【指導参考事項】
1. 課題の分類  病害 水田作
2. 研究課題名  リゾプス属菌によるイネ苗立枯病の発生条件と防除対策
3. 期間  (昭49〜51)
4. 担当  道立中央農試稲作部
5. 予算区分
6. 協力分担  中央農試農業機械部・上川農試専技室

7. 目的
   箱育苗において、リゾプス属菌によるイネ苗立枯病が発生し、機械移植栽培にとって重大な障害となってきた。このため早急に本病の発生々態を明らかにし、かつ防除法を確立しようとする。

8. 試験研究方法
年次/
項目
49年 50年 51年
発生条件 温度条件、水分条件 同左
(発生実態調査) (7支庁管内.123地点)
薬剤による防除 TPN水和剤
ベノミルTMTD水和剤
TPN水和剤、粉剤
スルフェン酸系水和剤
CNA水和剤
次亜塩素酸カルシウム
TPN水和剤、粉剤
CNA水和剤
熱利用による防除 焼土機(ヘキサベット) 同左

9. 結果の概要・要約
  (1)発生条件
   1)リズプス菌の被害は出芽温度32℃でもっとも少なかった。
   2)一般には高温多湿が多発要因と考えられたが、低温乾燥も稲の生育遅延を招き被害を大きくした。
   3)床上を透水性、保水力は中庸のもの(砂壌土〜植壌土)が被害が少なく、それ以外は被害を多くした(実態調査)
   4)播種時の淮水量は箱当り0.5〜1Lが適量と考えられた。
   5)床上を箱詰め後、積み重ねて長い間放置すると、リゾプス菌のまんえんを促進する恐れが大きいと考えられた。
  (2)薬剤による防除
   1)播種覆土後のTPN水和剤500〜1000倍液箱当り0.5〜1L潅注は有効であった。
   2)出芽室から出した後のTPN水和剤潅注は菌密度の低い場合有効と考えられたが、高密度の場合は効果がない と考えられた。
   3)播種前のTPN粉剤、床土混和も有効と考えられたが、箱当り15gではやや劣る場合があり20gが適量と考えられ た。なお、薬害については更に検討を要する。
   4)ベノミルTMTD水和剤1000倍液潅注は、TPN剤に比しやや劣ったが有効と考えられた。
   5)スルフェン酸系水和剤(ユ−パレン)の500〜800倍0.5L/箱も有効と考えられたが、覆土前使用の方が有効がまさった。
   6)CNA水和剤800〜1000倍液、0.5L/箱も有効と考えられた。
   7)汚染箱の消毒としては、カルシウムハイポクロライト(有効cL70%)水溶剤(顆粒)の1000〜2000倍液、5〜10分浸漬、または、TPN剤500倍液、10分浸漬により発生が軽減された。
   8)汚染箱を直接消毒せず床土にTPN剤を潅注した場合でも効果があると考えられた。
  (3)熱処理による防除
   1)菌の死滅温度は、湿度60℃、1時間55℃12時間で十分であったが、乾熱では100℃24時間でも生存菌が認められた。
   2)焼土機(ヘキサペット)による床土の熱処理試験で、余熱をうまく利用することにより、実用的範囲まで被害を少なく    することが可能と考えられた。
   3)湿熱条件として土壌水分は20%以上あれば十分であり、10%では不足と考えられた。(一般に春先の床土水分は 30%前後)

10. 主要成果の具体的数字
  第1表. 出芽器内の温度及び水分条件とリゾプス菌の被害(その1)
出芽器内
の温度
床土の
水分
緑化時の条件 重症率
38℃ 適湿 20℃7日間保持 12.3%
15℃  〃 18.8
少湿 20℃7日間保持 12.8
15℃  〃 20.8
32℃ 適湿 20℃7日間保持 4.3
15℃  〃 9.0
少湿 20℃7日間保持 11.5
15℃  〃 13.3
29℃ 適湿 20℃7日間保持 8.0
15℃  〃 12.3
少湿 20℃7日間保持 15.3
15℃  〃 10.0
 播種 49.1.24  調査 49.2.9

 第2表. 出芽器内の温度及び水分条件とリゾプス菌の被害(その2)
出芽器内
の温度
床土の
水分
被害度
38℃ 適湿 21.8%
少湿 25.8
36℃ 適湿 17.6
少湿 21.2
34℃ 適湿 16.8
少湿 15.6
播種 50.3.6
調査 50.3.24

 第3表. 苗箱への土詰めの時期と被害
時期 被害苗率
当日 9.9%
7日前 20.2
播種 50.5.19
出芽器温度 32℃
調査 50.6.4

 第4表. スルフェン酸系水和剤の効果
供試薬剤 使用濃度 時期潅注 調査
苗数
重症
苗率
草丈
稀釈
倍数
成分 播種前 覆土後
○スルフェン酸系水和剤 ×500 1000PPM   201 22.9% 11.0cm
  215 27.0 11.9
×800 625   230 23.2 11.2
  180 39.0 12.1
無処理(水)    229 41.7 12.0
   253 58.2 10.5
播種 50.9.26
500ml/箱灌注
調査 50.10.26

 第5表. TPN粉剤の効果とヒドロキシイソキサゾ−ルとの併用の影響
供試薬剤 箱当り使用量 調査苗数 重症苗率 草丈
TPN ヒドロキシイソ
キサゾ−ル
○TPN粉剤(4%) 15gr gr 208 13.0% 10.3cm
○   〃 6 199 33.8 10.8
○   〃 20 201 18.9 10.2
○   〃 6 222 19.3 10.2
○   〃 25 209 22.7 10.2
○   〃 6 207 19.3 11.0
無処理 208 40.9 10.5
TPNのみ無処理 6 219 45.7 10.2
播種 50.9.26  調査 50.10.24

 第6表. Rhizopus菌に対する播種覆土後薬剤潅注の効果
供試薬剤 薬剤処理方法 種籾層の菌
糸まん延程度
1本当り
生草重(g)
種子消毒 潅注処理
○ベノミル・TMTD(水) ×20 10分浸漬 ×1000. 5L/m2 1.6 0.089
○TPN       (水) ベノミル×50 10分〃 TPN×500. 3L/m2 0.2 0.098
○     〃 〃×1000. 5L/m2 0.2 0.092
無処理 3.4 0.082
播種 昭和49年10月2日, 調査 10月14日, 菌糸まん延程度 0=菌糸なし
1=局部発生, 2=3/1以下, 3=3/1〜3/2, 4=3/2以上

 第7表. Rhizopus菌に対するTPN剤、緑化時潅注の効果
緑化時 供試薬剤 接種区 無接種区
菌糸まん延度 マット強度 被害度 菌糸まん延度 マット強度 被害度
乾燥区 TPN×500 3.5 1.0 32.4 0.5 3.0 0.7
ム処理 3.0 1.5 26.3 2.0 3.0 1.0
多湿区 TPN×500 4.0 1.0 36.3 1.5 2.5 7.5
ム処理 4.0 0.5 68.0 3.0 1.3 21.8
播種 昭和50年2月26日, 薬剤潅注 3月1日, 調査 3月7日

 第8表. ハイポクロライトによる箱消毒の効果
供試薬剤 濃度 箱浸漬時間 被害度
○ハイポクロライト ×1000 5分 0.6
○    〃 10分 0.2
無処理(水) 10分 10.7
播種 昭和50年2月7日, 調査 50年2月14日

 第9表. TPN水和剤による箱消毒の効果(3区平均)
消毒方法 調査苗数 被害度
床土
無消毒 播種前TPN×500, 500ml/箱潅注 79 11.3%
TPN×500, 5分浸漬 無消毒 92 15.4
無消毒 82 61.2
播種 昭和50年2月25日, 調査 3月10日

 第10表. 湿熱処理とリゾプス菌の生存率
処理時間/
処理温度
30分 1時間 6時間 12時間
50℃ % 100% % %
55℃ 100 0
60℃ 100 0

 第11表. 焼土機(ヘキサペット)による床土熱処理の効果
場所 床土の温度 処理
月日
播種
月日
緑化
開始
箱の
新旧
緑化時の表面菌糸
発生箱率
重症苗率
5.7
草丈
5.7
処理時 推積時 4.25 5.1 5.3
長沼町
2区
熱処理 66℃ 60℃ 4.22 4.23 4.25 6.7% % % 3.0% 4.7cm
ム処理 10℃ 66.7     4.5 4.4
長沼町
1区
熱処理 62℃ 59℃ 4.27 4.28 5.1   10.2 8.3 6.1 3.2
17.1 14.4 6.5 3.6
ム処理 12℃   48.1 68.5 11.8 3.7
36.9 79.3 13.2 3.4

 第12表. 土壌水分と熱処理効果(昭和51年)
項目/
土壌水分%/
熱処理時間
菌生存率
0 10 20 30 40
60℃ 6時間 100% 8% 0% 0% 0%
〃 24 〃 100 0 0 0 0
1区9cm ペトリ皿1ケ、土壌50g、供試保菌米粒数 25粒

11. 今後の問題点

12. 次年度の計画(成果の取扱い)
 (1)耕種的防除法
   1)育苗土は保水力、透水性、中程度のもの(砂壌土〜埴壌土)を選ぶ。
   2)箱への土詰め、積み重ねはあまり早く行わない。
   3)潅水量は過多、過少にならぬようにする。(適量0.5〜1L/箱)
   4)出芽温度は32℃前後とし、これより高温または低温にしない。
   5)緑化時に乾燥すると萎凋被害が促進されるが、軽い場合には十分な潅水によって回復する。
 (2)薬剤による防除法
   1)TPN水和剤による土壌消毒は、播種後3日以内に行う。
   2)カルシウムハイポクロライトによる箱消毒は、直接皮膚に触れぬよう、また屋内では塩素ガスを吸いこまぬよう通気に十分な注意が必要である。
 (3)熱利用による防除法
   1)床土の湿熱60℃1時間、または55℃12時間処理により菌は死滅する。
   2)上記の処理を行うため、焼土機(ヘキサペット)は有効と考えられるが使用に当っては、温度低下の対策を配慮する必要がある。
   3)湿熱条件として、土壌水分は20%以上であれば十分であり10%では不足と考えられた。