【指導参考事項】
1.課題の分類  作物(46種) 環境汚染 道立中央農試
2.研究課題名  農作物に対する二酸化硫黄の可視被害について
3.期  間   昭和48〜52年
4.担  当   中央農試環境保全部第二科
5.予算区分  道 費
6.協力分担  な し

7.目 的
 農作物に対する二酸化硫黄の接触影響、とくに可視害の発現について調査すると共に化学分析による可視被害判定法について検討した。

8.試験研究方法
 ビニールハウス(長さ11m、幅4m、容積83m3)内で六回にわたりポット栽培した作物に対して二酸化硫黄を接触し、対照と比較する方法を用いた。試験は供試作物によって二つに分けた。一つは畑作物、牧草、水稲、果樹を主体に供試した試験〔実験-A〕、他は野菜類を供試した試験〔実験-B〕である。
〔実験-A〕
 供試作物はソバ、アルファルファ、赤クローバ、白クローバ、ケンタッキーブルーグラス、オーチャードグラス、トールフェスク、チモシー、ペレニアルライグラス、えん麦、ホーレン章、タマネギ、大豆、小豆、菜豆、高級菜豆、スイートコーン、デントコーン、馬鈴薯、てん菜、リンゴ、水稲、これらの供試作物を夏接触の場合、50〜60日間、秋接触の場合、35〜45日間ガラス室内でそれそれポット(1/2000〜1/5000aワグネルポット)栽培したのちガス接触に供した。
〔実験-B〕
 供試作物はレタス、シソ、ミツバ、春菊、山東菜、トマト、ハクサイ、パセリ、イチゴ、ニンジン、カボチャ、ピーマン、セルリー、キュウリ、アスパラガス、エンドウ、ゴボウ、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ナス、ナンバン、メロン、スイカ。
 これらの供試作物を温室内で50〜90日間ポット栽培(1.2L容ポット)したのちガス接触に供した。
二酸化硫黄接触の時期、濃度、接触時間、気温、湿度などの諸条件は表のとおりである。

実験 接触試験 接触時間 累計接触時間数
(時)
濃度変化(ppm)
(1時間値平均)
温度(℃) 湿度(%)
実験-A 48年秋 0.3ppm 9月22日〜10月11日 113 0.30〜0.36 13〜30 45〜79
49年夏 0.3ppm 6月23日〜7月15日 113 0.26〜0.38 16〜35 53〜73
49年秋 0.3ppm 9月18日〜10月6日 113 0.28〜0.33 14〜35 40〜100
50年夏 0.8ppm 6月17日〜7月15日 54 0.78〜1.05 25〜36 52〜90

実験 51年夏 (0.7ppmSO2) 6月8日〜6月21日 53.0 0.68〜0.76 17〜29 48〜91
実験-B 52年夏 0.33ppmSO2 6月20日〜6月25日 36.0 0.31〜0.34 20〜30 53〜78
 +   0.65ppmSO2 6月26日〜6月28日 15.0 0.63〜0.65 20〜28 59〜92
 +   0.88ppmSO2 6月29日〜7月12日 60.0 0.85〜0.91 20〜32 65〜82

9.結果の概要・要約
 ①可視被害は茎部、花・実、莢に認められず葉部に発現した。被害の初期発生症状は葉肉細胞が破壊し、灰緑〜灰褐色、褐色、黒褐色、灰白色などの煙斑を生ずるもの(急性害)と葉全体や葉脈間、葉縁の一部が黄化する症状(慢性害)に大別できた。とくに、感受性の大きかった「ソバ」の症状を記載すれぱ次のようである。まず、中、下位葉の葉脈間、葉縁に不規則な淡い煙斑が発現する。やがて、これは鉛色や灰黄に変化し、その後、にぶい黄や褐色になり葉脈間内に拡大し、最後は葉全体が枯死して落葉に至る。
 ②可視被害(煙斑)は0.3ppm接触で発現しない供試作物が相当見受けられたが、0.7ppm、0.8ppm接触ではほとんどの供試作物に発現した。
 ③可視被害(煙斑)発現時間の大小によって供試作物46種類の二酸化硫黄に対する感受性を三つのグループに分類(表-24)し、O,GARAの分類と比較した。
 ④ガス接触により各部位の硫黄含有率は高まった。とくに葉部(葉身)の上昇が著しく、これが煙斑発現の主因と考えられた。
 ⑤二酸化硫黄は主として葉から吸収され、そのほとんどが水溶性硫黄の形態で葉に蓄積すると考えられ、葉中の全硫黄(場合により水溶性硫黄/全硫黄)の値、全硫黄の葉部/茎部の値などを総合的に考慮することにより、作物に可視害が現れた場合に作物の二酸化硫黄接触の有無を化学分析の立場から判定し得る可能性を認めた。

10.主要成果の具体的数字
 表-1 S02に対する相対的感受性
レタス、ソバ、アルファルファ、
シソ(チリメン青)、赤クローバー、
白クローバー、ミツバ、オーチャードグラス、
ケンタッキーブルーグラス、チモシー、
春菊、トールフェスク、ペレニアルライグラス、
ホーレン草、タマネギ、大豆、山東菜、
えん麦、馬鈴薯、
トマト、ハクサイ、スィートコーン、
パセリ、イチコ、デントコーン、
ニンジン、カボチャ、高級菜豆、
ピーマン、セルリー、菜豆、キュウリ、
アスパラガス(新茎)、小豆、エンドウ、
コボウ、水稲、シソ(赤チリメン)、
ブロッコリー、リンゴ、
キャベツ、
てん菜、
カリフラワー、
ナス、ナンバン、
アスパラガス(旧茎)、
メロン、
スイカ

 表-2 部位別の硫黄含有率 (48年度秋 0.3ppm)
作物名 部位* T-S (%)
GAS** 対照 SO2による増加
ソ バ 上位葉 1.181 0.254 0.927
下位葉 1.077 0.353 0.724
0.083 0.078 0.005
花・実 0.189 0.167 0.022
アルファルファ 1.742 0.332 1.410
0.178 0.087 0.091
赤クロバー 0.761 0.097 0.664
0.114 0.065 0.049
高級菜豆
(大福)
上位葉 0.601 0.271 0.330
下位葉 0.447 0.248 0.199
0.372 0.328 0.044
0.223 0.200 0.023
小 豆 0.495 0.267 0.228
0.367 0.357 0.010
 *葉部は葉身を示す。
 **ソバは接触65時間、他は113時間後の値

 表-3 葉身の硫黄含有率 (煙斑発現時点) [50年0.8ppm接触]
供試作物 接触時間
(時) (t)
対照
ガスによる
増 加 (A)
吸収速度*
ペレニアルライグラス 3.5 0.224 0.057 1.629
チモシー 3.5 0.155 0.064 1.8291
オーチャードグラス 3.5 0.184 0.082 2.373
トールフェスク 3.5 0.281 0.057 1.629
アルファルファ 3.5 0.700 0.041 1.171
赤クロバー 3.5 0.261 0.114 3.247
白クロバー 3.5 0.291 0.033 3.800
そ ば 3.5 0.321 0.062 1.771
大 豆 3.5 0.098 0.056 1.600
馬鈴薯 3.5 0.937 0.180 5.183
タマネギ 3.5 0.357 0.130 3.714
えん麦 3.5 0.333 0.054 1.543
ほーれん草 3.5 0.303 0.054 1.543
スイートコーン 16.5 0.152 0.151 0.915
デントコーン 16.5 0.109 0.156 0.946
水 稲 22.0 0.342 0.212 0.964
大 福 22.0 0.198 0.120 0.546
菜 豆 22.0 0.186 0.263 1.196
小 豆 30.0 0.170 0.522 1.740
てん菜 54.0 0.337 0.847 1.569
 *A/t×100     単位:含有率は%

 表-4 葉身の硫黄含有率     [51年 0.7ppm接触]
供試作物 接触時間
(時) (t)
被害発現時間
(時)
T-S (%) 吸収速度*
ガス 対照 ガスによる
増加(A)
ミツバ (セリ科) 14.5 3.5 0.725 0.468 0.257 1.77
春菊 (キク科) 14.5 3.5 0.987 0.835 0.152 1.05
ニンジン (セリ科) 53.0 3.5 0.833 0.387 0.446 0.84
パセリ (セリ科) 7.0 3.5 0.645 0.401 0.244 3.49
山東菜 (アブラナ科) 7.0 3.5 0.852 0.706 0.146 2.08
トマト (ナス科) 14.0 7.0 1.644 1.475 0.169 1.21
ハクサイ (アブラナ科) 14.5 7.0 0.969 0.622 0.347 2.39
カボチャ (ウリ科) 53.0 7.0 0.570 0.393 0.177 0.33
キュウリ (ウリ科) 53.0 10.0 1.252 0.826 0.426 0.80
シソ (シソ科) 53.0 14.5 0.626 0.266 0.360 0.68
ゴボウ (キク科) 53.0 14.5 0.724 0.374 0.350 0.66
ナス (ナス科) 53.0 14.5 0.660 0.310 0.350 0.66
ブロッコリー (アブラナ科) 14.5 14.5 1.698 1.485 0.213 1.46
イチゴ (バラ科) 53.0 15.5 0.603 0.447 0.156 0.29
キャベツ (アブラナ科) 53.0 19.0 1.274 1.014 0.260 0.49
ピーマン (ナス科) 53.0 ? 0.662 0.430 0.232 0.44
ナンバン (ナス科) 53.0 ? 0.674 0.349 0.325 0.61
プリンスメロン (ウリ科) 53.0 ? 1.197 0.810 0.387 0.73
夕張メロン (ウリ科) 53.0 ? 1.043 0.817 0.226 0.43
 *A/t×100


 図-1 高級菜豆の葉のT-Sと葉/茎(T-S)の関係

11.今後の問題点
 二酸化硫黄による可視被害そのものについてとりまとめたが、今後不可視害を含め収量への影響を検討する必要がある。とくに被害発現の程度・生育を明らかにするとともに複合汚染についても考慮する必要がある。

12.成果の取扱い(指導上の注意事項)
 現地での作物の可視被害について二酸化硫黄接触の有無を判定することが必要となった場合には、作物体内の硫黄分析だけでなく、その時点での被害内容解析(被害の現われ方・発生の地域的分布など)、大気汚染以外の原因によるものとの識別、大気環境調査資料の利用などを併行し、総合的な立場から検討する必要がある。