【指導参考事項】
畑作経営から畑酪経営への転換方式に関する調査
(昭和44年〜45年)
道立中央農業試験場経営部
道立新得畜産試験条件休部経営科

・ 目 的
 畑作経営の不安定地帯で、経営の安定化と収益水準の向上を目ざして畑酪経営へ転換を図りつつある地域において、その転換過程を技術的、かつ経営経済的に調査分析し、畑酪経営確立のための諸条件を明らかにする。

・ 調査研究の方法
 統計及び既住の試験研究資料ならびに現地実態調査(大数調査、代表事例農家調査)による。
 1. 調査研究の対象
  (1) 対象地域 十勝支庁管内山麓地域
  (2) 調査対象地区 鹿追町
  (3) 代表事例農家、畑酪経営への展開過程を異にする農家25戸
 2. 主な調査研究項目
  (1) 統計資料の蒐集、ならびに現地実態調査
  (2) 調査資料の分析による畑酪経営の一般的展開動向の検討
  (3) 畑酪経営への発展段階を異にする類型別農家群の比較有利性の検討
  (4) 畑酪経営に対応する生産技術についての検討

・ 調査研究成果の概要
 1. 総体的にみた畑酪経営への展開要因と動向
  (1) 耕地規模:昭和35年頃までは5〜10ヘクタ−ル階層が最も多く平均11ヘクタ−ルていどで、古くから乳牛の導入が行われていたが、畑酪経営の進展は遅々として進まなかった。これは当時の収益水準が低く、乳牛導入による負債と一時的とはいえ収入の低下に堪えられなかったものと思われる。しかしその後冷害により離農が続出して耕地が拡大され外延的に酪農部門の拡大が可能となるに従い急速に展開した。
  (2) 土地基盤農業用水施設の整備:排水を必要とするところが多い反面、農業用水に不足するため大家畜の飼養が困難なところが多かった。しかし公共事業の進捗により、これらの問題点がかなり解消された。
  (3) 土地生産力:畑酪経営への転換初期においては土地生産力が低く、成牛1頭当り粗飼料面積が1ヘクタ−ル以上を必要とした。しかしその後土地改良が進み還元有機物の増加、輪作の合理化により土地生産力の向上と共に畑酪経営が進展した。
  (4) 機械化による省力:従来からの畑作に更に外延的に拡大された酪農によって生じた労働力の不足は作付の単純化と共同利用による機械化の普及により緩和された。
  (5) 作付の対応:多肥多収性が強く、酪農部門との補完関係が高く、安定して高収益性をもつ、てん菜、ばれいしょ等の作付が拡大され、これに反した性格の豆類の作付面積が減少して主幹作物の地位を入れ替えた。
  (6) 生産技術の向上:てん菜と酪農部門における生産技術の向上により収益性が向上すると共に補完的効果が顕著になった。
 2. 畑酪経営への発展段階別農家に対する経営経済分析発展段階を成牛頭数規模により第1段階(3.2〜6.9頭)第2段階(7.1〜9.7頭)第3段階(10.1〜15.8頭)に分類して比較すると次の通りである。
  (1) 農業経営の結果:第3段階はいづれの経営成果指標も著しく他の段階より高く、第2段階は第1段階よりやや低い。
  (2) 作付構成と集約度:酪農家の進展に伴い豆作率が低下し、飼料作付率は増加してる。てん菜は第2段階に向かって増加し、第3段階は幾分低下している。集約度は酪農家の進展につれて高くなっている。
  (3) 経営成果を規制する要因
   1)経営成果と生産性:投入要素の効率からみると労働生産性、土地生産性は酪農の進展によって増加するが資本生産性及び投入産出比は第2段階が落ち込んでおり、これが経営成果に大きく影響している。
   2)技術要因:てん菜収量は第3段階が最も高く、ついで第1、第2段階の順で、搾乳牛1頭当り乳量もこれと同様の傾向になっている。
 3. 生産技術の検討
  作物、酪農の両部門について既住の試験結果によりそれぞれ検討を加えた。

・ 主要成果の具体的デ−タ
 平均農家1戸当り耕地面積と乳牛飼養状況



 10ア−ル当り平均生産額の推移



 経営成果と生産性
項目/段階 経営者農業
労働報酬
(千円/戸)
平均労働
生産性
(円/日)
平均土地
生産性
(千円/ha)
平均資本
生産性
(千円/千円)
投入産出費
(千円/千円)
第1段階 352 4.662 172 1.06 2.09
第2段階 298 4.832 194 0.85 1.90
第3段階 855 6.497 251 0.92 2.02
  注) 平均労働生産性=農業総収入/(家族農業労働日数+雇用労働日数)
     平均土地生産性=農業総収入/耕地面積
     平均資本生産性=農業総収入/固定資本(土地を除く)
     投入産出比   =農業総収入/家族農業支出

 技術要因
項目/段階 てん菜反
当収量
(kg)
搾乳牛1頭
当り入量
8kg)
成牛1頭当
り飼料面積
(ha)
搾乳牛1頭
当り平均評価額
(千円)
搾乳牛率
第1段階 3.313 4.607 1.00 152 0.68
第2段階 3.197 4.056 0.74 145 0.73
第3段階 3.594 4.702 0.66 155 0.72
  注) 搾乳牛率=搾乳牛/成牛換算頭数