【指導参考事項】
1.課題の分類  新得畜試 乳牛 管理
2.研究課題名  積雪寒冷地域におけるスラリー式ふん尿処理施設と処理作業に関する調査
           −北海道東部地域における実態と問題点−
3.期  間  昭48〜51
4.担  当  新得畜試 乳牛科 草地飼料作物科
5.予算区分  道単
6.協力分担  北農試畜産部 家畜第3研究室

7.目  的
 寒冷地のスラリー処理施設、処理方式、圃場還元、牛に対する影響及び舎内環境などの実態を調査検討する。

8.試験研究方法
 (1)道東地区における既存事例概査(昭48〜51)
 (2)施設構造 処理機能・環境管理・圃場還元の概査(昭48〜49)
 (3)畜舎様式・処理様式別のモデル的事例における処理能率、作業時間に関する精査(昭49〜50)

9.結果の概要・要約
 (1)昭51,12現在におけるスラリー処理施設は十勝67,根室47,釧路25,計139事例で、うち自然流下式は25/67、21/47、22/25計68/139事例である。(表1)
 (2)ストールの長さは平均150cmで1/53の勾配がある。スラットは使用杙の組合せで15種類に区分されたが機能の良いものは、グリットが丸鋼で間隙は38〜40m/mである。
 (3)強制流下式は低勾配1/50以下の事例の流下状態が良いが、共通的に末端部分が残り、注水で流下させている。
 (4)自然流下式は冬期スラリー表面勾配が1/50以上になる。収容牛が少なく、舎温が低く、ピットが浅い事例では流下が不良である。(表5)
 (5)貯溜槽容積は1ストール当り平均6.3m3、実際の充満日数は平均131日で舎飼期間のスラリーを完全に貯溜できないため、冬期間でも最多16回汲出している。冬期間の汲出し回数は貯溜許容日数と密接な関係が認められた。貯溜槽中のスラリーへの加水率は舎飼期では十勝30%、根室22%、放牧期では50%、65%である。(表3)
 (6)牛に対する影響として、肢蹄や乳頭の損傷の増加を17事例指摘している(表4)
 (7)ふん尿処理作業は、バーンクリーナ式、トラクタースクレープ式によるふん尿分離処理と比較して期待された省力効果は認められなかった。また、スラリー処理に伴う女性の労働負担は特に認められなかった。(表6)
 (8)スラリーの各作目面積あたりの散布率は草地68%、畑地56%、うちコーン81%、ビート55%、1頭当り散布面積は54a、還元量は年間10a当り、畑・採草地へN8.9kg,P3.4kg,K10.4kg,放牧地へは12.5kg,4.7kg,14.6kgと推定された。

10.主要成果の具体的データ
 表1 スラリー牛舎の事例分類(事例調査)
地区

年次 型式 処理様式 貯溜槽
45

46 47 48 49 50




フリー
ストール
























十勝 67 14 12 9 9 10 13 58 9 26 25 6 1 1 6 2 11 37 9 10
釧路 25   3 1 6 7 8 24 1 2 22       1     24 1  
根室 47 10 9 9 2 3 14 38 9 8 21 5 4 1 3 4 6 27 4 8
139 24 24 19 17 20 35 120 19 36 68 11 5 2 10 6 17 88 14 18

 表2 スラリーピットの構造・寸法(概要調査)
地区 処理様式 全事例
(cm)
深(cm) m3
/
ストール
底勾配(例)
落口 末端 1/10

1/24
1/30

1/49
1/50

1/69
1/90
以上
0
十勝 貯流式 11 53 94 55 8.50 1 4 3 2 1
貯落式 8 61 67 40 0.45 2 3   1 2
自流式 3 72 93 89 0.86         3
計又は平均 22 59 84 54 0.53 3 7 3 3 6
根室 貯流式 3 70 88 78 0.74     1   2
自流式 6 64 91 88 0.77     1   5
計又は平均 9 66 90 85 0.76     2   7
合計又は平均 31 61 85 65 0.60 3 7 5 3 13

 表3 1日1頭当りスラリー貯溜日数(概要調査)
地区 事例数 貯溜槽
容積
舎飼期 放牧期
スラリ
ー量
ふん
尿率
加水
充満
日数
スラリ
ー量
ふん
尿率
加水
充満
日数
十勝 27 6.5m3 62.8L 70% 30% 104日 41.3L 50% 50% 157%
根室 13 6.3 56.6 78 22 101 48.1 35 65 124

 表4 スラリー処理の効果と牛に対する影響(概要調査)
地区

主な効果(戸) 牛えのえいきょう(戸)
省力化 草地
改良
敷料
節約
畜舎内
外の環
境衛生
事故
疾病の
減少
牛体
汚染の
減少
肥料
節約
泌乳 繁殖 肢蹄
× × ×
十勝 27 26 8 5 5 2 18 1 2 19 4 2 20 5 2 16 9
根室 12 12 5   5 4 7   2 5 2 3 5   1 4 8

 表5 自流式モデル事例のスラリー越流状況(細部調査)
事例
No
収容
頭数
スラリーピット 加水率 越流状況
深さ 底勾配 高さ スラリー表面勾配 末端の余裕
3 16/32 85cm 0 30cm 7〜8% 1/29〜1/59 0〜12cm
4 28/32 95 0 30 25〜40 1/94〜1/110 22〜31
5 33/36 89 0 20 3 1/25〜1/70 28〜50
7 37/40 80 0 20 18 1/28〜1/34 20〜31

 表6 ふん尿処理作業労力に及ぼす影響(年間1頭当り)・(細部調査)
牛舎型式 事例
No
処理様式 稼働力 全作業
時間
ふん尿処理 ふん尿処理作業の内容
時間 比率 臨時作業 日常作業 (婦女比率)
ストール
バーン
1 貯流式 2 1 時間
148

1,044
12% 59%(59%) 41%(59%) (25%)
2 貯落式 2 1 175 1,819 17 18(16) 82(17) (17)
3 自流式 1 1 219 446 3 35(0) 65(0) (0)
4 1 1 194 644 6 24(0) 76(53) (40)
5 2 1 178 771 7 61(0) 49(0) (0)
6 3 1 214 796 6 40(4) 60(18) (12)
8 直落式 2 1 235 838 6 68(2) 32(0) (1)
対照 バーン
クリーナ式
2 1 121 554 8 36(0) 64(10) (6)
フリー
ストール
バーン
9 直落式 1 1 107 422 7 75(0) 25(0) (0)
10 スタレップ式 5 0 69 291 7 70(0) 30(0) (0)
対照 4 0 118 580 8 27(0) 73(0) (0)

11.今後の問題点
 (1)貯溜施設費の軽減、特に簡易補助貯溜槽の検討
 (2)汲上げ、撹拌、散布の効率的な機械体系の確立
 (3)スラリー牛舎の牛に対する影響と省力効果の再検討
 (4)舎内環境対策

12.成果の取り扱い
  本調査は北農試との地域分担によって実施した。北農試の成績(北海道酪農における液状きゅう肥処理利用方式の実態と問題点:北農試研究資料10,1976,10)とあわせ、指導上の参考資料に供する。