頭の検査を行い、保虫牛による翌年の牧野汚染を防止する。
  4) 子虫検査法および駆虫に関する問題点は昭和43年度成績会議資料を参照されたい。