【指導参考事項】
晩秋用放牧地の草質と育成牛の放牧効果に関する試験成績
(昭和43年〜45年)
北海道農業試験場草地開発第1部
草地第2研究室 (沢村 浩)
草地第5研究室 (高野信雄)

・ 試験目的
 現在、北海道の平均放牧期間は150日前後にとどまり、10月中旬で終牧となるのが、普通である。しかし11月中はほとんど積雪なく、草地の状況によっては放牧可能な気象条件である。したがって晩秋用放牧地の利用によって放牧期間の延長ができれば、放牧技術として適用される場面が広いと考えられる。この試験はそういう観点から晩秋用放牧地における放牧方法、家畜の行動、発育および草の品質、栄養価、消化率などを明らかにし、技術体系の素材を得ようとするものである。

・ 試験方法
 供試草地: 北農試22号地、昭和40年播種、オ−チャ−ド。ペレニアルライグラス、シロクロ−バ−から成る。昭和43年以降毎年7月下旬から10月中旬まで休牧。以後晩秋用放牧地として11月中、下旬まで供試した。
 放牧方法: 昼夜放牧、補助飼料無給与。
 供試牛: ホルスタイン種育成牛。およそ13ヶ月令、体重250㎏前後。
 植生調査: 各牧区の放牧前後に1㎡5ヵ所刈取って草量を算出、その混合サンプルについてDM、粗蛋白質、粗繊維を分析、アダムスの方式によりDCP、TDNを算出した。
 消化率: 綿羊4頭を用い常法により消化試験を行った。

・ 試験成果の概要
 ① 避難林の効果:放牧地に隣接してカシワを主とする森林を設け、風雨雪を避けるようにしたが、2年間の試験では強霜、風雪でも利用されなかった。
 ② 育成牛の発育:1年目は10月10日から11月7日までストリップ放牧した結果、日増体は1.050gであった。2年目は10月21日から11月22日まで小牧区に分割して放牧し、日増体は1.250gであった。3年目は10月19日から11月28日目で放牧強度を変えて試験した。11月23日に降雪あり、そのまま根雪となって供試牛の体重は減少したので11月24日測定の体重により日増体を算出、その結果、利用率76%(生草)の場合の日増体は731g、利用率66%の場合の日増体は992gであった。
 ③ 飲水量:1年目に毎日の飲水量を調査したが夏期間と大差なかった。
 ④ 草量、草質:草量は10a当たり1.000〜1.300(生草)であり、乾物率は放牧開始時には約20%、終了時には約40%になった。粗蛋白%は終時的に低下したが、NFE%は増加した。
 ⑤ 消化率:DM消化率は55%で放牧開始時も終了時も変わらなかった。蛋白質消化率は終時的に低下したがNFE消化率は変わらなかった。

・ 具体的な成果

        第1図 供試の体重


       第2図 草の栄養価

・ 指導上の注意事項
 ① 道内各地における根雪の初日の記録から放牧延長可能期間を定める。
 ② 放牧強度(利用率)を75%〜80%とすれば、1cow dayのためには水分80%換算生草必要量は約100㎏と推定されるので、放牧延長日数と放牧頭数とから晩秋用放牧地の必要草量を推定する。
 ③ 月別1日1ha当たり生産草量(草地により、地域により異なる)から、10月中旬に前記必要草量を得るためには、何時から、何haを休牧すればよいか推定できる。
 ④ マメ科草は低温にあうと極度に萎稠するので、イネ科草優先草地が望ましい。適草種については今後検討する必要がある。
 ⑤ 対象家畜は、現在のところ育成牛、乾涸牛、泌乳末期牛および肉牛であらう。
 ⑥ 避難舎などは特に必要としない。飲水は十分供給する。
 ⑦ 放牧方法はストリップ法あるいは数牧区に分割して放牧を行うことが牧草の効率的利用の点から、のぞましい。
 ⑧ 放牧強度は75〜80%(放牧前草量2.000㎏/10aで残草500〜400㎏/10a)が適当と思われる。翌年の再生との関連については、今後検討を要する。