【指導参考事項】
1.課題の分類  十勝農試 経営方式 労働手段 畑作
2.研究課題名  −種子ばれいしょ貯蔵施設の経済性−
3.研究期間  昭和47〜51年(50〜51年)
4.担  当  十勝農試 農業機械科
         浦谷孝義、長尾正克、村井信仁
5.予算区分  受託
6.協力分担  北農試畑作部

7.目  的
 ばれいしょの種子は、①10a当りの貯蔵量が約240kgと他作物に比べて大重量であり、それが手作業で処理されている。②従来種子運搬、仮貯蔵は収穫作業と競合し、かつ仮・本貯蔵と2度手間を要し、本貯蔵までのあいだに凍結などによる損失がある。③従来の穴掘り貯蔵では気象条件の影響と受けやすく腐敗・発芽などによる損失の危険があるため15〜20%余計に貯蔵する必要がある、などの問題点があり、これらを改善するため種子ばれいしょの貯蔵施設が開発され、その後急速に普及している。
 貯蔵施設は現在各地に建設され、今後もしばらくは増加すると予想される。一方これまでに建設されたものの運営実態および経済性は明らかにされていないので、これを明らかにし、今後の導入・利用上の参考に供する。

8.試験研究方法
1)研究方法 各貯蔵施設の所有・管理者に対して施設の運営および事業費について聴取り
調査を行ない、それにもとづいて費用分析を行なう。
2)調査対象 十勝管内と施設(鹿追町、浦幌町、士幌町)および網走管内4施設(網走市)

9.結果の概要
 1)運営実態
  ①調査対象7事例のうち十勝の3事例は農協運営、網走の4例は集団運営である。貯蔵されている種子は奈々種、条種、採種であり、1施設で2〜3種類貯蔵しているばあいもある。品種数は単一のばあいと複数のばあいとがある。
  ②いずれの施設も貯蔵だけでなく加温による発芽処理を行っている。他に切断、浴光、選別(入庫時)に行っている施設もあるが、選別、切断は人件費を増加させている。
  ③貯蔵形態はバラとミニコンテナとがあり、バラは大規模、ミニコンテナは中規模以下で採用されている。貯蔵室㎡当り貯蔵量はバラで約30俵(50kg/俵)、ミニコンテナで約17俵でありこの差が1俵当り固定費負担の差の主な原因となる。
 2)経済性
  ①貯蔵施設本体(建物+空調設備)の貯蔵室㎡当り事業費は90〜110千円、建物のみの㎡当り建設費は60〜70千円で、施設規模にかかわらずほぼ一定である。貯蔵施設本体の100俵当り事業費は、バラ(20,000俵で40万円、50,000俵で30万円)とミニコンテナ(50〜60万円)ではバラの方が安くなる。
  ②1俵当り運営経費は、貯蔵・発芽に限定すると、バラでは600〜700円、ミニコンテナでは900〜1,000円である。このうち変動費はバラで約150円、ミニコンテナで約200円である。また固定費割合が高く運営経費の70〜80%に達する。このため操業率が低下すると1俵当り固定費の負担が大きくなるが、規模が小さいほど急速に負担が大きくなる。
 3)分析結果
  ①貯蔵される種子が単一の種類であることを想定して試算すると、6,000俵以上であればバラ貯蔵が有利である。
  ②貯蔵施設の導入するばあい、運営主体、貯蔵形態、種類をどのように決めるかはおかれている条件によって異なるので、決定の内容と条件との関連を整理した。

10.主要成果の具体的数字
 第1表 調査対象の実態
項目\対象事例 十勝 網走
A B C A B C D 網走平均
運営主体 農協 農協 農協 集団 集団 集団 集団  
種類 主に採種 原々種、
原種
原々種、
原種
採種 採種 原種 原々種、
採種
 
運営内容   選別   切断     浴光  
貯蔵形態 バラ ミニ
コンテナ
バラ ミニ
コンテナ
ミニ
コンテナ
ミニ
コンテナ
ミニ
コンテナ
 
貯蔵量
(俵)
50,000 6,000 20,000 3,430 3,250 4,000 4,000 3,670
㎡当り貯蔵量
(俵)
30.7 18.2 29.1 17.5 17.5 18.5 16.2 17.4
㎡当り事業費
(1,000円)
88 126 110 107 111 94 88 99
㎡当り建設費
(1,000円)
62 59 63 65 70 61 59 63
100俵当り事業費
(1,000円)
286 697 377 609 635 510 545 571
1俵当り経費
(円)
586 1,365 803 1,042 1,029 875 972 963
うち固定費
(円)
428 976 633 818 822 685 783 764
うち変動費
(円)
158 389 130 224 207 190 189 199
 ※運営内容はすべての施設で貯蔵・発芽処理をしているので、それ以外のもののみをあげた。

 表2 施設導入における決定の内容と条件
項目 選択内容 必要条件ないし前提条件 調査対象事例
十勝-
A,C
十勝-
B
網走-
A,B,C,D
運営
主体
農協 農協の指導力が強い  
集団 ばれいしょを含む集団的生産組織ができている    
種類 採種,原種
原々種
地域のばれいしょ生産を計画化する意図が強い  
原種
原々種
種子ばれいしょの安全・確実な貯蔵を図る    
貯蔵 バラ 特定の品種に集中していて6,000俵以上の貯蔵量に
なり、それがコミ玉(玉区されていない)である。
   
形態 ミニ
コンテナ
貯蔵量が5,000俵以下である  
貯蔵される種子の品種が多い    
貯蔵される種子が玉区分されている  
 注)調査対象事例の○印は左の条件に合数していることを示す。



図1 貯蔵規模と貯蔵形態の有利性(試算)

11.今後の問題点
 ①貯蔵施設の導入・利用が個別経営の労働配分、作業体系、農業取得に与えた影響
 ②最近実用段階に入った個別対応の小規模な貯蔵施設の利用実態と経済性および個別経営における作業体系上の変化