【指導参考事項】
イネ科牧草の硝酸含量に関する試験成績
(昭和46〜48年)
北海道農試畑作部作付体系第1研究室
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・ 目 的
北海道では牧草の硝酸含量については、慣行的採草利用の場合にはかなりNを多用しても収穫期におけるその含有率は余り高くはなく、家畜が中毒を起こす危険はほとんどないものとみられているが、牧草等生育段階の比較的進まない状態で利用される場合や施肥あるいは糞尿還元等によって多量のN質資材が投与される場合については懸念が残る。イネ科牧草の生育にともなう硝酸含量の推移と是に及ぼすN用量、N質資材の種類の影響を知るためにこの試験を行った。
・ 試験方法
試験1 草種、用量試験
供試草種:オ−チャ−ドグラス(北海道在来種)ほか計8種類の2年目草
処 理:N用量5段階、2年目N用量(kg/10a)等は次の通り。
処理/
施肥月日 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
備 考 |
4月30日 (萌芽期) |
0 |
3 |
6 |
9 |
12 |
Nは硫安、他に共通肥料として10a当り
P2O516.2kg、K2O24kgを3:2:1比で分施 |
6月17日 (1番刈後) |
0 |
2 |
4 |
6 |
8 |
8月 7日 (2番刈後) |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
調 査:1番草6月16日、2番草8月6日、3番草10月6日刈取、この間ほぼ7 日ごとに試料をとり、NO3-N含量を調べた。
試験2 N質資材試験
供試草種:オ−チャ−ドグラス(北海道在来種)、散播、3年目。
供試資材:硫安、尿素、燐安、塩安、硝安、牛尿、牛舎厩肥、硝曹、でん粉廃液。
処 理:7月19日ならびに9月13日、いずれも全面刈取後の試験区に前記各資材をN4kg/10a相当量地表散布により施用、ほぼ7日ごとに地上部のNO3-N含量を調べた。
・ 試験成果の概要
1. 春、夏、秋の各生育期を通じてN用量の多いものはNO3-N含量が高く、また起生または再生長初期に高いが生長が進むと漸減する傾向が認められた。
2. 牧草のNO3-N含量の推移には若干の草種的差異があり、マウンテンブロムグラス等は、他の草種に比し、高濃度で経過することが認められた。
3. NO3-N含量から危険とみられる期間と、草丈を指標として牧草の生育状況とを照合した結果、N施用水準の高い場合はほとんどの草種で、また一部草種ではそれ程多用しない場合でも、いわゆる利用適期にNO3-N含量が安全量まで低下していない場合のあることを認め注意を要すると思われた。
4. 資材試験においては、初回散布では、早ばつ、2回目は散布直後豪雨にあたが、牧草の生育は一般に化学肥料区が牛尿その他より良好であった。初回散布における牧草のNO3-N含量は、各資材とも初回測定時に最高を示し、資材別には硝安、硫安が高く厩肥は終始低かった。NO3-N含量は経時的に漸減し、8月中、下旬に至って各資材とも乾物100g中20mg前後におちついた。2回目散布においては、NO3-N含量の最高は各資材とも施用後12日の測定時に現れ、化学肥料はいづれも乾物100g中、300mg以上を示したが牛尿、廃液は200mg前後にとどまり、各資材とも経時的に漸減した。
・ 主要成果の具体的デ−タ−
NO3-N濃度より判定した要注意時間と草丈30cm到達時間 |
( 部は乾物100g中NO3-N含量220mg以上、)は草丈30cmに達する時期 |

オ−チャ−ドグラスのNO3-N含量(mg/乾物100g)
調査月日 |
N質資材 |
硫安 |
尿素 |
燐安 |
塩安 |
硝安 |
牛尿 |
厩肥 |
廃液 |
硝曹 |
無N |
(7月19日施用) |
7.27 |
142 |
69 |
59 |
86 |
308 |
51 |
25 |
|
|
32 |
8.2 |
41 |
29 |
24 |
46 |
94 |
107 |
23 |
|
|
24 |
8.7 |
28 |
31 |
23 |
32 |
46 |
54 |
23 |
|
|
22 |
8.14 |
18 |
17 |
18 |
33 |
24 |
31 |
21 |
|
|
22 |
8.23 |
18 |
17 |
18 |
28 |
17 |
32 |
23 |
|
|
21 |
8.30 |
16 |
16 |
16 |
29 |
16 |
26 |
22 |
|
|
21 |
9.12 |
23 |
19 |
17 |
27 |
17 |
23 |
21 |
|
|
19 |
(9月13日施用) |
9.18 |
61 |
87 |
56 |
59 |
129 |
87 |
49 |
33 |
140 |
52 |
9.25 |
357 |
476 |
498 |
357 |
397 |
231 |
56 |
183 |
347 |
97 |
9.29 |
155 |
125 |
107 |
84 |
81 |
78 |
42 |
47 |
88 |
24 |
10.5 |
82 |
57 |
45 |
62 |
32 |
62 |
49 |
28 |
77 |
33 |
10.14 |
32 |
23 |
18 |
47 |
20 |
27 |
23 |
25 |
36 |
26 |
※厩肥は9月13日施用を行っていないが残効追跡の意味で調査した。
・ 普及指導上の注意事項
1. 春先ならびに刈取後追肥、年間3回刈程度の慣行的肥培管理による採草利用ではかなり高水準のN施用を行っても、収穫期における牧草の硫酸含量はそれほど高くなく、硝酸中毒を招く急険はほとんどないものと思われる。
2. しかし、放牧その他で比較的若い状態の草を収穫する場合、N施用後収穫期までの期間が比較的短い場合にはたとえ生育状況からみて適期と判断されても牧草の硝酸含量がかなり高い場合があり、Nの施用水準、施用時期からの経過期間、草種などについて注意を要する。
3. 本道において近年その発生が伝えられる硝酸中毒あるいは少なくともそれが関与している可能性が考えられる家畜の障害は、家畜の糞尿、堆厩肥、でん粉廃液等を多量に草地に施用したような条件で起こっている例が少なくない。しかし乍ら今次試験の結果によればN用量同一の場合、是ら資材が牧草の硝酸集積を特に促進するような傾向は認められない。したがってこの点については、子の種農畜産廃棄物の草地還元が、施肥的配慮を軽視し、廃棄物処理の一手段として行われ、そのため適量をはるかにこえた多量施用からこのような結果がもたらされているのではないかと考えられる。
この種廃棄物の耕地還元による処理については、量、時期、成分均衝保持等、施肥的配慮が必要である。
(作物体の硝酸含量に及ぼす土壌の性状や気象的諸条件の影響については今次試験ではふれなかった。)