【指導参考事項】
1.課題の分類  牛 衛生
2.研究課題名  牛の呼吸器疾患に対する初乳の効果的利用法
        (牛の呼吸器病防除に関する試験)
3.期  間  昭和51〜53年
4.担  当  新得畜試・研究部衛生科
        家衛試・北海道支場第五研究室
5.予算区分  道費
6.協力分担

7.目 的
 新生子牛を各種疾病から防御する初乳の効果的利用法について、免疫学的に検討する。

8.試験方法
 試験1. 各種ウイルスワクチン接種母牛から生まれた子牛の血清中移行抗体価の消長。妊娠牛12頭を用い、牛アデノ病7型ウイルス(ADV7)、パラインフルエンザ3型ウイルス(PIV3)、牛伝染性鼻気管炎ウイルス(IBRV)牛の伝染性下痢症ウイルス(DVDV)の各ウイルスに対するワクチンを2回接種(第1回は分娩予定の3ヵ月前に生ウィルスワクチン、第2回目は分娩予定1ヵ月前に不活化ワクチン)し、母牛の抗体獲得状況及び子牛の移行抗体価の消長について検討する。
 試験2. 初乳給与量の違いと抗体価の消長
6頭分の初乳をプールして凍結保存した初乳を子牛体重1㎏当たり5、15、25、35mLの4群とし、1群4〜5頭を供試した。

9.試験結果の概要
 (1)ワクチン接種直前の母牛血清中には既にPIV3の抗体が全頭に認められたが、ADV7では2頭、IBR、BVDVではほとんどの母牛が抗体を保有していなかった。しかし、ウイルスワクチンを2回接種したことによって、母体の分娩時血清中にはそれぞれのウイルスに対する高い抗体を獲得した。(表1)
 (2)ワクチン接種母牛から生まれた子牛は、母牛の産生したそれぞれの抗体を初乳を介して受け継ぎ6〜16週令まで移行抗体を保有した。(表2)
 (3)凍結保存したプール初乳は1年及び2年間保存しても抗体価の変動は認められなかった。
 (4)初乳給与と子牛の移行抗体価は比例した。また、初乳給与量の少ない群では各個体間で移行抗体価に大きな変動がみられた。(表3)
 (5)以上の結果と昭和48年度成績会議資料を併せて、初乳を介した移行抗体の付与を目的とする人工哺乳の場合、子牛出生後4時間までに1回(1回量1.5〜2.0L)と、約8時間までにもう1回初乳を給与することが必要である。なお、8時間以降については従来の指導のとおり1週令まで初乳を与えること。

10.主要成果の具体的数字
表1. ワクチン接種前及び分娩時における妊娠牛の抗体価
供試牛
NO:
PIV31) ADV71) BVDV2) IBRV2)
13) 24) 35) 13) 24) 35) 13) 24) 35) 13) 24) 35)
19 40 40 40 20 20 20 <2 16384 16384 <1 <1 64
21 40 80 80 10 10 20 NT 4096 4096 <1 <1 <1
29 80 40 40 <10 <10 80 >32 4096 4096 <1 <1 64
33 20 20 20 40 40 40 <2 65536 65536 <1 <1 64
35 40 40 40 40 40 20 <2 65536 NT <1 <1 2
37 20 40 40 10 10 40 <2 16384 4096 <1 <1 32
62 40 40 40 20 20 80 <2 4096 NT <1 <8 NT
63 80 80 80 <10 10 160 <2 1024 4096 <1 <1 128
66 40 20 20 10 10 40 <2 1024 4096 <1 <1 16
229 20 20 40 160 160 80 <2 65536 65536 <1 <1 8
241 40 40 40 80 80 40 <2 4096 NT <1 <1 64

注 1)HI抗体価
  2)中和抗体価
  3)第1回ワクチン接種前
  4)第2回ワクチン接種前
  5)分娩時
  6)検査せず

表2.子牛血清中の移行抗体価の消長
子牛の
日(週)令
抗 体 価
ADV7 PIV3 BVDV IBR
試験群 対照群 試験群 対照群
0日 <10〜≧640
(64)
NT <10〜80
(31)
NT 4096〜131072
(25118)
<1〜≧32
(8)
3 40〜≧640
(168)
<10〜640
(19)
40〜160
(69)
20〜80
(34)
4096〜131072
(27122)
4〜≧32
(15)
1週 80〜320
(120)
<10〜640
(16)
10〜160
(55)
20〜80
(45)
4096〜131072
(27122)
4〜≧32
(19)
2 40〜320
858)
<10〜160
(14)
20〜160
(58)
20〜40
(26)
4096〜131072
(20535)
2〜≧32
(6)
6 20〜80
(37)
<10〜160
(20)
20〜80
(29)
20〜40
(23)
4096〜131072
(21544)
1〜16
(3)
10 20〜80
(37)
<10〜40
(13)
10〜40
(21)
20
(20)
4096〜131072
(15848)
<1〜4
(1)
14 10〜80
(29)
<10〜80
(13)
10〜40
(20)
10〜20
(17)
1024〜65536
(10798)
<1〜2
(0.5)
18 <10〜20
(14)
<10〜40
(8)
10〜40
(14)
10〜20
(15)
1024〜16384
(4731)
<1
(<1)
注 1)ADV7、PIV3……HI抗体価
   2)BVDV、IBRV……中和抗体価
   3)NT……検査せず

表3.凍結保存初乳給与子牛血清中のウイルス抗体価
試験区分 初乳給与量
mL/㎏(体重)
初乳未摂取
子牛頭数
血清中ウイルス抗体価
給与前 給与3日後
ADV7 PIV3 BVDV
A 5 4 <2〜<10 40〜80
(57)
<10〜40
(13)
32〜128
(58)
B 16 5 <2〜<10 160〜320
(209)
10〜80
(23)
128〜256
(190)
C 25 5 <2〜<10 160〜640
(317)
40
(40)
256〜512
(381)
D 35 4 <2〜<10 160〜640
(447)
40
(40)
512〜1024
(596)

11.今後の問題点
 初乳中の抗体価を低下されない簡易貯蔵法の検討

12.指導上の注意事項
 Ⅰ.妊娠牛に生ワクチンを応用する場合
(1)妊娠牛に生ワクチンを接種した場合流産の恐れを指摘する報告もみられるので生ワクチン接種の時期は生後6ヵ月から初回種付時までに完了すること。次いで分娩予定の約3週前に不活化ワクチン(不活化製剤がない場合生ワクチンでも可)による補強免疫を行う。
(2)ワクチンの選定は、当該地域において発生のみられる疾病とし、また、使用ワクチンの添付注意事項を順守すること。
Ⅱ.プール初乳の作製と凍結保存
(1)採取する乳汁は正常な初乳であって、数多くの母牛から第1回目に搾乳した初乳を用いる。
(2)高令牛の初乳や、あるいはワクチン接種した母牛の初乳を採取することが望ましい。
(3)凍結は-20℃とし200mLに小分けする。
(4)解凍は38〜40℃の温湯中で行い高い温度はさけること。