【指導参考事項】
稲作の機械化に対応した水管理法の改善に関する試験
(昭和49年〜51年)  上川農試土壌肥料科

目的
 本道の稲作が手植栽培から機械化栽培移行した今日、なお一層重視しなければならない水管技術は土壌及び栽培条件を無視して画一的・粗放化の領向にあり、特に出穂期以降の水管理についてはその傾向が著しい。これが収量や米質の変動を大きくしている要因の1つとなっている。
 以上の観点から、湿田と乾田において、農業土木的及び栽培技術的水管理が水稲の収量、品質並びに落水後の土壌条件に及ぼす影響について検討せんとする。

試験方法
○土壌型 グライ低地土(鷹栖)、褐色低地土(永山)
○処理内容
 1) 農業土木的水管理;無処理、籾殻暗渠、籾殻心破
 2) 栽培技術的水管理;
     中干し………止葉期〜出穂始
     落水時期……出穂期(落水A)、出穂7日後(落水B)、出穂14日後(落水C)、出穂21日後(落水D)
     処理区は上記3処理の組合せ。
○調査項目 水稲の生育、収量、品質。土壌の物理性、工学性。水稲の水分代謝。

試験成果の概要
 1) 強粘質で透水性不良なグライ低地土では、籾殻暗渠などの透水性改善の効果が極めて大きく、水稲の初期生育及び登熟性の向上に寄与し、品質面でも玄米の粒厚を大粒化し、青米歩合を減少させた。
 2) 中干しの効果は土壌の種類によって異なり、グライ低地土では収量の増加及び品質の向上面にもその効果は認められたが、乾田タイプの褐色低地土では登熟性の低下を招来し、玄米の充実度も劣り、収量的にも幾分劣った。
 3) 透水性不良なグライ低地土において、収穫時の土壌乾燥の度合は中干し及び出穂期落水がもっとも良好でICも0.5前後となり、圃場もほぼ大型機械走行可能な土壌条件となった。又、落水後に速やかな地表面水の排除と収穫機械の導入に充分な地耐力を期待し得る中干しの強度はPF値で2.0以上(含水比60.8%〕が必要である。
 4) さらに、グライ低地土では、IC0.5を充たす地表面の垂直硬度(山中式)は単純な脱水過程では6㎜前後、大亀裂生成後の脱水過程では14㎜前後と異なった値が得られた。
 5) 一方、褐色低地土では、中干し処理や落水時期の早晩を問わず、収穫時のICは何れも0.5以上である。
 6) 登熟期における土壌水分と水稲の水分代謝の関係についてみると、褐色低地土では落水の早期化によって土壌水分が低下すると共に水稲体の葉身(3L)含水率の減少度合が著しく、且、籾の発育及び養分転流に関与する枝梗の活性度(TTC活性)の低下も顕著であった。
 7) 落水後の収穫機械の走行と登熟期における水稲籾の正常な発育を充たす土壌の水分状態としては、褐色低地土ではPF21(含水比66%)グライ低地土ではPF2.3(含水比58%)前後に保つのが理想的である。

主要成果の具体的デ−タ−
 1) 収量性(3ケ年平均)

項目/
区名
m2当り
穂数
(本)
m2当り
総籾数
×100
登熟
歩合
(%)
青米
歩合
(%)
玄米重
(kg/a)
同比
(%)


(グ




土)
無処理 落水A  614 343 75.0 25.7 63.0 118
 〃B 620 307 72.9 22.0 59.2 111
 〃C 585 300 66.4 21.0 53.6 100
中干し 落水C 600 313 73.0 20.6 60.3 113
籾殻
暗渠
落水A  640 398 75.0 12.8 60.0 112
 〃B 586 323 67.8 12.3 59.0 110
 〃C 554 290 65.3 13.5 54.2 102


(褐



土)
無処理 落水B 447 259 80.3 6.1 47.7 93
  〃C 476 296 80.8 6.3 52.1 101
  〃D 468 291 78.2 6.6 51.8 100
中干し 落水D 483 293 74.9 5.6 51.8 100

 2) 水管理が収穫時のIcに及ぼす影響

 3) 中干しの程度と収穫時の土壌条件
場所 年次 中干しの
程度
収穫時の土壌条件
PF 含水比
%
PF 含水比
%
IC 地表面の
硬度
mm
鷹栖 50年 1.85 63.8 1.35 66.3 0.43 5.8
51年 2.10 58.0 2.08 58.9 0.67 15.0
永山 50年 2.50 45.7 2.34 49.8 1.18 16.0
51年 2.15 60.3 2.30 53.2 1.01 13.2


 4) PF、含水比及び容気度の関係−鷹栖


 5) 落水時期の早晩と葉身(3L)水分、土壌水分の推移−51年、永山

普及指導上の注意事項
 1) 収穫機械の走行と水稲の登熟に支障のない土壌水分の状態は、乾田ではPF2.1(含水比66%)、強粘質な水田ではPF2.3(含水比58%)前後に保つのが理想的であり、その時の圃場の乾燥程度は靴跡が0.5〜1.0cm位沈下する状態である。
 2) 落水の適期は土壌・立地条件、気象条件によって異なるが、上記の条件を得るためには強粘質で透水不良な水田では出穂期〜出穂7日後、粗粒質な乾田では出穂21日前後を目途として、登熟の状態を把握して決定すべきである。
 3) 特に、強粘質で透水不良な水田では、中干し及び透水性改善処理を組み入れた水管理技術が必要である。