【指導参考事項】
1. 課題の分類
2. 課題名  冷害水稲の飼料成分および消化率の分析成績
3. 期 間  昭和46年
4. 担 当  道立北見農業試験場 牧草科・稲作科・専技室
5. 予算区分
6. 協力分担

7. 目 的
 冷害年においては水稲の青刈による粗飼料への転用が問題とされるが、この場合に飼料成分や消化率が不明であるために時期別に分析を行って冷害水稲の粗飼料転用への基礎資料とするために実施した。

8. 試験研究方法
 供試品種(被冷害稲)  農林20号、しおかり、およびサイレ−ジ
 調査時期         1.9月1日 2.9月8日 3.9月16日 4.9月22日
 分析法           一般成分、農技研法、消化率、in-vitro法   


9. 結果の概要・要約
 (1) 冷害年における水稲生育の特異性として注目すべき点は、第1表に示したように総重量(単位面積当り風乾重)が平年と大差がないことである。平年には総重が籾約40%、わら60%と配分されるに反し、冷害年では総重がやや低下するにとどまり、穂に分配されるはずの光合成同化物の全量が茎葉に畜積されている。またかなり後期になっても枯上りしないことがみられた。
 (2) 冷害年においても水稲の全乾物収量は1トン/10a近くまで増加する。
 (3) 乾物消化率の生育時期別の分析値は第2表のように、両品種とも早期ほど消化率が高く、時期が遅れるに従って低下する。また茎葉は高く、穂は低い。これらの消化率はイネ科牧草と比較しても遜色はないとみられる。
 (4) 飼料成分の分析値を第3表に示した。C.P C.F C.Fib C.Aにおいては茎葉よりも穂が高く、NFEは、農林20号では茎葉が高く、「しおかり」においては大差はなかった。時期別の変化は茎葉のC.Fは後期ほど低下の傾向があり、穂では逆となるが、乾物中では低下傾向を示す。NFEいずれも後期が高くなる傾向を示しており、また、全般的にNFEの含率が高い。この理由は前述のように同化産物の籾への転流が行われないために植物体に蓄積されることによると考えられる。
 (5) 冷害稲を原料としたサイレ−ジの品種は第4表に示したように、pH、水分、酸組成からみても良好であった。
  以上のような成績から冷害水稲の粗飼料への転用は十分可能であり、飼料成分からみてかなり良値とみられ、また消化率も高く、これを原料としたサイレ−ジの品質も良いことなどから、冷害年次には早刈りにして粗飼料への転用が有効と考えられる。

主要成果の具体的デ−タ
 第1表 冷害年次における水稲生育の特徴(作況調査より)
項目/年次/品種 農林20号 しおかり
本年 平年 比較 平年比 本年 平年 比較 平年比
10akg(風乾) 総重 1012 1100 88 92 1102 1145 43 96
稈重 854 638 216 134 926 581 345 159
籾重 15 431 416 4 42 516 474 8

 第2表 乾物収量および消化率(in-uitro)
調査時期/項目 乾物収量(kg/10a) 乾物率(%) 穂割合(%) 消化率(%)
農林20号 しおかり
農林20号 しおかり 農林20号 しおかり 農林20号 しおかり W.P S.L H W.P S.L H
1st (9月 1日) 789 926 29.1 30.2 16.2 15.0 65.6 72.6 50.5 71.4 71.6 47.1
2nd (9月 8日) 796 801 30.9 31.0 16.2 15.4 63.7 69.0 33.0 57.9 60.8 43.9
3rd (9月16日) 837 902 31.5 32.8 14.4 15.9 60.2 60.5 32.9 55.9 60.1 32.1
4ht (9月22日) 947 1034 33.9 36.0 14.4 17.1 57.9 59.4 25.7 52.0 53.9 41.0
  注) W.P:全植物、S.L:茎葉、H:穂の略号

 第3表 冷害稲の飼料成分(原物中%)
植物部位/
時期/
成分/
品種
農林20号 しおかり
水分 C.P C.F C.Fib C.A NFE 水分 C.P C.F C.Fib C.A NFE
W.P 1st 70.9 2.37 0.70 7.03 3.82 15.19 69.8 2.12 0.75 7.30 4.18 15.85
2nd 69.1 2.51 0.56 6.80 3.92 17.10 69.0 2.01 0.55 7.22 4.45 16.69
3rd 68.5 2.26 0.56 6.99 4.05 17.63 67.2 1.99 0.54 7.20 4.50 18.57
4th 66.1 2.20 0.62 7.34 4.27 19.47 64.0 1.86 0.56 7.83 5.07 20.67
S.L 1st 72.8 2.23 0.69 5.56 3.43 15.88 70.8 1.89 0.69 6.35 3.97 16.29
2nd 69.5 2.36 0.87 6.14 3.64 17.49 69.6 1.88 0.59 6.26 4.23 17.43
3rd 69.5 2.15 0.53 5.93 3.66 18.23 67.4 1.69 0.61 6.48 4.46 19.35
4th 68.8 1.85 0.55 6.17 3.91 18.72 64.8 1.58 0.54 7.20 4.91 20.72
H 1st 59.8 3.53 1.01 13.95 5.99 15.72 57.5 3.43 0.89 16.35 6.34 15.48
2nd 56.8 3.89 0.67 15.41 6.51 16.72 56.6 3.55 0.82 14.70 6.48 17.82
3rd 56.2 3.86 0.78 15.90 7.22 16.04 56.6 3.75 0.86 14.35 6.56 17.89
4th 53.8 3.86 0.88 16.86 8.07 16.53 54.8 3.83 0.94 13.28 6.73 20.42
  注) C.P:粗蛋白、C.F:粗脂肪、C.Fib:粗センイ、C.A:粗灰分、NFE:可溶無窒素物の略号

 第4表 冷害水稲を原料とした稲わらサイレ−ジの品質
NO サンプル提供者
代名
処理法 PH 水分
(%)
酸組成(生%) 品質
判定
嗜好性*
品種 刈取 切込 部位 総酸 乳酸 揮発酸
1 白岡馨代 照稔 9月25日 9月26日   4.20 70.0 1.44
(100)
0.88
(61)
0.56
(39)
2 菊田健治代 農林20号 9月15日 9月18日 上層 3.87 71.6 2.80
(100)
1.95
(70)
0.85
(30)
3 中層 3.95 68.7 2.98
(100)
1.89
(63)
1.09
(37)
  注) *農家の給与実態の観察結果