【指導参考事項】
上川地方における傾斜地畑の生産的特性と養水分環境改善試験
(昭和50〜55年)                     上川農試土壌肥料科

目  的
 傾斜地畑の生産的特性の解明と、それに対する禾穀類の導入による有機物富化、養水分環境改善による地力維持増進を目的として、傾斜方向に対応した地力増強法と土壌管理法を検討する。

試験方法
1)試験地;士別市東山町、上川農試畑作科圃場(標高150m、傾斜10度)
2)土壌型;細粒褐色森林土(06A02)−小坂統
3)供試作物;51年秋播小麦(ムカコムギ) 52年てん菜(カーベメガモノ)53年馬鈴薯(N1号)
        54年大豆(キタコマチ) 55年小豆(宝)
4)試験処理;○傾斜方向−南傾斜面、北傾斜面
        ○有機物処理−堆肥100Kg、収穫残渣全量目途施用
        ○土壌改良−心土破砕(0.8×0.47m十字連年施行)深耕(25㎝連年秋施行)
5)耕種概要;畑作科標準耕種梗概に準ずる。

試験成果の概要
1)春の季節風は西の方向が多く、南斜面では平地の3倍強の強い風を受けている反面、北斜面では平地の半分以下である。
2)北斜面では、堆肥及び麦稈など有機物の施用によって、土壌水分の保持能が変化し、麦稈施用区では降水量の多少による乾燥、湿潤の程度が大きいのに対して麦稈無施用区ではその程度は緩慢である。
3)密な土破砕を5年連続施行後に掛る土壌pF-水分分布の変化についてみると低張力水分領域の水分が増加するけれども易有効水分の増加には到らない。
4)作土層の土壌含水比を経年的に把握すると南斜面よりも北斜面の方が6%ほど高く、概ね、南、北両斜面ともに深耕処理によって土壌含水比が高まり、反面、心土破砕処理によって土壌含水比が低下する。
5)両斜面では、地温の推移など接地面の微気象にも大きな特徴がみられ、南斜面は北斜面に比して最高及び最低の地温が高く、且、両斜面の温度較差は最高地温で5℃、最低地温で2℃程度である。又、秋季において麦稈施用区は無施用区に比して地温が1〜2℃低く経過している。しかし、夏季においては心土破砕、深耕処理区の地温が逆に高まる。
6)土壌三相分布では南斜面は北斜面に比して固相容積が大きく、容積重も重い。反面、気相と液相容積が小さい。また、経年効果は両斜面ともに、固相容積が低下して、逆に孔隙率が増加する傾向を示し有機物施用効果の兆しが伺える。しかし、未だ粗孔隙量の範囲であり、むしろ、心土破砕処理の場合は過干を助長する危惧を抱く。
7)土壌へ有機物を施用すると両斜面ともに無機態-Nの増加が顕著に認められ、この傾向は北斜面よりも南斜面の方が明らかである。土壌中の養分動向についてみるとN、K2Oは経時的に減少し、MgO、P2O5は除々に富化される傾向を示した。
8)概括的に収量をみると北斜面よりも南斜面の方が増収しており、現地農家においても同じ傾向であった。堆肥区、有機物施用区は増収の方向を示し、心土破砕区は作物によって旱魃害を助長して減収を惹起する。深耕区は総体的にみて増収の兆しが伺える。
 以上のことから両斜面ともに傾斜地畑の生産性向上のためには、密な心土破砕連年施行は旱魃害を惹起するおそれがあり、麦稈施用時には、特に、その傾向が強い。そこで養水分環境改善のためには深耕と有機物施用を組合せて養肥分の富化と水分供給能の向上を図るべきである。

主要成果の具体的データー
表−1 風向、風速の観測(6月7日午後)
  風向 風速 備考
南斜面 W 4.6 4杯ロビンソン風速計
北斜面 NW 0.7 10分間平均風速m/sec
平地 W 1.3  


図−1 pF−土壌水分張力の推移(S50. 5cm)

表−2 土壌の無機態−Nの推移(mg/100g)
年月日/区別 51年 53年 54年 55年 参考
6/23 7/22 6/29 8/7 10/2 5/17 9/19 6/12 8/12 9/17
S 対照 1.12 0.65 3.9 1.8 0.25 2.5 0.20 1.38 1.09 0.18 1.307
有機物 1.25 0.66 4.2 2.6 0.29 3.0 0.32 1.32 - 0.21 1.539
N 対照 0.99 0.73 5.4 2.6 0.29 3.7 0.25 1.39 - 0.27 1.736
有機物 1.23 0.70 5.5 3.0 0.30 4.4 0.30 1.44 1.12 0.27 1.826
N/S 対照 0.88 1.12 1.38 1.44 1.16 1.48 1.25 1.01 - 1.50 1.25
有機物 0.98 1.06 1.31 1.15 1.03 1.47 0.94 1.09 - 1.29 1.15

図−2 畑地温の推移(5cm)

表−3 収量一覧表(kg/a)
項目/区別 51年秋小麦 52年てん菜 53年馬鈴薯 54年大豆 55年小豆
子実重 同比 根重 同比 いも重 同比 子実重 同比 子実重 同比
南斜面      (12.1)     (543)     (394)     (19.7)     (11.3)
1.無処理 12.6 100 580 100 335 100 18.8 100 9.6 100
2.堆肥 12.5 99 602 104 383 114 19.9 106 9.8 102
3.有機物 13.1 104 497 86 399 119 20.7 110 10.6 110
4.心破・有機物 9.5 75 548 94 431 129 17.6 94 12.8 133
5.深耕・有農物 12.7 101 490 85 422 126 21.7 115 13.6 142
北斜面      (11.8)     (488)     (393)     (17.3)     (13.3)
1.無処理 13.5 100 544 100 372 100 17.6 100 12.6 100
2.堆肥 13.2 98 547 101 373 100 18.1 103 13.2 105
3.有機物 12.5 93 491 90 440 118 18.1 103 12.3 98
4.心破・有機物 9.7 72 431 79 395 106 16.3 93 13.2 105
5.深耕・有農物 10.1 78 429 79 386 104 16.3 93 15.1 120
南:北斜面収量比=98 90 100 89 118

普及指導上の注意事項
◎秋耕すると土壌侵蝕のおそれが大きくなるから融雪促進等に充分配慮する。
◎麦稈施用に際してはC/N比を40程度に調節する
◎対象地は傾斜8°以上の褐色森林土とする。