【指導参考事項】
1.課題の分類 2.研究課題名 高エネルギーとうもろこしサイレージの調製と利用に関する試験 3.期 間 (1974〜1977) 4.担 当 北海道農試・畑作部家畜導入研究室 5.予算区分 経常 6.協力分担 十勝農試とうもろこし科、畜産試験場栄養部栄養第1研究室、十勝農協連、酪農学園大学 |
7.目 的
道東酪農地域を対象とするとうもろこしの品種・刈取時期別飼料特性を検討する。
8.試験方法
試験は大別すると以下の6項目に区別される。
(1)品種ならびに刈取り時期別原料草の飼料成分の経時変化について。
(2)品種別ならびに年次別の飼料価値、栄養収量の変動について。
(3)刈取り時期別ならぴに部位別サイレージの飼料価値について。
(4)反すう家畜におけるエネルギー利用について。
(5)牛糞中に排泄される未消化子実について。
(6)十勝地方で生産されたとうもろこしサイレージの発酵品質調査について。
9.試験結果の概要
1)全値物体の飼料成分含量の経時変化を見ると、でんぷんは経時的に増加し、早生品種では黄熟後期に35%前後に達した。しかし、晩生品種は収穫期においても15〜20%程度であった。粗蛋白質は、いずれの品種も8月下旬には12〜13%あるが経時的に低下し、9月下旬〜10月上旬には7〜8%になった。早生品種について子実に由来する蛋白質の割合を見ると、熟期の進展に伴なって増大し、黄熟期には70%前後に達することが明らかになった。
CWは子実の登熟とともに減少し、早生品種の黄熱後期には35%前後になることが示された。N03-N含量は茎に多く、登熟がすすむにつれて低下の傾向を示した。
2)9月24日〜26日に刈取り時期を設定した際の品種ごとの飼料成分、飼料価値、栄養収量、サイレージの発酵品質をみると、早生品種は、でんぷん含量が31.8%、TDNが71.1%、サイレージの水分が70.2%、評点が80点台、PHが3.9であった。一方、晩生品種はでんぷん含量が17.2%、TDNが63.9%、サイレージの水分が79.8%、評点は70点台であり、前者にくらべて劣っていた。中生品種は両者の中間に位した。
栄養収量は、中生品種が最もすぐれていたが、早生品種と晩生品種は差がなく、年次間変動係数は早生品種が低く、安定性がすぐれていることが確認された。
3)刈取り適期を把握するために、刈取り時期別にサイレージを調製し、飼料価値、栄養収量、発酵品質等の面から検討した。その結果、早生品種は黄熟後期〜完熟期が有利であり、過熟期まで放置することの優位性は見出すことができなかった。
晩生品種については、被霜後も立毛させて登熟を進行させることの意義を検討したが、発酵品質、圃場損失等で不利な面が拡大されることが示された。従って、晩生品種は被霜後、すみやかに収穫することが得策であると考察した。
4)反すう家畜におけるエネルギーの利用効率が、刈取り時期によって異なるかどうかについて検討した結果、DE、ME、維持のNEにおいても有意差を認めるに至らなかった。
とうもろこしサイレージの窒素出納を見ると、DCPが少ないにもかかわらず、いずれの刈取り時期においても蓄積が認められ、蛋白質の生物価がすぐれていることが明らかになった。
5)糞中未消化子実はでんぷんに換算すると、子実含量が40%以上の早生品種ではおよそ17〜20%、子実含量が20%台の晩生品種では10%前後排泄されることが認められた。そこで、これらの排泄を減少させるため、切断長を短かくした場合について検討した結果、でんぷん消化率を改善できることが認められた。
未消化子実排泄率を水洗法で求めることは不正確であることも明らかにされた。
6)十勝地方において、とうもろこしサイレージを通年給与している農家のサイレージを分析した結果、夏期間に、発酵品質が劣質化していることが明らかになった。
また、サイロ型式のちがいによって、サイレージの発酵品質に差が認められなかった。
10.主要成果の具体的数字
第1表 全値物体の各種成分の経時変化 (%DM)
熟 期 | 粗蛋白質 | 全蛋白質しめる 子実蛋白質 |
でんぷん | CW | リグニン・ケイ酸 |
抽糸期 | 12.5 | - | - | 58.2 | 5.7 |
水熟期 | 11.1 | - | - | 54.2 | 5.0 |
乳熟後期 | 9.7 | 13.4 | 3.1 | 50.7 | 4.7 |
糊熟後期 | 8.7 | 41.4 | 22.8 | 41.0 | 4.5 |
黄熟中期 | 9.0 | 58.9 | 28.5 | 39.0 | 4.4 |
黄熟後期 | 7.3 | 64.4 | 35.9 | 35.8 | 4.0 |
過熟期 | 7.4 | 66.2 | 36.7 | 35.7 | 3.7 |
過熟期 | 7.1 | 70.4 | 38.9 | 35.4 | 3.6 |
第2表 9月24〜26日に刈り取った品種別各成分の平均値と標準偏差
品 種 | 水分 (%) |
でんぷん含量 (%) |
TDN (%) |
可消化でんぷん /TDN (%) |
PH | 評点 (点) |
TDN収量 (㎏/10a) |
DE収量 (サーム) |
早生品種 | 70.2±4.7 | 31.8±5.3 | 71.1±2.2 | 43.0±5.6 | 3.9±0.1 | 84±2 | 791±88 | 3450±332 |
中生品種 | 75.4±3.0 | 23.7±3.9 | 69.5±0.9 | 33.2±6.4 | 3.7±0.2 | 82±5 | 847±98 | 3754±364 |
晩生品種 | 79.8±2.3 | 17.2±5.0 | 63.9±2.5 | 26.3±6.8 | 3.6±0.1 | 70±9 | 759±133 | 3435±549 |
第3表 被霜による発酵品質への影響
刈取日 | 被霜の程度 | PH | 総酸(%) | 乳酸(%) | 酢酸(%) | プロピオン酸(%) | VFA/T-A(%) | VBN/T-N(%) |
10月2日 | 無 | 4.0 | 31.0 | 23.4 | 6.5 | 1.1 | 24.5 | 3.2 |
10月13日 | 1〜2回 | 4.3 | 25.0 | 18.6 | 5.8 | 0.6 | 25.5 | 2.9 |
10月23日 | 5回以上 | 4.5 | 14.8 | 8.6 | 5.8 | 0.4 | 41.9 | 6.2 |
第4表 エネルギー代謝試験成績 (KcaL/日)
区 分 | 試験区 | 8月30日刈区 (乳熟期) |
9月13日刈区 (黄熟初期) |
9月22日刈区 (黄熟後期) |
10月12日刈区 (過熟期) |
||||
山羊番号 | 83 | 89 | 75 | 78 | 81 | 87 | 71 | 77 | |
摂取総エネルギー | 2,468 | 2,476 | 2,369 | 2,348 | 2,424 | 2,424 | 2,321 | 2,202 | |
損失エネルギー | 糞 | 873(35) | 914(37) | 842(36) | 755(32) | 904(37) | 904(37) | 810(35) | 886(40) |
失 | 123(5) | 113(5) | 94(4) | 71(3) | 73(3) | 102(4) | 82(4) | 80(4) | |
メタン | 177(7) | 172(7) | 187(8) | 185(8) | 209(9) | 200(8) | 133(6) | 133(6) | |
熱発生 | 1,379(56) | 1,327(54) | 1,242(52) | 1,200(51) | 1,280(53) | 1,351(56) | 1,121(48) | 1,162(53) | |
可消化エネルギー(DE) | 1,596 | 1,562 | 1,528 | 1,591 | 1,520 | 1,520 | 1,511 | 1,315 | |
代謝エネルギー(ME) | 1,295 | 1,277 | 1,246 | 1,335 | 1,237 | 1,218 | 1,295 | 1,101 | |
エネルギー出納 | -84(-3) | -50(-3) | 4(1) | 135(6) | -42(-2) | -133(-6) | 174(8) | -60(-3) | |
維持に対するMEの利用効率(%) | 71.4 | 73.7 | 70.3 | 53.2 | 58.2 | 64.8 | 59.3 | 68.3 |
第5表 子実、でんぷんの排泄率とTDN含量
刈取日 | 原物 摂取量 (㎏/日) |
乾物 摂取量 (㎏/日) |
子実 摂取量 (g/日) |
子実 排泄量 (g/日) |
子実 排泄率 (%) |
でんぷん 摂取量 (g/日) |
でんぷん 排泄量 (g/日) |
でんぷん 排泄率 (%) |
子実の形状 | TDN (%) |
|
完全粒 | 不完全粒 | ||||||||||
8月30日 | 51.2 | 8.40 | 1550 | 2 | 0.1 | 260 | 25 | 9.6 | - | 100 | 70..9 |
9月13日 | 51.2 | 10.87 | 2520 | 194 | 7.7 | 2337 | 220 | 9.4 | 8.2 | 91.8 | 73.6 |
9月22日 | 48.8 | 12.68 | 6120 | 510 | 8.2 | 3601 | 601 | 16.7 | 18.8 | 81.2 | 70.8 |
10月12日 | 31.0 | 11.1 | 5820 | 636 | 10.9 | 3488 | 563 | 17.3 | 13.4 | 86.6 | 66.3 |
第6表 サイレージの発酵品質の比較 (26例) (meq%・%)
区 分 | 調査日 | PH | 総酸 | 乳酸 | 酢酸 | プロピオン酸 | 酪酸 | VFA/T-A | VBN/T-N | 水分 |
平均値 | 1月 | 3.75 | 43.5 | 35.3 | 7.7 | 0.9(5)* | 0 | 18.8 | 7.8 | 78.2 |
6月 | 4.13 | 37.3 | 28.9 | 7.7 | 0.9(12) | 0.7(3) | 22.4 | 10.5 | 78.3 | |
7月 | 4.07 | 39.3 | 29.2 | 8.5 | 2.7(12) | 2.3(5) | 25.7 | 11.5 | 78.1 | |
最大値 | 1月 | 3.8 | 54.4 | 41.7 | 19.0 | 2.3 | 0 | 35.5 | 13.2 | 82.6 |
6月 | 4.6 | 53.4 | 41.3 | 13.1 | 4.5 | 1.5 | 37.5 | 15.9 | 82.1 | |
7月 | 6.3 | 53.1 | 41.5 | 15.5 | 6.2 | 7.4 | 43.8 | 19.6 | 82.0 | |
最小値 | 1月 | 3.6 | 30.6 | 25.3 | 4.7 | 0 | 0 | 11.4 | 1.6 | 71.7 |
6月 | 3.6 | 30.9 | 22.6 | 5.0 | 0 | 0 | 13.1 | 2.8 | 70.3 | |
7月 | 3.8 | 25.0 | 20.3 | 4.4 | 0 | 0 | 16.0 | 5.6 | 72.5 |
11.今後の問題点
1)気象条件ととうもろこしの収量との関係において、冷害年のデータが不充分であることから、更にデータの蓄積が必要と思われる。
2)大型サイロにおける夏期間の二次発酵防止技術と二次発酵をおこしたサイレージを摂取した乳牛の生理・繁殖への影響を解明する必要がある。
3)とうもろこしサイレージを長期間多給した場合サイレージの切断長と乳牛の生理への影響について、併給する乾草の品質を含めて、標準的な指針を確立する必要がある。
4)とうもろこしサイレージを長期間多給した場合、ミネラル、窒素の補給をどのように行なうかについて検討する必要がある。
12.成果のとり扱い
指導参考事項
(1)早生品種は、黄熟後期に子実と茎葉がほぼ1:1となり、その結果、乾物中TDNが70%、TDN中に占めるでんぷんの割合がおよそ40%で、濃厚飼料的な部分が多いことが示された。一方、晩生品種は乾物中TDNが64%、TDN中でんぶんが25%と前者と比べて劣ることが明らかになった。
(2)品種別栄養収量は中生品種が最も多かったが、早生品種と晩生品種では差がなく、晩生品種は変動が大きく不安定であることが明らかになった。
(3)晩生品種を被霜後に立毛させることは、圃場損失・サイレージの発酵品質に悪影響を及ぼすことから避けるべきと考える。また、早生品種においても過熟期まで放置すると、発酵品質の劣化、資料価値の低下を招くことが明らかになった。
(4)黄熟期のサイレージ中の窒素はおよそ70%が子実中の窒素に由来することから、利用効率がすぐれていることが明らかになった。
(5)未消化子実の排泄は、早生品種がでんぶんに換算して15〜20%であることが明らかになった。また、切断長を細かにすることにより、でんぶん消化率を若干向上できるものと思われた。
(6)サイレージ通年給与農家における夏期間の発酵品質は、冬期間に比較して劣質化することが認められた。
指導上の注意
早生品種は年次によって水分が65%以下になる場合があるので、収穫時水分は65〜70%の範囲であることが望ましい。また、二次発酵を防止するため、刈取り時期、切断長、踏圧、加圧、密封等の基本原則を厳守する必要がある。