【指導参考事項】
稚苗に対する栄養生長期の冷温影響について
(昭和52年〜昭和55年) 上川農試土壌肥料科
目 的
今後の冷温化気象に対応して機械化稲作の安定を図る立場から低温障害の緩和改善に関与する作物栄養的要因を明らかにすると共に、現行の施肥技術の改善策の資とする。
試験方法
1.供試品種 イシカリ(成苗、稚苗)
2.試験規模 a/5,000ポット試験(人工気象箱使用)
3.処理内容 ①基肥N量0.5g、1.0g/ポット②追肥N量 基肥N0.5g+追肥N0.5g/ポット
③追肥時期 幼形期、止葉期
(共通施肥量P2O5:K2O=0.5g:0.5g/ポット)
4.温度処理(℃)
年次 | 昭52年 | 昭55年 | 昭53年 | 昭54年* | |
処理期間 | 分けつ 始期 |
分けつ 盛期 |
幼形〜 止葉期 |
出穂後 20日間 |
|
区 分 |
高温区 | 21-18 | 21-21 | 22-19 | 21-19 |
低温区 | 18-15 | 17-17 | 18-16 | 18-16 |
5.栽植本数
苗質 | 年次/項目 | 昭52年 | 昭53年 | 昭54年 | 昭55年 |
成苗 | 植本数 | 2 | 1 | - | 2.5 |
株/ポット | 2 | 4 | - | 2 | |
稚苗 | 植本数 | 5 | 1 | 2 | 2.5 |
株/ポット | 2 | 8 | 4 | 2 |
6.調査項目
①生育期節、生育調査、乾物重、N,P2O5、K吸収、粗でんぷん、全糖含量
②アミノ酸定量−凍結乾燥試料より抽出、二次元薄層クロマト(シリカゲルG10)展開後、ニソヒドリソ発色させ、スポットを50%アルコールで抽出し、570mμ、340mμ比色定量。
試験成果の概要
1.分けつ始期の低温処理(18-15°)の影響
分けつ初期の低温処理により茎数、根数の減少が認められるが、処理後の常温下における回復力は成苗より稚苗が強く、回復の速さは葉数>草丈≫乾物重>茎数の順である。
2.分けつ盛期の低温処理の影響
分けつ盛期の低温処理は苗質にかかわらず草丈、茎数を抑制するものの、処理後の回復は茎数が特に顕著であり、その傾向は稚苗で目立つ。また、総籾数への低温処理による影響は成苗と稚苗で異なり、成苗では明らかに低下するのに対し、稚苗では増加する傾向にある。
出穂期は両苗質の低温処理による変動は相似しているが、稚苗の場合、後発穂の割合が高くなる。
3.幼形〜止葉期の低温処理の影響
幼形〜止葉期の低温処理は分けつ盛期における処理の影響が増幅された型であり、茎数面乾物生産で稚苗の栄養生長指向が強まり、N増量により更に顕著となる。籾数も増加し、特に一穂籾数の増加が目立つが、茎数の有効化は成苗の方が大きい。
4.稚苗と成苗の養分吸収とその動態
低温処理による体内成分の変化を見ると生育初期のN濃度及び無機成分の体内濃度は稚苗が成苗に比して高く、N成分の中では可溶性成分の遊離アミノ酸、アミドの量が稚苗では多く存在する。低温処理により、特に、アスパラギン、グルタミンの増加が著しく、炭水化物のうち全糖含量が高くなり、一時的貯留物質が増加する。
このように、稚苗は、生育初期の低温遭遇により、環境条件の変異によって変動の大きい物質が蓄積される。これは低温解除後に栄養生長に作用し、出穂遅延、登熟不良をもたらす体質を有している。この傾向はN増によって著しくなる。
主要成果の具体的データ
1.低温処理による生育の影響(幼形期〜止葉期)(㎝、本/株)
項目/区別 | 幼形期 | 止葉期 | 出穂期 | 成熟期 | |||||||
草丈 | 茎数 | 草丈 | 茎数 | 草丈 | 茎数 | 稈長 | 穂長 | 穂数 | |||
高 温 区 |
成 苗 |
N0.5 | 48.6 | 11.9 | 70.7 | 14.1 | 75.7 | 14.4 | 59.4 | 15.7 | 8.5 |
N1.0 | 48.7 | 14.0 | 74.0 | 17.5 | 81.0 | 18.4 | 61.3 | 17.4 | 13.3 | ||
稚 苗 |
N0.5 | 44.6 | 8.7 | 63.7 | 9.9 | 67.3 | 9.1 | 48.0 | 13.0 | 5.5 | |
N1.0 | 45.9 | 10.2 | 69.1 | 12.6 | 70.9 | 12.3 | 51.1 | 14.3 | 8.0 | ||
低 温 区 |
成 苗 |
N0.5 | - | - | 55.3 | 15.7 | 59.4 | 16.2 | 51.5 | 15.3 | 9.3 |
N1.0 | - | - | 57.1 | 18.2 | 64.4 | 19.7 | 55.0 | 16.1 | 15.5 | ||
稚 苗 |
N0.5 | - | - | 52.7 | 10.1 | 54.8 | 11.0 | 43.4 | 12.5 | 5.8 | |
N1.0 | - | - | 55.0 | 13.6 | 59.1 | 14.9 | 49.3 | 13.6 | 8.7 |
2.時期別の乾物生産(地上部)
3.収量構成要素の低温/高温比
4.茎稈部アミノ酸含量(μM乾物g)−低温区−
区別/アミノ酸 | 稚苗 | 成苗 | ||
N0.5〜5 | N1.0〜5 | N1.0〜2 | N1.0〜2 | |
アスパラギン酸 | 10.2 | 11.7 | 4.7 | 7.8 |
グルタミン酸 | 25.2 | 28.7 | 16.1 | 18.3 |
セリン・スレオニン | 9.7 | 12.5 | 5.8 | 5.8 |
アラニン | 4.4 | 8.7 | 5.8 | 6.0 |
バリン | 1.2 | 2.5 | 2.8 | 1.0 |
メチオニン | 0.8 | 1.7 | 2.5 | 0.8 |
アスパラギン | 11.1 | 18.1 | 10.8 | 11.5 |
グルタミン | 32.6 | 50.1 | 19.0 | 23.8 |
アミノ酸総量 | 95.2 | 134.0 | 67.6 | 75.1 |
T-N(%) | 3.18 | 2.60 | 2.18 | 2.03 |
5.低温処理によるアミド含量の変化
指導参考上の注意事項
1.特に稚苗の場合、冷温安定性を考慮して、N過剰を厳につつしむべきである。
2.中苗(マット苗)は苗質及び生育初期の根圏形成が成苗より、むしろ稚苗に近いことから、稚苗と同様な肥培管理が妥当と思われる。